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フィガロ様は心配性?

 やめてください、そういう不意打ち!


 動けなくなるんです。


 その腕や胸の堅い感触に意外に鍛えていたんだとか、思った以上に背が伸びたんだなあとか思わないと、どんどん熱くなっていく顔面が爆発してしまう!


「フィガロ、どうしたのだ?

 何があったのだ?

 話なら聞くぞ?」


 まさかの腕の中という暗闇の向こうから焦ったようなシャールの声に反応するかのようにフィガロ様が顔をあげ、頭上から光が差し込んだ。

 フィガロ様は「ごめんね、抱き着いちゃって」と憂いを含んだ目でやつれた雰囲気を漂わせながら、名残惜しそうに腕を離して、シャールに導かれるまま、食卓テーブルの方に向かった。


 話を聞くと、どうやらあの一昨日の夜、すなわち王宮にテレジアの仲間が襲撃してきた日から彼はずっと連絡が来ない私達の心配をしていたらしい。


 一昨日は陛下達がいらっしゃるので念のためフィガロ様には部屋に寄ってもらうことは遠慮していただいていた。


 だが、フィガロ様からしてみたら、あんな事件のせいで王宮には彼の祖父と義父も怪我人の治療で王宮からは戻ってくることが出来ず、王宮は関係者以外登城を禁止するという御触れが出ていたそうで、義母と一緒に屋敷で待機するしかできなかったそうだ。

 仮に王宮に駆け付けたところで、魔力が少ない自分は足手まといになるだけで何もできないだろうと、家でただ無事を祈ってくれていたらしい。


 なんて健気でいい人だろう。


 しかもそんな彼の許に届いた連絡は祖父と義父から、二人が無事だと知らせる端的な言葉と、王宮内はごった返している上に、外との連絡が制限されているから、いずれ許可が出たら治療の手助けを頼む 連絡を入れるという状況が分かった程度。


 しかも私やシャールからは連絡がない。

 あ……。

 連絡するのをすっかり忘れていたかもしれない。


 俯きがちに一昨日から今日までの話をしてくれるフィガロ様の辛そうな顔越しに、シャールと「やばい」と視線を合わせ、これはフィガロ様のことを忘れていたことはお互いに口チャックだと目で会話する。


 そんな中、フィガロ様が語り続けた話によると、一昨日の晩の王宮の襲撃事件の大まかな話は王都の有力貴族の邸宅にも伝わっていたようで、もちろんフィガロ様が住むジルレ家にも次々と情報は入ってきたようで、彼は王宮の酷い状況を聞いて居てもたってもいられなかったそうだ。


 事件当日の夜は、毎日帰ってくるはずのフィガロ様の祖父リカルド様と義理の父エリック様がいつまでたっても戻らず、しかも、王宮の正門の側では、突然魔族が現れ、暴れ出しているという話が伝わってきた。

 王宮の様子を見に行った使用人の話では、正門から中に入れず、爆音が聞こえると言う報告を受けて義理の母をはじめ家じゅうで慌てふためいているところに続報で、暴れている魔族はレオ君を攫ったテレジアの仲間が持ち込んだ「憤怒の眠り箱」から解き放たれた魔族だと知らされるし、その陛下をはじめ多くの貴族が避難した大広間では、テレジアの仲間が巨大な双頭の蛇に変化し、しかもその仲間と王太后様が通じていたと聞いて、王太后様の実家であるジルレ家は、末端の使用人までもがショックを隠せない状況に陥り、肝心の当主や前当主が王宮に出仕したまま戻ってこない状況下で、下手したら家の存続も危ういかもしれないかという覚悟もしたらしい。


 そしてその後、再び続報が入ってくると今度は、陛下達がその双頭の蛇と戦っている最中、アウスバッハ辺境伯とその孫娘の側にいた小さな子供が大広間を一瞬で氷原にしてしまうようなものすごい魔法を使ってその蛇を氷漬けにしたとか、そのあとそこに白い虎の精霊とフィリパ学園の学園長が現れ、一瞬でとどめを刺し、その後外の魔族も陛下達によって無事捕獲されたので、「憤怒の眠り箱」も無事封印されたのだろうという報告がもたらされ、リカルド様から連絡が入り、家は一旦落ち着いたが、大広間の戦いでは絶対氷の魔法を使った小さな子供はレオ君で、レオ君の側には必ず私がいるだろうから、その蛇との戦いには絶対参戦していると思ったらしい。


 しかも、フィガロ様の妄想は、小さなレオ君がそんな大きな魔法を使ったのは、もしかしたら私やシャールに何かあったショックを受けてしまって、魔族のレオ君の力が暴発したのかもしれないと不安に押しつぶされそうだったらしい。


読んでいただいてありがとうございます。

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