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第8話 最強のローブ完成

「はあああ!? ど、どういうことだよ……」

「そんなもん、こっちが聞きたいわ。知らんかったんか?」

「そりゃな……。だって、何の効果もなかったぞ。もらってから、寝るとき以外はずっと着てたんだ」


 この言葉に嘘はない。このローブを着て、魔物と何度も戦闘したが何の効果も表れなかった。

 その他のシーンでも、ただの雨風を防ぐローブとして役立ってくれていた。


 何を以て魔法具(マジックアイテム)と断言したのか気になり、俺は親方さんに問う。


「なら、どこを見て魔法具だと分かったんだ?」

「ここだ、この内側の下端部分にある」


 親方さんは、ローブの内側を俺に見せながら指を指す。俺は顔を近づけ、凝視する。そこには――


「何の文字だ、これ? 見たことないな……」


 見たことない文字が十数文字彫り込まれていた。かなり下のところに小さく彫り込んである。

 これじゃ、分からんな。


 ちょっと待てよ、このローブの持ち主はラサだった。ラサが魔法具(マジックアイテム)を持っていたのか……。

 あんな殺人鬼が、持てるものなのか? いや、待てよ……。


 確か、ラサには家名があった。フルネームでラサ・リジュールと言っていた。家名があるってことは、爵位を持っているとは限らないが、地位の高い家だったのは違いない。


 俺はラサ・リジュールという男について、その過去を知りたくなった。時間がある時にでも、イェスナに聞いてみるか。


「これは、魔彫(まちょう)文字って言ってな。魔法具には頻繁に使われる。この文字がモノに特別な効果を付与するんだ」

「へーー。それで、どんな効果なんだ?」

「ちょっと時間をくれ、すぐには分からん」

「分かった。商品でも見てるよ」


 親方さんは、ローブを持ち再び奥へと消えた。調べてもらっている間、俺は店内を散策していた。

 怪しい壺から、豪華な装飾が施された剣まで様々な物が置いてある。


 数十分後、親方さんが出てきた。


「終わったぞ!」


 発せられた声から、かなり興奮していることが分かる。俺の心も急かされ、カウンターへ向かった。


「中々貴重な効果だった。びびるなよ?」

「で、効果は?」

「探知阻害の効果が付与されてた。視界には入るが、探知系のスキルから逃れることができる。いいもん持ってんじゃねえか……」

「探知阻害、そんな効果が……」


 効果を知り驚くのと同時に俺は、ラサが半年間捕まらずに人を殺し続けられた理由がはっきりと分かった。

 探知阻害ローブでスキルから逃れ、隠れて接近。やつの【威圧】で動きを封じ、その隙に惨殺。


 やはり、スキルから逃れられるのは強力な効果だな。


「なあ、さっき。視界には入るって言ってたよな? 姿を消せる効果ってあったりするのか?」

「もちろんあるぞ。正確には同化だけどな」

「じゃあ、それをこのローブに追加できたりしないか?」


 ローブの隠された真実を知り、咄嗟に思いついた。探知阻害と同化を同時に使えれば、ほぼ完璧に奇襲をかけられる。

 これができれば、俺はかなり安全に対象に接近し、()()()()()


 俺は親方さんの返答を待った。やがて、口が開かれ――


「可能だ」


 と一言呟いた。そして、親方さんは意味ありげにニヤリと笑った。


「お前さん、いいところに目つけるな」

「まあ、それを聞けば考えるよ。俺の戦闘スタイルに合いまくりだ。……頼みがある、それを作ってくれないか?」

「いいぞ、と言ってやりたいところだが……金はあるのか? 同化を付けるとなると、相応の額になるぞ。魔晶石が必要になるからな」


 魔晶石か……。この名前は俺でも知ってる。魔物から取れる魔石に長い時間をかけ魔力を与えていく。そうやって完成するのが魔晶石だ。


 俺が黙っていると、親方さんは勝手に話を進めていく。


「探知阻害は常時発動型だから、ローブ自体に付与されている。だが、魔晶石を取り付けることでオンオフが可能になる」

「じゃあ、一つのモノに付与できるのは二つまでなのか?」

「そうなるな。無理に付与すると、効果が混在して上手く発動しなくなる」


 それでも、だ。ローブに付与する効果は、"探知阻害"と"同化"以外ありえない。この最強ローブは、今俺に最も必要なものだ。


「とにかく、それを作ってくれないか? 金に関してはなんとかする」

「構わねえが、ちと時間はかかるぞ。魔晶石も取り寄せなきゃいかんしな。代金については、完成してからでいいか? まあ、一から作製するわけじゃねえからな。金貨4、5枚と見とけ」

