第7話 ドントレット鍛治武器屋
生活拠点である宿屋を見つけてから、一週間が経過した。その間、俺はゴブリン討伐クエストを2件、オーク討伐クエストを1件受注し、達成した。
それもあって、俺は鉄級から銅級へと昇格した。
イェスナ曰く、鉄級から銅級への昇格は意外と簡単らしい。銀級へ上がるとなると、それなりの時間と実績がいる。
スキルについてだが、大方理解できてきた。《恐怖》を与えて、さらに続けて《恐怖》を与えても効果が上乗せされることはなかった。むしろ、効果が薄まっているように感じた。
しかし、一度《安定》でまっさらな状態に戻せば、再び《恐怖》はもとの効果を取り戻すことが分かった。
なので、連続して《恐怖》を与えないように注意しなければならない。
ただ一つ分からないこととしては、パーセンテージについてだ。
――――――――――
セノン・フローレン
【称号】Lv.2 【精神を喰らいし者】
スキル【精神】 《恐怖》40%
《安定》40%
――――――――――
いつの間にか、20%から40%に上昇していた。これといって変化はないので、《恐怖》や《安定》に直接関わることではないと思うのだが……。
これが100%になれば、どうなるのか。気になるところだ。パーセンテージの上昇は、魔物との戦闘によるものだと考えられる。
とまあそんな感じで、俺は今冒険者ギルドへと向かっていた。今回はクエストを受けるためじゃない。
俺自身の戦力アップのために、知恵を貸してもらおうと思っている。
計3回のクエストで、俺は決定力不足を痛感した。俺のスキルは、とどめを刺せるほどではない。あくまでも、俺の攻撃を当てるために無力化するためのものだと考えている。
敵が一人または一体なのであれば、一度触れてしまえば後はどうとでもできる。
だが、ゴブリンやオークなど多くの魔物は集団で行動している。
複数を相手取るとなると、的確に一体一体倒していかなければならない。
現在の俺の武器は短剣のみだ。出来れば、威力が高い決定力のある武器が欲しい。それも周りを巻き込んで攻撃できる武器が望ましい。
考えいるうちに冒険者ギルドにたどり着いた。中へ入るが、イェスナの姿は見当たらない。
代わりにカウンターにいる小太りの男に話しかける。
「すまない、イェスナはいるか?」
「イェスナ君かい? それならいるよ、ちょっと待っててくれ」
男はカウンター奥へ行くと、俺にも聞こえるくらいの大声で名を呼んだ。
「おーい! イェスナくん、例の新人君が呼んでいたよ!」
「はーい! 今行きます」
そんな会話が聞こえてすぐに、イェスナが駆け足でやってきた。
「悪いな、無理やり呼んで」
「いえいえ、これが仕事ですから。それで何か用ですか?」
「それなんだが、決定力のある武器が欲しい。何か思いつくモノはないか?」
「うーん……武器なら、ゼノンくん短剣持っていますよね? それじゃ駄目なんですか?」
「駄目ってわけじゃないが……短剣は突き刺すだけだろ? もっと威力のある武器が欲しいんだ」
少しは自分で考えろという話だが、俺ではどうも思いつかない。それなら冒険者に関わりある職員に聞いてみようと思ったわけだ。
冒険者の知り合いでもいればいいのだが、あいにくそんなものはいない。
イェスナは首を傾げて考えてくれている。その後。
「それなら……パッと思いつくのは、魔法具かな……」
「魔法具か……。それは武器屋なんかで普通に売ってるのか?」
「どうでしょう……。セントオリビアは規模は大きいですけど、冒険者業はそこまでなので……。あるにはありますよ?」
「とりあえず、そこを教えてくれないか?」
まあ、冒険者業については俺も思っていたことだ。規模の割にそこまで発展はしていない。
クエストの数は問題ないが、セントオリビアを拠点としている冒険者は少ないのかもしれない。
俺がそう言うと、イェスナは分かりましたと言った。そして、メモ用紙に地図を書いてくれた。
「セントオリビアで一番品揃えは多いと思うけど、あまり期待しないでくださいね」
「いや、助かったよ。とりあえずどんなもんなのか、見てくるよ」
