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第2話 壮絶な一日の間幕

「何処の世界も路地裏は汚いもんだ。さっきまでの俺の高揚感を返してほしいよ。」


羞恥のあまり駆け出して、辿り着いた人けのない路地裏。そこに、戯言を並べ立てる残念で哀れな男が一人。理想と現実の差異に対して、不満が溜まっているようだ。


その一例として、この世界に転移したからといって身体能力の変化が一切見られなかったのだ。事実、この場所に辿り着くまでに相当息を切らしている。


そんな滑稽な彼が今、得なければならないのは一般常識と身の保身である。彼から連想される動物は馬と鹿しか無いとはいえ、流石のタクマもその程度の思考力は持ち合わせていたようだ。


先程確信した通り、明らかに元の世界とは相異なる世界。即ち、異世界においては彼の知識量は産まれたての赤子と同レベルである。そんな彼が安易に街中を探索して何か事件や不祥事が起こったら大変だ。


普段は短絡的でろくに物事を考えもしない彼なのだが、どうやら自分の保身が掛かっている場合は石橋を叩いてから渡りたくなるのかもしれない。それとも、奇想天外な現象が起きたせいで二重人格にでもなったのか。


「やるべき事は色々あるとはいえ、状況を整理するのが先決だろうな。」


全身黒ジャージという何とも典型的なファッションに身を包んだ不審な男が、唯一所持していた少し大きめのショルダーバックを肩から外し中を漁る。


お洒落なレザーウォレットに、飲み水確保の為に用意した金属製の水筒。更には長年愛用しているキーケースに、図書館で勉強する為の数学の参考書とお気に入りの可愛い犬の筆箱。


「良かった、一応全部あるな。現世の物だし、異世界においては貴重な物品も少なからず有るんじゃないか?まぁ、折角の貨幣は恐らく使えないけど。」


一通り荷物の確認を終えて状況を冷静に整理する。この中に物として価値があるもの等早々あるのか。


「それにしても転移しますよーって、事前に知らせといてくれたらもっと沢山持ってきたのになぁ。唐突過ぎんだよ、マジで。」


自分の意思で確認しておいて落胆するというタクマの空虚な一人芝居を見る者は居らず、彼を慰めるかのように微風が背中を撫でるようにして流れていく。


しかし、一吹きかと思われた至軽風は思考の隙も与えぬ速度で勁風へと変貌を遂げる。


タクマは疑問の念を抱くより前に、風向の方へと振り返った___がもう遅く、ボロボロの布生地が特徴的なローブを羽織った異形の存在にバックごと盗られてしまった。



「なっ!?」



流石に驚きを隠せないか腑抜けた声を出してしまう。中身を確認して早々と中に戻した矢先に丸ごと盗られしまうとは、まるで漫才劇のような展開に遭遇する。


何よりも驚嘆すべきことは不意をつかれたとはいえ、両手で持っていたバックが奴の片手で引っ張られただけでいとも簡単に引き離されたのだ。その事実から自身が軽くあしらわれた、そんな思考に彼は陥ってしまう。


大通りの方に向かったヤツを追跡しようと試みた頃にはもう遅く、盗人は綺麗さっぱり居なくなっていた。


「おいおい、マジかよ……。幾ら路地裏とはいえ治安悪過ぎじゃあないか?」


呆然と立ち尽くす彼の瞳には何が映っているのか。盗人に対して業腹(ごうはら)しく、忌々しく思うのか。


「マズイ__唯一の持ち物が。折角のアドバンテージが消えるのはデカすぎる!」


否、別に盗人に対する復讐の念など抱いてすらいなかった。ただ単純に自身の損失についての懸念が大きすぎるだけだろうが。







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