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6-4:お引越し(2回目)

タイトル通り、ようやくです。

6-4


新年3日間の王国会議が過ぎ去って1週間。その間、我が家の使用人や侍女に辺境伯になるって発表して、数人気を失いかけたり。例の毒殺未遂事件で王城に呼び出されたり。あと、1回だけ屋敷に侵入者が訪れた事もあった。


護衛としての初仕事ってことで、ララァナが張り切りすぎたのか、蛇の尻尾の部分で下手人を締め上げた結果、腰の骨を冗談抜きで折ってしまったというトラブルもあった。が、人的及び物的被害はゼロ。おじい様も護衛として認めるとのこと。


それと毒殺未遂事件だけど、実行犯は金で買収された下働きの女性で、黒幕は貴族の前で挨拶したときに騒いでいたビール腹の貴族だったらしい。本当は俺だけを狙うつもりが、王妃様とずっと一緒に居たから俺が1人にならなかった。それで焦った実行犯の女性が毒をティーポットに入れて、まとめて毒殺しようとしちゃった、と。


黒幕さんは王妃様の毒殺未遂になるとは思ってなかったらしく「私ではない!あの女が勝手にやったことだ!」と喚き散らしてたらしい。まぁ、そんな言い訳が通るはずもなく、一族郎党処刑。せめてもの慈悲としてまだ善悪の判断もつかないであろう10歳未満の子供は処刑を免れたって聞いた。本当は親の犯罪の余波が子供に及ぶのは嫌だけど、王の判決には逆らえない。せめて苦痛がないような毒で、というのが限界でした。何とか助けられないかな、って思って助命嘆願しようとしましたよ?でも発言をしようとして王妃様に止められた。


その後、別室で王妃様とマーサからお説教を受けました。曰く、王の決定に口を挟むのは反逆の意図と受け取られかねない。俺の発言で周囲にまで危機が及ぶ。『甘さ』と『優しさ』は異なることを覚えなさい。仮に生き残った子供はこの先どうやって生きていくのか。それでも慈悲で10歳未満の子供は類が及ぶのを免れたのだから、王は十分に譲歩しているのだ、と。常識が違いすぎて泣きそうになった。はぁ…



そんな俺に追い討ちを掛けるように、訪問と面会依頼が殺到しているらしい。メインはおじい様だけど、俺もターゲットとのこと。そういう手紙を選別してる場にたまたま居合わせて、そしてたまたまとある1枚の手紙を読んでしまって絶句した。


『ドミナンス家、ヒスイ嬢への婚姻の申し込み』


という物でした。速攻で破り捨てました。頭痛がした。んでもって、その差出人が子爵家の当主。次代とかじゃないよ?当主です。何歳差だと思ってやがんだロリペドクソ野郎!○ね、コラ!


とにかく、ロリペドクソ子爵は今後近寄りたくないと意思表明しときました。もし来たら追い返せって言っといた。こっちは辺境伯だから地位的に上だし。


うーぉぉぉぉぉ…


いやね?今まで考えてこなかった訳じゃないよ?日本史、世界史の中でもね、政略結婚とか学びましたよ?教科書には乗ってないから、教師から「実はね…」みたいな感じで。でも自分のこととなると、危機感が…


ましてや俺は中身アラサーのおっさんです。一応。なんか今回の手紙見て一気に前世の感覚というか、嫌悪感というか、拒絶感が戻ったというか…


そして、それがトリガーとなったのか、新しい魔法を覚えました。待望の火魔法『ファイア』です。いや、火魔法覚えられたんは嬉しいよ?嬉しいんだけどさぁ。なんか、そうじゃないだろ感が…


取り敢えず破り捨てた手紙は自分の手から出した火で燃やして、『アクア』で鎮火して無かったことにしました。待望の『ファイア』の最初の使い道が、結婚を申し込んできた手紙を燃やすことってどうなん?


ホントにこの国の貴族はロクなのがいねーな!全員粛清しちまえコンチクショー!


