1-4:これで衣食住は完ぺきだ
未だに話が一日すら経過しない・・・
1-4
魔法使いの弟子となった、俺です。
とりあえず、最低限の生活基盤は何とかなった。
師匠となったリガウス・ドミナンスという人は、なんというか俺と居るとき緊張?してるっぽかった。まぁ、普通のコミュニケーションを取る分には問題なかった。
で、魔法の修行の前に衣食住を揃えようとなった。いや、食と住は問題ないんだよ。なにせ、今は師匠の家に居るから。住み込みの弟子だからね!ってなると、あとは衣なんだよ。
思い出してほしいのは、今の俺の格好。貫頭衣一枚のノーパン幼女継続中です。
「ヒスイよ、まずは服を揃えるぞ」
と、師匠が言ったのはいいが、もう既に昼過ぎ。あーでも、師匠の風魔法で飛んでけば20分で着くんだっけ。意外と近い?
どうやら、ベイジ村というここから一番近い村で俺の服を揃えてくれるらしい。ふふふ、寄生ばんざい。・・・はい、情けなさは自覚してるんで、責めないでください、お願いします。
「今からですか?」
「うむ。魔法ならば割と近いしの。ほれ、行くぞ」
「はい」
服かぁ。できれば、あんまヒラヒラしたTHE女の子って服は勘弁願いたい。
ぴょい、と飛び降りて師匠の後について玄関まで行くと、師匠が急に止まったもんだから、師匠の足に激突した。師匠、足かった!骨かよ!?いった・・・
「おぉ、すまんな」
すまんって・・・で、痛みで顔を抑えて蹲ってたら、急に襲う浮遊感。気付いたら、師匠に抱え上げられていた。
「あの、師匠。俺一人で歩けますよ?」
「裸足でか?」
・・・せやったね。今は貫頭衣1枚だけでした。靴もないです。裸足のままです。
「儂は治癒魔法は使えんから、お前さんが足裏を怪我しても治せん。大人しくしとくんじゃぞ?」
はい、されるがまま師匠に抱っこされて木板に乗せられました。そして、本日2回目の空中散歩と相成りました。
で、飛んですぐに師匠が話しかけてきた。
「ところで、ヒスイよ。魔法を使ったことはあるかの?」
「え?ないです」
こちとら、転生初日ですよ?言わんけども。
「魔法についての知識は?」
「ないですね」
「なるほどの。ふむ、まぁ何とかなるじゃろ」
「修行がですか?」
「うむ。まぁ修行は明日からじゃがな。とにかく今日は服じゃな。ところで、お前さん気付いたらこの森に居たと言っておったが、それより前の記憶はあるか?」
「え?んー、ないです。本当に起きたら、木の洞にいました。それで、しばらく森の中を歩いていたら、師匠に助けられましたから」
「・・・そうか。まぁ、そういう事もあるかのう」
あるんだろうか?まぁ、あまり突っ込んでくれないでくれるのは大変助かります。
そんなこんなで、他愛のない会話を続けてたら村についてしまった。意外と早いなと感じたけど、これも魔法の力あってか。なんたって、木々を気にせず直進できるからね。
遠目から村の全貌が見えたけど、確かに師匠の言う通り小さな村だった。家っぽい建物がおよそ30軒くらい。その中でもとりわけ大きいのが2軒ある。それとは別に家畜小屋?馬小屋?みたいなのが点在してる。で、その村の周囲に木製の壁や柵が囲ってある。あんな熊が居る森なんだから、警戒して当然か。
村としての規模としては小さいのかもしれないけど、農地はそこそこ大きいんじゃない?人口どんくらいだろ?
