6 海でも一騒ぎ
カプセル型の乗り物、もとい潜水艦(?)を走らせてから約10分程度。艦は川を高速で下り、山を出て、河口へと進む。幸い途中に人の街などは無く、目立ちはしなかったが問題点が二つある。
まず一つ。こいつの操作方法を誰も知らないことだ。
まず、魚人族の科学力のかの字も知らない俺達は知るわけがないし、肝心な生産元を統治してる奴が使い方をまるで知らないという無能っぷりを発揮している。
とりあえず適当にアクセルを踏んだが動いているだけまだマシと言えよう。こいつがどこに向かって、俺達は何をすべきなのかは後で考えるとしよう。
今は二つ目の問題を解決しよう。
俺は操縦席から首を捻り、丸いガラスに映る外の景色を覗く。今は河口を突破して遂に海へと突入した。潜水艦だがまだ沈んではおらず、水面を走り続けている。
そして、御覧下さい!どこまでに広がる広大な景色!太陽の光をギラギラと反射して、眩く光る海はまさしく宝石の海と言えましょう。ときおり魚が水面から飛び出し、我々を歓迎してくれます!
天候にも恵まれ、雲一つない晴天。風も穏やかで、海の涼しい風が夏の暑さも消し飛ばしてくれます!
そして後ろを振り返るとー?
「―――だよねやっぱ追い掛けてくるに決まってくよねクソが!」
俺達が乗っている潜水艦と同じやつが複数機追ってきていた。まぁ、当たり前だよね。だって敵に自分たちの物パクられたらそりゃ追い掛けるよね。
乗り込んだはいいものの、その後のことを考えてなかった…………。
「カツジさんカツジさん!なんか鳴ってます!なんか鳴ってます!うぃーんうぃーんって!?」
『危険物を確認。推定、同機種による魚雷KM222水爆弾。接近中接近中………』
「うえぇ!?無理無理無理!使い方分かんねぇし!うわぁぁ!?」
ドッボン!!と。
水中からでも耳鳴りがするほど大きい爆発音が鼓膜と艦内を揺らす。どうやら直撃は免れたようだが、余波だけでこれだ。
キツい!死ねる!艦に直撃でもしてみろ、文字通り海の藻屑になるぞ。
「いやー!美味しくムニエルにされちゃうでござるー!?」
「いやー!美味しくお刺身にされちゃうー!?」
「少なくともマーマンは食べられないと思うから安心しろ。そしてクソ人魚お前は後で俺が刺身にして食ってやるから安心しろ」
「ぎゃー!身内にも敵がー!?ちょ、目が怖いわよ。悪かったわよ何も知らなくて!助けて鮟鱇魚人!」
「カツジ殿………ここは刺身ではなくムニエルにした方が………」
「あんたのそのムニエル推しは何なのよ!」
「変な茶番してないで早く伏せて下さい!二回目が来ますよ!」
エルザの警告を合図に、一斉に床に伏せる。宣告通り、酷い揺れと衝撃が艦内に襲いかかり、艦が斜めに傾くと伏せていたエルザ達はゴロゴロと転がり壁に全身を打ち付ける。
「いてて………大丈夫かみんな!?」
「拙者も乙姫様も無事でござる」
「咄嗟にアキレスさんを庇ったのはいいですけど全身がピリピリします。エルザ無事です」
俺はそれを聞いて、安堵で胸をなで下ろ―――せない。まだ脅威が去った訳ではないのだ。次々に魚雷が発射され、こちらの艦が揺れる度に奴らは少しずつ少しずつ距離を縮めてきている。
このままでは追い付かれて全員海のど真ん中でお亡くなり待ったなし。海は好きだが死ぬのはごめんだ。ここは一か八か、やってみるしかない。
「……あんた、何してんのよ」
「何って、操縦するからに決まってるだろ。使い方が分かんなくても、やるしかねぇ。俺達が竜宮城に行くためにはこいつが必要不可欠だ。それにな………」
「それに?」
「こういうのはガチャガチャやってたらなんとかなるって、父ちゃんが言ってた!!」
「…………………(超不安な顔)」
操縦席の目の前にはハイテクノロジーな装置があった。足元には今踏んでいるアクセルレバーと、もう一つ小さいレバー。
斜面のテーブルには発光するボタン、ハンドルと思わしき黒い円盤、小さい銀色で出来たスイッチ、その他いっぱい。
しかし、この配置には身に覚えがある。
『まぁこれ王都で一番安いやつを盗……じゃなくて買ったからな。しょうがないしょうがない』
数ヶ月前の父の言葉を思い出す。いつ思い出しても最低である。故郷にあった唯一の機械仕掛けの船。見た目や使われている技術に差はあれど、同じ船だからか機械の配置や見た目は似ている。
基本的に父が操縦していたから詳しい使い方は分からないが、何回か動かす姿は見てきた。あの父に出来て俺に出来ないはずはないのだー!
