1-7:未知(子供)との遭遇
1週間ぶりくらいですね。
1-7
「師匠、おはようございます」
「うむ、おはよう。さて、悪いが今日も自習で良いかの?」
朝食を終えてそんなことを師匠から言われた。えー、またかよー。
俺が絶対QOLを上げてやると決意してから一週間。やったことは、ひたすら魔力を体に通すこと。魔力を通した体の状態を『魔鎧』と言い、文字通りそこだけ魔力による鎧をまとったような状態になるんだと。え?魔法関連ばっかじゃんって?相変わらず師匠が出かけてる間は扉に閂掛けられて、外に行けないんでもんよ。どうやって上げろと・・・
けども、聞いて欲しい。『魔鎧』ばっかりなのはちゃんと理由があるんだ。俺は年齢の割に魔力、つまりMPが多いからこれを重点的にやらないと、体がぶっ壊れるとのこと。例えば驚いて、急に魔力を多く流しすぎちゃった、とかやってしまうと、もうアウト。体が最悪ボカーンします。ただ、普段から魔力を全身に馴染ませることで、ある程度の耐性が得られるらしい。
普通は年齢相応の魔力量であれば、魔力を感知させたら魔法を使うことから始めても問題ないらしいけど、俺の場合は別だったわけだ。魔力感知したら、勝手に『魔鎧』発動させちゃったからね。順番がちょっとおかしいらしい。なので、一週間経った今でも俺は魔法を使えてません。ちゃんと、『魔法:火』とか持ってるのに。スキルとは・・・
師匠にスキル持ってるのに使えないなんて事ある?って聞いたら、あるらしい。スキルを持ってても何がしかの原因で使えない人は居るとのこと。
俺の場合は、体が魔法の発動を拒否している可能性があるとのこと。体ができてなく、魔力に対する耐性も不十分だかららしい。で、ひたすら『魔鎧』を頑張っている。ただ、飽きた。さすがに。
「えー、またですかー。飽きたし、昼はまたパンとポムの実ですよね?」
うん、修行以外にやることもないし。そして、そ・し・て!昼飯がワンパターンなんだよ!!いや、夕食は結構頑張ってくれてるなって思うよ?何かしらの肉料理が出るし。野菜もサラダとか出るし。ただ、朝と昼がひたすら同じなんだ。1週間も。囚人じゃないんだから、選択の自由を!
「仕方なかろう。子供に料理をさせるわけにもいかんし」
そうなのだ。師匠は意外と過保護というか、心配性だったらしい。修行が始まったばっかりの頃に「料理がしたい」と言ってみたが、「ダメじゃ」の一点張り。やれナイフで手を切ったらどうする。やれ火を使って火傷をしたらどうする。って、心配し過ぎではなかろうか!?・・・あー、うん。4歳児がそう言いだしたら、普通は止めるか。しょぼん・・・
「むー、師匠ここのところ、何をしに行ってるんですか?また熊退治ですか?」
「熊退治なら良かったんじゃがのぉ。調査じゃ調査」
「調査?」
「うむ。ヒスイと出会った日から、森が騒がしくての。魔獣共がやや増えておるんじゃ。故に間引いて減らさねば、ベイジ村などの小さな村は滅びかねん。ついでに原因の調査じゃな。と、いうことで冒険者ギルドからの依頼で、調査とついでに魔獣狩りをしておる」
なんと。そうだったのか。え、もっと早くに聞けただろ?
HAHAHA、子供の体が昼寝を求める欲求を舐めないで欲しい。一瞬で入眠して、場合によっては師匠が帰ってきても寝てることなんかザラだとも!
うん、多分何やかんや『魔鎧』の修行で体は疲れてるって事なんだと思う。だから、昼寝をしても夜も爆睡できてるからね。あ、さすがに寝る前にはトイレに行って、翌日ベッドに世界地図を描くことは無くなりました。
ま、ってなわけで、師匠とコミュニケーションを取る時間は、修行が始まってから、ひたすら少ないんだよね。精々が朝にその日の課題を聞くくらいと、夕食の時に今日の報告をするくらい。だから、情報共有が遅れても不思議じゃない。・・・不思議じゃないよね?