当然マーサからはお説教です。家の中で火を使うな、と。うん、それはシンプルにごめんなさい。でも嫌なもんは嫌だし…


因みに、その報告を聞いておじい様は大爆笑&大歓喜。良かった、味方がいて…






そんな感じで少しドタバタしつつ過ごしていたんだけど、いよいよ始まるお引っ越し準備。と言っても、おじい様とペップスの森を出た時のように、俺がやることは少ない。別に大した荷物はないからね。それに基本的にはマーサがやってくれるし、この屋敷は屋敷で残しておくらしい。新年の王国会議で滞在する別荘みたいな扱いとのこと。


それ以外の準備の方が忙しかったりするんだけどね。何かと言えば、使用人達の面接である。


まず、王都を離れるので、大丈夫かっていう事と、それでも続けていく意思があるのかということ。しょうがないっちゃしょうがないんだけど、全員は着いて来ない。王都でずっと暮らしてきた人も多いし、こっちに家族が居て離れたがらないって人も居る。引っ越し先の住居なんかは、おじい様が援助するって話だけど、それでも全員は難しいだろう。


ただ、着いて来ない人も雇い止めではなくて、給金は下がるけど、この屋敷を維持する人員として雇用を続けるらしい。毎日全部を綺麗にする必要がない分、楽っちゃ楽なのかもしれない。



因みに、俺の専属は全員着いてくるそうです。ララァナ、ルゥは当たり前として、ナディとイリーナもだ。ナディとイリーナはこっちの実家とかからは離れちゃうけど平気かって聞いたら、むしろ大歓迎らしい。そういや、実家との仲が悪かったね、2人とも。


まぁ、全員俺の専属なので、着いてくるならドミナンス家の庇護が得られるように、おじい様に全力で頼み込みますがね。因みに、おじい様は普通にOKしてくれました。



俺の方はそんな感じで、割かしすぐ準備は終わったんだけど、おじい様は色々と今の内に他の領主達や国王陛下と打ち合わせや、他への挨拶回りがあるっぽくてもう少し掛かるとのこと。


それで暇をしていたら、とある手紙が届いた。今度は結婚の申し込みとかのフザケタ手紙じゃなくて、ユリーさんからの手紙だった。内容は単純に、会って話がしたい、と。当然、対貴族に贈るようのまだるっこしい言葉が羅列されてるけど、要約するとそういうことだ。


「マーサ、ユリーさんから会いたいって手紙が来てるんですけど、会ってもいいですか?」


「…少し難しいですね」


「え!?な、何で!?」


マーサが頬に手を当てて、嘆息するようにして、難しいと言った。


「お嬢様は他の貴族の方からの面会は全て断っていらっしゃるでしょう?それを蔑ろにして、平民を優先するとあっては、他貴族への風聞は悪いですし、お嬢様の将来のためになりませんよ」


「う…」


ま、まぁ、確かにあのトラウマになりかけた手紙の一件以来、基本的に貴族の申し込みは全部断ってって言ってるけどさ。


「で、でも、貴族の社交は10歳以降が殆どなんですよね?」


「しかし、お嬢様は先日大勢の貴族の前でご挨拶なさいましたね?あれでは大勢の貴族相手に社交デビューしましたと言っている様なものですよ」



う、うっそ~~…え、だってあれって、え?国王陛下が顔見せして襲わせないようにするためって…


も、もしかしてハメられた?ちくしょう、これだから政治家は嫌いなんだよ!


「そ、そんな意思は無くてですね?あれは国王陛下が言うので仕方なく…」


「えぇ、存じております。あれを社交界デビューと思った貴族は多くはないでしょう。なので、面会の申し込みがあの程度で済んでいるのですよ」


…あれで?たかがこんな小娘1人ですよ?貧弱ステータス故に誰にでもワンパンされちゃいそうなクソ雑魚ですよ?


「殆どはリガウス様から継ぐ事のできるケイリュオンが目的でしょう。しかし、世には少々特殊な方もいらっしゃいますからね」


「ひぇ…」


マーサからそう言われて、ゾゾゾと背筋に悪寒が走った。滅べロリコン!バルス!



う、うーん、そうなるとユリーさんを呼べないままになっちゃうのか…う~~~~ん。


「あ、そうだ。ならユリーさんを侍女候補として呼び出すとかはダメですか?あくまで面接の体で呼び出す感じで。それで、実際雇わなくてもユリーさんの実家って商会だから何かを発注するって事になったって経緯を取れば…どうですか、マーサ」


「…お嬢様は大変頭の回転が早くていらっしゃいますね」


あ、なんか今言外の意を感じた。もっと他のことに頭を使え的な副音声が聞こえた気がする!でもまぁ良いのである。目的さえ果たせられるなら。ふふふ。















--☆
















さて、ユリーさんを呼んだ当日。おじい様は相変わらず王城へ行っていて、俺はお留守番である。ユリーさんが来るのは午後からなので、午前中はいつも通り淑女教育です。


まぁ、そんなことはどうでも良くって、今日は久々にユリーさんとの再会である。元気にしてたかな?


