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6-9:姫様は忙しい

寒くなったり暑くなったり・・・

6ー9


「姫様、こちら今月の冒険者ギルドからの報告書になります」


「分かりました、そちらはまとめて目を通します。置いておいてください」


「姫様、孤児院で使用した今月分の経費です」


「…食費の部分が随分低く計上されていませんか?食事を削っているのではないでしょうね?」


「いえ、専属商人であるユリーが新規で農家のルートを開通したらしいと報告にありました。そこから大量に仕入れて単価を下げたそうです」


「ユリーさんは優秀ですね。分かりました。今度その新規ルートで取り扱える商品を知りたいので、面会の日程を打診してください」


「姫様、洗濯機?の試作品が送られてきたそうです。お申し付け通り孤児院へ運ばせましたが…よろしいのですか?」


「えぇ。職員達に使い勝手をまとめてから報告をあげさせてください」


「姫様、塩田の改良状況についてですが領主様が、限界まで広げた、と」


「イリーナ、マナポーション類を1ダース騎士に預けてください。それと、こちら塩田の設計図です。これもおじい様に届けてください」


「姫様、その…領主様に激励の言葉など…」


「…後程、手紙を書きます」


「姫様、ヒュペリオン領所属のリングイニ男爵から面会と縁談の手紙--」


「直接来れない臆病な貧乏貴族の相手などしていられない、と私の名前で返事を書きなさい」


「よ、よろしいので?」


「では、『陛下より任されているケイリュオンを治めることを蔑ろにさせる気でしょうか?男爵に反逆の意図あり、とご報告させていただきますね』と書いておきなさい。それとこれに関する事を報告書として陛下に送りなさい」


「は、はっ!」


「姫様、いくつかの商会より質問状が」


「おじい様への手紙と併せて書きましょう。紙と筆をここへ。報告は続けてください」


「姫様、兵舎で備品の欠品が幾つか」


「武器類ですか、防具類ですか?」


「防具で数品です」


「この前捕らえた盗賊の身に付けていた防具を仕立て直して足りそうですか?」


「確認させます」


「えぇ、よろしくお願いします。それと…ナディ、ステリポーションを大瓶で渡してください。匂いなどはこれでマシになるでしょう。元々は盗賊が使用していた物なので、そのまま使用するのは衛生上よくはないでしょう。ヴェン、コニー、決算書の計算はできましたか?合ってるか見るので、貸してください」


「は、はい」


「…すいません、まだです」


「コニー、ヴェンのを手伝ってあげてください」


「わ、分かりました」


「……セドリック、これで合ってます。各部署に許可を出してください」


「はっ」


「姫様」


「姫様」


「姫様」


「姫--」


……………












「はっ!?」


バッと顔を上げて周囲を見回す。どうやら寝ていたらしい。


「お目覚めになりましたか?」


「…ナディ?」


「根を詰めすぎですよ。マーサさんが呆れていました」


ナディの言葉に「あはは・・・」と苦笑いが漏れる。座ったまま、ぐーっと伸びをして欠伸が出る。


「ふあ・・・でも、今日で仕事はだいぶ進みましたよね?おじい様がやってた時より進んだんじゃないですか?」


「えぇ、それは間違いなく。なにせリガウス様が溜め込んでいた仕事が全部終わりましたから」


「…今度から見張りでも立ててもらいましょうか」


「は、はは…」


溜め息を吐きつつ、ナディが淹れてくれたお茶で喉を潤す。


窓の外を見れば水平線上に太陽が沈もうとしていた。時刻は既に夕方である。そんでもって、この領地に越してきてから既に2ヶ月が経った。実は夏が迫っていたりする。まだまだ気温的には丁度いいくらいなんだけどね。暑さ対策…どうしようかな。うーん…


さて、2ヶ月の間は色々とあった。まず武官と文官の雇用とそれの教育や研修。騎士に関してはとにかくスパルタで鍛えまくりつつ、忠誠心を植え付けた。ハー○○ン軍曹みたいな感じの罵倒交じりの扱きをやってみた。主におじい様が。俺もまぁ・・・少しは?逃げようとしたのも多かったけど一人として逃がさなかった。苦労して選別した人材だ。誰が逃がすか。


