11 仲直り大作戦
ズルズルと千代女に街中引きずり回されて神桜樹までやってきた。
お尻が痛いです。服とか破れてないよね?ね?若干荒っぽいところがあるのは姉妹で同じなのか。
千代女が馬鹿デカい神桜樹の幹に座り込む。ポンポンと横の地面を叩いた。こっちに座れという意味だろうか。
お尻の砂を払い、彼女に続いて俺も座る。
「話を聞く前に、なんでここなんだよ」
「別にいいじゃない。デート先を選ぶのは女の特権よ覚えておきなさい。それに、なんだかここは落ち着くのよ。この木なんか登りたくならない?」
「いや、別に」
「反応悪いわねー、よく言われない?」
「正直って言ってくれよ」
そう言えば、巴を初めてこの街で見かけた時もこの場所だったな。彼女も木の上に乗ってた気がする。感性も姉妹揃って似てる訳か。
しっかし、何故あんなにも巴は千代女に敵意を向けていたのか。敵意を通り越して殺意にも見えたが。
「そうね。そろそろ姉上について話しましょうか。………元々、仲は別に悪くなかったのよ」
「そうなのか?」
「悪くなるほど会話をしなかっただけの話よ」
「お、おう」
「姉上は分かってると思うけど、基本的に無口だったわ。実の家族とも最低限の会話しかしないくらい。だから、仲が良くなる訳じゃなかったし、悪くなる訳でもなかった。けど、ある日を境に姉上と私は疎遠になったわ」
「……………どうして?」
「私が…………私が悪いのよ。何一つ姉上の気持ちを考えなかった私が」
「……………」
「知っての通り、姉上は途轍もなく不器用で凡才だった。それに対して私は非凡という言葉には収まりきらないほどの天才だったのよ!…………けどそれだけならまだいいのよ」
「と、いうと?」
「まぁ……そうね、簡単に言うなら、周りからの目、かしらね。私と姉上の両親は下級武士ではあったものの、それなりに戦で名を馳せた武士だったの。そんな両親から生まれてくる子なら、きっと両親と同じで才能に恵まれてるはずだって、当時の武士達は期待してたわ」
「…………なるほど」
「期待通り、私という天才が生まれてきたわ。ちなみに九月九日よ、覚えておきなさい。………話を戻すけど、天才は無事に生まれてすくすく育ちましたと………。けど、私と姉上は双子。二人とも期待の目を向けられたわ」
「……………あー」
「私が才能をどんどん開花させてく中、姉上は何もできなかった。お陰で両親は私にだけ気にかけるようになり、姉上とは疎遠になった。姉上はというと、期待という圧制、失望による孤独。どんどん姉上の心は傷ついていった」
「…………けど、それだけであんなに嫌われるもんなのか?殺すって言われてたぞ、あんた」
「そうね。私が、姉上唯一の物を奪ってしまったから………だから、私が悪いのよ」
「大切な物をっつーのは……………」
今までの話の流れから察するに、巴が唯一とするもの。それは…………。
「剣術か」
「それが決定打になったわ。あの日、私が気紛れに剣を握ったあの日から姉上は私に冷たくなったわ」
「つまり、嫉妬ってわけか」
「そうね。姉上のあの感情は、嫉妬以外の何者でもないわね」
そう言って赤いマフラーをギュッと握り締める
千代女は自称天才を名乗っているが多分本当だ。きっとクロウリーと同じタイプの人間だろう。何をやらせても完璧にこなしてしまう。
彼女の比較され、天才の双子の姉だからという理由で期待の目を寄せられ、落胆の声を浴びせられる。彼女にとってそれは辛かったはずだ。
巴が千代女を嫉妬するのも頷ける。
唯一、自分が妹と違って得意だった剣術も、結局は妹があっさり自分を超してしまう。人が虫を踏み潰すみたいに、今までの努力が水の泡になるように、簡単に、そして無慈悲に。
自分が妹には決して追いつけないことを理解してるからこそ、より一層彼女の闇は深くなっていった。
「…………三下」
「カツジだ」
「三下カツジ。あなたに折り入ってお願いがあるわ。天才からのお願いよ光栄に思いなさい。頼ってるってことよ。………姉上を負の感情から救ってあげて。姉上のことよ、きっと自分のこの感情がくだらない嫉妬心だって気付いてるはず。それはそれで誠実な姉上の心を更に締め付ける。今姉上は戦ってる………自分と。だから…………!」
「断る」
俺は千代女が最後まで言い切る前に素っ気なく言い放った。
「…………は?」
「いやだから断るって。聞こえなかったか?」
「違うそうじゃない………意味が分からないわ。姉上が心を許してるのはあなたしかいないのよ。あなたにしかできないのよ!?もしかしてあなたにとって姉上はその程度でしかないと………?」
俺の言葉に、千代女は静な怒りを声に宿して言い放つ。千代女の言い分はごもっともだ。端から見たら俺はろくでなしの人でなしに見えるだろう。
