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規格外の魔力を持つご令嬢は、恋を楽しんでいる暇がありません。  作者: なえまう


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レオ君は賢いのです

 残念ながら陛下からは同級生のアルと、後輩で妹の婚約者のルーを参加させることは、事件の秘密が漏れることと、彼らの身の危険を考えて許可は下りなかった。「こうなったら二人に禁呪対策をやらせる方向で話を進める」とどこか悔しそうな学園長だったが、確かに彼ら二人がここに来て、しかも身の危険が迫る可能性が高くなるのならやめておいた方がいい。


 私達は魔導塔での生活のサイクルが落ち着き、レオ君のお相手をしながら、勉強して過ごす日常になれてきた。

 だいたい昼間のどこかで学園長やおじい様が顔を出し、夕方はフィガロ様が来るという感じになりそうだ。


 私達が勉強している時間、レオ君は小さいにもかかわらず、昼寝や居眠りもせず常に側にいる。

 ぐずったり、泣きわめくことはないので、レオ君は絵本を読んだり、私の収納袋に入っていた紙と鉛筆で絵を描いたり。

 うとうとするときもあるけど、毎回小さなお手手で頬をぴしゃんと叩き、起きるのだ。

 シャールの話曰く、昼間寝て、起きた時に違う場所に居たらと思うと怖いらしい。

 その分、夜、シャールと一緒にベッドに入ると、シャールの銀髪を掴みながら死んだように眠るそうだ。

 眠れているならいいけれど、誘拐のトラウマがまだ残っているのだろう。

 不安なら泣いてぐずってもいいのだけれど、そのいい子ぶりにたまに心配になる。


 でも、学園長が部屋にやってくると、レオ君は男の子らしく若干やんちゃになる。

 学園長が来ると魔導塔の室内闘技場で訓練という流れになりやすいからかもしれない。

 普段過ごす部屋よりも広い闘技場では、レオ君も学園長やシャールにねだって簡単な攻撃魔法を練習する。

 闘技場の魔法や物理攻撃にも強い特殊な壁に向かって、水鉄砲みたいな的あてだったり、ろうそくの炎サイズの炎の球がお手玉のように回転していたり、緊張感が抜けてしまう光景になるのは致し方がないけど、無詠唱で楽しそうに簡単な魔法をいくつも繰り出し、誰かが止めるまで延々と遊び続ける。

 そんな姿は子供らしくて、皆が微笑ましそうに笑うので、普段の学校の授業では味わえないどこかこう、そう母性本能をくすぐられるような、気持ちが柔らかくなるのだ。



 夕方は学校の授業が終わったフィガロ様は、王宮の神殿でイラリオン様の手当てを行っている彼のおじい様とお父様のところに顔を出した後、この魔導塔に顔を出してくれるようになった。

 あの婚約解消話はジルレ家では両親に断って以来まったく話題にもならないとフィガロ様は言っていたが、うちの親はどうなんだろうとちょっと心配になる。

 今の生活が終わったら、両親と一回会わなくてはいけないなと密かに決心している。


 フィガロ様は出会った初日から楽しんでレオ君の相手をしてくれる。

 あのレオ君のライバル宣言?は完全にスルーで、次の日からレオ君に自分が使っていたおもちゃを持ってきて、一緒に遊び、年が離れた兄弟状態な雰囲気を醸し出している。


 彼は養子に入ってから一人っ子状態で育ったから年が離れた弟ができた感じなのかしら。

 なんてフィガロ様に聞いてみたら「将来、ルジアダと僕の子供はレオ君みたいにいい子に育つかななんて思ったら、その、レオ君が未来の僕らの子供みたいに思えちゃって、可愛くて」とか片手で口元隠しながら耳を赤くして照れながら言うものだから、聞いたこっちも照れたわ!悶えたわ!

 確かに婚約してるし、お互い学校を卒業したら……。

 でも、未来の子供って、そこまでレオ君で妄想飛ばさないでよ!

