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呼ばれました

 シャールが言った「憤怒の眠り箱」は、以前学園長達から聞いた厄介な代物の一つだ。

エードレーン大陸からやってきた人間が、メルドーラ大陸に住む者から土地を奪い支配するために持ってきた禍々しい代物。

 禁呪の魔道具の一つだ


 私は学園長から魔法陣の話を聞いた後、フィガロ様に頼んで、長年王宮の神殿で宮廷祭祀を取り仕切るジルレ侯爵家が持っている魔道具の本を借り、読んでみたところ、詳しくは書いてないが、話で聞いた「憤怒の眠り箱」はテレジアが持っていた「精霊封じの石」よりもさらに恐ろしい魔道具だと再認識した。


 その箱は、見た目は小さな小箱らしいが、精霊だけでなく、魔族、精霊、妖精、幻獣、獣人など種族関係なく使用者が相手を強制的に封印する目的で作られているという。


 ただし、封印目的のために開ければ、箱を開けた者の魔力すべてを奪い、閉じるときに持っていた者の命が奪われる。

 しかも、箱に何か封印された状態の箱を再び開けるときは、開けた者の魔力を奪い、しかも解放された中のモノは、解放された途端に封じられた怒りを爆発させ、箱から解放された途端に魔力暴走を越こさせ、周辺にいる生き物が死に絶えると書かれていた。

 禁断の魔道具達は、各国の王室で厳重に保管されている。


 だが、五十年前、レジネール王国に進軍してきたシュルツ王国が禁を破って封印を解き使用しかけたが、当時レジネール王国の魔導士団を率いる若き団長が自分の魔力を引き換えに箱を封じ、シュルツ軍は敗退。

 ただしレジネール王国も代々国を守る精霊ルフが眠り、多くの死傷者を出す苦い勝利だった。


 敗退したシュルツ王国の前シュルツの国王一族は、学園長から聞いた話の通り、クーデターで国王一族を始め多くの貴族や宮廷人が死に絶え、使われた箱は現在の新王室によって厳重に保管され、他の国は改めて保管方法を厳重にした。


 そして今現在、隣のエードレーン大陸でもそれらの魔道具は「呪われた兵器」と認識され、このメルドーラ大陸と同じように各国で封印されているそうだが、かつて一定数作られていたことから、その知識や似た魔道具が闇ルートで流れているという。


 ちなみにメルドーラ大陸ではどの国でもこの禁呪の魔道具に関しては、生産は死罪、万が一、個人所有をしていた場合は一族郎党が厳罰に処されるし、許可を得ていない者が魔法陣を私利私欲のために使えば同じような刑に処される。

 

 テレジアの場合、魔族の誘拐に加え、国宝「バアルの剣」も頂きたいと言っていた証言があるので、死罪は死罪でも、楽に死なせてはもらえない。


「それに、あやつらの目的に「真実の目」を持つレオも含まれておるのだとしたら、レオを辺境に連れていけば、ロビンの領民も危なくなる。

 国境から兵は多く割けぬであろうし、アウスバッハの魔導士は王都に比べて少ないはずだ。

 確かにアギールの城下街にかつて先の戦いで魔力を失った元魔導士団長が住んではいるが、先のシュルツとの大戦以降は軍人として戦力にならないことは周知の事実だ。

 それに、いくら辺境伯の騎士や魔導士たちが強かろうが、あのテレジアの仲間があれと同じような道具を持ってきたら、ただでは済まぬぞ。

 それっをわかって……」


「シャールッ!」


 シャールの正体を知る学園長やおじい様だけならまだしも、まさか陛下達の前で、学生らしからぬ態度で学園長に凄むとは思わなかった。


「なんだ?

 ジジもそう思わぬか?」


「こらこら、二人とも落ち着け。レオ君が起きてしまうぞ。

 だが、彼の言い分も分かる。

 国境を守る兵の多くは割けんし、今回の件で我がアウスバッハの領土の軍の者にも禁呪対策を言い渡したが、牢の中のテレジアが、仲間は何をもっているか口を割ればいいが、相手の持ち物次第は……」


「おじい様……」


「いや、シャールの言う通りだ。

 俺が悪かった。……確かに「憤怒の眠り箱」までは考えが及ばなかった。

 いや、あの存在を思い出したくなかったんだな。

 あの精霊封じを持っていた相手だ。万が一あれを持っていたら、俺もサビーナもまずいことになる」


「いや「憤怒の眠り箱」を相手が持っていたら、レオンハルト殿だけが危ないわけではない。

 もし、中に閉じ込めてある箱を開けでもしたら、閉じ込めた存在次第では王都規模の街が辺境のアウスバッハで開けられでもしたら、アギールの城下街だけでなく、あの山林一帯、下手したらこの国で一番重要と言っても過言でない塩田すら灰になってしまいます。

