平和な朝
「ひとちゅ、知らない人にちゅいていってはいけましぇん!
ふたちゅ、シャールしゃんが虎しゃんだと言ってはいけましぇん!
みっちゅ、レオおにーしゃんとシャビーナおねえしゃんがきゅうけちゅきと言ってはいけましぇん!
よっちゅ、折れたちゅのを無くしてはいけましぇん!
今日もよっちゅのやくしょく守りましゅ!
しゃいごにレオおにーしゃんをおじしゃんと言ってはいけましぇん!」
今日も朝からいつも通り元気よく競技会の選手宣誓のように片手をあげて、シャールとかわした四つの約束プラス学園長の約束を唱和しているレオ君。
「レオ、学園長は別におじさんと言ってもいいぞ」
五つ目の学園長の「おじしゃん」訂正の宣言に肩をすくめるシャールに、レオ君はプルプルと震えながらシャールに必死で異議を申し立てた。
「ダメでしゅ。
今度言ったらまた全身こしょぐりの刑だと言われましゅた!
シャールしゃん、あの「こしょこしょ」はおしょろしいのでしゅよ!」
「……あやつは何をやっておるのだ」
昨晩は確か……私がシャール達の元に戻った時には珍しく学園長の腕の中で夢の中状態だった。
ということは、レオ君が刑を受けたのは私が離れてから私が戻る前の時間だと思われる。
あのダンディなイケメンオヤ……失礼、イケメンがどんな顔してレオ君をくすぐっていたのか。
しかも、人が大勢いた大広間で。
シャールは昨晩虎の姿でご登場だったから、あの姿ではレオ君を抱っこできないのは仕方がないものの、どうやら蛇が倒された後、無傷の者達の何割かがフィリパ学園長とともに現れたのが滅多に姿を見せないどこかの精霊だと思って近寄ってきたそうで、彼らを蹴散らすのにレオ君の相手を学園長に任せたらしい。
あの双頭の蛇を瞬殺とばかりに倒し、フィリパ学園の学園長は最近急に王宮で陛下達と顔を会わせている姿を見かけるようになった最近宮廷でも話題の人物であった上に、しかもその力を見せつけただけでなく明らかに精霊様だとわかる白虎のシャールとともに現れれば、いろんな意味で近づきたがるものは出てくる。
しかもその学園長と白虎姿の精霊の側に、大広間を一瞬で極寒の地に変えて蛇を足止めするかのように強烈な氷雪魔法を繰り出した誘拐され保護されてい愛らしい見た目の魔族の子供のレオ君が寄っていく。
精霊様の加護を受けたい、精霊様と同じく強大な魔力を持つというこの国では希少な魔族と少しでもお近づきになりたい、そして、陛下と懇意の学園長と懇意になりたいという野心の強い人間がここぞとばかり寄っていったのだ。
だが、彼らは近寄っていく時と場所と相手を間違えた。
宮殿の顔というべき大広間は見るも無残な状態。
窓の殆どは壊され、床は魔法で大きな穴がいくつもあき、調度品は散乱し、傀儡の香の影響で失神したまま目を覚まさない人が部屋の隅で山のように横になり、蛇と戦って負傷した人達が、座り込み、無事だった者の大半が、応急処置や清掃などに躍起になっていた。
そんな我良しで欲深い方々を前に唸り声をあげ、容赦なく突き返したのがシャール。
その間に学園長はと言えばのほほんとレオ君へ「刑」を実行。
シャールが戻った時には、レオ君は涙目で大笑い状態。
キャッキャ言いながら息を切らしてシャールのところにトテトテと必死で逃げて来たらしい。
そしてその後、笑い疲れたのか、はしゃぎ過ぎたのか、糸が切れたかのようにこてっと眠ったのだとか。
その後は学園長が眠ったレオ君を抱っこしていたそうだが、服にしがみついて寝ているレオ君の顔をでれっでれの顔で眺めていた学園長。
あの顔は、他の学生には見せない方がいいと思います。
いつものダンディな中年、いや、イケメン学園長の顔が崩れ落ちていました。
さて、そんなレオ君は今朝はいつも以上に元気がいいらしく、シャールの腕の中で目が覚めた途端、上機嫌でシャールもよくわからない鼻歌を歌っていたそうだ。
その後顔を洗って、シャールの手を引いて、フィガロ様が持ってきた服の中から自分で白のシャツに赤地に可愛い熊さんの柄が入ったセーター、黒のズボンを選んで着替え、角を隠すための赤い毛糸の帽子をかぶり、ご機嫌状態。
昨晩の騒ぎの後遺症で悪夢にうなされるとかもなく全く影響がない様で一安心ですわ。
「こしょぐったいのがちゅじゅくと、苦しいでしゅ」
「そうか、そうだな。苦しいな。
まあいい。
レオ、今日はサンドイッチを作ろうか。何を挟みたい?」
まあいい、という言い方が次回学園長に何かが起こりそうな気配がしちゃって不安なんですが、話題を変えたシャールの質問にレオ君が即返答。
「あーい、焼いた卵焼きとハムでしゅー」
「そうか。レオが好きな唐揚げを挟んでもいいぞ?
