120.三人の弟子
『やはり、そういうことだったのね』
「……確かに、空間魔法にはそれなりのリスクがある。だが、それでも、お前のゴーレムとやらは、一体破壊できた」
『ゴーレム一体とあなたが交換なら、安いものだわ。正直、メルティナの次に厄介だと思っていたのは、あなただもの』
ディゾール様の言葉に対して、ネルメアは嬉々とした声をあげていた。
確かに、私達の中でメルティナに次いで魔力が多いのはディゾール様である。そんな彼が戦えなくなったというのは、こちらにとって大きな損失だ。
一方、暗黒の魔女はゴーレムを一体失ったものの、まだ七体も戦力が残っている。交換としては、あちらの方が有利といえるだろう。
「……あまり、俺を舐めないでもらおうか。この程度で、戦えなくなる程、俺はやわではない」
『強がりね』
「強がりかどうかは、今から証明してやる」
ディゾール様は、ゆっくりと立ち上がりながらそう呟いた。その顔は、先程と変わらず苦しそうだ。無理をしているのは、明らかである。
「ディゾール様、これ以上は……」
「問題ない。この程度で折れるようでは、この魔法学園の生徒会長は務まらん」
「そんな馬鹿な……」
心配して声をかけてみたが、ディゾール様はまったく折れてくれる気配がない。這ってでも、ゴーレムに向かって行きそうだ。
もちろん、彼がまだ戦えるというのは、こちらとしてはありがたいことである。だが、その結果取り返しがつかないことになっては、何の意味もないのだ。
だからこそ、私は彼を止めなければならない。しかし、どうすればいいのだろうか。
「……まったく、兄上は無茶ばかりだな」
「確かに、そうだね。入学式の時から、この生徒会長はハチャメチャだ」
「え?」
そんな私の耳に聞こえてきたのは、よく知る二人の声だった。
後ろを振り返ると、そこにはドルキンスとキャロムがいた。二人とも、駆けつけて来てくれたようだ。
「それをキャロム君が言うのか?」
「ああ、それもそうか……」
「お前達……」
「兄上、下がっていてくれ」
「そうだよ、生徒会長。ここは、愛弟子である僕達がなんとかするからさ。少し休んでいた方がいいよ」
二人は、ゆっくりとディゾール様の前に立った。それに合わせて、私もその横に並ぶ。
「さて、二人とも、準備はいいよね?」
「ああ、もちろんだとも」
「修行の成果の見せ所だね」
私三人は、ディゾール様の元で魔法を学んだ。その成果を今こそ、見せる時なのだ。
少し前方から、ゴーレムが一体迫ってきている。あれは、先程もう一体を砕いたゴーレムだ。
まずは、あれを私達でなんとかする。今後のためにも、メルティナには余力を残してもらわなければならないからだ。