 テレジアが「精霊封じの石」のついた杖を持っていたので、「精霊封じの石」が流通していないか確認していましたが「憤怒の眠り箱」も至急各国に確認しましょう」


「うむ。頼んだぞ、宰相。

 余も一度神殿奥の扉を開けて保管されているか確認してみよう。ジルレ侯爵を呼んでともに神殿で確認だ」


「畏まりました」


「あと、学園長。

 うちの孫がテレジアのような相手でも実戦で対応できるよう指導をしていただきたい。

 この子からあのヴェスパ山の時の話を聞きましたが、もし我々が間に合わなかったらと思うと……」


「おいおい、ロビン。確かにあの時は俺が助けたような形になっているが、多分こいつなら勝ったぞ……」


「確かにそう言われたら、飛び掛かってきたあの女をジジが拳で沈めておったかもしれぬなあ」


 当時の状況思い出し、うんうんと頷きあうシャールと学園長。


 いや、そんなところで意気投合しなくていいし。


 陛下達なんかどっか腰が引けてる雰囲気とか、おじい様の無言の圧が怖いし。


「ロビン、無言で睨むな。

 お前が心配しているのは、こいつの好戦的な気質だろ?

 そこらのおしとやかな貴族のご令嬢と違って、辺境の国境を守るお前達の許で幼少時から過ごしたんだから仕方がないだろう」


「そ、それを言われますと……」


「エルランジュは元々最近の人間の割には魔力の量が多いし、このルドルフの許可も貰って禁呪を学ぶことの許可も得て、今教えているところだから心配するな。

 そういえば、さっき話に出したがエルランジュ伯爵夫妻のことだが」


「ええ、わが娘ながら、お恥ずかしい話ですが、立場をわきまえず、親だと言い張りルジアダのところに来たとか」


「ウチの学園行事には来んくせに」


「レオンハルト殿、それはおいおいということで。

 辺境伯、いくら忠義者のそなたの娘であろうと、今回の件、どこで誰がどう繋がっているか分からぬ上に、公にしておらぬことを知っておったエルランジュ伯爵夫妻は取り調べの対象となる。

悪く思うなよ」


「いえ、陛下、その点はお気遣いなく。

 万が一、もし、万が一、娘がテレジアと繋がっていたとしても、私のことはお構いなく」


「おじい様……。

 あの、陛下。厚かましいかもしれませんが、後、念のため妹の周りの警備も……」


「うむ。もちろんそなたの両親も妹も、仮にテレジアの仲間と繋がっておったとしても、話を聞かねばならない上に、相手が口封じをしてきても困るからな。

 厳重に警備するので心配無用だ。

 しかし、レオと一緒に居るのがそなた達だと知っておるのは、本当に信頼のおけるものばかりなのだが。

 警備の者は厳選されて決められておるし、あとはジルレの先代と当代と次期フィガロの三人と、初日に王宮でそなた達が会った女官や女騎士くらいか。

 後考えられるとすれば盗聴だろうが、我々が使った部屋、この部屋も含め、ある程度の部屋は盗聴も盗撮も出来ぬよう魔法がかかっとるんだがなあ。

 ……仕方あるまい。

 こうなったらレオの正体もそなた達が一緒に居ることも公にするか?」


 なぜ両親が、そして妹が私の居場所を知っていたのか?

 そして詳細は知らないと思うけれどなぜ事件を知っていたのか。


 厳しい表情を浮かべ、考え込んでいる私達の間にレオ君の朗らかな声が響いた。


「……おはよーごじゃーましゅー」


 むくりとソファから起き上がり、レオ君が起きたことにいち早く気が付いたシャールの差し伸べた腕に両手を伸ばして抱き着く。


「まだ眠くないか?」


「むー、だいじょーぶでしゅよー。

 火の鳥しゃんが僕を起こしましゅた」


「何の話だ?」


「シャールしゃん、ルフしゃんという大きな鳥しゃんが、早く来いって言いましゅた」


 シャール腕の中で、手を広げて「もっと大きな鳥」と起き抜けに夢の話をするレオ君に、国王陛下をはじめ皆が顔色を変えた。


「ルフ、だと?」


「おーしゃま、ルフしゃんはねー、青いちゅばしゃに白いからだ、赤い頭の鳥しゃんでしゅた」


 夢で見た話を一生懸命話すレオ君に、大人たちは驚愕の表情を浮かべ、至急王宮の奥の神殿へ将軍を走らせるのだった。


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