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1   綺麗な川はテンションが上がる



「アッッッヅヅヅヅヅヅヅヅぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」



 俺の雄叫びというか悲鳴に驚いた鳥たちが木からバサバサと飛び立つ。ザワザワという木々の揺れる音が、静かで小さな山に響き渡る。しかし俺はそんなことを気にしている余裕などなかった。



 今にも右手が内側から破裂しそうだ。感覚で言えば、血液の代わりにマグマが流れ込んでるような、そんな感じ。つまりは意味不明なほどに熱い。熱いというか痛い。



「氷!氷!速く冷やさないと…………あれ。ない………持ってくるの忘れた!?」



 ガッデム!生命線である氷を忘れてしまった!!通りで今日荷物が軽いなと感じた訳だ!というかその時点で忘れ物してるとか気づけよ俺ぇ!



 散々頭を掻き毟ったあと、俺は電気が抜けた機械みたいに大人しくなった。諦めて人力で冷やそう。



 ところで何で俺が一人でこんなことをしているのかと言うと、それはいつぞやの『アキレウス・ヘパイストス』の練習である。



 俺は裏組織『目白鮫』と爆撃熊との戦いのあと、魂壊変こんかいへんという『魂』に直接介入し、攻撃する技を何者かから受けた。


 吹き飛んだ俺の魂の埋め合わせの為に、今も鬼神のやつが頑張っている。なら、俺にできることはなんだ。そこで考えたのが、鬼神と魂が混合した際に見た記憶の中にあったこの技だ。



 全ての厄災から身を守り、全ての傷を癒し、『魂』さえも修復する人間では到底辿り着けない秘術。



 もちろん、犯人を捜し倒して俺の『魂』を修復してもらうことも考えなかった訳ではない。………が、だ。犯人の顔は愚か名前すら知らない人間をどうやって探せばいいのだ。


 そもそも動機は?奴は『魂』を壊すだけで修復できる保障はないんじゃないのか、と散々考えた結果、この技に最後の望みを託すことにした。



 

 前に白猿といざこざあった日から、定期的に訪れてはここで練習している。ま、上手くはいってないんだけどね。今だってこの様だ。


 けど、少しやってみただけで気絶してた以前よりかは意識を保っていられるのでこれは成長なんじゃないか?



 やっていく内にとある収穫(・・・・・)はあったが、多分使うことはないだろう。いつ使うんだって話だしな。




 何故できないのかと問われると、…………分からない。何か、決定的に、大前提が足りてない気がする。鬼神の断片的な記憶と俺の知識ではそれに辿り着けない。


 そもそも、アキレウス・ヘパイストスとは本当に身を守るような魔術なのだろうか。もしかしたら、身を守るとは自己防衛的な攻撃という意味合いなのかもしれない。『魂』さえも修復するというのも、自分ではなく他人にしか作用しないのかもしれぬ。



 

 クロウリーのやつに聞いてみても、「は?何それ知らん」と速く帰ってくれと言いたそうな顔をしながら言われた。一番魔術に精通しているあいつにこう言われたらお手上げだ。



 望みがあるとすれば、鬼神の知り合い、鬼神レベルのゲテモノと遭遇すれば…………いや、それはもっと望み薄だな。あんなのがポンポンといてたまるかってんだ。 

 


 なんか疲れた。少し休憩してからにしよう。


 俺は居心地の良さそうな場所を探し始めた。何回もこの山に来ては練習を重ねているが、詳しい地形は知らない。前に上まで登った程度だ。


 何か、こう、夏の一時を味わえる山の秘境的な。もっと具体的に言うと夏にみんなで集まってワイワイするもよし一人で自然を感じながらゆったりするのもよしの、知る人ぞ知る的なあれだよ。



 とにかくそんな感じのところに行きたい!俺は練習そっちのけで探し始めた。想像を膨らませるとテンションが上がったのだ。




 俺は徐々に進みを速くしていった。見渡す限りの木、木、木。奥に進めば進むほど高さは増して、日光の光が届かずに暗く不気味な場所になっていた。


 しかし、暗いからこそいい。地獄に天から注いだ蜘蛛の糸のごとく、木と木の間にできた大きめの隙間から差す日光は実に風情がある。


 他にも、涼しい風、和気あいあいとする動物達、木と地面から生えたおっきなキノコだったり、一人でも力強く生きる一輪の花。



 自然の良いところ詰め合わせセットがそこにはあった。ヒョウゾウじいちゃんを連れて行ったら、一日中詩を考えてそうだ。



「……………そういえば、みんな元気かなぁ」




 俺が鬼の里から出て行ってから3ヶ月くらい経った。たかが3ヶ月、されど3ヶ月。里の外にほとんど行ったことのない俺にとっては何もかも新鮮で、けどちょっぴり怖い経験だらけだった。



