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儀式が終われば

 そして、霊峰ヴェスパ山の五年に一度のフィリパ学園の学生が行う儀式を驚異的な速さで終わらせた。


「では、堅苦しいのはここまでです。

 確か、儀式が終わったら山で栗を山ほど拾いたいと仰ってみましたな?

 まだお昼まで半刻ほど時間がございますから、それまで自由にされてください。

 ああ、正面の門を出てすぐ山手の道ぞいに栗ではございませんが、渋柿の木が一本ありますが、たわわに実っておりますよ」


 儀式中、どこか厳しい雰囲気を纏っていたこの山深い場所にある神殿を守る神官トーマス様が笑顔を浮かべ身振り手振りを加えて場所教えてくれる。


「干し柿にする種類ですね?

 一度見に行きます!」


「そうですか。では戻ったらお昼にいたしましょう。

 鹿肉を使った串焼きを楽しみに待っていてください」

「はい!」


 神殿の奥に速足で戻っていった二人を背に、正面玄関から表に出て霊峰ヴェスパ山へ続く山道を眺めると、すぐにオレンジ色の実がなる木が見えた。


 ヴェスパ山は頂上が万年雪で覆われた山で、麓のこの白亜の神殿には建国時に初代国王が精霊から賜ったとされる先ほど見た剣が奉納されている。


 この神殿は建国に力を貸した魔女フィリパが、その剣を神官の神託に命ぜられるままヴェスパ山の麓に神殿を作って奉納し、その後は王都から北西の位置にあるグリュモワ地方と北東のバファール地方との間の盆地に魔力が多い子供たちのための学校を作った。

 そして老後はこの霊峰ヴェスパ山の近くに居を構え、没するまでその神殿を守っていた。


 現在、その学校はフィリパ学園と名前を変え、今は貴族だろうが平民だろうが、王族だろうが孤児だろうがレジネール王国で魔力が特に多い子供が通う学校として知られている。

 フィリパ学園では五年ごとに、十六歳から二十歳までの学生を代表として一人この神殿に遣わす。

創設者の偉業を忘れないため、そして神殿に奉納されている神器を確認し、神官様達の朝の作業のお手伝いをし、神殿を守る神官様の指示通り神殿の守りと神器の守護を強固にする魔法陣に魔力を奉納するのだが、過去には失敗した学生もいたりする。


 失敗すると、代わりに学園長が代行することになる上に、通常の成績が良くても、家の身分が高かろうと問答無用で留年決定になるので、学生たちには口伝で「試練」とも呼ばれている。

この「試練」は悪いことばかりではない。


 僅かばかりだが国から褒章が貰えるし、その褒章はこの霊峰ヴェスパ山を含む国の直轄領の北西部グリュモワ地域の名産品だ。褒章を貰う際は王宮に呼ばれ国王陛下から直接目録を渡していただけるし、その際は家族や親族も同伴できる。


 なので、今回の儀式に私が選ばれた後は、珍しく王都の両親が新しい制服で儀式に参加しなさいと学園の指定店に注文した黒の制服一式が届いた。


 ちなみにフィリパ学園は授業でいつ学生が魔法を失敗しても逃げられるように、動きやすい服装を推奨されているので、女子は既定のプリーツスカートもあるが、入学式や卒業式以外着られる率は非常に少ない。

 なので、私は今日も制服は白のシャツに黒のベスト、その上に胸に学園のオリーブに杖のマークが入った黒のジャケットと細身のパンツに、儀式用のローブを身に着けているが、今はそのローブは脱いで、背中のリュックの中だ。


「あ、お肉か何か焼いてる匂いがする」


 神殿の方から漂う香ばしい香り。


 そう、あとこの神殿は、儀式後に食べる昼食が美味しいと聞いていた。

 普段市場にはあまり出回らない鹿肉や猪肉をはじめ、川魚や山の幸を使った美味しい料理が食べられるし、神殿より下手の大きな牧場がある村は美味しいチーズやハムを作っていて、そこでしか買えない絶品チーズケーキを作るパン屋さんがあると聞いたのだ。


 ちなみに、今朝神殿に来る前に村に行き、チーズケーキもチーズも予約済みである。


 同じ年の婚約者のフィガロ様は秋の味覚の栗を使ったお菓子が好物だが、チーズケーキも好きなのだ。

 きっとお土産は喜んでもらえるだろう。


読んでいただいてありがとうございます。

気に入っていただけましたら、ブックマークと応援よろしくお願いします。

また、お恥ずかしながら、誤字脱字ありましたら、報告よろしくお願いいたします。

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