「騎士になるか死ぬか選べ」


って言って追い込みまくった。ナイト、オア、ダイ。


あれって海兵隊の訓練がモデルなんだっけ?まぁ、鍛えられりゃ何でもいい。それを、おじい様主体でやってもらったんだよね。その結果…やり過ぎた。領主一族(俺とおじい様だけだけど)がトップで、命令は絶対。ってのを過剰にインプットしちゃったというか…


ま、まぁ、強くて忠誠心溢れる騎士が80人ほど手に入ったので、結果オーライ。レベルはおおよそ40前後がバリューゾーンで、平均もそのくらい。


一方の兵士の方はセドリックに平均的な鍛練を任せておいた。ただし、鍛練場は騎士の隣に設定した。兵士の方もよっぽどの事がない限り裏切ったりはしないと思う。騎士の訓練を隣で見てるからね。




それと平行して実施していたのは孤児院関連のあれこれ。こっちは俺がメインで動いていた。


まず、孤児達を集めるって所からだったんだけど、これが失敗した。人海戦術で集めりゃいいかなーって思って騎士や兵士、衛兵の一部に頼んでたんだけど、まぁ集まらない。


俺が自分で行こうとすると絶対止められるし。ただ、集まりが悪いので色々と話を聞いたら納得。孤児は基本的に身なりの良い連中には近付かない様にしていたり、大通りとかの近辺には近寄らないようにしていたらしい。


前領主の時の騎士や貴族は平民に対してかなり横柄だったらしくって、身の安全のために近寄らないようにしていたらしい。ここでも前の領主の影が…ホントにロクでもねーな!


一応、騎士になった人達には正式な装備ってことで、簡素ではあるけど鎧と剣を進呈してあるんだよね。おじい様のポケットマネーで。地獄の教育と研修を乗り越えた褒美の意味も含めて。


若干様式とかが違うのは勘弁して貰った。鍛冶屋だって、依頼してすぐに物を作れる訳じゃないし。元々あったのを直したやつなんかも多かったりする。じゃないと装備整わなかったしさ。何せ兵士の方の装備だって十全じゃ無いくらいだ。盗賊から巻き上げた装備を仕立て直して使ってるくらいだからね。それでも、一応はそれっぽく見えるようにはなった。


なので、そこそこ身なりは良くなったんだよ。故に孤児たちは近付かなかったし、騎士達も貰ったばかりの装備を汚したくなかったっぽくて、スラムの深くまでは行かなかったらしい。


そういう事情もあって、孤児たちの集まりが悪かった。そんな中、ほぼ捕らえるようにして連れてこられた孤児がいた。名前はコニー。中々孤児は集まらなかったけど、それでも何十人か居たので、視察兼挨拶ってことで、孤児院に顔を出しに行ったんだよね。そしたら、そこで暴れていたのがコニーという孤児だった。


「いいよなぁ、お嬢様はさぁ!キレーな服着て遊んでるだけで、いい生活が送れてるんだからさぁ!」


これが初対面でのコニーの言葉だった。まぁ、子供の言うことだしね。大して気にも止めなかったんだけど、専属侍女達がかなり頭にきたらしくって、色々とあったみたい。現場を見てないから、何があったのかは良く分からない。専属侍女たちが俺をマーサに預けてどっかに引き摺って行ったから。それで帰ってきたコニーの目が明らかに怯えていたので、気の毒に思ってちょっと話を聞くことにした。


本当は専属侍女達に「やりすぎ」と苦言を言うべきなのかもしれないが、彼女らは多分俺のために怒ってくれたと思うので、強く言えない。次もし同じような事があれば苦言を呈するくらいはしよう。


とにかく、コニーに聞いた話はこうだった。


「お前たちのせいで俺達の仕事が無くなったんだ。そのせいで、俺の親友とその兄妹は腹をすかせてる」


どうにも、おじい様にやってもらった下水を一掃する魔法によって、下水道はキレイになったけど、今までそこの掃除を仕事としていた孤児達は仕事が無くなったらしい。あー、公共事業を奪っちゃった感じになっていたのか。そこまで頭が回らんかった・・・