さて、仮にも今日は侍女候補としての面接の体を取っている。が、屋敷の中までは周囲の目は及ばないから、普通に自室に招いて色々と話すだけである。


ベイジ村での感じでユリーさんとは話したいので、マーサにはおじい様に付いて行ってもらった。代わりに護衛であるララァナ、ルゥの傍から離れないようにって言われました。


さて、自室で待っていたら、ナディがユリーさんを案内してきてくれた。イリーナは給仕係やってます。ララァナとルゥは俺の傍に控える感じで、2m以上離れないようにしてるみたい。っと、先制しておかないと。


「久しぶりです、ユリーさん。あ、貴族に対する礼とかはいいです。ベイジ村に居た時の感じで。ここにいる侍女は素の私のことを知っているので」



俺がそう言うと、ユリーさんが目をパチクリさせてたけど、状況を飲み込めたのか肩の力を抜いたように、小さく「ふぅ」と息をついた。


「じゃあ、そうさせて貰うわね。久しぶりね、ヒスイ」


「はい、久しぶりです」


久々の再会を満面の笑みで迎えました。




さて、色々と話したけどユリーさんが食いついたのは、辺境伯への陞爵の話とお引っ越しについてだった。ユリーさん自身はその話は知ってたけど、改めて俺の口から聞いてショックだったらしい。


「そんな…ようやく再会できたと思ったのに…」


「えーと、でも毎年新年の近辺はこっちに戻ってきますし、それに10歳になったら貴族院で毎年秋の終わりくらいから王都に来て、冬の間はずっとコッチに居ますよ?」


「それじゃあ、ヒスイちゃんの成長を追えないじゃないのよぉぉぉ!」


…なんか懐かしいなぁ、この反応。というか、何やかんや半年近く経つのにブレないなぁ、この人。というか、成長を追えないって、あんたは親か!


「そうだ!これって侍女の面接としての面もあるのよね!?じゃあ--」


「あ、もう専属侍女は間に合ってます」


「……っ」


すごい悔しそうな顔をされた。でもユリーさんが侍女って、なんか違うんだよなぁ。ベイジ村で過ごした時間があるからかな?仕えてもらうっていうのに、少し抵抗がある。まぁそれを言えば、今の専属侍女達にも同じ様な事が言えるんだけどさ。誰かに仕えて貰うってちょっとプレッシャー。


「……そうだわ!ヒスイちゃん、専属商人はもう決めてある?」


おっと、ユリーさんが何か言い出したぞ?


「それは決めてないですけど…専属商人ってそもそも何ですか?」


「そこからか。今はリガウスさんやここの侍女さん達が色々揃えてる訳よね?でも、大きくなっていくにつれて、必要な物を揃えるときに親や後見人に頼るわけにはいかないでしょう?それに貴族は基本的に平民とは会わないし。そこで必要になってくるのが専属商人というわけよ!」


もう少し詳しく話を聞くと、こういうことだった。生活に必要なアレコレとか嗜好品とかは、それぞれ作る工房なんかが違う。それとオーダーメイド品とかを作ったりするのに、職人達と話し合ったりしないといけない。


なので、職人との橋渡しや会合のセッティング、あらゆる商品の調達など。貴族一人一人に付いたり、貴族家に一人の専属商人というわけだ。秘書とかマネージャーに近い感じかな?


