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なぜ微妙な顔をされるのでしょう

「しゅごいっ、しゅごい!

 あの悪いおばあちゃんやっつけた!

 しゅごいっ!」


 魔法陣を打ち消した派手な魔法と自分を誘拐した犯人がやっつけられた光景に大興奮のレオ君。

 村長さんの腕の中から飛び出さんばかりに身を乗り出して喜びを表現するものだから、シャールが慌てて前足で立ち上がり、レオ君を村長さんと一緒に落ち着かせている。


 そして、神殿からは薬を取りに行ったまままだ戻ってこなかった神官見習いサミュエル様が黒髪赤目の妖艶な美女を連れてのんきに登場と思ったら、その女性は学園長の奥様だった。


「サミュエル、どこに行っておった! 無事だったか?」


 やってきたサミュエル様にトーマス様が慌てて駆け寄った。


「申し訳ありません。

 薬を取りに行くときに、もしかしたら神殿の転移装置はまだ有効かと思い、試しに使ってみたら作動しまして、フィリパ学園の学園長室に行って学園長様に助けをお願いしたのです。

 そこで、学園長様が辺境伯様と、イラリオン様の治療のためにと奥方様にも連絡を入れてくださいまして、私は奥方様を待っていたのです」


「それはでかした。

 で、学園長の奥方、サビーナだったな?

 久しいな。宜しく頼む」


「あら、シャール様に頼まれてしまうなんて、頑張りますわ」


 地面で横に伸びて血を流しているイラリオン様の前に膝をついて状態を観察した奥様は眉間にしわを寄せ、傷口近くに手を翳した。


 そして正面の門の方では「テレジアを捕獲。王都に搬送」ともがくテレジアをついに捕縛し、折れた杖を収集したおじい様が騎士達に指示を出す中「その女の……仲間が、仲間がいます。……魔石で動く車でシレジアの方に向かいました」と、角が刺さったままのイラリオン様が必死で訴えた。


「なんですと!」


「仲間が王都に? イラリオン、その仲間の見た目は?」


「少し太った、黒い髪、黒い目の背の低い中年だ。特徴は、唇が厚く、三白眼で、右の頬に大きなほくろがあることぐらいしか……。あとは右手の人差し指に青色の魔石の指輪を……あと、自動車は黒で、車の底には私が開けた穴が開いているはずです」


「学園長、私は転移魔法で王都に向かい、緊急の指名手配の依頼を出しに移動します。部下たちにこのテレジアを王都に搬送してもらおうかと思います。

 ルジアダ、怖い目にあったお前の側にいることができず、すまない……」


「大丈夫よ、おじい様。

 アウスバッハの騎士の皆さんも助けてくれてありがとう」


 聖女テレジアを捕縛し終えた騎士団に一礼すると、笑顔で「お嬢様達が無事で何よりです」と一同から礼を返された上に「お嬢様、ナイスコントロールでした」と褒められ、思わず苦笑い。


 おじい様をはじめ騎士の皆はフィリパ学園からの緊急連絡後、アウスバッハ辺境伯から麓村に転移魔法で移動して神殿まで幌馬車を借りて移動して来たというので、帰りはその幌馬車を返すために村まで移動し、そこから王都に向かうらしく、アウスバッハの騎士団は汚れたテレジアに一応汚れを取る魔法を使った後、彼女を連行して去っていった。


「あとは、エルランジュには申し訳ないが、ロビンにはその山の精霊イラリオンから聞いたテレジアの連れの特徴を伝え、緊急手配依頼をしに王都に行ってもらわねばならないな。

 あと、このような事態になっては、今日の儀式は延期しても仕方がない……」


「あの、学園長様。儀式に関してはすでに終わっておりますので、その点はご安心を」


「何?  

 サミュエル、卒業生のお前は知っているだろう。

 通常は皆午後のお茶の時刻ごろまでかかるだろう。まだその時間まで一時間はあるぞ」


「はい。でも、サミュエルの言う通り午前中にはもう全て終えていらっしゃいます。

 それで、昼食後、散歩に出られたすぐ後、こちらの角を折られた魔族のレオ君と、偶然にも通りがかったこの風の精霊様と一緒に戻っていらっしゃいまして」


「あ、……ああ。その風の精霊か」


 虎の姿をしているシャールの通常の姿を知っている学園長とおじい様が若干表情を引きつらせて、シャールを見るが、虎の姿のシャールは表情がバレないと思っているのか、素知らぬ顔だ。


「儀式が午前中に終わっていたことと、ヴェスパ山の精霊様が不在でも風の精霊様がいらっしゃったことが幸いし、その子を治療することができました」


「……はあ? トーマスまで、冗談も休み休みに言え」


「いや、学園長殿。そう仰られても、事実ですから。私がここで勤めてからやってきた学生の中では断トツです。

 しかも、山の栗拾いや柿の収穫まで楽しまれて、その収穫された柿が武器にもなりましたが、とにかく今どき珍しい学生さんかと」


「トーマスにまでそう言わせるとは……さすがロビンの孫。

 入学当初から規格外の魔力量だとはわかってはいたが、敵に素手で向かって行く姿といいい、一貴族の令嬢にしておくのは惜しいな」


「いやあ、それほどでも」


 驚きの表情を浮かべるダンディな学園長に褒められて、嬉しくてつい頭を掻いて照れていると、私がテレジアにぶつけた硬い渋柿三つを拾い終えたおじい様がこっちに来て、私にその三つを深いため息をつきながら渡してきた。


「おじい様、ごめんなさい。

 食べ物を……」


 しまった。投げた柿を拾いもせず、学園長と話し込んでおじい様に拾わせてしまった。


「勝てる相手しか相手にしてはいけないと言って育てたつもりだったのだが……」


 おじい様は五十年前に会った隣国シュルツ王国が国境を越えアウスバッハの領土へ攻めてきたときの大変さを経験しているので、当たり前のことだけれど物も食べ物も大事にしないと、いつもは優しいおじい様が大変恐ろしくなる。

 料理の練習で失敗したとかそう言うときは許してくれるけれど、たまにアギールの城下街に行って食べきれないのに食べたいものを沢山注文すると帰ったらお説教が待っているのだ。


「お、おじい様、柿を投げてごめんなさい。それに拾ってもらってごめんなさい」


「今回ばかりは、非常時だったのだから仕方がないとして、食べ物は武器ではない。

 粗末にしてはいけないよ。

 あと怪我はしていないか?」


「はい、全然問題ないです」


 心配させないように元気よく答えたのだが、年を食っても昔の美男子ぶりが色あせていないと言われているおじい様は、ちょっと困ったような顔で、深くため息をついた。

 え?

 なんで?

 なぜ溜息をつかれたのか理由が分からない。


「おじい様?」


 おじい様を見上げたけれど、どこか痛い子を見るような顔をされた。


 ん?  

 なんで?


 そしてイラリオン様の治療に必要なものを学園長の奥様から聞き「先の王宮に向かいますので、くれぐれも孫をお願いします。ルジアダは亡き妻に似た可愛い孫ですから」と念を押し、ものすごく不安そうな顔をしたまま神殿奥の魔法陣で去っていった。


 だから、おじい様、なんで? 

 今の私に不安要素ありますか?

 確かに柿を武器にしてしまいましたが、私、レオ君もイラリオン様も守ろうとした、とてもいい子だと思うんですけど。

読んでいただいてありがとうございます。

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