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2   魚釣りならぬ人魚釣り?



 

 夏。それは四季の中の一つである。


 夏。それは苦くも甘い青春のドラマの第二章である。


 夏。それはとりあえずいっぱい遊んだり、寝たり、新しいことに挑戦したりする時期である。


 夏。そう、誰もが待ち望んだ―――――




「明日から夏休みだが、てめぇら羽を外しすぎて事故ったりすんじゃねぇぞ」


「「「「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


「話聞いてんのか」




 それはある日の帰りのホームルームのこと。遂に明日から待ちに待った夏休み。学校中は男女問わず感極まっており、そこら中から叫び声が聞こえる。



 もちろん、俺達1-Dもそうであった。


  

 珍しくエルザがはしゃいでいる。ゴウキはポーカーフェイスを気取っているが、よく見ると頬がにやけている。アキレスはいつも通り。



 他のクラスメイトのみんな嬉しさに高揚している。ベリアル先生はそんな俺達に注告を促すが、聞こえていないのが分かっているのか半ば諦めている。


 まぁ、流石にそういうのはわきまえておりますとも先生。誰も夏の謎テンションに乗せられて危険な事なんてしませんってば。



 …………………多分。




「言っとくが、宿題はもちろんあるからな」


「「「えーーー」」」


「黙れ。こうでもしねぇとお前ら全員勉強しないだろうが。この宿題を夏休み明け当日に提出できなければ、どんなとは言わんがキツいお仕(死)置きがあるからな。覚悟しとけよ」




 すると先生は、ドサッと山のような宿題を全員に配り始める。そのプリントを見た瞬間、俺は顔が引きつった。



 キッツ…………………。



 早速分からない問題がチラホラ。算術、地理、歴史、etc.…………。俺はとりあえず見なかったとこにした。



「それじゃ、学校は今日で終わりだが。お前ら、怪我とか風邪引かないようにな。十分に気をつけやがれ」


「「「はーい」」」




 かくして、学園『アナスタス』の夏休みは幕を開けた。






######




 次の日。



 というわけで例の河川敷に来ました。みんなを連れて、な!!


  

 そう!!みんなを連れてだ!!



 大事なことなので二回言いました。前回ここに来たときに道は覚えたから、迷うことなくみんなを案内する事ができた。道中アキレスが触手のようなキノコに引っかかって大変だったが、この美しい風景を見ればそんなことも忘れてしまうだろう。



 川によって冷やされた空気が夏の日射しにより蒸された体を癒す。ずっしりと踏みしめる度に感じる石の野原は、ステップを踏んで演奏会が開けそうだ。



 美しい晴天、穏やかに流れる川、そこに装飾を加える魚の存在感!



「あぁ、実にいい気分だ!うふふふ」

 

「なんか今日のカツジさん変じゃないですか?あんな不抜けた顔してましたっけ」


「変というか若干気持ち悪いでござる。カツジ殿は暑さで頭がやられてしまったのでござろう」


「変なキノコでも食ったんじゃねぇのか?変なキノコに襲われた俺が言えたことじゃないが」


「失礼だなお前ら。俺だって気分が高揚することくらいある。むしろ最近は大人しかったほうだぞ」



 ふーん、と興味なさげに唸るアキレス、エルザ、マーマンの三人。



 みんな……と言っても誘えたのはこの三人だけである。ゴウキやモブも誘ったのだが、偶然なのか彼らも何処かへ行くみたいだった。


 ユウキは何でもけん玉の世界大会に向けて練習中だとか。カンナは行きたがってたけど、どうやら祖父のカララさんに引きずり回されてるらしい。本当は巴も誘いたかったが、今は妹と共に和国へ向かっているので致し方ない。


 よって予定が合ったのはこの暇を持て余した三人だけであった。




「人を暇人みたいに言うんじゃねぇよ。………だが、ちょっと来て良かったかもな。こんな場所よく見つけたなカツジ!何だかテンション上がるぜ!」


「アキレスさんと同意見なのは何だか癪ですが、私もです。もっと人を誘っておけばと後悔です」


「魚人に拙者にとって、懐かしい感じがするでござる。沼育ちだけど。にしても………カツジ殿の言うとおり、どれもこれも生きの良さそうな魚ばかりでござるな。腕が鳴るでござる!」



 そう言って、ぐっと力こぶを作るマーマン。

 

