全て失った日
「ねぇオヤジ……」
「……なんじゃゼイ」
「……二人になっちまったな」
ワシらは今、魔王と戦おうとしている。隣にいるのはワシが育てた勇者、ここまでに四人の仲間がいたが魔王に挑む前に皆逃がした。恐らく奴らでは耐えられないだろう。だがワシも恐らく魔王には歯が立たないだろう。
「……魔王って強いんだよな」
「……あぁ。そうじゃな」
「……オヤジ、頼みがあるんだ」
「……なんじゃ」
歯が立つのは勇者と呼ばれる剣を持つ者だけ、この勇者と言う剣を持てたからワシは育てた。……そういわれている。ワシはただ息子が欲しかっただけなのに、勇者を持てるからと魔王討伐に向かわされたのだ。
「……俺多分死ぬからさ、もし魔王がそれでも生きてたら……魔王殺してくれ」
「……」
ワシはどうすれば良かったんだ?なぜ普通に過ごさせてくれなかったのじゃ?まだ十にも満たない子供じゃぞ……!それを……!
「ごめんねオヤジ……いや、父さん」
「……そうか……」
「俺さ。父さんに拾われて良かったよ、本当に幸せだった。……今でも思い出せるよ鮮明に」
もうやめてくれ……!ワシは……!ワシは!
「ワシはお主を殺したくない!魔王がなんじゃワシは……ワシは……!」
「……ごめん。俺しか出来ないんだ。俺しか……」
「止めてくれ……!行かないでくれ……!」
「俺だってやだよ!死にたくないよ!本当は父さんと一緒にいたいよ!……でも俺しか出来ないんだよ!」
なぜ……なぜなんだ!何が勇者だ!これが勇者か!?人のために死ねと言うのが勇者なのか!
「……だから……もう行くよ」
「クソ……」
「……もし生きてたら……一緒に生きよう。父さん」
「クソガァァァァァァ!!!」
そしてしばらく音が響き……魔王は死んだ。勇者と共に。そしてそれを仲間に伝えに行く事になった。……早く帰って死にたいのだが。
「デュークさん!勇者サマは……」
「……魔王と共に……死んだ……!」
「!」
崩れ落ちる聖女、怒りでワシを殴りに来る武闘家、そして顔を伏せるが王に報告に行こうとする二人。それがワシが見た反応だった。
「アンタのせいで!アンタのせいで勇者は……勇者はぁ……!」
「ワシを殴って気が済むのならいくらでも殴れ、もう生きようとは思わない」
「殺す!」
「待ってくださいルウ様!……今一番辛いのはデュークさんなんですよ……!」
「じゃぁ……!この怒りを誰にぶつければいいんだよ!もう……!」
「……済まない……本当に……」
……死ぬ……か。それで良いだろうな……もうこの世界に生きる意味は無い。
「ではわしは死ぬ。……悪かった」
……帰って来たぞ、家に。ここでゼイと共に過ごした記憶はいくらでもある。……それ以外は何も思い出せない。もう寿命が来たのだろうな……
「済まない……皆……」
ワシは本当にどうしようもない男じゃよ……仮にもう一度人生があるのなら……今度は強くなって……誰も殺させない人生を……