当然、色々と報酬が発生するので上級貴族の中でも一人一人に専属商人が付くのは伯爵家以上だったり、伯爵家によっても各家に一人だけだとか、色々とあるらしい。ただ、ある意味貴族にとってのステータスなので、公爵家以上だと1つの家に複数人の専属商人が付くのが殆どだとか。


「へぇ~。ナディ、知ってました?」


「えぇ、知っております。しかし、マーサさんとセドリックさんはまだ必要ないでしょうと仰っていたので、幾つかの申し込みはお断りしているんですよ」



あー、そう言えば例の俺が説教された屋敷の中での火魔法事件以来、殆どの手紙は処分してたわ。そっか、あの中に専属商人の申し込みとかもあったのか。


「でも、ユリーさんは冒険者ギルドの受付はいいんですか?」


「そっちは大丈夫よ。辞めたから」


あっけらかんとそう言うが、大丈夫なのか、この人…今はどうしているのかと聞けば、実家の商会を手伝っているらしい。ただ、ユリーさんには弟が居て、その人が跡継ぎらしいから、ユリーさんはフリーらしい。


「うーん、私としては見知った顔であるユリーさんに専属商人になってもらえれば嬉しいですけど…」


「そうでしょう!?」


うおぅ、急に身を乗り出して来ないでほしい。ビックリするから。


「おじい様も反対しないと思いますけど、マーサとセドリックが手強い気がしますよね」


まだ早いって言ってるらしいしね。専属侍女たちも2人の手強さを知っているからか、「う~ん」と唸っている。


「そこはヒスイちゃんが強くリガウスさんにお願いすれば何とかなるんじゃないかしら?」


「それは…たしかに」


言われてみれば、俺の身に危険が及ぶ危険性のあるもの以外のおねだりを、おじい様が断った事は皆無である。メンドクサイだの何だの言いながら、結局はOKを出してくれる。改めて考えると、甘やかされてるなぁ、って思うけど都合が良いので、深くは考えない。


それでもと悩んでいたら、ユリーさんの目がキラーンって感じで光る。


「それに、ヒスイちゃんは色んな物を職人さん達に作らせてたわよね?そういう橋渡しを私なら出来るし、冒険者ギルドで荒くれ達を相手にしてきたから、頑固な職人さんの相手もできるわ。あとは商会のパイプを使って、ヒスイちゃんが以前言ってた珍しい食材なんかも仕入れられるわよ?」


ガッシリとユリーさんの手を掴んだ。


「おじい様にお願いしてみます!」


「じゃあ、決まったら実家の商会まで手紙を出して。私もヒスイちゃんのお引っ越しに便乗して付いていくから」


ふふふふふ、とお互いに笑い合う。そう、最近忘れてたけど優秀食材であるトマトはまだ見つかって居ないのだ。それと他の食材も。欲しい食材はまだまだ沢山ある。それと例の下着云々の話も、ユリーさん相手の方がしやすいだろうし。なにせ、マーサとセドリックに相談しようと思ったら説教食らったからね。



「あ、そうだ。それとリナちゃんとシーナちゃんからお手紙来てるわよ」


これまた懐かしい名前が出てきた。ユリーさんから受け取った手紙には歪んだ様な字で、ビッシリと文字が書かれていた。ちょっと読み難いけど、俺のことを心配する内容や、彼女たちの近況なんかが書かれている。今年はやや不作だったけど、冬の蓄えは大丈夫そうとのこと。うーん、肥料有りとはいえ、連作障害は起こる場合はある。だから使う畑を変えたりとかのアドバイスはしておいたから、単純に日の当たりが悪かったとか、気温とかの問題かな?


で、2枚目にもビッシリと字が書かれており、2枚目の方はどうやらリナが書き殴ったっぽい。ガドと大喧嘩したらしくって、どうやら勝っちゃったらしい。しかし、怒りが収まらなかったのか、手紙に思いの丈をブツけた感じなのだろう。かなり長く愚痴が書かれていた。粗暴になっただの、鬱陶しいだの、イタズラがウザイなどなどetc…


で、シーナからの補足が端の方に小さく書いてあるのを見つけた。リナがガドをぞんざいに扱って、ガドがムキになっているらしい。こっちは大丈夫だから心配しないで、ってことみたいだ。



う~ん、これはもしかしてガド少年よ、そういうことなのかい?いやー、それはいかんよ。でも、確かあの子って10歳かそこらだっけ?小学生男子でガキ大将っぽいと、感情を素直に表せないか。そして、行動が裏目に出て、リナと大喧嘩したと。まぁ、うん。がんばれ、少年。


リナには取り敢えず大きな怪我とかなかったかどうかの、心配する内容を書いとこう。シーナには、大変だろうけど頑張って的な応援メッセージを書くか。あと、一応俺の近況も書いとこう。王都からは居なくなるから、送り先を変えるよう言っておこう。ケイリュオンに引っ越してから、もう一度出せばいいかな?


