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17  騎士の左遷  その3




 …………………



「ふん。ふん!どうした!顔が暗いぞッ!もっと気合い入れて歩こう!ふん、ふん!」


「歩くのに気合い入れてたら疲れちゃいますよ…………」



 ただただ私は、こういう時どんな顔をすればいいか分からなくなってるだけだ。


 笑えば、いいと思うよ。そんな一言じゃすまされない状況だからだ。



 会って数十分の人に無理矢理連れてかれて、二人で街の見回りをしている。一応は私は部下で、この人が上司になるわけだが………。



 色んな出来事が一気に起きすぎて疲れてるのかもしれない。まだ午前中だと言うのに。



「随分と不安そうな顔だなッ!そんなにうちの部署に入るのが嫌だったか!?」


「い、いえ!そのようなことは決して………決して………けっ………」


「ハハッ!無理もない!ウチは悪評で有名だからね!俺の部下は全く、ダメなやつばかりだなッ!」



 流石にバレていたか。そういう態度は出来るだけ隠していたつもりだが、見透かされてしまった。



「伊達に長年隊長やっていないのでね!君の考えてることくらいは手に取るように分かる!あ、別にランスロットみたいな変な言い回しとかじゃやいからな!」



 お気楽に、天に声を大にして言う隊長。



 うん、まぁ、ぶっちゃけて言うと今すぐにでもラプラスの町に戻りたい。あの謎自己紹介を見ただけでだけで悟った。私はここでやっていくのは無理だ。



 女たらし、不審者、口悪少女に加え、かろうじて常識人はいるが、その隊長が一番危なそうなんだもん。まるで変人の巣窟。いつかツッコミのし過ぎで過労死してしまう。



 しかし隊長は私のそんな不満不平に気付いていながらも、笑って話を続ける。



「なぁに!心配することはないさ!何だって君は、我らが太陽突撃隊に配属されたエリートなのだからねッ!」


「……………え、エリートですか」



 私がここに来た理由は、戦犯判決を食らったからだ。騎士としての役目も果たせずに返り討ちにされ、町に大規模な被害を与え、何一つ役に立つ結果を残せなかった………。



 その時にいた全責任は私に押しつけられた。だから私はここにいる。まぁ罰則を受けたり騎士免許を剥奪されたりするよりかはまだマシだったのかと思う。


 そこは多分、署長とかが色々上に言ってくれたんだと思う。感謝してもしきれない。ここに飛ばしたのは許さないけど。




 とにかく、そんな私がエリートなはずがない。騎士免許の取得が女性で最年少だったからと言って、少々舞い上がってたのかもしれない。




「次に君は!『私はエリートなんかじゃありませんよ』、という!」


「……………………………はい?」


「そこは言うところだよ!ほら!言って言って恥ずかしいからッ!」


「わ、私はエリートなんかじゃありませんよ……?」


「ところがぎっちょんびっくり花丸ハッピーなお知らせ!実はそれは間違いです!君は紛れもなく優秀だ!」


「い、一体どういう意味でしょう………?」


「まずそもそも、太陽突撃隊がこの国の騎士達の左遷先であるという前提が間違いだッ!新入りルカくん!ずばり聞こう、太陽突撃隊とは何だと思うッ!?」


「それは………えーと、それは………」




 そう聞かれると、フワッとした情報しか出て来ない。少数の特殊部隊であり、あと変な人達がいる。悪評。という断片的で、噂が独り歩きしたような知識だけだ。



「太陽突撃隊とは、普通の騎士では行うことが出来ない、または難しい任務をこなすいわば仕事の押しつけ場だ!」


「なんかそれ良い言い方ではないような………」


「話は最後まで聞く物だぞ!普通では『出来ない』ということは、我らはそれを『出来なければならない』と言うことになる。それ即ち、我らがそれを出来るだけ力があると言うわけだ。簡単に言っちまえば実力だけはある!と、言うことだ」


「………と言うことは、私にはその資格があると?」


「然り!!君が来る前に少々資料に目を通したが、君はどうやら自分が戦犯判決を受けたからと思っているようだね。しかーし、違う。全くの逆、180度回転!