俺は円盤ハンドルをガッチリと両手で掴み、
「アクセル全開!面舵いっぱい!!」
ガラガラガラガラ、と車輪が猛回転。機体はゆっくりと傾き始め右折する。横で水面が爆発するのが見えた。衝撃も揺れも少ない。しっかりと避けられている証拠だ。
『接近中接近中………左折推奨』
「よっ」
『接近中接近中………』
「ほっ」
『接近(ry』
「はっ!」
初めて触ると言うのに、このドライブテクニック。このカプセル型のボディに傷が増えてないのが全弾回避成功の揺るがない証拠である。
後方の亀達は当たらないことに腹を立てているのか、さっきよりも激しく魚雷を撃ちまくっている。しかし俺の華麗なハンドル捌きが一つ残らず翻弄していく。
他の機能はぶっちゃけ分からないが、この操縦技術さえあればなんとか行ける気がしてきた。将来は有望な船長かな…………。
想像したけど似合わねぇ………。
と、そんなくだらないことを考えながらも魚雷を躱せるほどには慣れてきた。
「案外簡単だな。このまま逃げ切ってやるぜ!」
「そんなこと言って、気ぃ抜くんじゃないわよ!あいつら、何隠し持ってるか分かったもんじゃないんだから……」
「……………何でござるかこの音。カカカカンって………ぴぎゃ!?」
鳥の悲鳴のような(魚なのに)声がマーマンが喉の奥から飛び出してくる。それもそのはず、突然丸い窓ガラスがパリンと割れたのだ。
「あ、あいつら銃で狙い撃ちしてきたわね………!亀のくせに無駄に頭使いやがって………!」
乙姫が爪を噛みながら後ろの船を睨みつける。
亀達は機体から身を乗り出し、直接銃を構えている。カカカカンと言う音は弾が機体に当たる音だったようだ。
魚雷が当たらないから、照準が正確な銃を選んだと言うことだろう。揺れている船の上で、よくもまぁ窓ガラスを当てれるもんだ。いや、奴らの持ってる武器の科学力を考えると補助機能とかそのへんのを使って窓ガラスを割ったとも考えられる。
ひえぇ末恐ろしい。いやまじで。あの穴から狙い撃ちでもされれば……………
「ん?」
窓ガラスが割れる→出入り口ができる→そこを通じて何か入ってくる。
もし爆弾とかが入ってきたら?