「ありがとうございます、ユリーさん。とりあえず返事は後で書きますね。それと近い内にまた連絡します」


あとは、ユリーさんと雑談になった。















--☆















さて、ユリーさんの専属商人内定や、他にも色々なことがあって、ようやく引っ越しの日が来た。マーサとセドリックはユリーさんの事を警戒していたみたいだけど、俺がゴネたので、俺に甘いおじい様の鶴の一声で採用となりました。


というか、冷静に考えて荒くれを相手にしてきた冒険者ギルドの受付嬢で、実家は商会で商売の経験もある女性という人材は結構得難いと思う。仲間に引き入れられるなら引き入れちゃった方がいい。油断すると、またあの双丘に埋もれることになるかもだけど。


さて、王城の転移門を使用する訳なんだけど、朝早い段階で使用することになっている。魔力の節約のため、開くのは1回だけらしくって、開いたら約15分後には自動で閉じるとのこと。もちろん、任意で閉じることもできるらしい。おじい様によると、大体MPを10万程度注げば1回開く代物なんだってさ。


結構多いなー、って思ったけどこの国の魔法士全員に注いでもらえば何とかなるのでは?そう疑問を口にしたけど…


「魔法士にも自身の研究があったり、都市や街の防衛、いざという時に自衛するための魔力も残しておかねばならん。冒険者などの在野の魔法使いも同様じゃ」


忘れがちだったけど、俺やおじい様が1分とかで魔力があっという間に回復する方が異常であって、普通は1日に使える魔力には限界があるって訳だ。それに魔力を体内で使用しすぎれば魔力回路が傷付いて起こる魔力痛の問題もある。さらに、転移門は東西南北で計4つ。そうなると、使用タイミングも限られてくる訳だ。


因みに、ここ数日でおじい様も転移門に魔力を注いでいたらしい。おじい様の場合1日の内に回数制とはいえ、全回復できるスキルがあるからね。それで限界まで注いでいたらしい。



そんな解説を王城へ向かう馬車の中で聞きつつ、王城に到着した。因みに移動予定の使用人一同は専属を除き、俺達よりも先に王城へと向かっている。


ケイリュオンへの転移門があるのは、王城地下の西側の広間らしい。騎士を先頭に王城の中を移動し、転移門の間まで来た。そこには見送りのためか、先王陛下と国王陛下が揃っていた。


ウチの使用人とその家族一同は萎縮して端の方で小さくなっている。ゴメン、慣れて。


「来たか、リガウス」


「マティアスよ、隠居したお主が王城に居るのは遠慮すると言っていたのに、ここに居て良いのか?」


「構わん。友を見送るくらいで、とやかく言う者はおらん」


先王陛下は相変わらずといった感じである。視線は俺へと動いて、声をかけてくる。


「ヒスイよ、久しいな。向こうでは不馴れな事もあろう。だが、リガウスを支えてやって欲しい」


「はい、先王陛下」


俺がそう言うと、先王陛下は頷いて一歩下がる。次に国王陛下が前に出てくる。



「先生、ケイリュオンをよろしくお願いします」


「任せておけ」


「はい…ヒスイ嬢、あまり話すことはできなかったけど、くれぐれも体には気を付けて欲しい」


「お心遣い感謝いたします、陛下。ニミュエ王妃にもよろしくお伝えください」


「あぁ、そうだね。本当は彼女や他の王妃も来たがっていたんだけどね。少々別の用事で来れないんだ。だから、手紙を預かってきている」


俺は国王陛下から手紙を受け取り、ポーチにしまう。狩りとかで使ってた品です。ちゃんとキレイにしたから大丈夫。汚れたりとかはしない…と思う。



「マティアス、アウグスト、世話になった。代わりという訳ではないが、ケイリュオンは任された」


「あぁ、よろしく頼む」


「はい、お任せします、先生」




さて、挨拶も終わり、改めて転移門を見上げる。見た目は元日本人の感覚としては鳥井が近い。ただ、朱色ではなく灰色だし、上の部分とかは複雑な造りではなく、ただの石の棒が乗っかってる感じ。その中央に青い石が嵌め込んである。大きさは結構大きくて、横幅10mくらいありそうな見た目だ。


