お怒りです
魔法を使えばパウンドケーキなどすぐ焼ける。
甘い香りとともにシャールがクッキングシートで包んだパウンドケーキを数本持ち、レオ君はシャールが持っているパウンドケーキよりも一回り小さなものを両手で大事そうに抱えて持ってきた。
「お、いい匂いをさせて戻って来たな」
「あいっ、おじいしゃん。
これは僕がシャールしゃんと一緒に焼きました。
甘い林檎をくれたおじいしゃんへ僕からのお礼でしゅ。あしゅたも食べれましゅってシャールしゃんがいいましゅたから大きいのをあげましゅ」
「ほお、そうか。ありがとう。
レオ君は優しいなあ。
明日アギールの城に一度戻って息子のユリアンと分けて食べるよ」
レオ君の目線に合わせるかのようにしゃがんだおじい様は、レオ君が大きいとは言ってもおじい様の大きな手のひらに載ってしまう程度のパウンドケーキを恭しく受け取った後、収納袋に入れた。
「おじーしゃん、ちゃんと味見したらシャールしゃんが作ったケーキと同じ味がしましゅたから、しゅっぱいしていましぇんよ。
でも、レオおにーしゃんが干し葡萄をいっぱいつまみ食いしたので、林檎と一緒に干し葡萄をたくしゃん入れれましぇんでしゅた。
今度は、レオおにーしゃんがいない時に作りましゅ」
フンっと鼻を鳴らし小さいながらも胸をそらせて学園長を睨みつけるレオ君。
「レオ、俺はそんなにいっぱい食べてないぞ?」
年長者のくせにいたずらを告げ口されて逆切れした子供のようにむくれる学園長にフンっと鼻を鳴らしたレオ君が突っかかる。
「いっぱいでしゅ!
僕が頑張ってカップをちゅかって量った干し葡萄が、いちゅのまにか半分になっていましゅたよ」
「おいおい、半分は言いすぎだろ?」
いつも学園長には尊敬のまなざしとともに懐いていたレオ君がキーっと歯をむき出しにして地団太を踏んで怒る姿に、学園長もたじたじだ。
どうやら相当ご立腹らしい。
「つまみ食いはメって言ったのに、パクパク食べましゅたよ!」
「すまん、悪かった」
「僕は五回も注意しましゅたよ!
今謝るならどうしてしゅぐやめなかったでしゅか!
もうレオおにーしゃんとはお料理しましぇん」
手のひらを広げ「五回」を強調してお怒りレオ君をなだめようと、いつも自信満々な学園長が必死になって謝る。
レオ君に目線を併せてしゃがみ込んで謝る学園長の姿と腕を組んでフンと鼻を鳴らしてそっぽを向くレオ君の姿は尻に敷かれている奥さんに謝る旦那さんのようで笑いをこらえるのに必死だった。