「魔獣って言うと、この前の熊みたいなやつです?」
「うむ、あれも魔獣じゃ。足が6本あったじゃろ?」
「・・・あったっけ?」
「・・・あれはバーサークベアと言って、危険な魔獣じゃ。近付かない様に」
「はーい」
「はぁ、まったく」
「それより、師匠。なら、ベイジ村でお留守番とかしちゃダメですか?冒険者ギルドとかで!」
そう、ファンタジー系の定番!冒険者ギルドなるものには、まだ足を踏み入れたことがないのだ。このチャンスにぜひ行きたい!
「ギルドに、か?ふぅむ」
「家に一人で居るより、誰かと一緒ですし、安全で退屈しないです!」
もう日中一人は飽きた!プリーズコミュニケーション!
「ギルド・・・うーーむ」
「ギルドだと問題があるんですか?」
あ、そういや、魔法使いがどうだのこうだのって、フォージさんが言ってたっけ?
「あー、いや。そうではない。うむ、まぁ良いじゃろう」
お、許可が出た。内心でガッツポーズ。言ってみるもんだね。ってことで、俺の今日のお留守番は冒険者ギルドでということになった。と、決まれば、あとは早い。師匠の風魔法で飛んでベイジ村まで。あ、因みに飛んでいく風魔法の名前はそのまま『フライ』と言うらしい。木板を使う理由は、生身で飛ぶと腰をやっちゃうからだそうだ。「お年ですね」って言ったら頭をグリグリやられた。すみません。
で、20分くらい飛んで、ベイジ村に到着。自警団のフォージさんに挨拶して、この村で村長宅以外に大き目の建物である冒険者ギルドに向かった。ギルドの扉は開放されっぱなしだったので、そのまま駆け込んだ。
「ふお~~」
なんというか、ファンタジー系のド定番のTHEギルドって感じの内装だった。入ってすぐに、いくつものテーブルが並んでて、なんか酒場って感じ。で、その先に栗毛色の髪をした女性が居て、受付をやっている。受付嬢ってやつだ。
と、若干興奮していたら後ろから頭を軽く抑えられて、視線を上げれば師匠が見下ろしていた。
「これ、ヒスイ。離れるでない」
「はーい」
ということで、師匠のローブの端っこを掴んでおく。実は村の入口からここまでも、師匠が離れるなって言うから、手をつなごうとしたんだよね、最初は。だけど、手をつなごうとすると師匠が中腰にならないといけなくて、「腰が痛い」って言うもんだから、こうなった。「お年ですね」って言ってやった。今度は師匠の報復は避けました。やられっぱなしの俺じゃないんですよ。フフフ・・・
まぁ、師匠が中腰にならないといけないのも、俺が小さいせいなんだけどさ・・・あれ?4歳児の身長ってどんなもんだっけ?4歳にしたって俺ちっこくね?いや、まだまだ成長する期間は十分な余地がある。まだ不安になる時間じゃない。まぁとにかく師匠に遅れないように、ちょっと速足気味で追いかける。で、向かった先は受付。
「ユリーよ、マスターはおるか?」
受付のお姉さんの名前はユリ―と言うらしい。近くで見ると、優し気な感じの女性だった。
「お、おはようございます、リガウスさん。今日もお願いしますね。で、ギルドマスターですか?少々お待ちください」
そう言って、受付の奥に向かっていった。待っている間、立っていると疲れると師匠が言って、近場の席に座った。で、さっきから気付いてたけど、視線がひたすら刺さる。まぁ、ね。こんな見た目酒場な場所に子供が居たら、奇怪と思っても仕方ないわ。で、なんやかんや視線が気になる。お?師匠が手招きして、こっちへ来いと指示してくる。
師匠の席の側に行ったら、ひょいと師匠の膝上に乗せられた。少なくとも後ろから刺さる視線は少なくなった。あざます、師匠。
「ヒスイよ、今日はギルドに預けていくが、『魔鎧』の鍛錬は行うように。一通りやったら、遊んでて構わん」
「はーい」