昨日の残りが少しあるからな」
「うにゅ?
かりゃあげ?
かりゃあげも良いでしゅよ。
でもハムとチージュと焼いた卵焼きがいいでしゅ!
ジジしゃんは?」
「そうね、野菜を挟んだサンドイッチもいいかしら」
「あーい、トマトも美味しいでしゅね。
シャールしゃん、僕がパンにハムやお野菜はしゃみましゅー」
「あ、レオ君。パンにハムを挟むぐらいなら私も……」
「メでしゅ!
はしゃむのは僕のお仕事でしゅ!
ジジしゃんはお皿の準備でしゅ」
厨房の采配はどうやらレオ君の方が力が強いらしい。
「シャール……」
「まあ、いいではないか。
しかし、昨日の今日で全く恐怖も感じず動じないレオはすごい子供だな」
「えー?
なにがー?」
「いや、レオの昨日の氷の魔法はすごかったと感心しておるのだ。
あんな魔法を使ったのに、体調も変わらず魔力もたいして減っておらぬのは、やはり魔族の子だからだろうな」
「しょれほどでもー」
珍しく照れて鼻の頭を掻くレオ君の姿に思わず笑ってしまう。
「しかし、どうしてあのような魔法が使えたのだ?
教えた覚えはないぞ?」
確かに、レオ君は私達が知る限り、派手な魔法攻撃を使ったことはない。
「んー?
山のおじしゃんは冬はとーみんすりゅって言ったでしょ?
だから、あのくしゃいやちゅも蛇しゃんでしゅから冷たくしたら動かなくなりゅと思って、冬に森にふる雪や氷のちゅぶを思い出したんでしゅよ。
あと、ちゅららを思い出して、えーいってやっちゃらできちゃの」
「その、レオ君が「えーい」ってやったらできたの?」
「あいっ」
……。
ふむふむと話を聞いていたシャールに「あいっ」じゃねえよ、という気持ちをぶつけたくて見つめてみると、彼の青銀の目も若干驚愕の色を浮かべていた。
想像したまま攻撃魔法が繰り出せるのは、人間だったら魔力も豊富で、ある程度魔法を勉強し、何度も魔法を使う練習をしたごく一部だ。
私もその一人に辛うじて入っているのは、魔力が量が多いだけでなく、国境を守るおじい様や叔父様と一緒に小さなころから練習していたから他の子に比べて魔法が使うことが出来るのだ。
あとは陛下や将軍様達なども熟練の部類に入るけど、おそらく誰も昨晩のような強烈な魔法を幼児のころにに使いこなせたとは思えないし、蛇だからまずは冬眠させて動きを止めるとひらめいちゃう二歳児なんてなかなかいないだろう。
これはやはり魔族の子供だからなのだろうか?
「ほお。それは、よくイラリオンの話も、冬の景色もよく覚えてたな」
「あいっ。
昨日はジジしゃんの攻撃も面白かったでしゅよ!
あのくしゃいやちゅがちゅかった雷が、ジジしゃんが槍をあいちゅに投げたら、雷が戻っていって、あのくしゃいやちゅにピカピカ、ドーンしましゅた!
ジジしゃんはほとんど魔力ちゅかいましぇんでしゅた。
あいちゅ、自分の雷の魔法でドーンしゃれましゅた。おバカしゃんでしゅ」
ピカピカとかドーンとか身振り手振りを交えながらシャールに説明するレオ君。
いや、あの攻撃をかみ砕いて説明しなくても見ただけでそこまでわかってた君はすごいよ。
天才児だよ。
私がやったことは見ていないシャールでも、昨晩誰かから話を聞いているらしく「あの避雷針を参考にしたというやつだな」とレオ君の話を聞きながら呟いていた。
「うーむ。
レオは本当に賢いぞ」
「えへへ。
僕はシャールしゃんやレオおにーしゃんみたいに、もっとちゅよくなりたいんでしゅよー」
「そうか。レオはきっと強くなれる。
さあ、朝ご飯を作りに行こうか?」
満面の笑みを浮かべたレオ君はシャールに抱っこされて、ご機嫌で厨房に向かうのだった。
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