魔法が効かない
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
新しい年が皆様にとって良い年になりますように。
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更新できるところまで頑張りますので、宜しくお願いします。
「熱っ。
しかも何これ? 魔力が吸われる」
相手の熱風の魔法を破ろうと指を翳した途端、指先に強烈な熱に伴う痛みが襲った。
自慢じゃないが、それなりに強い魔法を使う相手でも、相手の魔法を打ち破るのが得意な私の魔法が、魔力ごとどこかに吸い込まれるかのように消えた。
「おやおや、お嬢さんは私に立ち向かおうとしているのかしら?
でも、ここで魔法でも使ってみなさい。魔力を出せば出すほど吸収されますよ。
さて、あなた方はどれだけもちますか?」
余裕の笑顔を浮かべたテレジアは、それ以上動くこともせず、ただ足元で傷ついて苦しんでいるイラリオン様を眺めていた。
「……あの杖か。
ジジ、皆とともに逃げろっ。
我の力が全力なら勝てるが、まだ力が戻っておらぬ。
あやつがどのように「精霊封じの石」を使っておるのかわからぬが、あの石の力も影響しているということは確かだ。
ただ、もし、あの「精霊封じの石」が、精霊の我やイラリオンを封じるために本来の力を出したら、その力の前では皆を守り切って勝てるか分からぬ。
ただ、あの石の力を使えば、術者もそれなりの寿命という代償を払わねばならない以上、使う可能性は低いとは思うが……」
魔法を打ち破るのが無理なら、精霊イラリオン様の奪還をしに行こうとした途端、上空から強烈な熱風が襲い、思わず立ち眩みがした。
シャールがその熱を遮ろうと張った結界が、空に浮かぶ魔法陣に魔力が吸収されて無効化してしまう。
魔法陣というものは専攻科目になるので、魔法陣を選択していない私は生活に関する魔法陣や一般教養程度の知識しかないないので、今上空に浮かぶ魔法陣が熱風は分かっても、残りがいまいちよくわからない。
「精霊様、ルジアダさん、早くこっちに」
「うむ、ジジ、一旦向こうに行くぞ」
熱風の魔法を避けるように村長さんとレオ君を連れたトーマス様とサミュエル様が空に浮かぶ魔法陣の下に入らない場所に避難して結界を張っていたので、そこに逃げこんだ。
「ルジアダさん、あの魔法陣の下ではなるべく魔法は使わないでください。
あの魔法陣は熱風を起こしているだけではない」
「おそらく魔法を無力化するんですよね?」
「いえ、魔法を無効化するのではなく、魔法を吸収して術を使用する者の力に変換する禁じられた魔法陣を組み合わせてあります」
「はあ?」
なんてことだ。つまりこっちが無尽蔵に魔法を使えば、相手はどんどんこっちの魔力を手に入れて強くなるってことじゃないか。
「あれは、隣のエードレーン大陸からきた魔法陣を利用しています。
ただ、あれは魔力を奪う魔法陣で、命を奪う魔法陣じゃなかっただけ救いですし、あれは不完全な代物です」
サミュエル様が空を見上げて顔を顰め、サミュエル様の言葉を補足するかのようにトーマス様が説明した。
「おそらく不完全だから、この熱風以外の魔法を使わないのでしょう。
多分、自分の魔法も吸収されてしまい、効果がない。
ただ、こちらが魔法を使えば使うほどあっちの魔力が増えていくようです」
「しかし、聖女と呼ばれた巫女が、どこでそんなものを覚えた?」
「村長さん、それは私も同意見です。
これは神殿に勤める者全員で調査せねばなりません。
禁呪の解呪方法を学ぶ巫女は選ばれた者。その中にあの「赤の聖女」テレジアの名前はなかったはず。
あの「精霊封じの石」の使い方は私も含めそれなりの地位の神官ですら知りません。
限られた者しか詳しい知識はもたないはずなのに」
なるほど。
つまり、どっかで勝手に独学で学んだか、裏に誰かがいるのか。
とにかく厄介な相手だ。
だが、思った通り、空に浮かんでいる魔法陣の下だと魔法がすべて無効化されるのか。
相手の様子を探るが、テレジアは私達が逃げても余裕なのか、傷ついたイラリオン様を足蹴にし、不気味な笑顔を浮かべたまま。
自分が新たな魔法を使えなくても勝てると思っているのか。
「こうなったら、ジジは皆とともに逃げよ」
「逃げたらあの精霊様とレオ君の角を置いていくことになるわ。そんなことできる?」
「おやおや、お嬢さんは、この私を前にして戦う気ですか?」
遠くでもこちらの声が聞こえるということは、どうやらまだ耳が遠くなっているわけではないらしい。
にたりと笑う老女は鬼婆のようだ。
しかも、杖でまた白蛇、いや精霊イラリオン様に刺さった棒ならぬ、レオ君の角でぐりぐりとこねくり回し、その下ではイラリオン様が傷みにのた打ち回っている。
その姿を見てレオ君は自分の角で傷ついているイラリオン様の姿を見て「やめて、やめて」と泣き出してしまった。
「ごめんにゃしゃい、おじしゃん。ぼくのちゅのが……」
「レオ君の角が悪いわけじゃないのよ」
「悪いのはあの女だ」
「でも、でもおッ」
一生懸命あやすが、その涙は止まらない。
ガルルッと唸るシャールのしっぽはパタパタと怒りを表すかのように揺れるが、相手が持つアイテムを目の前にして碌に動くことができない。
シャールがあの道具を前にしては戦うことが難しい上に、トーマス様はさっきシャールと一緒にレオ君に魔力をあげている。
サミュエル様にはいざと言うときに、皆を守って逃げてもらいたいし、村長さんは一般人だろうし、ご老人だ。
「おのれ、あの女ッ。
あの石さえなければ、この手で八つ裂きに」
うん、八つ裂きにしたいその気持ちはわかる。
ん? この手で八つ裂き?