それでコニーは遠出して仕事探しをしていた時に、ウチの騎士に捕まった、と。


うーん、俺は孤児たちを集めてきて、とは言ったけど、捕まえてきて、とは言ってない。まぁ、確認しなかった俺も俺である。


さすがに後味が悪かったので、反対を押しきって俺が直接出向くことにしました。


そして行った先でルゥがちょっと暴走するようなアクシデントもありつつ、何とかコニーの親友だというヴェンという少年を発見。まぁ、最初は襲撃されたけど。でもルゥのおかげで未遂に終わったので、セーフ。


彼とその弟妹、他にも何名かの孤児を保護したというわけだ。で、もう直接孤児に呼びに行って貰えばいいやと思って孤児達に仲間集めをしてきてもらった。孤児たちにはそれぞれ兵士を護衛として付けて行動してもらった。


それでようやく、この領都の孤児がほぼ全員集まった訳である。人数にして150人弱。王都程ではないにしろ、これだけ大きな領都にそれしか居ないのは疑問だったので、何でかってヴェンに聞いてみた。


「この前の冬は寒かったからな。全員が冬を越せる訳じゃねーよ」


…聞いてちょっと後悔した。まぁ、そうだよな。本来、冬というのは厳しい季節なのだ。その寒さで命を奪っていく。


とにかく、孤児院にいる限りは凍えることと飢えることが無いようにしようと思った。





さて、そうなってくると、それらを支えるための資金が必要になってくる。孤児たちにも何がしかの仕事ができればいいけど、正直なところ今は難しいだろう。


ってことで、何やかんや後回しになっていた塩田を改良することになった。と言っても、色々あって俺は未だに行けてない。一番最初の視察でも行く予定だったのに、他の視察に時間かけすぎて行けなかったし。


今も孤児院と領内の経理関係、執務、冒険者ギルドや商会、職人たちとのやり取りなどなど。とにかく忙しすぎて行けてない。だから、おじい様に塩田を広げるだけ広げて下さいって頼みました。それと、改良に関しても細かく話しておいた。今日、送った設計図がその詳細である。上手くいけばかなり楽に塩が手に入る。



話に聞いただけだけど、この世界での塩の作り方は割と最初期の方法だった。粘土や岩で出来た窪みなどに海水を撒いて天日干し。その後、出来た塩の結晶が付着した砂を大釜で溶かしてろ過する。あとは煮詰める。これを人力で行う。


雨とか普通の頻度で降るし、大釜を煮るための燃料となる薪だってタダじゃない。これだと生産できる塩の量は少ない。そりゃ、塩が高級品になる訳だよ!


ってな訳で、俺が考案したのは日本では大戦後とかだっけ?に行われていた流下式塩田って方法と枝条架装置というのを組み合わせたものだ。


流下式塩田はすっごい緩やかな傾斜を付けた長い斜面をゆっくり海水を流しながら蒸発させていって、最下部に設置した溝などに濃縮した海水を集めるって手法だ。そして、さらにそこに枝条架装置を取り付けて、効率を上げる。


枝条架装置っていうのは、本来であれば竹の枝なんかを枠組みした装置に大量に取り付けたもの。そこに海水をぶっかけて、滴り落ちるのを待つ。そうすると、落ちるまでに天日と風による蒸発で、滴り落ちる頃には最初より濃縮されたものになっているはず、というものだ。正直、俺も試したことないから、本当に上手くいくかは分かんない。脳内の動画で見ただけだし。


でも今、この領地は人が少ないんだから、利用できるものは利用しないと。できるだけ人の手を介在させずに、自然の力を利用する。それと海の側だし潮風に混じった塩なんかも枝条架装置でちょっとくらい集めらんないかなーなんて期待もある。でも、問題は竹が無いことだな。しょうがないので、撥水性の高い枝で試してもらうしかない。それと枝条架装置に使う枝は、念のためステリポーションでキレイにしてから使ってもらう。


