8 穏やかにはいかないバイト
カツン、カツンと岩を削る音がカラカラ鉱山内に響き渡る。エルザは上機嫌にサキュバスのしっぽを振りながらピッケルを振り下ろしている。
彼女はこういう労働が好きなのだろうか?それとも金にがめついだけなのか。
そんなことを考えつつカツジもピッケルを振り下ろす。
カツン、カツン、カツン、カツン。
「やはり変じゃな」
先程からカツジはある違和感を感じていた。体がいつもより重い。重いというより、動きが馴染めない。火柱を起こした時も加減をしたつもりはなかったが予想以上に威力がなさすぎた。
こんなことは一度もなかった、何が起こっている。
そんなことを考えていると、横からエルザが話しかけてきた。
「そういえばカツジさんはどうして『アナスタス』に行こうと思ったのですか?」
「知るか、それは依り代となったこの小僧に言え。まぁもっとも、こやつの精神は死んでいるから意味はないが」
「またその依り代だとか小僧とかって。自分のことを鬼神ミオだとか自称したり、いくらカツジさんがキネイエを倒せるほど強くても神様を自称するのは罰当たりてすよ」
「あーはいはい、そうじゃなそうじゃな。お主には理解出来ない次元じゃったなごめんの」
エルザは軽く受け流され不満そうに頬をふくらませる。すると、ガトッ、とピッケルに何か硬い物が当たる音がする。
カツジはそこを掘り進めると、目的の鉱石にありついた。
「おお!やっと出てきましたね。これは……やりましたよカツジさん!エルカル鉱石です!記念すべき一つ目ですね!!」
「そんなはしゃぐことでもなかろうに。ほれ、これはお主にくれてやる。ありがたく思えよ」
「え?いいんですか?カツジさんが掘り当てたものですよ?」
「お主には貸しがあるからの。この儂がやると言っているのじゃ速く受け取らんかい」
「は、はい!ありがとうございます!」
そう言ってエルザはエルカル鉱石を手に取ろうとする、その時だった。グニャリ、とエルカル鉱石がねじれた。
「「――――――え」」
見事にハモった。そのエルカル鉱石は二人が呆気に取られている間に目を見開き、口をカチカチと鳴らし、そして。
「ウキャァァァァァァァァァ!!!!」
凄まじい爆音で鳴いた。二人は耳を塞ぐ暇もなく間近で爆音をくらってしまう。さすがのカツジでもこれはキツイ。キンキンと脳に響き、鳴き声というよりは一種の超音波に近かった。
するとその超音波をキャッチした、仲間と思わしき生物がワラワラと壁や地面から出てきた。見た目はこのエルカル鉱石もどきと似ており、色は銀や金、青色と多種多様だった。
「――――――ぶぶ、あ……」
「おいお主、しっかりするのじゃ!」
「はっ!!す、すみませんカツジさん………。気絶しかけてました。――――――この鉱石はエルカル鉱石なんかじゃありません、鉱石もどきです!金属を主食としその金属に擬態することで天敵から身を隠します。そして大きな特徴はその鳴き声のような超音波です!短い範囲ですが脳に響かせる爆音のような超音波を出します、しかもそれで仲間まで呼ばれてしまいました!?」
「流れるような解説ご苦労、なるほど鉱石もどきとは、そのまんまじゃな」
鉱石もどき達はカチカチと歯を鳴らしこちらを威嚇している。キーキーと不気味に鳴く声が、カツジの後ろで隠れているエルザを身震いさせる。
しかしカツジは彼女とは相対的に、余裕の笑みを浮かべていた。
「はっ!どうやらこの従者は随分怯えてるようだが、儂はどうってことない。鬼神たるこの儂が貴様らに怯えをなすとでも?プークスクスクス、貴様らなど儂にとっては赤子同然いや、赤子以下、っていで!?!?」
すると突然、鉱石もどきの一匹が予備動作もなくカツジの手に噛み付いた。しかもかなり深く牙が突き刺さってる。
「このッ!!!」
腕ごと壁に打ち付ける。カツジの攻撃に壁が削れ、鉱石もどきにダメージを与える。さらにもう一発ドカッ!と拳を叩き込み、鉱石もどきを絶命させる。
「――――――くたばったか。ったく、最近の鉱石は野蛮になったものじゃのう」
そう息をついた瞬間、
「いでっ!?!?まだ生きてるのかこの野郎!!