この手で……。
「……シャール、こうなったら素手で行く」
両親が私の素行で嫌がる物の一つ。それは貴族令嬢にあるまじき護身術、いや、武術を必要以上にたしなみ始めたことだ。
次期アウスバッハ辺境伯になるお母様の弟ユリアン叔父上の奥様が、五年前に王都の友人の招待でアウスバッハのおばあ様と一緒に劇場に出かけた時に運悪く暴漢に会い、二人とも他界してしまった。
おばあ様は胸を刃物で一突き、おばさまは鈍器で殴られ倒れた時の打ち所が悪く命を落としている。
魔法だけで全てが防げないと身内の死をもって知った私は、魔力もあれば体力もあるので護身術として、体術と剣術を主に習いはじめた。
ただし、習い出した後、そのことを知った母親に「女の子らしくない」とめちゃくちゃ嫌な顔をされたけど。
ただ、五年近く体を動かしているのに、身長がは同じ年の女子の大勢より低いのはなぜ?
子供のころは割と大きいこの部類だったのに、いつからか背の順は前の方になり、運動する子は背が伸びると聞いたこともあって、体術と剣術の他に基礎体力をつける持久走や、体の柔軟さをよくするためにストレッチも欠かさずやっているのに、この前の夏、実家に帰って妹のエロイーズと顔を会わせたら、視線の高さが同じだったわよ。
話はそれたが、とにかくあの目の前の厄介な敵を倒すこと、そしてあのイラリオン様を回収することを考えたら、相手の持ち物は刃物ではなく杖のようだし、あの杖も刃物が仕込んでありそうな仕込み杖ではなさそうだし、素手で行くことに決めた。
「ジジ、それなら我が行く」
「シャールは皆を守ってて。
それにあの石に封じられそうになったら逃げて」
「確かにあれを使われたら精霊の我はあまり役に立たない……。
分かった。
ジジの拳の強さはよく知っておるが、勝てる見込みは?」
「負ける喧嘩はしないわ」
私とシャールが喋っている間も、のた打ち回り続けるイラリオン様。
トーマス様とサミュエル様が無効化されるとわかっていながらも、イラリオン様に向かってこちらに引き寄せる魔法を投げかけたり、遠方の負傷者を回復させる魔法を使うが全て打ち消されている。
レオ君は涙をこらえ、村長さんの足元でじっと様子を見守っている。
その中、尻尾が杖の先に当たったとたん、むっとした表情で頭部を強く杖の先で打ち付けた。
「精霊様!」
「おじしゃん!」
「イラリオンッ」
ついにぐったりと地面に張った白い体。これはもうシャールと喋っている場合ではない。
「シャール、後は任せたっ」
収納袋に入っている耐熱効果もある厚手の手袋をして老女の前に躍り出た。
勢いよく走りこむこと数メートル。
魔法陣の下は、行ったことはないが、灼熱の砂漠に放り込まれたらこんな感じなのではないかと思うような暑さだった。
数秒で額に汗を浮かべている私ににやにやといやらしい笑顔を浮かべたテレジアが数歩近寄ってきた。
「おやおや、死にに来ましたか」
「残念ながら私の寿命はあなたと違ってかなり先のはずです」
「小賢しい」
事実を述べただけなのに、相手には通じないらしく、すぐにちっと舌打ちし逆上した相手は、攻撃魔法を使うこともなく、いきなり杖を私の頭部めがけて振りかざしてきた。
「残念ながら、その程度じゃ国境を守るアウスバッハ辺境伯の孫はやってられないんだよっ」
杖を避けた反動で繰り出した回し蹴り。
老人に全力はまずいかと思って手加減したのが悪かった。
足が当たったかと思ったその瞬間、老女の姿は数歩先に移動し、私の足は彼女の服を掠った程度だった。
「え?」
「そのような蹴りを私が受けると思っているの?」
熱風が漂う中、高らかに笑った彼女は老人とは思えぬ身の軽さでひらりと身を躱し、遥か後ろに移動して杖を槍のように持ち替えた。
彼女は遠く離れ、彼女自身は私の攻撃をかわした自分の自信満々の様だが、さっきの蹴りを躱してくれてある意味助かった。
「なるほど。ただのお婆さんじゃなさそうですが、まあ、これでこっちはいただきますよ」
彼女が離れたら、残るは大蛇のイラリオン様しかいない。
「イラリオン様、まともな挨拶もろくにせ申し訳ないですが、失礼しますよっ」
「え?」
蛇を触るのは生まれて初めてだが、とにかく精霊様を救出しなくては!
白い大蛇の胴をがっつり抱きしめ持ち上げる私を見ていた周囲の大人たちを含め、杖で叩きつけられ動かなくなっていたイラリオン様からも間抜けな声がした。
精霊様でもやはり見た目は蛇は蛇なので、精神衛生上のことも含め外野の声は無視。
ひんやりツルツルした感触が頬に触れても、ひたすら「助ける、助ける」と心で念じた。
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