一応これで大丈夫、なはず。


あと塩田の前には堤防と、満潮と干潮の差を利用して海水を溜め込める溝も作ってもらう。これで海水が多少は濃縮もされるし、海水をかける人の負担もちょっとは減るはず。あと、堤防が海性の魔獣も防いでくれると思う。そうだといいなー。


本当はポンプでもありゃいいんだけどね。うーん、どうにか作れないかな?うーん…今でも鍛冶屋とかにはフル稼働して貰ってる様な状態だしなぁ…う~ん…


と、そんな感じで塩田の大規模開発を、おじい様にやってもらっているので、最近は会えてすらいない。おじい様が帰ってくる頃には俺が寝ちゃってるので。


領都のすぐ外が実は海なので、距離的には近いっちゃ近いんだけどね。一旦今日で溜まってた仕事終わったんだし、明日はおじい様の職場訪問でもするかね?


一応領城にある俺の部屋や各部屋から海は見えるんだけど、直接行ってみたいしね。


「ナディ、明日おじい様の所へ行くのは可能ですか?」


「今は護衛に付けられる騎士も居ますし、おそらく問題ないと思われますが…念のためマーサさん、セドリックさんに確認を取ってみましょう」


「はい、お願いします」


ってわけで、明日は表敬訪問である。















ーー☆
















「来ちゃいました」


「…いや、来ちゃいましたじゃないと思うんじゃが」


「それ以外言うことが思い付かなかったので」


仕事漬けの日の翌日、予定通りおじい様の元を訪れていた。目の前には海が広がり、青々としている。結構綺麗な海だね。さすがに南国みたいに透き通ってはいないけど。


「教育は良いのか?」


「マーサが許可してくれました。昨日頑張ったので、今日はお休みにしてくれたんですよ」


「ふむ、そうか」


「それより、折角差し入れ持ってきたんですから、全員で食べちゃって下さい」


まぁ差し入れといっても大したものではない。肉と野菜を挟んだ例のなんちゃってホットドッグと、お茶や水。それとハチミツを混ぜ込んで作ったクッキーである。砂糖が手に入らないので、甘味と言ったら果物かハチミツになる。


周囲を警護している騎士や、元々塩田で仕事をしていた労働者たちに配って回る。労働者の方は割かし年配の人が多い。若い内は冒険者で一攫千金を狙う者が殆んどだとか。なので、ここで働いている人達は何かしらの理由でリタイアした人が多い。


ここの開発を始める時にまとめて鑑定して、適切な処置したり治療したりしたので、今は全員元気に働いています。もう冒険者やれる歳でもないし、ここなら怪我しても俺がすぐ治してくれるからって事で、継続して働いてくれるみたいだ。うんうん、労働力の確保は大事だからね。そのための福利厚生として治療くらいはサービスしますとも。


「フェフェフェ、姫様方からの差し入れとは恐れ入りますじゃ」


「いえいえ、皆さんには元気で居て欲しいですから」


「姫様、この前は息子の分まで、ポーションをありがとうございます」


「構いませんよ。息子さんはよくなられましたか?」


「えぇ、それはもう」


「姫様」


「姫様」


ここでも色んな人に話しかけられる。ふっふっふ、これぞ人徳というものですよ。…まぁ、スキルのおかげだけどさ。


それにこの人達に元気で居て貰わないと困っちゃうしね。俺の生活地盤安定のために。という副音声は心の中に留めておく。粗方配り終えたら、おじい様の元に戻っていく。


「おじい様、どうですか開発状況は?」


「どうもこうも…まぁ、こっちの流下式というのは見ての通りじゃ。かなり大規模に作っておる。もう少し先まで広げられるじゃろうな。じゃが、枝条架装置?の方はまだまだじゃな。こればかりは魔法ではなく、人の手でしか作れん」


ザッと海浜に広がる黒い岩の斜面を見る。ちゃんと緩やかな傾斜が付けられ、その流下先は漏斗状にすぼんでおり、溝に集約されるようになっている。溝に関しても、傾斜を付けて一か所に集められる構造だ。