カツジの攻撃をもろともせず尋常じゃない生命力であらがってくる。そんなカツジに追撃するように仲間の鉱石もどきが次々に噛み付いてくる。腕、足、腹、そして大事な角まで。
その時、カツジの怒りが沸点に達した。
「この低級魔獣どもめが!!この鬼神たる儂の角になんてことを……!!灰も残らず焼き払ってやるわい!!文字通りなぁ!!」
「駄目ですカツジさん!!またあの攻撃にするつもりですか!?鉱山が吹っ飛んじゃいますよ!!」
「ぐぬぬぬぬぬ!!!これならどうじゃ!!はぁぁぁぁぁぁ………」
全身に力を込め、エネルギーを身体中に流し込む。乱暴に放出されたエネルギーは熱となりカツジの周りに漂い、鎧のような役割を果たす。
「ぬおぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁああ!!!」
「暑い、暑い、熱い、熱いですカツジさん!!肺が、肺が焼けちゃう!!」
「ぬ?」
気がつくと通路が焼き焦げていた。少々やる気を出しすぎたかも、テヘペロ☆
体に噛み付いていた鉱石もどき達はすぐに退散しどこかに行ってしまっていた。
噛んだあとがヒリヒリする、こんな雑魚にここまでされるとは。というか、何故自分が「痛い」と感じるのか?
………まぁ細かいことは気にしないでおくか。
そんなことを考えていると汗だくになったエルザが近寄ってきた。
「暑い……そして熱いです……。ほんとに規格外ですねカツジさん。作業服が少し焦げてますね……」
「ハハッ☆すまぬすまぬ。それより作業に戻るか、ほれピッケル」
「おっとと。あ、ありがとうございます」
適当に返しピッケルを彼女に手渡す。作業再開、今度は鉱石もどきに出くわさなければいいのだが。
カツン、カツン、カツン、カツン……………。
ふとカツジは思った。
「……………なんか、非効率じゃな」
「ん?どうしましたかカツジさん?」
「なんかこう、ドリルとかないのかの。もしくは………えーと………とりあえず機械じゃ」
「んー。ドリル……あー確か他の作業員の方が持って行ってましたね。私達はバイトの身分なので、大人しくピッケルで掘ってろっことらしいです」
「ちっ」
深くため息をつき再びピッケルを振り下ろす。その時、カツジにある発想が脳裏によぎる。指パッチンをしてニヤリと笑い、
「ふん!いいこと思いついたぞい」
「どうしたんですか?」
「従者、少しいや、結構儂から離れてろ」
「え?は、はい」
カツジは壁に手を向ける。エネルギーを掌に集中させ、形を繕っていく。それはどんどんと肥大化しやがてカツジの身長と同じぐらいの直径の球ができた。
その球は凄まじい熱を放出し、土を溶かしていく。
「はははは!!どんどん進むぞ!!ピッケルなんかよりこれじゃな。おい従者、儂が道作っとくからその端にでもある鉱石を取るんじゃ」
「え、えぇ!?いいですけど、それって鉱石も溶けちゃうんじゃ………」
「そこはぎりぎり溶けないように調整しておる。火の使い方だけは得意なんじゃぞ?そら進め進めー!!」
「ちょちょ待ってくださいカツジさ、熱!!あっつこの地面!!」
そう言って熱さなど気にせずカツジは突き進む。この熱なら鉱石もどきなどの魔獣をよってこないし、本物の鉱石ならぎりぎり溶けないぐらいに調整してあるからもったいないことにはならない。まぁ数十分冷やさないと火傷するけどね。
運動会の大玉ころがしのように火の球で道を開拓していく。目線を横にやるとたまに鉱石の輝きがちらほら見える。
今度こそ本物だ。後の金に胸を膨らませながらカツジは突き進んで行った。
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「大量です、大量ですよカツジさん!!」
「流石儂、天才的なアイデアじゃったな。ふ、自分の才能が怖い………」
その後、二人は鉱山内を走り回り大量の鉱石を手に入れた。二人はボックス5つ分の鉱石を鑑定場所に持っていきどのくらいお金が貰えるのか今か今かと待っている。
すると鑑定室のドアが開いた。
「お疲れ様です。それで、報酬は………」
「はい、これ今日の分ね」
二人は茶色の封筒を手渡され頭を下げる。
「ありがとうございます!!どれどれ……」
「お主って結構金にがめついの………。だが、気になるの!10万銭は軽くいっとるじゃないのか…」
封筒を開け、その真実を確かめる。その金額は……!!
1万銭の札が二つと五千銭の札が一枚入っていた。
二人は目をこらしもう一回見てみた。だが2万5千銭という事実は変わらない。エルザは口をパクパクさせながら鑑定士に問いただす。
「あの……これは…」
「君たちが持ってきたやつね、半分くらい鉱石もどきの死体だったよ。かろうじてある鉱石も焦げてるからアクセサリーとかには出来ないし、焦げてない鉱石もほとんど価値の低い鉱石だったからね。まぁ、ドンマイ」
鑑定士は二人の肩に手を置き、去っていった。
5000年眠ってたから忘れてたかもしれないが、世の中そんなうまくはいかないのだとカツジ、いや鬼神ミオは再認識した。