「ッッ!?」
俺はハンドルから手を離し持てる視力全てを尽くして割れた窓ガラスの奥を見る。
天井扉から外に出て、揺れる船の上にいながらも決して体勢を崩さずに武器を構える亀がいた。グレネードランチャー、とでも言うべきだろうか。
黒く禍々しい色合い、極太の銃口。手首と同じくらいの太さのある弾を一つ、一つ、一つずつ丁寧にチャンバーへと装填していく。全弾装填が完了し、銃口がこちらに向けられる。
それに気付いたのか、乙姫も額に嫌な汗を浮かべながら固まっている。考えている時間はない。とにかく――――
「―――脱出よ!とりあえず脱出しなさい!!全員死ぬわよ!!」
「え?………は、はい!!」
エルザはあまり状況を飲み込めていなかったのか、不思議そうに小首を傾げたが乙姫の迫真の叫びに気圧されたのか大人しく指示に従う。
俺も操縦席から離れ、今だに気絶しているアキレスを担ぎ上げ扉から身を乗り出す。―――と同時に、船内に、カン、コロンと内に科学の悪魔を宿した鉄の塊が転がり込んだ。
目も眩むような眩い光を放ち、船をスクラップにする為に必要な時間は、2秒とかからなかった。
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「―――かほっ」
血反吐と海水をぶちまけ、口の中が不快感一色に染まる。血と海水って混ざるとクソマズイなぁ………ただでさえ海水でもマズイのに。クソッタレ。
俺の体は全身真っ赤―――とまではいかないが、重傷と言っても差し支えない火傷を負っている。タイミングが悪かったのか、爆弾の爆発をものに食らってしまった。
傷と火傷が海水の塩素の冷たさで痛みがとんでもないことになっている。本音を言うなら泣け叫びたいくらい痛いが、ここはぐっと奥歯を噛みしめて我慢する。
そんなことをしてる暇など、ないのだから。
「遂に追い詰めたぞ………。一つ船を失ったが、まぁいいだろう。幾つでも量産できるしな。さて、最後の質問だ―――」
カチャカチャカチャカチャ、と。銃を構える音が右から左へ縦横無尽に駆け回る。世界一嫌な立体音響だ。
一日で、しかも短期間で、ついでに2回も銃に囲まれるなど中々ない経験だ。できれば、一度もしたくはなかったが。
「―――大人しく降伏し、その人魚をこちらに渡せ」
周りを囲む複数の船が少しずつ俺達の逃げ道をなくし、ブラックホールみたいに中心へ引き集める。エルザ、マーマンと迎え合わせになる形になった。
「………つ、冷たい」
ここら一体の海域は温度が低いのか、ジリジリと照らす太陽の暑さを追い抜き冷たさが体を支配していく。ブルブルブルと体を少しでも暖めようとする無意識の行動はもはや無意味に等しい。
息が荒くなる。エルザの吐息もはっきりと聞こえるくらいには荒くなり、彼女の顔は青ざめていた。
「…………乙姫、お前だけでも逃げろ」
「は?」
「小さいお前なら、なんとか奴らの目を掻い潜って逃げ切れるはずだ。そして、生きろ。その代わり絶対竜宮城を取り戻せよ」
「………は?ちょ、何を言ってるのよ………そんなこと、できる訳ないでしょ!?」
「いいんだよ。最後までお前に協力できなかったのは悪いと思ってる。けど、お前は生きなければなんねぇ。お前は魚人族の全部を背負ってる。けど、俺はただのガキ……死んでも家族に迷惑かける程度さ」
「でも、そんなのって………」
「マーマン。エルザとアキレスを頼むわ。巴にはごめんなって伝えておいてくれ」
「カツジ殿…………」
「はぁ、はぁ、カツジ、さ、ん………」
エルザも爆発に巻き込まれたのか、ダメージを負っている。更に海水のコンボときた。反論したそうにこちらを睨みつけているが、声が出ない。
「さぁ、答えを聞こうか。さぁ、さぁ!!」
「るっせぇよ亀公!今からちょっとロボみたいに内側から自爆するけど、しっかりと受け止めてくれよな!『閻魔炎天・え
―――と、言いかけた時だった。
「な、船が沈んでいく!?」「何だこれは!?うわっ、やめ」
「襲撃!何者かが水中から襲撃しています!」「なんだこの触手は!?」
「……………あ?」
海面から、八本の巨大なタコの足が飛び出していた。それらは何かに憤慨しているように、亀達の船を潰し、引きずり込み、亀達を薙ぎ払っていく。
「………まさか」
聞いたことがある。深海にすむ巨大なタコ。数々の沈没船を生み出し、数えきれぬ犠牲者を出した海の悪魔。―――この世で数少ない幻想種………
プクプクと空気泡が出てくる。影が映り、『それ』が正体を現す。敵か味方か、はたまた―――
「…………すみませーん。そこの死亡フラグっぽいセリフ言って格好つけてたダサい少年。少し質問なんですが」