と、そんな風に村を観察してたら、高度を下げて村の入口に降り立つ。はい、俺は相変わらず師匠に抱きかかえられてます。まぁ楽ができていっか。
降りたってすぐに入口に居た門番っぽい人が駆け寄ってきた。
「リガウスさん、お久しぶりですね」
「うむ、久しいの。村長は居るかの?」
「えぇ、今日は畑にいると思いますけど。あの、その抱えている子供は?」
「弟子じゃ。安心せい。既に鑑定して危険がないことは把握しておる」
「そうですか。しかし、あのリガウスさんが弟子ですか。冒険者ギルドの魔法使い連中が騒ぎそうですね」
「そん時は逃げるわい。今日は弟子の服を用立てるために来ただけじゃからな」
話の流れから、冒険者ギルドなるものの存在があるのは分かった。やっぱ、あれかな?魔物狩って生計立ててる的な?モンスターをハントしちゃう的な?あとは細々した依頼とか?一回見てみたいけど、師匠の口ぶりから、今日は行かないらしい。
「ほれ、ヒスイ。挨拶せい」
黙ってたらコッチに話が飛んできた。まぁ、しますけどね、当然。コミュニケーション大事。って言うか、師匠の時はウッカリしてたけど、俺の年齢って今は4歳なんだよな?子供っぽく振舞わないとダメか?まぁ、ちょっと大人びた子供ってことで押し通そう。女っぽさは・・・うん。気にしない方針で。そのうち何とかなる、多分。
あれ?何とかしていいのだろうか?・・・考えないでおこう。
「初めまして、ヒスイと言います。このたび、師匠の弟子になりました」
「お、初めまして。俺はこのベイジ村の自警団に所属してるフォージだ。よろしくな、嬢ちゃん」
ぺこりとお辞儀をしておく。
「はー・・・やはり、魔法士の弟子ともなると、子供であっても賢いんですね。さすがはリガウスさんのお弟子さんだ」
どうやら、子供っぽさに関しては向こうが勝手に勘違いをしてくれたらしい。なるほど。魔法士?なるものの弟子と言う理由で押し通せるのか。よし、困ったらこれでいこう。
その後フォージさんに別れを告げて、村の中を歩いていく。師匠が。楽ちんである。村の中は超牧歌的で昼寝でもしたくなるような光景だ。農夫の人たちは畑で鍬をふるって、女性が種蒔きしたりしてる。時折、牛や馬が行ったり来たりしてる。なんというか、超平和。あぁ、あの辺の空き地とかで昼寝したら気持ちいだろうな~。
というか、さっきから地味に眠いんだけどね。師匠が歩くたびに伝わってくる、ゆっくりとした揺れと、ポカポカした太陽の陽気で眠気がマッハです・・・
と、ウトウトしつつも、なんとなーく遠目に観察していたら遠くから子供が遠巻きに見ているのが分かった。よそ者だから警戒されてる?
若干居心地の悪さを感じながらも、村長宅に着いた。上空から見たときに一際大きかった建物のうちの一つだ。師匠がドアをノックすれば、初老くらいの女性が出迎えてくれた。
「おや、リガウスさんじゃないですか。おや、その可愛らしいお嬢さんは誰ですか?」
師匠が「ほれ」と腕を揺らしてくれる。あぁ、自己紹介の催促ですね。はいはい。
「初めまして、師匠の弟子のヒスイです」
と、お辞儀をすれば、あらあらまぁまぁと、女性が表情を輝かせた。
「あらぁ、お弟子さんなの?小さいのに偉いわねぇ」
そう言って撫でくりまわされた。髪がくっちゃくちゃである。猛烈に近所のオバサンを思い出した。
兎にも角にも、家の中に通され客間に案内された。師匠にソファの上に降ろされ、その隣に師匠が腰かける。向かい側には先ほどの女性が座って、他の若い女性がお茶を持ってきてくれた。その人は、お茶を出すと客間を出て行った。
「さて、用件は何ですか?」
「うむ、実は弟子のヒスイに服を用立てなくてはならなくての。今日、バーサークベアに襲われておったところを助けたんじゃが、これ一枚だけでな」
「なんてこと!リガウスさん、もっと早く仰ってください!ヒスイちゃん、だったわね?おさがりになるけど、貴女のサイズに合いそうな服ならあるから!リガウスさん、ヒスイちゃんを借ります」
「あぁ、頼む。それとヒスイに靴も頼む」
「・・・はぁ、分かりました」
あれよあれよと、俺は別室に運ばれて、バンザイさせられて俺の一張羅(貫頭衣)も没収されて裸に剝かれた。で、下着すらも履いて無かったことに彼女は驚いて、俺にシーツを被せると、ドタドタと部屋を出て行った。そのあとすぐに、遠くから怒鳴り声が聞こえた。
「本当にあれ一枚ってどういうことですか!?」
そんな声が聞こえたと思ったら、女性は戻ってきていそいそと俺に服を着せてくれた。当然、今度こそ下着は装着している。なんか、想像していたパンツってより、えっとアレだ。えーと、何だっけ?ヨーロッパの女性貴族様が履いてたみたいなの。えーと・・・そうドロワーズっぽい。まぁ、裾の方は膝上くらいまでのだから、感覚としては半ズボンが近いかな。
で、その上から白地のワンピースを着せられた。本当はズボンが良かったんだけど、そう要求したら女の子らしくしなさいって問答無用で着せられた。子供の人権はどこですか?あ、旅に出てます?そうですか。
その後ブラシで髪を整えるために化粧台(?)というか机の前に座らされた。あと、靴ももらった。なんか木製の靴底に周囲を布で覆って、靴紐で調整するみたいな感じの奴だ。まぁ、ゴムなんか無いだろうしね。全部木製ってのよりはマシかな。今度探してみるかな。
因みに、今髪を整えてくれている女性の名前はイエナさんというらしく、村長の奥さんだそうだ。
「ふふ、ヒスイちゃんは大人しくていい子ねぇ。ウチの娘が小さいころや孫なんかは暴れて大変だったんだけど。やっぱり魔法士様のお弟子だからかしら?」
魔法士。そういえば門番のフォージさんも魔法士って言ってたな。魔法使いって認識でいいのかな?