おじい様が転移門に触れると、触れたところから転移門に光の線が走る。多分魔力の回路か何かだろう。転移門の石が頭上で光ると、転移門の中心に乳白色のモヤの様なものが現れた。そこをウチの使用人一同と、同行する事になったその家族が荷物と共に足早に入っていく。一回で運びきれない物は一度こっちに戻ってきて、そしてまた向こうに持っていくらしい。何人かが往復していた。そして、俺とおじい様が最後らしい。


俺はおじい様に抱き上げられ、転移門をくぐる。緊張してたけど、何か特別な感覚もなく、スルッと通った。ん、あれ?あ、なんか、ついに空間魔法覚えたかも。後で試そう。


おじい様が転移門の石柱に触れたと思ったら、転移門が閉じた。ここがケイリュオン、か?何だか王城の地下に似てる?転移門を見上げれば、どうやら造りは同じらしくって、頭上には青い石が鈍く光っていた。あれって魔石?


さて、そこからはバタバタでした。使用人+その家族一同+ユリーさんはその場に荷物を置くか、他の家族に荷物を預けて、上階へと駆けていく。専属としてイリーナだけ残されて、ナディやララァナ、ルゥも上に行ってしまった。3分ほど待つと、ナディがやって来て、俺とおじい様が上階へと案内された。


やっぱり地下にいたみたいで、階段を上がると眩しい陽光が窓を通して廊下を照らしていた。窓の外は王城と同じく、少し遠くに壁が見える。あれって城壁?


マーサから各領の領都にも城があるって言ってたな。領城、というらしい。まぁ、取り敢えず城には変わりない。



そのまま一室に通されて、セドリックに今後の予定を聞かされる。城を維持するための最低限の下働きの人達は居るらしいんだけど、料理人だったり、使用人だったり、侍女だったりは皆無らしい。毎回代官がお付きの使用人たちとやって来て、また一斉に帰っていくというサイクルだったらしい。まぁ、維持費もバカにならんだろうしなぁ。


「なので、早急にリガウス様とお嬢様のお部屋だけでも急いで整えさせておりますが、少々時間がかかります。なので、こちらでしばらくお待ちください」


と、言うが早いか、セドリックも出ていってしまった。残されたのは俺と、おじい様、イリーナのみ。イリーナが屋敷から持参してきてくれていた茶葉とかでお茶を淹れてくれる。


「イリーナ、楽にしてもいいですよ?立ったままだと辛いでしょう?それにここにはマーサ達もいませんし」


「そういうわけには参りません、お嬢様」


「じゃあ、命令です。座って控えていなさい。お茶のお代わりなどが欲しくなれば呼びますから」


「…はい、承知しました」


うん、本当は侍女として立って控えるというのが正解なんだろうけど、立ちっぱなしはツラいしね。いつまでここに居るのか分かんないし。


「おじい様、いいですよね?」


「あぁ、構わん」


ほら、当主直々の許可だから。誰も文句言えないでしょ。…暴君にならないように気を付けよう。とりあえず、イリーナの淹れてくれたお茶をチビりと飲みつつ、おじい様と談笑する。それしかする事ないし。


「こうやって、おじい様とゆっくり話すのも何だか久しぶりですね。王都に居る間はずっと忙しそうにしてましたし」


「色々と、な。挨拶回りに、鬱陶しい貴族どもの相手、教会で名を変えた故にギルドに言ったりなど、やることは様々あったからのう」


ん?待って。名を変えた?教会で?んん?


「教会で名を変えた、ですか?」


「うむ。ケイリュオンの領主となったであろう?故に儂の名を改名しておいた。と言っても、名前の後に領地の名が付くだけじゃが」


「…初耳なんですが」


「あー、言ってなかったかのう?ん?そう言えばあの時は寝ておったか?ヒスイの名も変えておいたぞ?」


「聞いてませんよ!また大事なこと言い忘れましたね!?」


この老人はホントに…!ホントにコノヤロー!相変わらず大事なことスッぽ抜けるんだから!


「ステータスを確認しとらんのか?」


「魔獣狩りでレベルアップもしてないのに、確認なんかしませんよ。教育で忙しかったし!」


で、もう少し話を聞いてみると、今回のケースや結婚などで名前が変わるときは教会で変更をするらしい。



で、俺の場合は、新年の例の帰りの馬車の時に教会に寄って、ちゃちゃっと変えてきたらしい。おじい様は教会に近寄りたくも長居もしたがらないから、新年の教会が忙しい時にパーっと行ってパーっと変えちゃったらしい。えー…そんなんでいいの?


