誰にでも苦手なものはあります。
朝食に続いて、昼食の準備も散々な結果に終わった。
サラダ用のキュウリを包丁でスライスすれば「ジジしゃん、キュウリがちゅながってましゅ!」とダメだしされ、ピラフに入れる玉ねぎをみじん切りにしようとしたら涙が止まらなくて戦力外通知。
しかもシャールはレオ君に「レオ、ジジはずっと魔法ばかり使って怠けてきたから、料理の道具を使うことが下手なのだ。魔法も道具も使えて一人前なのだ。
料理は怪我をせぬよう気をつけて、道具の使い方を順番に覚えるんだぞ」と私を反面教師扱いする始末。
チクショウ!
これでも貴族のご令嬢だから料理ができなくてもいいんだ、と開き直りたいけれど、小さなレオ君の前でそんなことを言ったら教育上よくない気がして、涙を呑むしかない。
こうなったら、見えないところで特訓して、いつか「あっ」と言わせてやる!
昼食後、部屋に戻ると、部屋の扉を守る騎士の方からレオ君への荷物を持ってきた来客が待合で待っていると告げられ、会うかどうか確認された。
「フィガロ様が来たみたい。ここに入るための許可証は陛下から得たみたいで、待合で持ってるみたいよ」
「ああ、フィガロならイラリオンを治療してくれるジルレの者だし、許可も出たのだろう」
レオ君が誰と一緒にいるということはアウスバッハのおじい様以外秘密にされているため、来客が入るためには許可証がいる。
「だれー?」
「うむ、フィガロとは、レオのその角の袋をくれたおじいさんとおじさんの家の子だ」
「あー、覚えてましゅ。リカリュドおじいしゃんとエリックおじしゃん」
「そうだ。リカルドとエリックだな。フィガロはその二人の家の子でジジの婚約者だ。レオを助けた精霊イラリオンの治療をしておるジルレ侯爵家の者だ」
「んー、こんにゃくしゃ?」
「こんにゃく……、婚約者っていうのは、将来結婚する約束をしている相手のことよ」
私はそれほど小さい子供と過ごしたことはないが、レオ君は人間の二歳児と比べたら、体の大きさは同じか少し小さいかもしれないけれど、能力は高いと言うか賢いと思う。
ものすごく言葉の吸収力も会話力もいいが、発音だけは噛み噛みなので「婚約者」がサトイモ科の植物からできる食品に聞こえてしまう。
「フィガロ様は私と将来結婚する約束をしている相手なの」
「うむ、五歳から二人は結婚の約束をしておるな」
丁寧に説明すると、なぜかレオ君が恐ろしいものを見たかのような驚愕の表情を浮かべた。
「えー、ジジしゃん、結婚できましゅか?
魔法はしゅごくても、お料理、しゅっぱいばかりなのにだいじょーぶでしゅか?」
「……レオ、しゅっぱいじゃない。「失敗」だ。
ジジはいつも料理は失敗ばかりだからな」
レオ君の容赦ない鋭い突っ込みに、シャールがレオ君の言葉を冷静に訂正するが、その言い方が私のコンプレックスを抉るかのように追い打ちをかけてくれる。
しかも扉の向こうからは「お料理失敗……」と呟いた後の押し殺した笑い声。
なんだ、この私のコンプレックスを抉るスリーコンボは!
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