 君は、爆撃熊の全く予期していなかった奇襲の被害を最低限にまで抑え、怪我人はいたものの死者を一人として出さなかった!これは過去の爆撃熊関連の事件から見て、素晴らしい快挙、偉業なのだよルカくん!!」


「―――――っ」



 ゴクリ、と思わず唾を飲み込んだ。


 隊長の言うことが、信じられない。自分は昔から普通で、大した結果なんて残したことがない。そんな自分が偉業を達成しただって?


 そんな馬鹿な。と、呟きたくなるが隊長の確信を宿したその瞳を見ると、中々否定出来ない。彼は本気で私のことを、出来る奴と思い込んでいる。




「前の部署になんて言われたかは知らないけど、心配することはない!我々は君を温かく、大いに歓迎しよう!太陽突撃隊はホワイト部隊です。命の保証はしないけどね!はっはっは!!」


「………………申し訳ありません。隊長」


「どうしたッ!そんなに深々と頭を下げて」 


「私、誤解していました。太陽突撃隊は無法地帯荒くれ者ゲス野郎頭のおかしい職場だって」


「言い過ぎじゃない!?」


「けど、違いました。隊長は不安でいっぱいな私を励ましてくれて、トリスタンさんも優しそうで、他の三人はまだよく分かりませんけど、多分いい人だと思います。そんな人達を、私は偏見の先入観に飲まれて疑っていました。本当に、申し訳ありません」


「いやいやいや………そう言われると照れてしまうなッ!私の赤く赤く燃え上がる炎が更に燃えてしまいそうだよッ!」


「……………隊長、燃えてます」


「え?何だって?」


「あの、頭燃えてますけど……………」




 隊長はあっけらかんな顔をして手を頭に乗せる。とんでもない熱が隊長の手に伝わり、燃え上がる。


 

「何じゃこりゃぁぁぁぁ!?!?!!」




「キャー!!通り魔よぉぉ!!」




######





 この世界において、通り魔とは二種類ある。



 一つは、通りすがりに全く縁の無い人を害する悪人。この場合、多くがナイフや包丁と言った刃物で突然人を襲うケースだ。


 通り魔が現れたら、騎士は真っ先に駆けつけ、被害者の治療及び加害者を捜索、逮捕する。まぁ当たり前のことだ。



 そして二つ目。この場合、通り魔の「魔」とは、魔術を行使するという意味での通り魔だ。前者と後者の違いは、凶器が物理的な武器か魔術か、たったそれだけ。



 しかし後者の通り魔は厄介なことに、地味に手練れであるケースが多い。まず、魔術を仕える時点で厄介だがそこに殺傷能力があるほどのエネルギーを持つ魔術を使うとなると、相手はただのチンピラなどではない。


 侮っては決していけない。


 相手を必要以上に刺激すれば、人民や建物への被害が生じる。しかも相手は中距離攻撃を仕掛けるので、基本的に剣一本の騎士じゃ手出ししにくいのだ。




 そして今回はなんと、後者の通り魔である。



「何!?通り魔………!?」


「どけぇ!どけぇ!ぶち殺されてぇのか!!」




 男の怒鳴り声が聞こえる。声の方向を振り向くと、高級そうなバッグを胸で包み込み、火の魔術をばらまきながら走る男の姿があった。



 状況から見て、強盗を行い逃走をしていると言った感じか。



「隊長!」


「行きなさい!今すぐにッ!私の頭はなんとかするから!君が優秀であることを私に見せつけてくれ!」


「はい!!」



 私は一目散にその場を駆け出した。


 地味に相手の足が速い。魔術で筋力を強化しているのか?このままでは逃げ切られてしまう。回り込まなければ。



 相手は巻き込める人間がいることを分かっていて、あえて人通りの多いところを選んで逃げている。路地裏などに入られる可能性は低い。そのうちに近道をして相手の行き先に回り込む。



 あ、でも私王都の地理とか全然知らね。



 しまったぁ!なんてタイミングだ!!どうする!?他の騎士の人達が来てくれるのを待つか!?