 何を隠そう、今回は魚釣りに来ているのでございます。こんだけ魚がいるんだから、少しくらいとっても誰も文句は言わないでしょう。


 何しろ、こんな美味な魚を放っておくのも勿体ない!是非この魚を使った海鮮料理とか食べてみたい。そういう訳で今回は俺達が釣った魚をマーマンがその場で料理してくれるのです。



 獲れたてほやほやの新鮮な魚を、マーマンが料理………おっと色々想像するだけで涎が出てきそうだ。 



「拙者は調理セットの準備をしておくので、三人は早速釣りしてて欲しいでござる」


「あ、じゃあ私一応簡易ですけどテント持ってきたので、組み立てておきますね」  


「じゃあ俺は適当にそこら辺の動物でも狩ってくるわ。魚だけじゃあ食卓が寂しいだろ?」


「じゃあ俺一人で釣りしてるわ」




 みんな分かれて役割分担。


 俺は釣り、エルザはテント、アキレスは狩り、マーマンは料理の準備。うん、実に良い配分だ。決して一人で釣りは少し寂しいななんて思ってないですはい。



 俺は荷物から釣り竿を取り出して、手頃な石の上に座る。釣り針に市販で勝った餌を取り付け、釣り糸を垂らす。


 鬼の里は海沿いにあるため、海での釣りは何回もしたことがあるが実は川は未経験なのである。とは言っても釣りは釣り。大丈夫だろうと呑気に頬杖をつきながらあくびをする。


 サラサラと澄んだ川の音が耳に染み渡る。ただ黙って、ぼーっとなりながら獲物がかかるのを待つ。地味で退屈で、しかし釣りの醍醐味といえばやはりこれであろう。



 夏休みの宿題などは忘れて、俺は呆けた顔をしながら虚構を見つめるのであった。



「…………………………………ふわぁ」




 どれほど時間が経っただろうか。後ろを振り向くと、まだ調理セットの組み立てが終わっていないマーマンの姿が見えた。そこまで長い時間は経っていないのだろうと察する。


 何も意識してないと、一分一秒がいつもより長く感じる。だが、これも良いだろう。理解不能な授業が速く終われ終われ、と願っても微動だにしない時計の針を見るときの苦痛に比べたら遙かにマシだ。



 と、その時に釣り竿がグイッと下に下がった。獲物がかかった。決戦のゴングが今鳴り響く。



「うおおおおお!」



 文字通り死に物狂いで抵抗する魚、全力で釣り上げようとする俺。魚と言っても舐めてかかってはこちらが川に吸い込まれてしまう。


 釣り竿がギギギギ、と悲鳴のように不吉な音を立てる。耐えろ、耐えてくれ!やっぱ安物じゃなくてもう少し良いやつを買ってこればよかったと今更後悔しても遅い。



 こうなったら純粋な力比べだ!


 俺はダンッ!と石を踏み込み、決着をつける体勢に入る。



「うおおおおお、だぁ!!」

 


 勝利!圧倒的勝利!


 釣り上げられ宙を舞う魚に拳を向けガッツポーズ。達成感と脱力感に襲われ、空気が抜けた風船みたいに肩を落とす。



「……………きもっちいい………」



 これがいい、これが。


 脳内麻薬とは正にこのことか。父ちゃんが若い頃狂ったように釣りをしてた時期があったそうだが、なんだかその気持ちも分かる気がする。


 ふっ、血は争えんな。




「喜んでるところ悪いでござるが、そのまま地面に魚放置してると痛むから速く回収してくれるでござるか?」


「あ、ごめん」






#######






 

「やった!やりましたカツジさん!釣れました!これ大きくないですか?」


「拙者も釣れたでござるよ。みよ、この大きさを!エルザ殿のやつよりいくらか大きいでござる。そんな大きさでぬか喜びしてるとは、まだまだでござるな」


「おっとこんなところにもっと大きな魚がいますよ」


「イダダダダダダ!冗談でござるよエルザ殿!ジョークジョーク、魚人ジョーク!」


(エルザってたまに黒いところ出るよな………流石サキュバス)



 その後は順風満々と進んだ。


 やはり魚の生息率が高いのか、面白いくらいに釣れる。最初の一匹を釣ったその後、簡易キャンプを立て終わったエルザが釣りに参戦。


 アキレスが帰ってくるまでマーマンも釣りを楽しんでいた。



 