 まぁ実際初日からお腹に刃物突き立てられたり、御守りにしてた数珠繋ぎがただの呪いアイテムだったり、変な天使とレースしたり、初めての女の子の友達ができたり、不良と一緒に裏組織に乗り込んだり。



 まだ3ヶ月しか経ってないのに、こんな波瀾万丈の生活だ。学校を卒業するまでに俺はどれだけのトラブルに巻き込まれるのだろうか。



 けど、ちょっぴり楽しみだったりする。里でみんなと暮らす生活も幸せだったが、こっちもこっちで結構良い物だ。退屈がない。


 次はどんな人に出会って、何をするのだろう。多分予想を大きく上回ることばかりだと思うが、想像するだけで楽しい気分になる。



 この3ヶ月を振り返りながら歩いていると、ざぁー、ざぁーと川の流れる音が聞こえてきた。



「………音の方向は………こっちか」



 耳を澄ませ、川の流れが聞こえる方向へまっしぐら。木々を抜けると、予想通り河原があった。しかも結構広い。


 踏みしめる度にガシャガシャ言う石の地面。ギラリと輝く太陽の光に照らせれ、キラキラと輝く美しい川。



 

「おぉ、これだよこれ!探し求めてたやつはよぉ!」



 テンション爆上がりな俺。子供のように走り出し、靴を脱いで川に足を入れてみた。瞬間、優しいひんやりとした冷たさが足を覆った。



「くぅぅ!冷たい!けどいい!………あ、これなら手冷やせるかな。―――冷たい……けど、辛いヒリヒリから解放されていく気がする………」



 手を十分に冷やした後、手頃な石の上に座って足だけを川に浸からせる。特に意味はないがばしゃばしゃと足をジタバタさせ、楽しんだ。



 そして、ふと俺は水中で蠢く何かを発見した。


 魚だ。



「意外とおっきいな……ん?あそこにもいるな。ここにも。あ、あんなところにもいた」



 どうやらここは魚で溢れているようだ。しかも多種多様。どれがどの魚なのかは分からないが、色目が違ったり大きさが違ったり入っている線が違ったりと。


 

 とりあえずいっぱいいたのだ。



 美味しいそうな魚に目が釘付けになる。すると、俺のお腹からぐぅぅぅと獣の咆哮が聞こえてきた。



「……………お腹に空いてきた」


  

 じゅるり、と涎を垂らし目を光らせる。



「ふっふっふ。鬼の里は海が近いこともあって漁業が盛んなんだぜ?潜り漁だってしたことある。こんな浅瀬で俺から逃げられると思うなよ!」



 ジュバッ!と鮭を取る熊のように魚の背後から近づいて鷲摑みする。



 一発!瞬殺!勝負ありぃ!え?不意打ちだって?弱肉強食だぞ舐めんな。



 俺は適当に枝を集めて『爆』の魔術で火を起こし魚を焼いた。塩コショウとかは特にない。だって持ってきてないから。


 だが長年の漁生活をしてきた俺の勘が言っている、こいつはいけると。



 この身の引き締まり、弾力、色合い!何をとっても高得点だ。恐らく味付けしなくても大丈夫だろう。久しぶりにこんな魚に会った気がする。そろそろ良い感じに焼けてくるな。



「いただきます!!」



 両手を合わせて、食材に感謝を述べる。焼き立てほかほかの魚にかぶりつき、よく噛んで味わう。



 予想通りだ。美味い。



 感動の余り涙が出る。もちろんマーマンや食堂のおばちゃん達が作る料理も美味いが、それとは違うこの野生感。堪らない。




「………………………………!!!」





 その時、俺の頭に神が舞い降りた。


 いやまぁ俺の中には実際に神様がいるが、そこは置いておいて。グッドなアイデアを閃いてしまった。夏の一時の思い出、是非とも皆で作ろうじゃないか。



 魚を食べ終わり、練習を何回か重ねた後俺は街に戻って早速行動を開始した。







 

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