第1話 最高の一日の幕開け
初めまして。まず本作品が目に止まった皆様への感謝を。星の数程ある作品の中から渺々たるこの作品の為に、貴重なお時間を割いてまでご覧くださることに感謝の意を申し上げます。
本作品の大きな見所である【主人公の巻き戻り及び死に戻り】まではテンプレ感満載な内容になりますが、世界観や設定を作るのにとても苦労した作品なので是非最後まで見てくださると有難いです。
熱い。まるで火山の噴火のように込上がってくる熱気。身体中を内側から殴られるような感触。得体の知れない不気味さに畏怖の念を抱かずにはいられない。これだけは、この不快感だけは何度繰り返しても慣れない。
痛い。
全身の筋肉が震え上がっている。骨が軋む音が耳から離れない。気持ち悪い。気持ち悪くてたまらない。
痛い。苦しい。
視界が滲む。涙を流しているわけでもないのに有り得ない感覚に襲われる。胃にあるもの全てを吐き出してしまいたい。
熱い、熱い。
段々と脳が理解していくのが直感的に分かる。自身の命の灯火が終わりへと近付いてることに。一刻も早く消えて無くなってしまいたい。この苦しみから解放されたい。
痛い 痛い 痛い 痛い 苦しい。
真っ赤な鮮血が滝のように流れ出る。熱さと苦しさの両方に苛まれて意識が朦朧してきた。これが自分の身体であることが信じられない。肉が裂け、骨が軋み、熱が篭もる。
熱い 熱い 熱い! 熱い!! 熱い!!!
あぁ____。
またか。
☆
「は?」
鳴り響くは疑問の声。それが彼自身が発声したものだと気付くに時間は掛からなかった。
不意に妙な声を出してしまったせいで周囲から懐疑的な視線を向けられている。犬耳と特徴的なしっぽを生やした獣人、長い耳が目立つ美しい容姿を持つエルフ、明らかに人間離れしているトカゲのような容態のリザードマンらしき彼らに。
勿論、彼と同族も少なからず見受けられる。しかし、それ以上に目に止まってしまうのだ。人間、珍しきものに反射的に反応を示してしまうものであり、彼も例外では無い。それが意図的なのか故意的なのかは関係無しに。
「どういうことだ?玄関の扉を開けたことまでは覚えているんだが…...暫く外の情報を遮断していたとはいえ、街の変化に気付かなかったっていうオチでは無いよな流石に。」
先程とは打って代わり囁き声に似た声量で自身の今の現状に不平不満を垂らす青年__雨谷拓真。
短めの黒髪に平均と比べて高くも低くもない身長。ビジュアルもとても美男子とは言い難いが、決して醜悪とも呼べない平々凡々で面白みに欠ける人間だ。
趣味も特技も今は無く、突出した才能を持っている訳でもない。無理矢理にでも挙げるならば、人よりも少しばかり手先が器用であることぐらいか。
残念ながらそんな彼の疑問に応答してくれる人物はいない。下を向いてブツブツと独り言を念仏のように唱えている彼は、その体貌のせいで周辺の人々に距離を置かれていることに果たして気付いているのだろうか。
普段は家に引きこもり滅多に外出しない彼にとって、家の外は異世界そのものであったが、それが比喩でなくなってしまったことに苦悩を抱えるしかない。
「誠に受け入れ難い事実だけど、こりゃ異世界転生って訳か?いや、死んだ記憶は無いし転移…?」
実際問題、タクマの目に映る風景は何故だか見覚えのある中世ヨーロッパ風の街並みを思い出させる。唯の石材や木材が色彩的に見ても充分見惚れてしまう程に美しく使用され、並び立つ建造物は素人の彼の気持ちさえも高揚させてくれる。
それに加えて、人類こそ最も多く視界に入るがそれ以外__俗にいう亜人種もタクマの視界に映り込んでしまう。その中でも特に獣人は人類に耳やしっぽを生やしただけの者や、全身が体毛で覆われていて動物に限りなく近似した者まで幅広く存在している。
更に言えば、しっかりと整備されている道を地竜なのかサラマンダーなのか明確な名称は謎に包まれているが、四足歩行や二足歩行、色味や大きさまで異なる千差万別なトカゲが人間を乗せた荷台を軽々と引いている。
これだけ状況証拠が有るのに認めない方が無理があるだろう。
「間違いない…間違いない!異世界だ!!」
自身の妄言を確信へと変え、高揚感を曝け出すかのように叫ぶ。何故自身がこの地へと転移したのか、
その要因を考えようともせずこの状況に小躍りしている。意図せずとも先程も大きめの発声をしたせいで周囲の視線を集めたのに学習しないようだ。
「あっ」
叫び終わってようやく気付いたのか、口元を手で覆うように隠すがもう遅い。再び周囲に奇異の目で見られたせいか、彼は顔を赤く染めて走り出すのだった。
主人公は短絡的でお調子者です。精神もまだ未熟で幼稚な性格から奇行が垣間見られることもしばしば。そんな彼が如何にして成長するのか。保護者目線で見守ることをオススメします。
【余談/補足】
本文中に「暫く外の情報を遮断」との記述があったと思いますが、これはタクマくんは浪人生であることが要因です。大学受験に向けて毎日自宅で娯楽に浸ることなく一生懸命勉強していたので、世情に疎くなっていただけですね。