「そこの騎士のお姉さん。近道なら僕達が教えてあげようか?」


「うおっどあぁびっくりした!?」




 この騒ぎにも動じず、暗殺者アサシンのごとく全く気配を感じさせない褐色の少年がそう言って来た。



 思わず変な声が出てしまったではないか。




「近道を知っているのかい!?」


「当たり前さ。ここらの路地は全て僕達悪ガキの領域だからね!ついてきな!」


「あ、ありがたい!!けど、どうして私が近道を探していることが分かったんだ?」


「お姉さん、ここじゃ全然見ない顔だしな。状況が状況だし、悪ガキなめんなよ?さあこっちだ」




 最近の子供はこんなに賢いのか………。


 呆気にとられつつも、私は少年の後をついていく。少年は迷う素振りを一切せずにどんどんと進んでいく。



 速い、速いよ!こんな不安定な足場をどう進んでるんだ?



 あっという間に路地を抜け、人目の多いところに出た。すると、件の通り魔と目があった。



 ビンゴ!ナイスなタイミングだ!




「観念しろ!騎士だ!大人しく手を上げ、降伏しろ!」


「ちっ!!ナイ公がもう来たか!」


「そうだナイ公だ………ナイ公って何?」


「黙れ!少しでも動けば、ここら一体を滅茶苦茶にするぞ!」



 通り魔が右手を掲げ、火の弾を作り出す。民衆がザワザワと騒ぎ出し、パニックが起こる。



「やめろ!母親が悲しむぞ!そんなことをして、何になると言うのだ!」


「お袋は俺と同じことして捕まったから多分悲しまねぇぞ」

 

「えぇ………」


「だが俺はお袋みたいね間抜けは晒さねぇ。見ろ!このエネルギーの塊を!少しでも刺激すれば、ここら一体は消し飛ぶ!俺を無理にでも捕まえれば、どうなるかな………?」


「くっ…………貴様」




 男が作る火の弾がどんどんと膨張する。魔術に詳しくない私でも、あれは爆弾にも匹敵する危険物であることは肌で感じる。



 距離は大体10メートル。近づけない距離ではないが、その間にあれが爆発してしまう。一瞬でも隙を作れば今すぐにでも奴の横っ腹に剣をぶち込んでやりたいところだが………




「へっへっへ…………」




 勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる男。魔術を扱える奴にとってここら一体の人間は全て人質。


 人質、そう、騎士が最も苦手とする存在だ。卑劣で卑怯で誇りの欠片もない。相手への怒りと、こんな時にろくに動けない自分に苛立ち歯ぎしりを立てる。



 何か、ここから一発逆転ができる何かはないのか………?



 その時、一つの謎の影が男の背後に回り込んだ。



「おじさん♪」


「なっ、ガキいつの間………に………?」



 男が視線を落とす。


 腹をさすると、じんわりとした触感が男の手を包み込み、紅く血みどろした液体が見えた。



「お前はもう、死んでる」


「がっ、あぁぁぁぁぁぁああ…………?あれ、痛くない………?」


「お姉さん!今だぜ!」


「少年!!」




 犯人は、さっきの暗殺者気質の少年だった。


 驚きつつも、私はこの一瞬を、男が魔術を解除したこの刹那を見逃さなかった。一瞬で距離を詰め、奴の溝うちに鞘付きの剣を突き刺した。



 男が怯み、そして抵抗出来ないように両手を後ろに回せ押し倒す。



「観念しろ!貴様を逮捕する!!」


「くそ、このガキぃぃぃ!!!」






######






 事態は見事に収束した。

 

 頭の火を消して戻ってきた隊長と共に通り魔を送検。被害者は一人もおらず、建物への被害をなども最小限で済んだ。



 隊長の真っ赤な髪の毛が真っ黒焦げになってしまったのは悲劇だったけど…………(次の日治った)



 それで、だ。



「改めて礼を言うよ。本当に助かった、少年。まさかあのアサシンスキルをあんなところで使用するとは」


「へへ!僕、役に立てたかな?あれおもちゃのナイフとトマトを使って演出したんだぜ?凄いだろ!」


「あぁ、恐らく君でなければ出来なかった芸当だろう。不甲斐ない私の為に頑張ってくれて、ありがとう。………でも」


「でも?」


「あんな危険過ぎることはもう二度としないで欲しい。君は騎士なければヒーローでもない、ただの子供だ。自分の命を無下にするような行為はやめてくれ。それは私達の仕事だ」