で、ちょっと待っていたら、髭を蓄えたスキンヘッドの大男が受付から出てきた。スッゲー強面なんですけど。これにグラサン付けて全身黒のスーツ着せたら、マフィアだよ。こっわ。
「リガウス殿、お待たせした。私を呼んだとのことだが・・・なんだ、件の弟子を自慢しに来たか?そうしてると、孫を可愛がる爺だぞ?」
「やかましいぞ、リットン」
「本当にただの弟子か?外で作った隠し子ではないのか?」
「・・・リットンよ、焼かれたいか?」
「悪かった悪かった。で、今日はどうした?子供をわざわざ連れてくる場所ではないだろうに」
「うむ、弟子が家での留守番は飽きたと言っての。どうせ調査の報告などで、ここに戻るからの。終われば迎えに来るわい」
「待て待て!つまり、その弟子をここに置いていくって事か?ここは託児所じゃないんだぞ!?村長宅でいいだろうに!」
「この時期、この村は農作業で忙しいじゃろ。それに対して、日中はリットンやユリ―は暇じゃろ?」
「いや、書類とかがな・・・」
「では、頼んだぞ。ヒスイ、良い子にしておれよ?」
「はい、師匠」
師匠は俺を冒険者ギルドに預けて、お仕事へ向かいましたとさ。
他の冒険者もゾロゾロとギルドを出て行った。で、俺はと言うと、リットンさんは俺をユリーさんに預けて、とっとと自身の部屋に引っ込んでいった。因みにユリーさんが、すかさず自分の書類仕事を押し付けたのを見逃さなかった。どうやら、子守を引き受ける代わりに、書類仕事を押し付けたらしい。
で、現在ユリーさんの膝の上である。後頭部に柔らかい感触が当たる。まぁ、ちょっと安心するくらいで、性欲の類とか一切起こらない。今の性別は女だし、体は子供だからね。そうなるわ。
「いやー、ヒスイちゃんのお陰で、書類仕事から解放されて助かっちゃったわ」
「そうなんですか?」
「そうよー。私、書類仕事は苦手だから」
それなのに受付嬢とはこれ如何に?
「で、今やってるそれが、魔法使いや魔法士が使う『魔鎧』の修行なの?」
「はい、そうですよ」
俺は受付の机の上に腕を投げ出して、手をグッパッと何度も開いて閉じてを繰り返している。今は腕全体に『魔鎧』を形成しつつ、動かす訓練中。下手に腕を振りまわすと、周囲を破壊するので、まずは指先だけ。で、慣れてきたら段階を踏んでいくわけだ。足も同様。ふふふ、修行を開始して一週間。『魔鎧』だけとはいえ順調に進んでいますとも。
「ふふ、そうしてると、遊んでるだけにしか見えないのにね」
「これも、立派な修行ですから!」
因みに魔力を若干多く流して動かすと、薄い木の板ぐらいなら粉砕できるようになった。勢いとか目測を誤ると、殴った反動で涙目確定だけど。
あれ、おかしい。俺のAtkは相変わらずクソザコパンチを繰り出す驚異の4しかないのに。『魔鎧』の強化率がヤバい。因みに、『魔鎧』で強化してる時のステータスは『鑑定』で見ても何にも変わってなかった。
師匠にどういう事かと聞いてみたら、なんかそういう事になっているらしい。だから、可視化は出来ないのだから力加減や、通す魔力は感覚で覚えろと言われた。あと、勘違いしてたんだけど『魔鎧』中は魔力を体内に意識的に循環させるだけなので、MPが消費されない。なんて、チート!
だから、魔法使いや魔法士の強みは、魔法による遠距離攻撃だけでなく『魔鎧』による白兵戦や継戦能力なんだと。・・・魔法使いとは?俺の中の一般的な魔法使いのイメージが崩れる。あれぇ?
「あら?あの子たち今日も来てるわね」
「え?」
と、ユリーさんがギルドの入口の扉に視線を向けていた。そこからは、いくつかの顔が覗き込んでいた。多分この前この村に来ていた時に俺のことを見ていた子供たちかな?
「ん?あの子たち、何してるんですか?」
「ふふ、美人さんが珍しく来たからじゃない?」
美人さん?美人さんってどこ?疑問符浮かべて見上げても、ユリーさんは微笑んでくるだけだ。聖母かな?
