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7  サクライに行く前に


 カツジはサクライの近くの街にある小さな服店を訪れていた。何を隠そうこの依り代となった少年の服がボロすぎる。一体何処の田舎少年だろうか。



「ほほう、中々いいの店ではないか」


「あの、カツジさん?嘘ですよね?え、また私が払うんですか?」


「お主は儂の従者じゃ、ならばお金ぐらい少し払ってくれてもええじゃろ」


「あの、だから従者になった覚えはないんですけど……」



 服店に入りまずは入口付近の服をしらみつぶしに漁る。

するとかん高い声で店員が話しかけてきた。




「いぃぃらっしゃいませーお客様!此度はどんな服をお望みでしょうか?」


「とりあえずこのボロ服をなんとかしたい。そしてできれば高くない物が欲しいのう」


「それではこちらはいかがでしょう、お客様にお似合いですよ」


「ほう、なら試着してみるか」




 そう言ってカツジは服を手に取り試着室に入る。エルザは自分の財布の中を心配しながら待っていると、数秒後カツジが出てきた。



「ジャーン。どうかの、少々動きにくいが」



 足を動かし着た服を披露する。

 カツジが着てきたのはフード付きの青のジャケットに、肌色のジーンズ、ニット帽をかぶっていた。



「んんんー悪くないですよお客様、こちらはどうでしょう」


「ふむ、すまぬな」



(………まずい、なんかすごく盛り上がってる。このままだと私のお金が………!?で、でも助けてもらったのは事実だし………)




カツジと店員で盛り上がってる中エルザは一人、葛藤する。危機感なのかサキュバスのしっぽがピクピクと震えてきた。


するとある一つの服がカツジの目に入る。



「…………学生服?」



 この世界では恐らく見ることはほぼないだろう学生服があった。カツジ、いや中の鬼神ミオには見覚えがある代物だが………



「おや、その服に着目するとはお客様もお目が高い。その商品は異国の地から伝わったとされる一品でして。どうします?」


「異国の地・・・・なるほど、少し着てみる」



数分後



「おぉ、中々悪くない。動きやすいし何より着心地がいいのぉ。買った!」


「ありがとうございます!!」


「んじゃ従者、あとは任せたぞ。店員、会計はそこの娘に」


「…………え?」



 そう言ってカツジは服を着たまんまに店を出ていってしまった。

 ギギギギと顔を横に動かし店員の方を向く。店員はニコニコした顔でじっとエルザを見つめると、



「それではお客様、12000銭になります」


「12000っ!?」


「はい、12000銭になります」



 恐る恐るエルザは自分の財布の中を除く。そこには1万銭の札が1つとちょうど3000銭の小銭があった。



「えと、あの、その……」


「12000銭になります」


「お慈悲を…………お慈悲を」


「12000銭になります」


「………………………………」


「12000銭になります」


店員の笑顔の圧に耐えきれずエルザは涙目になりながら払った。




#####



 時刻は昼を過ぎて2時らへん。気を落とし猫背になったままエルザはカツジの元に向かう。


「カーツージーさーん。もうサクライに行きましょう?このままだとお金がさらに減る気がします……。歩いて一時間ぐらいらしいので頑張りましょう?…………何見てるんですか?」


「ん?これか?すまぬがいかんせん字が読めなくてな。5000年で文字も変わってしまってる。なんて読むんじゃ?」


「文字が読めない………!?ほんとにどこから来たんですか!?…………どれどれ」



 壁に貼られていた紙はアルバイトの広告だった。



『鉱山の採掘アルバイト募集中!!採掘した物に応じて報酬もアップ!!詳しくはカラカラ鉱山の採掘拠点にて』



「カラカラ鉱山、この街の裏手にある大きな鉱山ですね。この国ではかなり大きな部類に入るそうです。最近高齢化が進んできたのか採掘仕事をする若い人が減っていてですね、働く人の4割が60歳以上の方なんだとか。この辺りには力が強い種族がいませんからね、大変なんでしょう」


「ふーん」


「確かに今はお金に困ってますけど、私たちはサクライに行かなければならないので……カツジさん?」


「儂は行くぞ。ついてこい従者」


「ちょちょカツジさん!?明日の学校はどうするんですか!?」


「知るか、学校なんぞ行ってられるか。それは依り代になった小僧の話であって儂には関係ない。それに、面白そうだからな。金もないし行ってみようと思う」



 そう言ってカツジはその場を離れていく。エルザはカツジの行動についていけず、口を開いたまんまその場で立ち止まってしまう。


 するとヒラリと先程の広告の張り紙が落ちる。拾ってその紙をじっと見ると左下にある文字が書かれていた。



『現在、エルカル鉱石の買取価格アップ中!一度に150000銭以上も夢じゃない!!』


「150000銭………!?」


 ゴクリと唾を飲み込み、そっと財布を取り出し振ってみる。聞こえるのはするのは軽くなった小銭の音と革剤の擦れる音だけ。


 ふと後ろに目線をやるとカツジはもうすでに見えなくなっていた。




#####




「いやー助かるよ。最近最後の若いもんがやめちゃってね、人手が足りなかったんだ。ありがとな!」


「結局来てしまった………お金の誘惑はこれほどに強力なのですか」


「遅いぞ従者。従者から小娘にランクダウンされたいのか?」


「もとあと言えばカツジさんがこんな高い服買うからですよ………ていうか、カツジさんが速すぎるだけです。どんな脚力してるんですか?」



 作業服に着替えたエルザは手を顔に当てうつむく。カツジは椅子に座り出されたお茶を飲んでいた。すると作業員のおじさんが話しかけてきた。



「来てもらってすぐで悪いけど、早速作業に移ってもらうよ。作業内容はいたって簡単。ただ掘るだけ。とりあえず掘って出てきた鉱石をこのボックスに入れてくれ、ある程度溜まったらこっちに持ってきてここにおいてくれ」


「分かりました」


「それと、万が一だがオニモグラやオニコウモリなどの魔獣に遭遇したら、すぐに俺たちに伝えること。無闇に戦っては駄目だ、いくら低級の魔獣とはいえ甘く見てちゃ足元すくわれるぜ」



 そう言っておじさんは行ってしまった。エルザは自身の頬を叩き気合いを入れ、ピッケルを手に持つ。



「さぁカツジさん!掘りますよ!!」


「さっきまで乗り気じゃなかったのに、急にやる気じゃな」


「これもカツジさんのせいですからね!仕事するなら徹底的にです!!カツジさんもほらピッケル持ってください」



 カツジ用のヘルメットとピッケルを手渡し、奥へ進んでいく。


 カラカラ鉱山。この国では2番目に大きな鉱山らしく、100年掘り続けても、取られた鉱石はこの鉱山にあるものの半分程度だとか。それに、今ならエルカル鉱石の買取がアップらしい。



 エルカル鉱石とは、深い緑色をしておりそれなりの魔力を施してるため外国との取引では欠かせないものらしい。綺麗なものだと澄んだ浅い緑色をしているらしく、そういう物はネックレスなどの装飾品に使われる。



 しばらく歩いているとエルザ達が掘る予定の場所についた。ピッケルを掲げえいえい、おーと声をはる。


 しかしやる気のエルザとは打って変わって面白そうと言っていたカツジは退屈そうな目をしている。



「…………どうしたんですか、カツジさん?」


「なーんか、思ってたのと違うなーと思って」


「はぁ……どんなのを想像してたかは知りませんけどさっさと始めますよ。よいしょ」



 少し呆れたような口調で言うと、エルザはピッケルを振り下ろす。


 長いようで短い、バイトの時間が始まった。





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