「…………うん。ごめん。―――ならさ、僕、騎士になるよ!そうすれば、危険な目にあっても怒られないでしょ?」


「それは屁理屈というのだぞ…………」


「でも、俺の特技を有効活用して人が助けられるってんなら、僕は頑張る。見てろよ!絶対にお姉さんを超える騎士になってやるからな!」


「……………そうか。なら、今から鍛錬しなくっちゃな。よく食べてよく寝てよく運動してよく勉強する。まずはそれからだ」


「うん!!じゃあね!」




 未来の騎士様は笑顔を最後まで振り撒きながら走っていった。


 何だか変な気持ちだ。何というか、ムズムズする。私は結局自分の力で通り魔を押さえつける事が出来なかった。隊長にあんだけ意気込んだのに………。



 そんな私が、彼の憧れの対象になられても………うーん。素直に受け止めるべきか、否か………。




「はっはっはッ!別に一々そんなんで悩む必要ないんじゃあないのか!?素直に受け止めるべきだろうッ!」


「はぁ………そうでしょうか」


「アホ。ルカはな、まだ若くてデリケートやねん。色々考え込む時期なんや、そっとしといてやれや」


「しかしだなトリィ!隊長として部下の悩みを聞いてあげるのもまた仕事だッ!俺より常識ぶってくるくせに、上に立つ人間としての自覚がまだ足りないなッ!」


「なんでこういうときだけは頭回るんやお前は!」


「ルカよ!騎士だからといって、いつでも成功するわけじゃあない。失敗して被害を出すこともある。犯人を捕まえられない時もある。下手すれば死人を出してしまう時もある!だが、理想の自分だけは忘れてはいけないぞ!!」


「理想の………自分………?」



 突然の言葉に、少々喉が詰まってしまった。理想の自分か……昔はかっこよくて、強くて、誇りのある騎士に憧れていたが、今は何だか無理な気がしてきた。



 結局何処かでやらかして、実力も中の下で、誇りと言ってもその本質をまだ十分に理解してるとは言い難い。



「そうだぁ!!理想の自分!例え遠く離れていようとも、手が届かないとしても、絶対にいなければならない己の指針!!君は自分に自信がないのかもしれないが、別にそれでいい!迷うときもある。それが人間ていうものだ。だが、迷っていても人民を大切し、騎士としての勤めを果たそうとした君の姿にあの少年は憧れたんじゃあないのかね?」


「…………そうですか」


「ならば!大切なことはひとーつ!彼を失望させないようにしなさい!君が作った若い芽を、君自身で潰さぬように努力しなさい。太陽突撃隊新入りルカくん、まずは君の目標はそれだ!ハハッ!!」



 

 自分で作った若い芽を、自分で潰さないように………か。自分も昔、似たような人がいた気がする。顔はもう覚えてすらいないけど、私が騎士に憧れるきっかけを作ってくれた人が。



 ならば、次はこっちの番と言うわけか。



「よし。何だかやる気出てきました。トレーニングに行って来ます!!」


「お、夜のランニングか!!ならば俺も付き合おう!!トリィ、ついてこい!!」


「えぇ………ま、ええけど」


「何っ!?夜のランニングで突き合い!?なんてひわ、げふん。私も同行しよう!待ってくれレディ!」


「くくくく………闇に紛れ、来るべき日の為に訓練を積む。憎しみ、憎悪、悪意、殺意を持ってなぁ………きひひひひ!!」


「(っ´ω`c)」











ガウェイン


青年とも、少年とも言い難い見た目をした太陽突撃隊の隊長を務める騎士。基本的には手のつけようのない馬鹿だが、仕事だけはきちんとこなす。



ランスロット


高身長イケメンイケボの三種の神器が揃った変態。太陽突撃隊の副隊長を務める。全ての女性は年齢関係なく彼の恋愛対象というねじ曲がった性癖の持ち主。しかし実力だけは国の中でも、トップ10に入る。



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