「魔法士って、魔法使いですか?」
「えぇ、そうよ。魔法を使える人は全員魔法使い。その中でも、お国に認められた魔法使いを魔法士って言うのよ。ヒスイちゃんは、まだその辺を習ってないのかしら?」
「はい、今日師匠に会ったばかりですから」
「あら、そうだったわね。リガウスさんは優秀な魔法士らしいわよ?と言っても、リガウスさん自身は過去を周りに言わないから、よく分からないのよね」
「え、それなのに村に入れちゃっていいんですか?」
言っちゃなんだけど、不審者認定されちゃうよ、師匠!え、犯罪者とかじゃないよね!?一応、鑑定してみる?師匠は俺のことを泣いてる間、鑑定したって言ってたから、俺がしてもお相子だよね、多分。あとでやっとこう。
「あぁ、大丈夫よ。この村の冒険者ギルドのマスターさんが、太鼓判を押してくれているから」
ふむふむ、つまりギルドマスターだけは過去を知っていると。うーん、テンプレだし、冒険者登録?してみるかな?もしくは、修行中にそれとなく聞き出す?うーん、まぁいっか。その内必要になったら分かるか、多分。
「はい、終わったわよ。ふふ、やっぱりヒスイちゃんは美人さんね。可愛くなったわよ」
・・・精神はアラサー男子なので、キレイとか可愛いって言われても嬉しくねえ。が、「はい、ありがとうございます!」って笑顔で言ってあげますとも。服も靴ももらったからね!それと娘さんとお孫さんの、おさがりの服を何着か袋に包んでもらった。下着もね。全部半ズボンみたいなドロワーズだけど。色気もへったくれもねえ。いや、これで現代日本みたいな下着渡されても困るんだけどね。
ついでにズボンも2着だけだけど、手に入れた!イエナさんには渋られたけど。「森の中を歩くこともありますから、お願いします!」ってことで、譲ってもらった。代金は師匠にツケてくれ。
で、イエナさんに手を引かれて、師匠の居る客間に戻された。あ、師匠寝てましたね?扉が開いた途端ビクッてなったの、見逃しませんでしたよ?いや、結構長い間着せ替え人形にされてましたが。
「おぉ、ようやく終わったか。ヒスイよ、似合っておるぞ」
「ありがとうございます、師匠」
「どれ、では帰るとするかの。イエナ、世話になったの」
「いいのよ、リガウスさんには去年何回も雨を降らせてもらったもの」
これから服代をお支払いと思ったら、どうやら払わなくていいらしい。師匠、雨降らせたってことは、天候操れるんですね。パねえっすわ。って、お?
「行くぞ、ヒスイよ」
「・・・師匠、俺もう靴履いてますよ?」
「どうせ、この後飛ぶときに抱えるんじゃから、変わらんわい」
そうかなぁ?うーん、まぁ楽だしいっか。
「じゃあ、ヒスイちゃん、また来るのよ。今度は何かお菓子でも用意しておくわ」
「はい、ありがとうございます」
「それと、さっき服を選んでる時から、少し気になってたんだけど『俺』なんて、女の子が言っちゃダメよ?お嫁に行けなくなっちゃうわ」
・・・よし!これからも、俺って言い続けよう。誰が嫁になんか行くもんか。いや、元から結婚願望ないし。元男の俺が男と結婚?背筋に悪寒が走るわ!・・・百歩譲って同性婚とか?女性となら・・・この世界ってそういうの認められてるのかな?地球の歴史だと、たしか中世の頃って同性愛者は異端認定されて、酷いと処刑だったっけ?
・・・その辺も師匠に聞いておこう。
「リガウスさんも気を付けてあげてください。小さい間に直しておかないと、ヒスイちゃんが困っちゃうわよ」
「う~む、そういうもんかのぉ」
声を大にして言いたい。そういうもんじゃないですって。
「そういうものです!」
俺の希望は打ち砕かれた。まぁ、いいですけどね。仕事で電話対応するときとか一人称「私」だったし。
「分かった分かった、気を付けよう。では今度こそ帰るぞ。イエナよ、世話になったな」
そんなこんなで、俺はノーパン幼女からノーマル幼女に進化したのであった。
因みに、帰りの記憶はないです。なぜなら、空を飛びながら師匠の腕の中で、ぐっすりだったからね。お休みなさい・・・
主人公が色々と深く突っ込まれないのは、勝手に勘違いされて気を遣われてるからですw
そして、ようやく転生初日が終わった・・・次から修行パートです。