枝条架装置は岩盤の最初の方の位置に設置する手筈だ。あと岩を黒くしたのは俺の指示です。太陽光を吸収して温度上がると思うから。夏場は鉄板みたいになるかも。


そして、少し離れたところに木の枝でイソギンチャクみたいなオブジェが作られている。まぁ、見た目はただのゴミとかに見えなくもない。今回協力してくれている人達の「こんなんで塩が取れるのか?」っていうのをヒシヒシと感じる。


とにかく、やってみないと分からないから、やってもらおう。


うーん、でもあれだよね。仮に1ラインに200Lくらい撒いたとして、海水の塩分濃度が向こうと同じ3%だとすると…6kgくらい取れる計算にはなるのか?枝条架装置に海水をぶっかけるのに使うバケツは一杯2Lだとして、100回?うおぉぉ…筋肉痛になりそう。


「とにかく、岩が熱せられる夏までに試運転はやってみたいですね。塩田の追加の働き手は確保できそうですか?」


「そこは問題なかろう。昔から塩田で働いていた者もまだまだおる。全員が老齢というのが気掛かりではあるが…」


「うーん、一部は孤児たちも働いてもらいましょう。それで働いた分だけご褒美でもあげましょう」


「そうなると、城からここまでの道で守る者が必要ではないか?」


「何のために兵士を雇ったんですか。今のところ大きな戦闘をやる必要も無いんですし、引率として同行させましょう。それと、海水を塩田に引き入れる人員は多い方がいいですし。肉体労働ですから、兵士を鍛えるには丁度いいんじゃないですか?」


「ふむ、なるほど」


孤児院に収容している孤児は150人弱。その中で12歳以上の子は参加させてみようかな。確か該当する子は30人くらい居るはず。30人に対してだから、兵士は15人くらい付けるか。その辺の人数はセドリックと相談だな。


あとは、毎日じゃなくて隔日とかにするかな。勉強もしてもらいたいわけだしね。その辺は孤児院の職員と話し合ってみよう。あと孤児本人の適性もあるだろうし。


「あ、それと今度は『保健所』を作りたいんですよ」


「…まだ何か作るのか?」


「当たり前です。足りないものが多いんですから。そっちは実は目ぼしい土地を見つけてあるんで、今度また相談させてください」


「…分かった」


「それと、『獣士隊』というのを考えてまして」


「…帰ってからでいいか?」


「今、聞いてください!」


そこから小一時間ほど、俺が次に作りたいものとかを語った。語り終える頃には、おじい様が頭を抱えていた。……おじい様、がんばって!
















--☆















「ナディ、イリーナ、ララァナ、ルゥ、この近辺で亜人の集落とかの噂は聞きませんか?」


塩田の視察から一夜明けた午後。午前中の淑女教育を終えた後、俺は専属侍女たちにそう切り出した。そうしたら、全員ジトッとした目を向けてきた。いや、分かる。原因は分かってる。俺が専属侍女を決めたばかりくらいの頃に、亜人関係について暴走したのが原因だってのは分かってる。でも、これからの領地経営に必要な事なんです。


「えーと、貴女たちが警戒しているのは分かります。でも、これからの領地経営に必要な事なんです」


「昨日、リガウス様とお話ししていた『獣士隊』の件ですか?」


「えぇ、そうです」


そう、俺が現在考えている独自に俺だけで動かせる部隊、『獣士隊』というのを発足させたいんだよね。


一応、この領都は王都程ではないけど、かなり広い。この前、騎士と兵士を募集して、騎士が80人強、兵士が800人強ほど採用できた。んでもって、1ヶ月ほどみっちり鍛えてもらって、早速色々と仕事をこなして貰っている。


騎士は基本的に城や、おじい様、俺の護衛や警備。今も扉の外で守ってくれている。でも、専属の護衛騎士はまだ居ない。おじい様とセドリックの基準が厳しいらしい。


他にも1小隊単位で周辺地域の魔獣狩りや、兵士たちの指揮。ここら辺は交代制でやってもらっている。それと、ウチでは標準装備で剣もしくは槍に、防具。そして支給品にポーション類を平均3本ずつ提供している。なお、容器はそれぞれで準備するよう言っている。


