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1-13:師匠は過保護

視点代わりまして、師匠の視点になります。

1-13


その日は年甲斐もなく朝から慌てふためく羽目になった。事の発端は昨日まで遡る。


と言うのも、昨日ベイジ村を訪れヒスイの作ったシャンプーとやらを、冒険者ギルドに届けに行ったのだ。ヒスイが言うには、水洗いのみだと髪が引っ掛かるとかで、絶対に必要だと豪語し、儂にも使用を強制してきおった。


「師匠、ちょいちょい自分で髪を引っこ抜いてますよね?そのままじゃ、禿げます!折角、今の師匠は威厳のある老魔法士って感じなのに、禿げるとイメージが崩れます。このままだと師匠の頭は禿げ散らかります。だから、使いましょう!禿げた師匠じゃ、ただの畑好きのジジ--いだだだだだだっ!!ゴメンナサイ!言い過ぎました!!ゴメンナサイィィィ!!!」


師匠である儂に対して、あまりにも生意気な口をききおったので、思いっきり拳骨で頭を両側からグリグリと絞ってやった。まったく、誰が禿げじゃ。が、ヒスイの言う通り使ってみたら、髪が引っ掛かることはなくなった。


使い方は分かったので、ヒスイの頭も洗ってやろうと思ったのじゃが、一度やってみたら儂の力は強かったらしく、恨めし気に見られた上に暴言まで吐く始末じゃった。


「師匠、もう私の髪に触らないでください。痛いです」


・・・遠慮なく、そんな事を抜かしおった。こやつは遠慮というものがない。まったく、小生意気な弟子じゃわい。


まぁとにかく、こういった物は女どもにはウケが良かろうと思い、弟子入りを断った女魔法使いや、受付のユリーなどの機嫌を取っておくために、一部を渡すことにした。そのために冒険者ギルドを訪問したわけじゃが・・・


「リガウスさん、ちょっとお話してもいいですか!?」


早速女魔法使いの一人に捕まり、そして騒ぎを聞きつけたユリーなどにまで囲まれる始末。男どもの視線は突き刺さるが、鬱陶しいだけじゃ。まったく、男の嫉妬などみっともない。嫉妬するくらいなら貴様らも気を引ける物でも用意すればよかろう物を。まぁ、儂が持っておるシャンプーは元々ヒスイの作ったものじゃが。細かいことは置いておくとするわい。


そして、かなり細かく使い方を尋ねられたわい。使い方など、髪に付けて洗うだけだというに。作り方も尋ねられたが、ヒスイが作ったものじゃからな。作る場に居合わせた訳ではないので、詳しくは知らんと言っておいた。ヒスイから聞き出し、後日教える運びになったが。メンドクサイのう・・・


ついでに塩漬けの依頼などがないかも尋ねたが、どうやら無さそうであったので、冒険者ギルドを後にした。これだけで、かなり時間を食われたわい。


さて、ヒスイはリナという友のところへ行ったはずじゃな。しかし、その家は留守であった。ふむ、ということはもう一人の、シーナという娘の家か?しかし、そこも留守であり子供らが遊び場にしておる空き地に向かっても、ヒスイは居らんかった。じゃが、この村の少年らはおった。あー、名前は何じゃったか・・・


「そうじゃ、ガドじゃ」


「リガウスさん!俺の名前忘れてたな!」


「すまんすまん。ウッカリの」


「ちぇ、面白くねーでやんの。それよりさ、リガウスさん弟子を取ったんだろ?じゃあ俺も弟子にしてくれよ」


口を尖らせる少年には悪いが、元々儂は人の名前と顔を覚えるのが苦手じゃ。むしろ、このガド少年のことを覚えておっただけでも僥倖じゃ。なにせ、その取り巻きの3人の名前は一向に出てこんからの。ガド少年のことは、子供の中で以前にも唯一弟子入りを志願してきたからの。じゃが、この子には魔法使いとしての才はないし、魔法よりも剣士か斥候としての才の方が大きい。


・ガド(10歳)

