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派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。  作者: 木山楽斗
本編

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42.姉の存在

 私は、リオーブとともに屋上に来ていた。あまり人に聞かせたくないことだったらしく、人気のないここまで連れて来られたのだ。


「俺には、姉がいるんだ。名前は、リリシア……俺より二歳年上なんだ」

「お姉様が……?」


 リオーブの言葉に、私は驚いた。彼に姉がいる。それは、生まれて初めて聞くことだったからだ。


「驚くよな。まあ、そうだろう。貴族というのは、顔や名前くらいは知っているものだ。特に、俺やあんたの家はそれなりに親しい間柄……それなのに、あんたが知らなかったのには、理由がある」

「理由……」

「姉貴は、人前に出られない状態なんだ。世間体を気にして、ドルラーン侯爵家は、それを滅多に口にしない。だから、あんたでも知らないのさ」

「そう……だったのですね」


 どうやら、彼の姉はドルラーン侯爵家で隠されているようだ。触れてはいけない人、そういう扱いなのだろう。

 その説明で、少しだけ彼と魂奪取魔法との繋がりが見えてきた。恐らく、彼の姉は、そういう状態なのだろう。


「察しているとは思うが、姉貴は魂奪取魔法を受けたような状態になっている。俺が物心ついた頃にはもうそうなっていたらしい。それが、俺があの魔法について詳しい理由だ」

「やっぱり……」


 リオーブは、私の予想していた通りの言葉を口にしてきた。それを言う彼の表情は暗い。当然のことだが、彼にとって、お姉様の状態はとても苦しいものなのだろう。


「……何回話しかけても、姉貴は何も言わないんだ。本当に、魂が抜けたみたいな状態でな……それでも、諦めず話しかけるんだが、全部無駄だった。こっちに来てから手紙も出しているが、それもきっと読まれていないんだろうな……」


 リオーブは、弱々しくそう呟いていた。それは、思わず口から出てしまった彼の弱音なのだろう。

 その弱音で、私は彼の遅刻ぎりぎりに来るという行為の理由を理解した。彼は、お姉様が何かを返してくれるのではないか。そういう期待のせいで。ぎりぎりまで姉の元を離れられないのだ。


「バルクド様や……ファルーシャ様は、そのことを知っているのですか?」

「ああ、知っている。あんたにだけ黙っていて、悪かったな」

「いえ、それは気にしないでください。私とお二人とでは、立場も大きく違いますし……」


 親友と婚約者の二人には、このことは知らされていたようである。それは、当然のことだ。私に話しているのだから、私よりも近しい二人に話していない訳がない。

 その事実によって、入学式の時のことも腑に落ちた。いつまでも来ないリオーブ様を仕方ないと思うファルーシャ様と、それでも来るべきだというバルクド様。あの時の二人の反応は、各々二人らしい反応である。


「俺は、今でも姉貴の魂が戻って来ることを願っている。あの頃の……元の姉貴に戻って欲しい。そういう思いが、俺の中にはずっとあるんだ」

「……元の姉貴? ちょっと待ってください。リオーブ様が物心つく頃には、お姉様は魂が抜けていたのですよね? それなのに、どうして、あなたが元のお姉様を知っているんですか?」

「うん? ああ、そのことか」


 そこで、私はリオーブの発言に違和感を覚えた。あの頃の姉貴、元の姉貴。それを知っているはずのない彼が、どうしてそんなことを言うのだろうか。


「実はな、俺には記憶があるんだ。姉貴と一緒に過ごした記憶が……信じられないかもしれないけど、俺は確かに十歳くらいになるまで姉貴と過ごしていた。まあ、それは夢なのかもしれないけど、なんとなく、俺はそれを過去の出来事のように思っているんだよ」

「なっ……」


 リオーブの言葉に、私は思わず唸っていた。それは、二つの事実に対する驚きから出てきたものだ。

 一つは、リオーブにもう一つの記憶があったこと。それは、メルティナが体験した時が巻き戻る前の記憶と考えることができるだろう。

 それは、驚くべきことである。しかし、そちらはまだいい。メルティナが覚えていたのだから、他に覚えている者がいてもそれはそこまでおかしいことではない。

 問題は、もう一つの方だ。そちら側は、とても重要なことである気がする。


「リオーブ様、あなたには十歳くらいまでお姉様と過ごした記憶があるのですね?」

「うん? ああ、そうだが……」

「でも、お姉様はあなたが物心つく頃には魂が抜けていた。それに、間違いはありませんか?」

「ああ、間違いはない」


 リオーブの姉は、二つの異なる人生を歩んでいる。一つは、十二歳くらいまで過ごした人生、もう一つは物心つく前に魂を失った人生。

 メルティナや私の例から考えると、その違いはとても大切なものであるように思える。誰かの介入があった。そのように考えられるのだ。

 この世界の歴史は、私やメルティナのような人間の介入がなければ変わらない。私達は、それを何度も体験してきた。だから、相違点があるなら、それは誰かの介入であるはずなのだ。


「リオーブ様、明日の朝、もう一度ここに来てもらえませんか?」

「え? 別に構わないが、どうかしたのか?」

「重要な話がしたいのです。それは、あなたのお姉様に関することでもあります。ただ、そのためにはメルティナもいてもらわなければなりません。だから、明日の朝に三人で話したいのです」

「わかった。明日の朝、ホームルームが始まるよりもさらに前だな?」

「ええ、そうです」


 私の提案に、リオーブは力強く頷いてくれた。それだけでわかる。彼は、お姉様をなんとしてでも助けたいのだと。


「リオーブ様、申し訳ありませんが、メルティナにあなたの事情を伝えておいても構いませんか? その方が、話も早いと思うので」

「ああ、構わない。姉貴を助ける手がかりが掴めるというなら、そんなのは安いものだ」

「ありがとうございます。それでは、また明日ここで落ち合いましょう」

「ああ、わかった」


 それだけ言って、私はリオーブの前から去って行った。全ては、明日この場所で話すとしよう。

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