◇
地図が書かれたメモを握りしめ、俺は道を進んでいた。時には地図と睨めっこしながら、何とか店に着くことができた。
「結構、登ったな……」
セントオリビアには、緩やかな坂が続く小高い山がある。その頂上に領主の屋敷を構えているそうだ。
目当ての店も、領主の屋敷に近いところにあった。
でかでかと掲げられた看板には、手書きで"ドントレット鍛治武器屋"とある。
店主の名前は、ドントレットと言うのだろう。
扉を開き入店すると、耳にカンカンと何かを打つ音が入る。突然なので驚いた。
店内は、まさしく武器屋だった。棚や机が規則正しく並べられ、商品が置かれている。
イェスナの言う通り、品揃えはかなり多い。
「これは期待できそうだな」
そう呟き、商品を見て回ろうと一歩進めた時、扉が開いた。後ろを振り返ると、頭にバンダナを巻いた青年がいた。
青年は俺に笑顔で挨拶してきた。
「いらっしゃいませ。お客さん、見ない顔ですね。新入りですか?」
「ああ、ここへ来てまだ一週間だ。一つ聞きたいんだが、ここに魔法具は置いてあるか?」
「それならありますけど。膨大な数があるんで、その人に合ったモノを見つけた方がいいですよ。何なら、親方を呼んできましょうか? 誰よりも詳しいですから」
「すまないな、頼めるか?」
「了解でーす」
青年は、指でOKマークを作ると親方を呼びに奥へ行ってしまった。親方が来るまで商品を見てようとしたが、思ったよりも早く出てきた。
青年と同じくバンダナを頭に巻き付けており、無精ひげを生やしている。見るからに職人の風貌だ。
鍛冶中だったと思われるので、俺は一言謝ってから切り出した。
「仕事中にすまないな、欲しいものがあるんでな」
「構わねえさ、大事な客なんだ。それよりも魔法具が欲しいんだろ?」
「ああ、威力が高い決定力のある武器が欲しい」
「それで魔法具ってわけか……。だがよぉお前さん、なんで剣じゃなく短剣を使うんだ? 剣ならリーチもあるし、わざわざ魔法具に頼らなくても充分対処できるだろうに……」
親方さんの言う通りだ。それでも俺が剣を使わないのには理由がある。別に短剣じゃなければいけないわけでもないが、一番俺のスタイルに合っていたからだ。
俺は肯定してから言葉を続ける。
「もちろんその通りなんだが、見ての通り俺は小柄だ。剣は扱えるには扱えるが、どうも難しくてな。それに剣技はスキルによる部分が大きいだろ? 逆に短剣なら、機動力重視で戦えるし、スキルは必要にならないからな」
「ほお……色々考えてんだな。やっぱり短剣じゃ決めきれないか?」
「とどめは刺せる。だが、相手が複数だと厳しい」
通常の剣なら、ある程度の距離を開けて立ち回れる。でも短剣では近づかなければならない。その分動きはコンパクトにできるし、大した技術もいらない。
残念ながら、俺には剣術の才能がなかったというわけだ。
俺の説明に納得した親方さんは、戦い方なんかを鑑みて提案してくれた。
「そういうことなら……攻撃範囲が広い、風剣なんかどうだ?」
「風剣? どういう剣なんだ?」
「簡単だ、魔力を流せばそれに反応して風が巻き起こる剣だ。って……お前さん、そのローブ」
「 ローブがどうかしたのか?」
親方さんが突然、俺のローブをまじまじと見つめながらそう言った。一応このローブはラサから頂いたものなんだが……。
「ちょ、ちょっとそのローブを見せてくれねえか……?」
「別にいいけど、ただのローブだぞ」
えらく真剣な表情で頼んでくるので、俺は訝しむ。が、見せてくれと言われたので見せてやる。ローブを脱ぎ、親方に手渡す。
受けとった親方は、丁寧な手付きでローブを確認していく。そして、「おっ、これは……」と目を見開き、驚きの声を上げた。
「どうかしたのか?」
「お前さん、魔法具持ってんじゃねえか……」
「はあ!? どこにあるんだよ……」
「これだよ、これ。このローブが魔法具だって言ってんだ」
親方さんが告げた言葉を聞き、俺は頓狂な声を店内に響き渡らせたのだった。
本日、第8話まで投稿します。21時過ぎに投稿予定です。
よろしくお願いします!