種族:人間

性別:男

状態:正常

Lv:2

HP:25

MP:6

Atk:21

Def:17

Int:10

Mnd:9


スキル:

『探索』

『短剣術』


ふむ、10歳ならばこれが平均じゃろうな。すでに『短剣術』のスキルがあるため、鍛えればすぐに剣術のスキルも覚えるじゃろう。そのため、新たに魔法を覚えるよりも剣術の才を開花させた方が良かろうと思い、弟子入りは断ったのじゃが。本人は不満らしい。


「前にも言うたが、お前さんは剣士かスカウトになれ。魔法に時間を費やすより遥かに有意義じゃ」


「なんだよ、やってみなくちゃ分かんないだろ!!」


「まぁ、才がなくともその道を進みたいのであれば、止めはせんがの。が、儂の弟子にはせん」


「リガウスさんの弟子のアイツだって、魔法まだ使えないんだろ!?じゃあ、俺だって分かんねえじゃねーか!」


「いや、ヒスイは先日使えるようになったぞ?一つだけじゃが。まぁ、あやつはまだ4歳じゃからな。むしろ重畳と言えるが」


ふむ、改めてそう考えると、ヒスイの才能はちと末恐ろしくはあるの。儂も過去に神童と持て囃されはしたが、初めて魔法を使ったのは確か10歳より少し手前位であったはず。ヒスイの修行は慎重を期すとしよう。


「なっ!?・・・く」


ガドが拳を震わせておるが、すまんの。この少年の将来のためにも、はっきり言っとくべき事じゃろう。まぁ、子供に対して酷な事を言っている自覚はある。


「おぉ、そうじゃった。お前たち、ヒスイらを見んかったかの?」


ガドではない、別の少年にヒスイの居場所を聞き出すことにする。すると、どうやら村長宅へ向かうのを見たとのこと。礼を言って村長宅へ向かうことにする。そして着いてから、村長宅が俄かに騒がしいのに気が付いた。中で何かあったという事かの?ドアをノックして中の住人を呼びだす。


「はい、どなた--リガウスさん!丁度良かったです!早く中に!ヒスイちゃんが逆上せて倒れちゃったんです!」


扉から出てきたのは村長宅で家政婦をしているジェシーという女であった。儂は案内されて、ヒスイの眠る部屋に通された。看病をしていたイエナに話を聞くと、ヒスイがリナ、シーナの2人にシャンプーの使い方を教えるために風呂に全員で入っていたそうだが、長時間出て来ないので心配で見に行ったらしい。すると3人揃って茹で上がっていたそうじゃ。このバカ娘どもが・・・


「はぁ、ヒスイ。帰るぞ、意識はあるか?」


「んぅ・・・ひひょぉ?」


呂律が回っておらんが薄っすら意識はあるようじゃ。手を背中に回して抱き上げれば儂のローブをその小さな手で、しかと掴んでくる。・・・まったく、心配をかけよって。


それから、儂の風魔法で家まで飛び、部屋へ寝かせて儂自身も眠りについた。









--☆








そして、一夜明けて目が覚める。いつも通り儂が先に起床し、畑に水をやり家の周囲の獣除けの柵と遠隔魔法を確認する。ふむ、問題ないようじゃの。こちらに関してもヒスイにはいずれ教えるとしよう。


さて、小生意気な弟子が腹が減った、と五月蠅くなる前に朝飯を用意せねば。と言っても、今朝は何にするかの?あやつめ、あまりに単調なメニューが続くとへそを曲げるからの。しかも自分で作るという始末。そもそも調理台の上に手が届かん子供に料理などさせられんわい。はぁ、余計なことを考えるようになってしまって敵わん。


取り敢えず簡単に朝食を作り、配膳を終えるが一向に起きてくる気配がなかった。おかしいの。いつもじゃったら、パタパタと足音の聞こえてくる頃合いじゃが。寝坊でもしたかの?