次に兵士だが、騎士の指揮下に入っての警備や戦闘。それと俺やおじい様が遠出する時の護衛など。あとは衛兵のヘルプとして、領都の治安維持のための警羅なんかをしている。そして騎士と協力しての周辺地域の魔獣の討伐。周辺の巡回。


さて、一見すれば最低限の人員は揃ってるように見えるが実際は全然足りない。


いや、取り敢えずの領都の警備は何とかなってるよ?問題なのはケイリュオン領に存在している他の街についてだ。


まだ行ったことないけど、そっちも治安は基本的に悪いらしくって、領主不在になって、各街を治める太守も軒並み居なくなってしまったらしい。じゃあ、今はどうやって街としての意志決定をしているのかと言えば、有力者を数人集めて議会を結成しているらしい。


…もう国全体でそうしちゃえば良いのに。民主主義にしちゃえばさ。


まぁ、まだまだ文明的にも文化的にも発展が遅いこの国でそれやっちゃうと内輪揉めして国が分裂すると思うけど。


その辺は今はいいとして。問題なのは、各街の防衛力、生産能力等が下がっていること。治安が悪いと人はどんどん流れ出ていって、人口が減る。そして、防衛に割ける人員も生産作業する人員も減っていってしまう。事実、おじい様が領主に就任して以来、他の街から領都に流入してくる人が増えた。


元々そういう報告は聞いていたので、どこから来たのかをリストアップして貰った結果、殆どが他の街や村落からの移民だったのだ。


幸い、今は領都の立て直しや武官、文官、労働者が必要なので働き先には、ある程度困らない筈だ。しかし、これは大変よろしくない。巡り巡って領都に皺寄せが来て、領地全体が潰れる。


まず、各地に配置されている街というのは、行商や物流の中継地点。ここが潰れると物流が滞ってエライことになる。具体的には物質の不足、食料問題、経済危機etc…


取り分け『ソルトロード』が潰れるのが一番まずい。『ソルトロード』とはケイリュオンの領都を起点に、隣接する中央、北方、南方に通じる主街道である。言うなれば、この国にとって塩を運ぶための大動脈。前世で言うところのシルクロード的なあれ。


勿論、塩だけでなく他の海産資源や交易品などが行き来する。他領側は警備がしっかり配置されているのでいいが、ケイリュオン側は無法地帯もいいところである。



折角塩田を改良して塩を大量生産したとしても、途中で盗賊にでも襲われたりしたら堪ったもんじゃない。


「という、諸々の事情があって『獣士隊』を発足したいんです。肉体的に優れている亜人は護衛には打ってつけですし、感覚が鋭いと聞いてますから、襲撃を事前に察知もしやすいでしょう。それと、既に使える人材は殆ど使いきってる状態なので、どこかから持ってこないといけないんです」


「…姫様にお考えがあるのは分かりました。しかし、亜人を雇い入れるというのは未だに反発を招きかねません」


「それを恐れていては、いつまでも前に進みません。それと、これは亜人の地位を向上させるためでもあります。ケイリュオンでは亜人は地位がしっかりと保証されているとなれば、周辺の領地からも流れてきて、雇い入れられるかもしれないでしょう?そうすればケイリュオンの人材不足は一気に解決します」


亜人は社会的地位を向上。ケイリュオンは人材を確保。win-winってやつだ。それと…そうなれば、ララァナやルゥも大手を振って領都で自由に散策したり、買い物したり、普通の生活を送れるかもしれない。


俺が説明し終えた後、ララァナが一歩前に出た。


「私は反対よ」






いつも読んでくださり、ありがとうございます。


本当はこの前の土日に更新する予定だったんですが、久々に友人とベロンベロンになるまで呑んでいたので、アルコールを分解するために一日寝込んでました・・・


補足:領都の人口は今のところ不明です。そこそこ居ます。孤児が少ないのは、本編で言っていた通りです・・・


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