 その……やめよ。

 想像すると顔面爆発しそうだ。


 そして今日、フィガロ様は収納袋から、例の私達がヴェスパ山で収穫した栗のお土産の残りを持ってきていたみたいで、粒を幾つか取り出し、レオ君に数の数え方を教えた。

 どうやら一の位の数え方の基礎はレオ君も分かっていたようで、彼は一日で一の位の足し算引き算を栗だけじゃなく両手の指も使ってできるようになってしまった。


「栗一個に三個をたしゅたら……僕に一個、フィーしゃん一個、ジジしゃん一個、シャールしゃん一個!

 全部でよっちゅ!」


 机の上の栗を四個並べて得意顔のレオ君をフィガロ様が赤い毛糸の帽子をかぶった頭を撫でて褒めると、レオ君はさらにふにゃりと笑う。


「正解!

 すごいな、レオ君、賢いよ。

 もっと多い数もすぐに計算できるようになるよ」


「僕、かしゅこいでしゅか?

 ちゅぎも頑張りましゅよ!

 五たしゅ二は、一、二、……七でしゅ!」


 得意になって右手の指と、左手の指を使って答えるレオ君。指を使って計算する方法は教えなくても自分で指を使うことを閃いたというのだから、大したものだ。


「レオ君、正解!

 私、三歳までに計算なんてできたか記憶にないわ」


「うむ。ジジは学校に通い出してから算数を習ったからな。レオは賢い」


「えへへ。ちゅぎはこのいっぱいの色えんぴちゅを全部数えられりゅようになりたいでしゅ」


 周りの大人三人に褒められ、しかも部屋の隅で様子を見ていた騎士さんにも拍手をもらって照れ笑いを浮かべるレオ君の野望は七十二色入りという国王陛下の差し入れだ。


 逆境にも負けず、今の状況を受け入れて学び、楽しもうとするレオ君の姿のなんと尊いことかと、この子は天才やなかろうかと学生生活とは違う新たな発見と感動の時間だ。


「お絵描きに失敗した紙はこうやって、斜めに丸めて……ほら、どう?」


「おおー、フィーしゃん、しゅごい!

 紙で剣をちゅくりましゅか!」


「これなら、切られても叩かれても痛くないでしょ?

 でも、顔、特に目は狙っちゃだめだよ!」


 ただの丸めた画用紙に、はさみで切った柄をノリでくっつけた紙の剣にレオ君は大喜びだ。


「あい! やくしょくはまもりましゅよー」


 まだ軽やかに歩いたり走ったりできないが、剣をもって「えいっ」と構えを取るレオ君の姿に皆が微笑む。


 紙の剣が当たるとポンポンと軽が鳴るのが面白いのか、レオ君は部屋の中の机の脚や椅子を架空の敵に認定したらしく何度も叩いて音を出し、剣が折れ曲がるとフィガロ様がやって見せたようにぐるぐる画用紙を巻いて「出来たー」と笑顔になっている。


 部屋を警備している騎士さんの剣に興味津々だったレオ君のために、怪我をしないようにフィガロ様が子供のころの記憶を呼び起こして作った紙の剣。

 これでいつでも「騎士さんごっこ」ができるとレオ君はご満悦である。


 確かに自分の時間は減ったけれど、フィガロ様が「未来の子供みたいに思えちゃって」なんてセリフじゃないけど、お手洗いやお風呂など大半はシャールが面倒を見てくれるけど、子育てとはこういうものなのかと思う。

 こんなかわいい出来のいい子を奪われたご両親はどれだけ傷ついているだろう。


 可愛いレオ君を誘拐したテレジアとその仲間には本当に腹が立つ。


 しかも、この傷んだ私の髪の毛!


 昼間は三つ編みにしているから視界に入ることは少ないけど、夜、お手入れしてブラッシングするたびに、朝、髪を結うたびに、暫くお手入れして元に戻らなかったら、短く断髪するしかないかと半ば諦めている。

 二度とこの髪の毛のような犠牲が出ないようにも、レオ君みたいに誘拐される子が増えないために、あのテレジアの仲間に会った時は、相手が厄介な禁呪を使おうが、生きていることを後悔するくらいコテンパンに倒すために強くならねばならないと密かに心の中で誓うのだった。

 

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