そして、ヒスイの部屋に入ってみれば苦しそうな息遣いをしているヒスイを発見した。急いで駆け寄り、額に手を当てればやけに体温が高いのが分かる。


「はっ・・・はぁっ・・・」


「ヒスイ、起きよ。儂の言葉が分かるか?」


「ぅ・・・はい」


「水を取ってくる。そのまま待っておれ」


小さく頷いたのを確認し、一階に駆け降りる。ヒスイのカップを持ち出し、水魔法で水を満たし、持っていく。相変わらず苦しそうな息遣いをしているが、飲めるかのう?


「ヒスイ、起きられるか?」


「う、ん・・・」


「無理をするな。支えてやるから、ゆっくり飲め」


ヒスイの体を支えて水分を摂らせる。しかし、相変わらず辛そうにしている事には変わりない。ベイジ村には医者はいないが、薬師ならばモーガンが居る。風魔法で飛んで連れてくるか。


「師匠・・・トイレ行きたいです」


「分かった。このまま運ぶ故、掴まっとれよ」


ヒスイに用を足させ、再びベッドへと寝かせて儂は急いでベイジ村へと飛んで行った。いつもよりスピードを出しすぎたせいか、フォージの奴めが慌てふためいて出てきたが、些細な問題じゃな。今は薬師じゃ。


「リガウスさん!そんなにスピードを出して飛んでどうしたんですか!?まさか、森に危険が--」


「ええい、そうではない!薬師のモーガンを訪ねに来た!少しあ奴を借りるぞ」


「え、あの--」


そして、モーガンを最低限の準備をさせたら半ば強引に木板に乗せて帰宅した。モーガンの奴が目を回しておるが、今はどうでもよいわい。


「モーガン、儂は先に家に入る。お前さんも急げ」


「人をほぼ誘拐しておいて、勝手な・・・うぷ」


念のため掛けておいた扉の閂を外して、家に入る。ヒスイの様子を見るために、階段へ向かおうとしたところで、儂の心臓は一度止まるかと思った。いや、その光景に冗談ではなく心臓が止まったかと勘違いしたほどじゃ。


その理由は、階段を降りきった場所でヒスイが壁にもたれてピクリとも動かない様子を目にしたからじゃ。が、よく見れば呼吸は浅いが、肩は動いておる。まったく、こっちの寿命が縮むわい!なぜこんな所に居るんじゃ!?


「ヒスイ!!なぜ、こんな所に居るんじゃ!?」


「んぅ?し・・・しょう?おかえ、んなさい」


「む、服が濡れておるのか?」


「喉、乾いて・・・それで・・・」


もしや、水魔法を使おうとしたのか?それで、服が濡れたというところかの。む、考えている場合ではない!


「ヒスイ?ヒスイ、しっかりせい!!モーガン!はよせい!頼む!」


儂は未だに外で酔っているモーガンに怒鳴り、急かせることにする。モーガンは多少恨めし気な目をしたが、仕方あるまい。儂はヒスイを抱え上げ、2階へ戻す。ついでに、隣部屋の布団とも変えておく。ヒスイの水魔法で濡れておったからの。


下からタオルを持ってくるまでに、モーガンに薬を頼む。タオルを抱えて持ってきたときには、既に摂取させたらしく、ヒスイは眠っていた。


「あぁ、リガウスさん。取り敢えず解熱の薬は飲ませました。あと追加で薬を調合したいので、場所をお借りしても?」


「うむ、構わん。無理を言ってすまなんだ」


「いえ、いいんですよ。まぁ、いきなりの事で混乱はしましたが」


「・・・すまん。あぁ、それと場所じゃが、2階はこれからヒスイを着替えさせる故、1階でやってくれぬか?1階であればどこでやろうと構わん」


「ええ、分かりました」


モーガンは大人しく1階へ行った。一応、ヒスイも子供とはいえ、女じゃからな。あまり他人に肌を見せん方がいいじゃろ。とりあえず、濡れた服を脱がし体を拭いてやる。そのあと新しい服を着せることにする。依然熱は高いままじゃが、薬も飲んだしその内下がるじゃろ。


その後、調薬の終わったモーガンを村まで送り、その日残りの時間はすべてヒスイの看病に宛てることにした。


まったく、手のかかる弟子じゃ。


てなわけで、看病回でした。



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