「了解した。その金額なら大丈夫だ、次はいつ来たらいい?」

「そうだな……一週間後だ。出来てるかは分からんが、来てくれ」


 俺は首を縦に振り、肯定した。金額について少し心配していたが、報奨金がまだ残ってるのでその分で足りるだろう。

 他の装備なんかも欲しかったが、優先順位はローブの方が先だ。


 親方さんと弟子の青年にお礼を言い、俺は店を出た。この一週間の間に、出来るだけ金を貯めよう。小さなクエストでも数をこねせば、それなりの額になる。


 店を出た俺は、その足で冒険者ギルドへと向かった。


 ◇


 それから一週間後、完成予定の日になった。予定通りできていれば、いいんだが……。

 それと、クエスト報酬の他に臨時収入が入った。


 宿屋の爺さんには、金貨6枚を貸すではなくあげたのだ。なのに、少しでも返させてくれとしつこかった。

 部屋が大きいスイートルームを格安で泊まらせてもらっている時点で、充分なのだ。


 フランも、貰ってくれと催促してくるので金貨2枚をもらった。だが、これは使わない。爺さんとフランのために取っておくことにした。


 昼過ぎにドントレット鍛冶武器屋に到着した。扉を開けると、すでに親方さんはいた。

 早く来すぎたかと思っていたが、どうやらそんなことはないようだ。


「出来たみたいだな……?」

「ああ、今回は気合いを入れたからな……。探知阻害は俺も初めてだった」


 そう言った親方さんは、カウンターの上にある布を取った。


「外見は変わってねえけどな」

「いや、外見なんて関係ないだろ。早速着てみていいか?」

「おうよ、頼むわ」


 俺はローブを手に取り、着てみる。変化した所と言えば、襟部分に虹色に光る石が取り付けられていた。これが魔晶石なのだろう。


 ローブを着終えた俺を見て、親方さんは効果発動の手順を教えてくれる。


「その魔晶石に触れて、魔力を流してみろ。いいか? 少しだぞ、一気に流したらダメだぞ」

「わ、分かった」


 俺は魔晶石に手を触れ、ほんの少しだけ魔力を流す。すると、変化はすぐに表れたようで……。

 自分自身に何の変化も見られないので、俺は疑うが。


「な、なあ……これって本当に見えてないのか?」

「ああ、しっかり消えてるぞ。声だけ聞こえるから、変な感じだ」

「これで消えてるのか、あんまり実感が湧かないな」

「まあ、そんなもんだろ」


 親方さんがそう言うので、そんなものと渋々納得した。無事に同化しているのは分かったので、俺は次に聞きたかったことを質問した。


「ちなみに、いつまで同化できるんだ?」

「それについては自分で調べていくしかないな。どれだけ魔力を流せば、どれだけの時間発動するのか。ある程度の目安を知っておけば、大丈夫じゃねえか?」

「結構めんどくさいんだな……」


 これについては、地道にやっていくしかないと割り切った。しばらく、沈黙が流れていたが……親方さんが代金について切り出した。


「代金についてだが、今回は金貨2枚にまけてやる。残りの2枚で風剣も持っていけ」

「何が狙いだ? 流石にまけすぎじゃないか?」


 何か裏があるのではないかと勘繰るが、親方さんはちゃんとした理由を持っていた。


「確かにそうかもしれんが、今回で俺は"探知阻害"の魔彫文字を把握できた」

「……そういうことか。中々悪どい商売をするんだな」

「人聞きの悪いこと言うなよ。これも立派な商売方法だぞ」


 言葉を聞き、俺は苦笑する。確かに何の問題もない。ようは、探知阻害ローブを作製して高値で売るつもりなのだろう。


「そんなに買う奴がいるか?」

「一人はいるな。セントオリビアの領主様は、コレクターでな。綺麗なローブに付与したのを見せれば、高値で買い取ってくれる筈だ。あそこの屋敷には、コレクションがゴロゴロしてるって噂だしな」

「へー、流石領主様って感じだな」


 セントオリビアの領主については、詳しくは知らない。聞いてる限りでは、いい領主の印象だ。

 せっかく、まけてくれると言うのでお言葉に甘えた。


 魔法具(マジックアイテム)の風剣も手に入れられたので、万々歳だ。


「世話になったな、ありがたく頂いていくよ」

「おう、また来いよ」

「ああ、贔屓(ひいき)にさせてもらうよ」


 互いに挨拶を済ませ、俺は店を出た。新たに手に入れた魔法具の性能を確かめようと、クエスト受注のため冒険者ギルドへ歩き始めた。

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