「見てなかったのなら、確認してみよ」


俺は言われた通り、自身に対して『鑑定』を使って確認してみた。‥ホントだ。名前だけ変わってる。名前がヒスイ・ドミナンス・ケイリュオンになってる。なっが。


「ホントに変わってる…」


「まぁ、名乗りが多少めんどくさくなるだけじゃ。早々大きな変化があるわけではない」


そうは言いますがねぇ…


「はぁ…じゃあ、名前の件は良いとして、少し相談があるので、聞いてもらっていいですか?」


「よかろう」


「私、この前ようやく火魔法覚えましたよね?」


「うむ。バカ貴族の手紙を燃やした時じゃな?良くやった」


小さな溜め息が後ろで聞こえた気がする。うん、ご令嬢としてはNGな行為なんだろう。でも、嫌なものは嫌だったんだから、しょうがない。むしろ、おじい様だけでも味方がいて良かった。まぁ、裏ではララァナとルゥも反対派で居てくれている。ありがたい。


「はい。それでまた、魔獣狩りを少しやって、レベルを上げておきたいんです。魔法も試しておきたいですし。もしまた、ああいった事が起きた時にせめて自衛できるように」


「それに関しては儂も考えていた。逃げることと守ることのみを教えてきたが、相手を撃退する訓練をした方が良いかもしれん。それと魔法の方もレベルを上げればマシになる可能性が高いしのぅ。時に、今まで魔法の鍛練はしておったのか?」


ふっふっふ、ここで慌てふためく俺じゃない。しっかりやる事はやってたからね。



「基礎となる『魔鎧』と『魔力線』は練習を続けてましたよ。ほら」


その場で俺は『魔力線』で色々と字を書いて見せる。術式も浮かべてみる。もちろん起動しないように注意してである。と言っても、術式は俺の魔法だけしか描けないし、字も短文が精々である。10文字くらいまでなら何とかなった。


「普通の魔法に関してはマーサからほぼ禁止されてましたから、指先からちょっと水を出す程度でしたね。バレないように」



指先から水を出して、出た瞬間に凍らせる。凍った水がテーブルの上にカランカランと音を立てて着地する。


「ほぉ、器用に扱えるようにはなっておるか」


そうなのだ。マーサから禁止はされてるけど、たまーに使ってみたくなるので、そういう時にコッソリ行使できるよう最小限の威力に抑えて、バレないようにするという練習をやってみたんだよね。元々細かいコントロールが課題だったんだし、これはこれでいい練習になった。バレた時がヤバかったけど…


おじい様がテーブルの上の氷を拾い上げて、窓の外へ放り投げる。証拠隠滅ありがとうございます。



「ふむ、どうせ領民への顔見せや城を手入れするための人員を雇うなど、時間がかかるじゃろうしな。丁度よいか。イリーナ、ヒスイを抱き上げておけ」


「え、は、はい」


急な指示を出されたイリーナが俺を抱き上げてくれる。おじい様は何か書き物をしてるみたいだ。多分、置き手紙かな?


書き終わったらしい、おじい様がツカツカとコッチヘ歩いてきて、イリーナを抱え上げた。俺も一緒にである。さすがにイリーナは俺よりも大きいから、いつも俺を抱え上げるような感じではなく、所謂お姫様だっこ状態である。


「へ?え、えぇっ!?」


「捕まっておれ、イリーナ。それとヒスイを離さぬように」


「は、は、はいっ!」



目を白黒させてるとこ悪いけど、マジで頼む。落とされたくないし。


俺たちが待機している部屋は1階の部屋で、外の庭に通じる扉があるんだよね。なので、おじい様はそこを開けて、外へ出る。


「よし、飛ぶぞ」


「あ、あの、リガウス様、なにを--きゃあぁぁ!?」


耳元で大音量のイリーナの悲鳴が聞こえてくる。よほど怖いのか、俺のことをヌイグルミか何かのように思い切り抱き締めてくる。


…悲しいかな。この子のだと、クッション性が足りない。一応、あるけどね。


そんな失礼なことを考えつつ、ケイリュオンへ来て初日は魔獣狩りと相成りました。







書きたいことが多くて、ついつい長文になりがち・・・


お付き合いいただき大変ありがとうございます。


それと、誤字脱字報告、大変助かります!

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