初めてのお友達?
「余の名前はセドリック・ロンベルト・レベッキーニだ。
仲良くしてくれ。」
陛下が王子を連れて現れたのは、レオ君に尋ねた日の翌日の午前中。
レオ君がいいと言ったら陛下ったら速攻日時を決めて来た。
どんな立場でも自分の可愛い子供のことになると必死だな、と苦笑いが浮かぶ。
陛下のミニチュア版のような色合いをした三歳児セドリック王子は、くせ毛の焦げ茶色の髪に濃紺の瞳、レオ君と比べたら種族は違っても一年年上だからか、一回り大きい。
紺色のセーターに茶色のズボンを履いて、青いたすき掛けになった収納袋を持っているが、おそらくその袋の中におもちゃか何か入れているのだろう。
ただ、口調は威張りくさっているものの、紺色の瞳は背後の私達とレオ君を見比べ視線がせわしなく動くさまが自信無さげで頼りなく、ちぐはぐな印象を与える子供だ。
だが、視線は弱弱しくとも、父親の陛下のように威風堂々としようと若干背をそらせてレオ君の前に小さな手を差し出す。
「このお手手はなにー?」
どうやらレオ君は握手を知らないらしく、首を傾げてきたので、慌てて説明しようとしゃがみ込む前に、セドリック王子がもみじのような王子の小さな手よりも、もっと小さなレオ君の手を握手のように掴み「仲良くしたいときの挨拶だ」と子供らしくない口調で説明をした。
「おーじしゃまはいくちゅ?」
初対面の子供にいきなり手を握られても、幼児の風体の堅苦しい大人のようなセドリック王子に怯えることもなく、レオ君がいつものように可愛らしく首を傾げて質問する。
「余は三歳だ。次の春で四歳になるぞ」
硬い。
堅い。
失礼ながら、本当に君は三歳ですかと突っ込みたくなるその口調。
老婆心ながらそんな口調や態度でこれからお友達出来ますかとか、王子様だからその口調は仕方がないんですか?とか、ここは私達しかいませんから、気楽に子供らしく遊んでいいですよとか色々言いたくて口がむずむずする。
だが、私が口を開く前に父親のルドルフ陛下がダメ出しを出した。
「セドリック、お友達になってもらいたい相手にそんな態度をする奴があるか!」
「でも、父上!
おばあ様を始め、乳母も「民に会うときは王子らしく威厳を保つ態度を心掛けよ」と……」
堅いわー。
セドリック王子の口から出た単語はとても三歳児とは思えない。
小さな子が虚勢を張るように大人の真似をして「民」とか「威厳を保つ」とか「心掛けよ」とか無理して話す姿にびっくりする。
王宮という中で大人たちの間で育つと、使う言葉も固くなってしまうのだろうか。
一昨日の晩の事件の日、大広間でちらっと見たセドリック王子は、どちらかというと今のような威張った感じではなく、どこか聞き分けがよさそうな、どちらかといえば大人しい部類の子のような気がしたのに。
「……セドリック、レオは魔族の子だ。
一昨日はレオ達の活躍があってこそ、多くの者が無事だったのだぞ。
精霊様と同じように本来なら人間のルールは通用せぬのに、こうやってここで過ごしているのだ。
友達として過ごせる機会がある方が貴重なのだぞ。
それに、父は宰相や将軍と会うときはどうしておるか思い出せ」
父親の陛下の言葉を聞いてしゅんと肩を落とすセドリック王子に、レオ君が片手をあげて会話に割り込む。
「おーしゃま、だいじょーぶ。僕、わかりゅ。
シェドリックしゃまはおーじしゃまだからえりゃい人でしょ?」
「ほら見ろ、レオに気を遣わせておるではないか。
レオ、セドリックとはお友達のように接してほしいのだ」
「しょれはジジしゃんやシャールしゃんみたい?」
「うーん……、それともちょっと違うなあ。
レオは年が近い子供の友達はおらんか?」
「むー、……おらん?」
しばらく考え込んだ後、陛下の口調をまねした返事をするレオ君に思わず吹き出す陛下。
「そうか、じゃあ、セドリックを初めての子供同士のお友達にしてくれんか?」
「おーしゃまが頼まなくてもだいじょーぶ。
僕、シェドリックしゃまと仲良しできましゅよー。
ねー?」
セドリック王子より一回り小さいレオ君が顔を覗き込むと、セドリック王子は一瞬びくっとした後、ちょっと恥ずかしそうに笑った。
「ぼ、僕に「しゃま」はいらない。
呼びにくいなら「リック」でいい。僕も「レオ」と呼んでも……」
「あーい。リックしゃん、僕、レオ二しゃいでしゅよ」
「レオ、その、「しゃん」もいらない。リックでいいよ。
その、僕も初めてのお友達だから……」
「ふおっ!
じゃあ、僕もリックしゃ……、リックも初めての子供のお友達でしゅか!
よろしくおねがーしましゅ。
あにょね、こっちがジジしゃんで、こっちがシャールしゃん。
僕をたしゅけてくれたんでしゅよ。ねー?」
無邪気に首を傾げて私達に笑顔で同意を求めるレオ君。
そんな笑顔で同意を求められちゃうと、こっちも思わずでれでれで「ねー」なんて言葉を返しちゃうわ。
私達のデレデレの顔が緊張感を崩したのか、レオ君の顔を若干堅い顔で見つめていたセドリック王子の紺色の瞳からは今までの緊張感とか警戒感のような色が消え、笑顔が浮かべ、私達に向かって三歳でする挨拶とは思えない高度かつ丁寧なご挨拶をした。
「初めまして、ジジさん、シャールさん。
僕はセドリック・ロンベルト・レベッキーニです。
今日はレオと遊びたいです」
「おお、セドリック。
すごく上手にルジアダ達にも挨拶できるじゃないか!」
「ち、父上?」
私達が挨拶を返す前に、陛下が強面を崩して、わしゃわしゃわしゃっと王子の頭を大きな手でなぜるものだから、その手に喜んで「上手にできましたか?」と陛下の手に抱き着く王子。
しかもレオ君も王子の高揚感につられて「おーしゃま、僕はリックとちゅみきであしょぶー」と陛下に抱き着くものだから、陛下はレオ君にも抱き着かれて大喜び。
二人を抱え上げて「いい子たちだなー」とそこで高い高いを始めてしまうものだから「執務の時間が押してます」というお付きの人の声がすごく低くなってしまったのは仕方がないと思う。
陛下が名残惜しそうに去っていったあとは、セドリック王子より小さいレオ君が王子の手を引っ張りながら、積み木に向かって走っていく。
王子とレオ君の笑顔は年相応の子供だった。
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