第13話 待望のレベルアップ
凶暴化した腐屍食鬼が俺に勢いよく迫る。
「――! 纏う気配が変わった……。これは、やばい……!」
どういうことだ……? 《恐怖》を与えてから、凶暴化した。相手を恐怖の精神状態にするはずの攻撃が、逆にやつを強化してしまったのか。
そんな事を考えている間に、簡単に接近されてしまった。今眼前には、圧倒的なプレッシャーを放つ怪物がいる。その巨大な腕が俺に振り下ろされようとしていた。
「ッ……いけるか、発射」
振り下ろされる腕目掛けて炎槍を放つ。至近距離から射出された炎槍は腕を貫いたが、一瞬間を空けてから勢いそのままに下ろされる。
俺はその一瞬の隙の間に、サイドステップで側方に逃げる。
そして、回避してから1秒も経たない内に、巨腕が地面を打つ。
――ドッ、ミシ……ミシ……ドガアアアンッ。
凄まじい衝撃が地面に流れ、亀裂が何十本も走る。その直後、前回とは比べ物にならない程のクレーターができた。
「ゥゥウ……ア゛ア゛ア゛―――!!」
「なんて馬鹿力してやがるんだ……! それもこれも全部俺のせいか」
俺は炎槍筒を牽制用としてニ、三発放ち距離を取る。
その間に、俺は自分に言い聞かせる。
――落ち着け、落ち着くんだゼノン。お前は冷静だ、冷静になれ。
「スキル発動《安定》」
自分の精神を落ち着かせて、腐屍食鬼を倒すための考えを巡らす。頭も落ち着いてきたせいか、不意にとある記憶が蘇った。
―― 人のあらゆる負の感情が寄り集まることで稀に存在進化する。
ちょっと待て。負の感情ってことは、怒りや憎しみ、苦しみに嫉妬ってことだ。
当然、その中には恐怖も入ってくる。
そんな負の感情の塊みたいな奴に、いくら恐怖を与えたって無駄だ。それよりも余計に力を増させてしまう。
「やっちまったな、始めから気付いておくべきだった」
俺は一人そう呟く。過去の行いをどれだけ悔いても、今の状況は変わらない。
だが、これでやる事は決まった。恐怖を与えてダメなら、その逆をやればいい。
「今度はお前に、"安定"という名の"恐怖"を与えてやる」
腐屍食鬼は何もなく、誰もいない場所を手当たり次第に攻撃している。凶暴化した事で、意志というものが欠落したのか。
俺は炎槍筒を放ち、意識をこちらへと向けさせる。
狙うのはカウンター。奴が攻撃してきたところを躱し、《安定》を与える。
炎槍が当てられた腐屍食鬼は顔をこちらへ向け、突貫してきた。奇怪な走り方でズンズンと地面を踏み鳴らし、その醜い巨体を揺らしている。
「火力一点集中だ、発射」
俺は接近してきた腐屍食鬼に、炎槍をぶつけ続ける。炎が燃え広がり、全身を包む。が、やつは何も感じていないのか、ただ暴れ回る。
煙が充満し、俺と奴の間に壁を作る。それを利用して、後ろへ回る。そして、後ろ腰に差した短剣を引き抜き背中へ突き刺す。
刺した瞬間、すぐに腐食が侵食を始めるがまだ柄部分は無事だ。俺は柄を足場代わりとして、跳躍する。上半身が腐屍食鬼の頭部を越えた瞬間に、手が触れる。
「……スキル発動《安定》!!」
すぐに離れ、様子を伺う。すると、やつはあからさまに苦しみ出した。
「ァァ……ウウウウ……」
「よし、効いた。後は……胸の核を貫くだけだ」
動きを止めている今がチャンスだ。俺は一気に距離を詰め、炎槍筒を穴部分に向ける。
ここまで近いなら、外しはしない。
「終わりだ……発射」
シ――――ン。魔晶石に魔力を流しても、炎槍が出てこない。まさか、切れたのか……。
「嘘だろ、おい……。――ッ!?」
「ウアア、ゥァァウ!!」
突然、腐屍食鬼が正気に戻りその拳を振るう。俺は咄嗟に炎槍筒で拳を防御するが、パワーは圧倒的なので余裕で吹き飛ばされてしまう。
「がっ……。うっ……」
ゴツゴツした洞窟に体が強く打ち付けられる。
しまった、モロに一撃を受けてしまった。腕そして上半身が痛む。前を見ると、腐屍食鬼が一歩二歩三歩と着実に距離を縮めてきている。
「はぁ、はぁ……なにか、なにか武器は……」
一縷の望みにかけて、俺は薄暗い洞窟内部を両手でまさぐる。
「急げ、はぁ……急げ……!」
こうしている間にも、刻一刻と腐屍食鬼は迫る。息が荒くなり、ドクンドクンと心臓はその鼓動を早める。
