まさか妹が?
報告に動揺したおじい様の腕の中で、レオ君が私達二人の動揺と周囲のざわつきに「なにー?」と不思議そうに私とおじい様の顔を交互に見つめる。
「エロイーズが、……まさか、そんな、あの子が」
「……嘘でしょう」
確か妹は騎士棟にいると聞いていたが、どうしてそんな場所にいたのだろう。
いくら離れて暮らしていても、妹は妹だ。
見た目を比べられ、コンプレックスを刺激されるから苦手意識があっても、妹には変わりない。
今日突撃してきた美しい母に似てきた可愛い妹とは夏以来顔を会わせていないし、その時もせいぜい挨拶と、食事の時に王都に出来た新しい小物雑貨の店の話をほんの少しした程度で……。
小さいころから整った容姿で、このレオ君と同じくらいの小さい頃は、クリンクリンの巻き毛のような金髪を結って、カボチャパンツ姿も愛らしく、緑と青が混じった零れ落ちそうな大きな目で「おねーしゃ?」と言いながら……。
駄目だ。あの子の顔が、思い出が頭の中でグルグル回り出す。
でも、外で魔族が暴れているこの状況下では、勝手に走り出していきたい欲求はまず抑えなくてはならない。
「身内である辺境伯にご確認いただきたくはせ参じました。
そちらの子供はわたくしめがお預かりいたしますので、是非ともご一緒に……」
「行けるのっ?」
確認できるんだったら、行きたい!
まずそこに向かおうとおじい様と顔を見合わせた。
ただ、失礼な話だが、大事なレオ君を見ず知らずの相手に預ける気にはなれず、どうしようかとおじい様と小声で話していると、横から声がかかった。
「待て。
どうして子供をお前が預かるのだ?
そしてなぜその死体がエルランジュの娘だとわかったのだ?」
「……陛下?」
話が聞こえていたのか、奥から陛下と宰相様が現れた。
「畏れながら申し上げます。
魔族が車回しに移動した後、正門近くで倒れていた負傷者を運んでおりましたところ、息を引き取っている金髪の美しい少女が……」
現れた陛下の方向に向き直った兵士が再び片膝をついて説明を始めたが、陛下が言葉を遮った。
「確かにエルランジュの娘は美人だが、金髪の美しい少女ならいくらでもいる。
王侯貴族だけでなくそこの女官たちの間でも小遣い稼ぎの下働きの少女たちの中にもな」
「ですが、陛下、そ、その……将軍が、城に呼ばれている予定のエルランジュ嬢だと仰って、伝えに走れと」
「ふむ……。将軍が兵士のそなたにか。しかも、なぜ余ではなく辺境伯に?」
「それは、将軍の指示ですので……」
「ほう……。そうか。
だが、なぜおまえが子供を預かろうとした?
その必要があるのか?
そなた、どこの所属だ?
兜を取って顔を見せろ。
取れ」
「……はい」
ゆっくりと兜を取って現れたのは、淡い金髪を一つに結った、印象に残らなそうな雰囲気の男で細面の顔を俯けたまま、じっとしている姿は兵士にしては華奢すぎる印象だ。
「陛下……」
側にいた近衛兵達がその青年の顔をよく見ようと「顔をあげろ」と近付いた。
だが、よほど顔を見られたくないのか、人見知りなのか近衛兵の視線から逃れようとその顔がふとこちらに向いた途端、おじい様の腕の中で、じっとその男の様子を伺うように見ていたレオ君がクワッと銀色の目を見開いて、人差し指を勢いよく振りかざし、甲高い大声で叫んだ。
「しょいちゅ、僕をしゃらったわりゅいおじしゃん!
変身してりゅっ!」
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