冬眠してしまいます
「レオ君、危ないっ」
双頭の蛇が掲げていたか頭を下げ、レオ君との距離をさらに縮めようと蛇行する中、おじい様と私が焦って足を踏み出した。
「ふん、そのガキを戴くぞ」
「レオ君、こっちに逃げて!」
長い首がうねるように伸び、赤い瞳がレオ君を射程距離に定める。
赤い帽子を被って青いコートを羽織っているレオ君は赤い目の蛇が近づいてきても全く動きもしない。
こうなったら、あの蛇ぶっ飛ばしてやる。
「ルジアダッ、魔法がっ」
バチンという音で、おじい様が放った防壁の土魔法も私が放った風の障壁も弾かれたことが分かった。
「嘘っ!?」
レオ君に間に合わないっ!?
「レオ君!」
「とーみんしちゃえ」
呑み込もうとする蛇に向かって甲高いレオ君の声が響く。
「うぎゃあっ」
蛇の叫び声が響き渡ると同時に、バリバリバリッという音に細かい氷のつぶてがバケツから水をぶちまけたかのように蛇の頭上にまき散らされた。
しかもゴオオーという雪山の吹雪のような音まで響き渡り、足元から一気に凍りそうなほどの冷風が辺り一面を襲った。
気温は一気に下がり、蛇は雹のような氷のつぶてから慌てて逃げるように反対方向に顔を向けた。
「蛇が逃げる?
うおっ、さっぶっ」
しかもだんだんと氷のつぶてに混じって吹雪が舞い上がる。
辺り一面を凍り付かせるような寒さに、思わず男らしい低い声が出てしまったことは見逃していただきたい。
「これは、レオ君の魔法か……」
急に襲った氷魔法の寒さに皆が顔色を青くし震える中、おじい様を始め大勢が驚愕の表情で赤い帽子をかぶったレオ君を見ている。
しかも驚かせたその当人は、更に大きな魔法を放とうと大きく手を振りかぶった反動でよろけて尻もちをついてしまい「アイタッ」と叫んだ。
「あっ、しゃむくなりしゅぎちゃいましゅた」
今まで戦闘ごっこでお遊戯状態の魔法しか見たことがない私達には、今の強烈な氷雪魔法を使っているレオ君の力にびっくりだ。
しかも氷山のてっぺん並みのような気温に下げられたら、震えて体がまともにまともに動かない。
歩くと股関節が痛いくらいだ。
その魔法は大広間中を覆う全体魔法から蛇の辺りに収縮していき、やがて蛇の周囲だけを吹 雪が取り囲み、やがて吹雪から逃れようとあがらう蛇を巻き込んで竜巻のように渦巻きだした。
「こっ、凍りそうっ」
口を動かすことすら厳しいと感じるほどの寒さ。
「る、ルジアダ、レオ君をッ」
余りに見事な氷と雪の魔法と寒さに呆けてそのまま凍えていた私に、先に我に返って体の周りに温風魔法を施したおじい様の指示が飛ぶ。
当のレオ君はと言えば、この寒さでも大丈夫なのか、自分が放った魔法で数センチ積もった雪の中、尻もちをついた状態から「ちべたーい」と、両手をついてゆっくり立ち上がろうとしている。
いつもなら「可愛い」と言いながら抱き上げて遊んでいられるが、今はそんな状況じゃない。
まずは自分の体を温風魔法で温めた後、小さな体を抱え上げた。
魔族が風邪をひくか知らないけど、こんな小さいレオ君が風邪でも引いたら大変だ。
とりあえず快適温度になるように暖める。
「あー、あったかーい。
ジジしゃん、しゅみましぇん。
あにょー、僕……。
魔法上手くちゅかえましゅたか?」
「す、すごいよ」
上手いどころか、二歳児が使うには末恐ろしい威力だ。
しかも「すごい」と言われ、嬉しかったのか、目を輝かせ「しょーでしゅか」とにっこり笑ったと思ったら甲高い声で「えいっ」と腕の中で手を振って、更に魔法を追加発動させた。
「まさかの追加魔法ですか」
吹雪の竜巻に追加とばかりに新たな氷の竜巻が現れて双頭の蛇に絡みついていった。
氷の竜巻登場の余波でさらに気温は下がり、しかも飛び散る雪が大広間にどんどん積もっていく。
もちろん寒さが厳しくなればなるほど、広間ではくしゃみを連発される方が続出だ。
魔法で体暖めないと明日は皆風邪ひいてしまっているんじゃないかと思うほど冷えっ冷えだ。
けれど、そのレオ君の魔法が双頭の蛇を足止めしている。
国王陛下を始め大の大人が複数で攻撃しても太刀打ちできなかったのに、まさかこのレオ君が魔法で動きを止めるとは。
少し離れた位置で陛下達も呆然と立ち尽くして蛇の状況を見ている。
「レオ君、すごいぞ」
蛇の動きを止めたレオ君の魔法に、おじい様は目の前の状況が信じられないと呆然と立ちすくみながらも、レオ君への賞賛の言葉を送った。
「素晴らしい」
おじい様の賞賛に再び銀色の目を輝かせたレオ君。
「しょ、しょうでしゅか!
僕、しゅごいでしゅか!
よし、ちゅぎは……」
「レオ君、何を……?」
抱き上げている私の腕の中から更に魔法を使おうとレオ君が手を振りかざした。
私が聞く前に「えいっ」と再び小さな手を振りかざした途端、蛇を取り囲む竜巻の側に大人の片腕ほどの太さのつららが無数に突き刺ささっていた。
魔法を使った当の本人は「うーん、はじゅしちゃいましゅた」と顔を顰めるが、アウスバッハ辺境伯のおじい様とその孫娘ルジアダ、我ら二人はレオ君に完全に度肝を抜かれたのであった。
そして寒さや状況に慣れた陛下を始め、誰もが呆然と佇んでいた。
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