精霊シャール
「ぬわっ!
まさかシャールッ?」
「うむ。ジジ、終わったようだな」
子虎のその正体は、実は精霊のシャール。私の学園でのあだ名「ジジ」と呼び続ける彼は嵐の神バアルと戦の女神ドゥルガルの子孫の風の精霊だ。
精霊様なので我々人間と違って転移の魔法陣のある場所なんて関係なくどこでも転移可能で突然現れる。
因みに彼とは私は、語ると長くなるが三歳の時からのお付き合いであり、ずっとそばにいる。
私と過ごす学園では銀の髪、青銀の瞳の凛々しい少年の姿だが、出会った後は三歳の幼児の姿で現れ、親戚の同じ年の子兼護衛として一緒に成長して世間を騙しているが、本来は白い虎の姿をした古い精霊である。
本来この儀式は一人参加なので、シャールとは朝から別行動だったのだが、彼は私に内緒でこの山に移動し、今朝村手前の道を歩く私を子虎姿で呼び止めて驚かせたのだ。
「ええ。お昼ご飯も食べたし、フィガロ様が好きな栗も十分収穫したし、あとは村によって取り置きをしてあるチーズケーキを受け取って帰るだけよ。
シャールもこの山の精霊に会ったの?」
「いや、朝ジジと別れてから、他の場所も見て回っておったので、ここに来たのはつい先ほどだ。先ほどここの奴の気配は捕らえたのだが、すぐに消えてしまったのだ。
儀式が無事終わったのを確認して違う山に移動したのかもしれん。
今は実りの季節だから、冬眠前の獣たちが餌の奪い合いをしているかもしれぬからな。
ほれ、こんなにたくさん栗を拾ったぞ」
彼の得意な魔法の一つ、空間になんでも収納していく便利な術を見せつけるかのように、何もない空間に猫、いや、子虎が前脚をあげ、得意げな表情で、何もない空間から毬栗を一つ取り出し、異空間の中で山盛りになっている栗を見せびらかした。
シャールは精霊だが、食事は別にする必要はないと言ってる割に、私といるときは三度の食事も食べるし、大の甘党でもある。
彼は私と出会ってからアウスバッハ辺境伯の遠い親戚の子供として常に側にいる。
もちろん私がおじい様の城に住み始めてから一緒に住んでいるので、とうの昔に城の料理人を懐柔し、今では厨房は彼の思うままで、精霊という長生きな種族だからか料理も得意だ。
「焼き栗だろうがモンブランだろうがどんな菓子にしても城の者皆に行き渡ると思うぞ。
それにロビンも栗が好きであるから、アウスバッハの栗より大ぶりなこの地の栗を喜ぶだろう。
しかも最近、城ではさつま芋の菓子ばかりだったからな
あとフィガロの分もあるぞ。ジルレの領土ギランはアウスバッハの横にあるにしては栗が採れる地が少ないからな」
得意げにひげをピーンと立てるシャールに溜息しか出ない。
「……どんだけ拾ったんだよ」
ちなみにジルレの領土ギランとは私の婚約者フィガロ様のおうちの領土だ。
彼の家は宮中祭祀を司るジルレ侯爵家で、おじい様の領土アウスバッハの隣にあるので、ジルレ家は昔から仲が良い。
因みにロビンとは、このレジネール王侯の東北にある国境一帯を治めているアウスバッハ辺境伯で私の母方祖父の名前である。
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