ってか、この世界来てから鏡を見たことないから、自分の顔をちゃんとは見たことないんだよね。窓のガラスとかは、ボコボコしてるとか、透明度が低かったりで、ちゃんと自分の姿が映らないんだよ。
「ふふ、ヒスイちゃん、この前ベイジ村に来て以来、来てないでしょ?子供たちからしたら、仲間が増えるかもしれないのに、居なくなっちゃったもんだから気になってしょうがないんじゃない?」
「そうなんですか」
「あら、興味なし?」
「うーん、分かんないです」
ここで、興味ないって言うのは簡単だが、冷めた子供って思われるのも今後に支障が出ると思って、返答は曖昧にしておいた。日本人の得意技、曖昧な返答です。
「リガウスさんに、修行が終わったら遊んでて良いって言われてるんだから、遊びに行く?」
「うーん・・・」
「ほら、私も行くから。行きましょ?」
これ、強制の流れだな。まぁ、同年代とのコミュニティを作る分には問題ないか。
「はーい」
「じゃあ、行きましょ。・・・マスター!子供たちの面倒見てきますので、留守をお願いしまーす!」
「は!?お前--」
「じゃあ、行ってきまーす!ほら、行くわよヒスイちゃん!」
「え、あの、!?」
そのまま抱えられて、ギルドの入口を飛び出る。その時に、入り口付近にいた子供たちにも、「逃げるわよ!」ってユーリさんが先導して、引き連れていく。どうやら、子供たちは遊びだと思ったのか、キャーキャー言いながら付いてくる。俺?相変わらず、人形のように抱えられておりますが?
さて、子供として遊ぶって、どうしようかね?
--☆
「へぇ~、ヒスイって言うんだ~。綺麗な髪~」
「ね~」
「なぁ、それよりさ!お前、あのリガウスさんの弟子だろ!?魔法見せてくれよ、魔法!」
「「「賛成ーー!!」」」
はい、現在6人の子供たちに囲まれて困っております。もう、ユリーさんの膝の上が最終防衛ラインです。ここが俺の聖域だー!寄るんじゃねー!・・・って、そんな願いが言えるはずもなく。
女の子からは髪を弄られ、花冠を被らされた。男の子からは魔法をねだられる。なんですかね、この地獄は?いや、コミュ障ってわけじゃないんだよ?苦痛なのは、子供のフリ。
ユーリさん曰く、俺に近しい年代の子供はこの村には少なく、ここに居る6人だけらしい。内訳は少女2人、少年4人。で、女の子組は元々人数が少ないことがあり、同性の俺の存在が嬉しいらしい。そこ、中身を気にしない様に。俺も言ってて悲しいんだから。
さて、現実に戻ろう。魔法・・・魔法か。正直に話すのが無難か。
「あー・・・弟子入りしてまだ10日も経ってないから、ちゃんとした魔法は使えないよ」
「ちぇー、つまんねー。行こうぜー。向こうで剣の鍛錬しようぜー」
興味を無くした少年たちは去っていった。た、助かった。と、内心思っていたが、今度は少女たちが去っていった少年たちの方向を見て視線を険しくしていた。
「もう!ガドも、ケインも!」
「いいよ、リナ。あんなの放っとこう」
「シーナ!でも--」
「はいはい、リナちゃん落ち着いて。お姉さんは、いつでも落ち着いているものよ」
「!そ、そうね。わ、私お姉さんだし」
ユリーさんがリナと呼ばれた濃紺の髪色でセミロングの少女に注意したら、リナは落ち着きを取り戻した。最初から割と落ち着いている方の少女--赤茶毛色の髪を、後ろでおさげにしているのがシーナというらしい。
っていうか、地味にダシに使われたな。まぁ、いいけど。
「えっと、ヒスイ。こっちくる?」
・・・いや、サイズ的にどうなんだろ?リナが自分の両手を広げて、カモーンと受け入れ態勢を示している。お姉さん扱いされて嬉しかったんですね。上を見上げてユリーさんの表情を見てみるが、苦笑いである。
こう言ってはアレだけど、リナの体の大きさは、俺より頭2つか3つ大きいくらい。が、硬直している時間が延びるごとに、リナの表情が曇ってくる。うん、しょうがないから、これで。
「わ」
「あら?ふふ、ヒスイちゃん、お眠みたいよ。リナちゃん、そのまま寝かせてあげたら?」
「ふ、ふふ!も、もちろんよ!私の方がお姉さんなんだから!」
俺が取った行動は、リナの元まで行って頭を膝に乗せる。はい、膝枕です。少女--というか、リナもシーナも年齢的には、まだ幼女、か?まぁいいや。
現代だと、事案な可能性もするけど、今はセーフ!セーフ!
・・・羨むやつが居るなら、代わってください。これかなり恥ずかしいです。
もう、このまま本当に寝てやる、ちくしょー。
少し解説をば。ベイジ村は結構裕福な方です。天候操るような爺が近くに住んでて、その爺にほとんどの問題を移住してきたときに解決してもらってます。