そして、腐屍食鬼が巨腕を引き殴打しようと、繰り出してくる。空を切りながら、腐食の拳が俺の顔面間近にきた時――
――ガッと右手が何かを掴む。
「――!! 何でもいい、一撃を防げるなら……」
俺は手に持った何かで拳を防ぐ。衝突した瞬間、凄まじい衝撃が腕に伝わってくる。歯を食いしばり、それに耐える。
「これは……短剣だ」
偶然にも俺が掴んだのは、傷や汚れが一切ない純白の短剣だった。特筆すべき点は二つ。
――刀身に、十文字程の文字が刻まれている。
――そして、腐屍食鬼の腐食の効果を受けない金属でできている。
「ああああッ!」
パワーで押し込まれそうになるが、俺は気力で押し飛ばした。
プルプルと震える足を叩き、立つ。
満身創痍の状態で俺は最後の勝負に出た。
「スキル発動……《安定》」
痛みが邪魔をするため、安定で痛覚を誤魔化し純白の短剣を逆手で握る。
「……いくぞッ」
俺は恐れを抱くことなく、腐屍食鬼目掛けて疾駆する。数秒後、やつの間合いに入る。
――先手必勝、喰らいやがれ……!
「らあッ」
――右から左へ短剣を振るい、一閃。
「ふっ」
――返す刃で、左から右へ振るい一閃。
「ウアアァァッ」
――そのまま流れる動きで、上から下へ一閃。
俺は短く声を漏らしながら、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。純白の刃は、変色する事なく確実に斬傷を増やしていく。
「ゥゥ、ァァウウァァ……」
「終わりだ」
短剣を通常の握りに持ち替え、大きく左足で踏み込む。
全身の力とねじれを利用し、最速の突きを放つ。
「ぜあああぁぁッ!!」
――ドンッと音がしたと思えば、俺の腕は奴の弱点を正確に貫いていた。
腐屍食鬼の両腕が力を無くし、垂れ下がる。
数秒の後、奴の体は雲散霧消した。
「はあ、はぁ……勝ったのか……」
すでに満身創痍だったので、俺も力無く地面にへたり込んだ。
自然と笑みが溢れてくる。
「俺は勝ったんだ……」
そう呟き、俺は小さくガッツポーズをした。すると、背後の扉が勢いよく開かれた。
チラリと視線を向けると、全身骸骨姿のラグーンが来ていた。
腐屍食鬼を倒したことで、鎖の効果が切れたのだろうか。鎖も外れている事を考えると、腐食でかなりボロくなっていたのかもしれない。
「ゼノンさん! 大丈夫ですか!?」
「見ての通りだよ、所々怪我してるけど大丈夫だ」
今の俺はラグーンに支えられている形だ。ラグーンの姿を見て、改めて本当に骨だということが分かる。
何だか、とても頼りなく見える。せめて着る物があればマシに見えると思う。
「ありがとう、ございます……! ありがとうございます……!」
「ま、一件落着だな。それよりも――この短剣。なあ、これ読めるか?」
「いえ、これも見たことがありません。古代文字でしょうか……」
この短剣のお陰で俺は窮地を脱し、腐屍食鬼に勝つことができた。断定は出来ないが、これが古代遺物なのかもしれない。
持ってきていた中級ポーションを飲み干した俺は、ラグーンに声をかける。
「ラグーン。悪いが、肩を貸してくれないか? 先の部屋を見ておきたいんだ」
「もちろん、私の肩で良ければいくらでも」
ラグーンの手を借り、立ち上がろうとした瞬間――ズキン、ズキンと頭痛が俺を襲う。体制を崩してしまい、膝をつく。
「本当に、大丈夫ですか? まだ、ゆっくりしといた方が……」
「いや、大丈夫だ。一瞬だったからもう平気だ」
そう言うと、ラグーンは渋々納得したようで俺の歩幅に合わせて歩き出した。
今の頭痛……ラサを倒した時と同じだった。
ということは……【称号】Lvが上がったのかもしれない。
俺はだんだんと脳裏に浮かぶ、文字列を確認してほくそ笑むのだった。
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セノン・フローレン
【称号】Lv.3 【精神を支配する者】
スキル【精神】 《恐怖》80%
《安定》80%
《共鳴》
《催眠》 20%
《狂(強)化》
《精神眼》
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続きの14話は、本日18時過ぎに投稿します!
よろしくお願いします!




