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これから本番ですか?

 だが、そんなバカげた予測がビンゴだったと確信させる王太后様の怒りの罵声が響き渡った。


「窓を開けるなっ!

 辺境伯っ、その魔族の子供を連れてどこに行くっ!

 国境を守るという立場の者がここから逃げるのか?」


 名指しで「逃げるな」と言われたおじい様が、むっとした顔で王太后様を睨みつける。

 いやい「国境を守るという立場の者がここから逃げるのか?」って、この現状を引き起こした一員が何を言うんだと思うが、おそらく王太后様は正気じゃない。

  

 だが、おじい様も王太后様の言葉で何か確信を得たようで「そうか……」と呟いた後、張りのある大声で叫んだ。


「皆、窓を全開にせよっ!

 この臭いを嗅ぐな!

 いずれ操られるぞっ」


 そしてレオ君と私を窓から逃がそうと「呼吸を浅く、この臭いをかぐなよ」と言いながら、窓に手をかけた。


「させるかっ」


 いきなり蛇の一言で、バタバタと窓が閉まった。

 しかもカギを開けようとしてもうんともすんとも動かない。私達と同じように窓から逃げようとしていた人達の「開かないぞ」と絶望的な叫びがあちこちから響き渡る。


「この程度、打ち破る」


 おじい様が拳を振り上げ、窓枠ごと窓を吹き飛ばした。だが「おのれ、開けるなと言っただろうが!」と、窓枠ごと外したおじい様の姿に怒った蛇がこっちに向かって炎の球を飛ばしてきた。


「この程度の炎でやられて国境を守る辺境伯などやってられるか」


「おじい様っ」


 防御の結界魔法どころか片手を仰いでその炎の球を蛇にはじき返したおじい様は、そのまま抜刀して身を構えた。


「陛下ッ、あとでこの破壊行為のお叱りの許可は受けます」


「そんなものは許すっ!」


 陛下の許すの人をことを受けたおじい様は「ルジアダ、この子を守ってタイミングを見て逃げろ」と言い残し、蛇に向かって行った。


「皆の者、窓をたたき壊せっ。

 我らはさっさとこの蛇なんぞは片付けて外の「憤怒の眠り箱」を封印せねばならん。

 このようなものに時間をかけている暇はない。

 行くぞ、クラウスッ。

 者どもっ、この悪臭を消し、浄化の魔法を施せ」


 陛下の指示に正気を保っている老若男女、身分の上下問わず皆が答えた。


「畏まりましたっ」


「ガラスだろうが木枠だろうが壊せ!

 この臭いをあらかた消すのだ!」

 

「くそっ、魔法が効かぬのなら、拳でッ」


 力自慢の者は素手で、非力な者は室内の調度品道具を使い、ガンガン、バリンバリン、ドンドン、ガシャンガシャンと叩き割る。


 窓や扉を破壊していく中、「やめなさい、皆の者、窓を閉めるのですっ」という王太后様の声や邪魔する魔法がむなしく掻き消える。


 室内に設えてある優美な調度品も窓も見るも無残な姿になっていくにつれて、室内に秋の夜風が吹きこみ、どんどん気温は下がっていく。


 優美な細工が施されている窓が面白いほどどんどん壊されていく様子に「うきゃあ」とレオ君は興奮し、「くしゃいのとんでけー」と開けた窓に向かって臭いが出て行けと言わんばかりに空気を送り出すと、それを見た多くの大人たちが臭いを消そうと風の魔法を使い出した。

 そして外から吹き込む冷たい風が、室内のと匂いをかき消していくにつれて、王太后様側の人間の動きが徐々に鈍くなっていく。


 陛下達は蛇を進ませないように進路を塞ぎ、先ほどの地味な捕縛魔法から、風の盾を使って身を守り、蛇を昏倒させたいのか、精神を混濁させる闇の攻撃魔法を繰り出して戦っている。


「くそ、今日あんなしごきを受けねば、もっと動けたはず」


「陛下、そんな言葉を学園長殿に聞かれたら、もっとしごかれてしまいます」


 戦っている陛下達の会話が聞こえてくるのは、レオ君の見えない敵「臭い」をやっつけるために繰り出している臭い消し風魔法の風の流れのせいだろう。


 しかし、陛下達、戦ってる最中にあんな会話ができれば余裕だと思う。


 やがて臭いが薄まってきた頃を見計らって、宰相様が王太后様の周りに消臭の効果もある巨大な光の浄化魔法を繰り出すと、王太后様をはじめ、王太后様の言葉に従って蛇を先導しようとしていた人間がドミノのように崩れ落ちた。


 どうやら意識を失ったらしい。


 人が意識を失うほどこの臭い香りにそれほど効果があったとは。

 誰かが「あれはほとんど、王太后様の香水の愛用者だぞ」と呟いた言葉は説得力があった。


 嗅覚は直接脳の本能を刺激する分野に影響を与えると聞いたことがある。

 きっと、長い期間あの香りで脳を刺激され、今日あの蛇が出した臭いで意識を支配されてしまったのか?


 そして徐々に大広間は壊れた大きな窓から逃げる人、怪我人や倒れた人を救助している人、部屋の隅から中央で蛇と戦う陛下達一団を見守る人という配分になった。

 

 多くの窓が割れて、操られる人が邪魔をしなくなったとはいえ、蛇自体が弱くなったかと言えば、そんなことはない。

 なぜか使う魔法の威力がだんだん強くなり、騎士や魔導士が負傷して戦線離脱していく。


「やっと体が馴染んできたな。

 さて、その程度の人間の武器や魔法では止められん」


 げっ。

 体が馴染んできたって、今までは本調子じゃなかったてこと?

 本調子だと、まさかテレジアが使った魔法陣使っちゃったりするの?


読んでいただいてありがとうございます。

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