シャールとの出会い 1
私がシャールと出会ったのは、妹がまだ生まれる前、私が三歳の誕生日を迎えた後の冬だ。
当時、母方の祖父母や両親と仲が良かったジルレ侯爵夫婦に子供が生まれなかったので、侯爵様の弟夫婦に次男が生まれて三年後、その子を養子に迎えることが決まった。
ジルレ侯爵の領地ギランにある嵐の神バールと戦の女神ドゥルガルの神殿でフィガロ様の魔力の有無と量を審判される儀式に一家で招待された。
ジルレ侯爵家は代々宮中祭祀を司る名門貴族であり、先代侯爵の妹が王太后ということ、一族から神官になるものが多く宗教界に多大な影響力を持つこともあって、割と豪華に行われることになった。
通常は家族親族で行われる儀式が、近隣の貴族や裕福な一族も呼ばれた。
母の実家の辺境伯領はジルレ侯爵家の領地ギランと同じ東のバファール地方にあった上に、ジルレ家と仲が良い母方の祖父母も来るというので、私たち家族はジルレ領ギランから母の実家に一緒に行って王都シレジアに帰るという一大旅行が計画された。
転移魔法で移動するには荷物が多すぎるし、当時はまだ魔力がこもった魔石を燃料代わりにして動くという隣国のシュルツ王国が発明した自動車もこの国には知られていなかったので、馬車で王都からジルレ領に向かった。
ジルレ侯爵家の城は左右対称の美しい白亜の城で、冬でも緑を保つ針葉樹の森に生えるその城はとても美しかった。
埃っぽい王都の空気と違う自然が多い綺麗な空気。
馬車から降りたち屋敷に案内されると、そこには黒髪に青い瞳の理知的な顔立ちをしたジルレ侯爵と栗毛に緑の瞳の愛らしく活発な雰囲気美人の奥様と侯爵によく似た顔立ちのフィガロ様が一緒に出迎えてくださった。
黒髪に蒼い瞳で、目元はジルレ侯爵似、ぷっくりとした愛らしいサクランボのような唇の可愛らしい美幼児フィガロ様。
でも、いくらフィガロ様が人見知りする子供じゃなくて、私と意気投合して仲良くなっても、室内はただの応接室で、しかも大人達の長話で子供を構ってくれない。
おもちゃも絵本も無しの状態で放っておかれれば次第に子供は退屈になってしまう。
しかも遊びに飽き、途中で眠ってしまったフィガロ様。
本当にやることがなくなってしまった私は、退屈になって大人たちの間をうろうろし始めた。
そんな私を見かねたのか、先代のジルレ侯爵がお庭へと連れて行ってくださった。
同行していた母の侍女の一人に冬の分厚い上着を着せられ、城の中から中庭へ出ると、庭の向こうには森が広がっていた。
エルランジュ伯爵家は地方に領地を持っていない貴族だ。エルランジュ伯爵の屋敷は多少広くても、領土がある貴族の城のように広大ではない。
初めて見るジルレ侯爵の城の庭は広いし、しばらく歩くと放し飼いの鶏やアヒル、そして奥には白木 で組み上げられた大きな嵐の神バールと戦の女神ドゥルガルを祀る神殿があった。
しかも王都なら大理石で作られている神殿は、バファール地方は木造で四方をドリス式の柱で囲む建物で作られていると小さな子供に前ジルレ侯爵は説明してくれた。
子供には難しい説明を聞きながらじっと神殿を見ていたら、神殿の奥から現れた、白く光る大きな塊が飛んできた。
白く光る存在をいち早く感じた先代侯爵様は、はすぐに片膝をつき長い白髪が地面に着くことをためらいもせず頭を垂れ、幼い私には「精霊様だから頭を下げなさい」と優しい声でお辞儀するように教えてくださった。
何のことかわからず言われるまま頭を下げると、目の前に白と黒の縞々の虎が目の前に現れて頭に響く低い声で「頭をあげよ」と喋った。
初めて見る大きな白い虎、しかも喋る虎に驚いて思わず尻もちをついた私に、目の前の虎が一瞬で消えて、長い銀髪にブルーグレーの瞳の端正な顔立ちの美青年が現れた。
その美青年は笑顔で私を抱っこし、虎が人間になったと呆けていた私をしばらくあやしてくれた後「儀式で会おうぞ」と言葉を残して立ち去った。
それが私と精霊シャールの初めての出会いだ。
もちろん後日、シャールはフィガロの儀式のときにも言葉通り白い虎の姿で現れた。
そしてその儀式では、別の白い鳩の姿のジルレ家の当主を守る精霊も現れた。
フィガロ様の魔力が思ったよりも少なく、魔力量を表す儀式の聖杯の石が四つほんのり淡く光る程度で、フィガロ様自身もすごくがっかりした顔をしていた。
次期当主の魔力が少ないというがっかり感で雰囲気が悪くなっていたところに、白虎姿のシャール様と、もう一体の当主を守る精霊が現れたので、一気に雰囲気は好転し、精霊が祝福をしに現れた次期当主だと大人たちは喜んだ。
二体の白く輝く精霊を見た大人たちがその神々しさに、拝んだり泣き出したりして、ある意味カオスだったと子供心に記憶している。
そして、儀式は無事終わった。
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