「………………………」


「?。どうしましたカツジさん」


「あいや、友達とこういうことするのって初めてだから、ちょっと新鮮で」



 別に鬼の里に友達がいなかった訳じゃない。けど、彼らに関しては友達ってよりかは家族って感じが強かったため、生まれも育ちもまるで違う、一から作った友達と一緒にのんびりするのは俺にとっては新鮮に感じる。



 エルザはそんな俺の発言に、「そうですねー」とマーマンを締めながら相づちをうつ。



「私も実はこういう経験無くて………とても楽しいですよ」


「流石ぼっち」


「ぼ、ぼっちじゃないです!元ぼっちです今は友達たくさんいますー!」


「……………………」




 ……あえてツッコまんとこ。




「おーいアキレスさんが帰ってきたぜぇー。こいつを仕留めるのにちと時間がかかっちまってな。まぁワイルドは俺は何事もなく仕留めたけどな」


「おうその土まみれの服は見なかったことにしてやる。………で、何をとってきたの?」


「安心と信頼のイノシシ先輩だ。サバイバル生活においてイノシシ先輩は超重要食料だからな。味わって食べろよ!」


「…………お前何でイノシシにそんな苦戦してんの?」


「イノシシでござるか………んー、よし。煮物にでもするでござるか」


「わーい煮物ー!」


「なんか少し場違いな気がします………」




 確かに。けど、美味しいなら何でもいいや。


 マーマンが調理場へと向かい、手伝いの為にエルザがその後をつけていく。アキレスはどっこいしょと、おっさんのように俺の横に座った。


 

 一仕事終えたようなスッキリとした顔で、息を溢す。



「久しぶりに狩りとかして楽しかったわー。最近は食堂のぬるま湯に浸ってたからか、少し苦戦しちまったけどな。カツジもどうだ?一緒にワイルド狩人目指そうや………!」


「狩人を目指す気はないが、少しやってみるくらいなら興味あるかな」


「よーし決まりぃ!来週にでもまたここ来ようぜ!俺が手取り足取り教えてやんよ………結成!ワイルド・ハンターズ!」


「ダサい!」




 と、会話を弾ませていると。


 ギギッ!と釣り竿が今までにないくらい勢いよく下がった。これは大物の予感。ゴクリと喉を鳴らしてから釣り竿の持ち手を握り締めた。


 

「………ぬっ!?」



 つ、強い!いくら力を入れてもびくともしない。気を抜くとこちらが水に吸い込まれてしまう!というか実際引き寄せられてる!!


 こいつは今までの魚とは一線を画したパワーを持っているようだ。



「ぐぬぬぬぬぬ」


「ふっ、力を貸してやるぜカツジ。三枚下ろしにしてやろうぜ!」


「アキレス………よし、行くぜ!」



 竿を握る手がもう一つ追加され、二人分の力で対抗する。負けじと魚の方もフルパワーのようだ。二人分の力でも中々釣り上がらない。



 ここは奥の手だ。鬼の里で培った技術を見よ!



 俺は持ち上げる腕に少し変化球を入れ、一瞬だけ左右に竿を振る。こうすることによって一方向に力を入れていた魚のバランスを崩すことができる。


 すると、少しずつだが魚の体力が減ってきたのを感じる。手応えあり!



「「うおおおおお!!」」



 そして俺とアキレスは全身全霊を振り絞って、竿を天高く振り上げた!

 


 

「よし!よし!釣り上げたぜー!」


「きっと大物に違いないよ!早速大きさ計ろ………う……ぜ…………」


「ん?どしたカツジ。もしかして世にも珍しい超ワイルドな魚だったと…………か?」




 俺達は目を疑った。


 激闘の末釣り上げたのは、期待通りの大物でもなく、ワイルドな魚でもなく。


 深紅に輝く鱗、薄ピンク色に透ける美しさヒレ、この世の美を煮詰めたようなそれは、見る者全てを誘惑し虜にする。


 腰まである長い黒髪で二つの輪っかを作った双髻そうけいと呼ばれる髪型に、白い柔肌、鱗と同じ深紅色の瞳を持つ――――――




「もぐもぐ、ちょっとこの、もぐもぐ、針、もぐもぐ、とってくれないかしら」



 人魚が釣れました……………


 


 

 





私、実は魚釣りは一度もしたことがないので「何となくこんなんかな」って感じで書いてます。間違った釣りの描写があったらすみません(;゜д゜)

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