冷静さを失い、凶悪な犯罪者をも気圧されそうな目つきは、俺の脚を後退させようとする。けど、踏みとどまらなきゃいけない。面と向かって言わなきゃいけない。
「俺にあいつは救えない」
「……………そう、期待した私が馬鹿だったわ」
「あいつを救うのはお前だ。千代女」
「………………私が?」
「巴の闇は、お前が取り払わきゃ駄目だ。そうじゃなきゃ意味が無い。というか、そもそもこの問題はお前ら二人の問題だ。俺は自分がそこに干渉できるほど大層な存在だとは思ってない」
「無理よ!あなた姉上の顔を見たでしょう!?姉上にとって私は希望と平穏に満ちた時間を刈り取りに来た死神のようなもの………そんなの、そんなの」
「『ごめんなさい』って言葉が何であるか知ってるか。互いに謝って、仲直りするためだ。第三者が『あいつがごめんなさいって言ってたから仲直りしてくれ』なんて言っても仲直りする訳ないだろ」
「――――――――」
「お前が巴を救って、謝って、仲直りして、姉妹仲良くデザートとでも食べに行ってそれでやっと解決だ。お前らは家族で、姉妹なんだ。それぐらいするのが当然で、当たり前なんだ」
「……………」
「俺に巴は救えない。けど、お前らの姉妹喧嘩を終わらせる手助けならいくらでもしてやる」
「………………速くそれを言いなさいよ。まったく」
赤いマフラーを握り締め、そっと安心したような息を吐く。
誰も巴のことをどうでもいいなんて言ってないだろ、早とちりな奴め。俺は思う。巴の言葉は嘘偽りのない本心だ。あの怒りの叫びは彼女の思ってることそのままインプットしただけだろう。
家族を憎んで、挙げ句の果てには殺意に近い感情をも向ける。俺はそれが許せない。
家族ってのは唯一無二で、生涯絶対に大切にしなきゃいけない物だ。両親がどうでもいいなんて言わせない、妹を殺すなんて言語道断だ。
今、里を離れて親と文通すらしてない俺だけど、家族の温もりを忘れたことは一度も無い。巴だって忘れてないはずだ、家族の温もりを、尊さを。
それを記憶の底から引っ張り出してやる。
巴がこのまま負の感情を背負って生きるよりも、家族と支え合って笑い合っている未来の方が、俺は見たい。
「話は聞かせて貰ったぁぁぁぁ!!!先輩にまっかせっなさーい!!トォ!!」
すると、頭上から豪快でうるさい大声が二人の雰囲気を粉砕した。月夜に照らされ、神桜樹の枝から飛び降りたその正体は、
「みーなの先輩、イブキ先輩たじぇ!!」
「帰って下さい」
「酷!?せっかく来てあげたんだよ?もっと歓声を上げよ!」
「…………帰って下さい」
「何故二度も言ったし。ていうかーそもそもーここー私の家だしー」
「んあ?……………あぁ、あの神桜樹にある神社の巫女さんやってるの本当だったんですね」
「もしかしてコスプレだと思われてた………!?そんなことはどうでもいいんだよ。そこの忍者ちゃんと美少女ちゃん……侍ちゃんでいっか。の、仲直りに協力するという話だったな。私も協力してしんぜよう!」
「「……………………………………」」
「ん?何故黙るんだい?まるで信用できない阿呆でも見るような目じゃないか」
正にその通りですけど。
何なんだよこの人。急に現れて何を言い出すかと思えば………しかし、多分無策できた訳じゃあるまい。イブキ先輩にはイブキ先輩なりの考えがあるはず…………はず。
一応、聞いてみるとするか。
俺の気持ちを代弁するかのように千代女が先に口を開いた。
「何か考えがあるわけ?あなた、どれほど姉上のことを知ってるわけ?」
「ふっふっふ……………それを考えるのが君達の仕事だろう。私はそれを実行するだk……………おーっと残念だったな。ベリアルならともかく私に攻撃をしかけようなんて百年早いんだよー」
「っっぬぅぅぅぅ!!」
クナイで突き刺そうとした千代女の腕を簡単に掴んで拘束する先輩。ジタバタと激しく抵抗するが、先輩の腕は鷹の脚をのように千代女の腕をガッチリ掴んで離さない。
分かる、分かるよ。千代女が行かなかったら俺が行ってたところだもん。
「落ち着いた?」
「落ち着いたわ……………けどあのトカゲ野郎はいつか絶対目に物をみせてやる」
「よし、後で暗殺でもしに行こうぜ」
「いいわね。乗ったわ」
「本人の前でノリノリで暗殺宣言しないでくれるかなー?そんなことしてないで、ほらほら考えよう。私も頑張って考えるからさ」
誰のせいだ誰の!
………まぁ先輩の言い分もごもっともだ。今はくだらないことで喧嘩してる場合じゃない。話し合いの進行を優先しよう。本日二度目の作戦会議といこうじゃないか。
懸命に頭を悩ませ、レッツシンキングタイム。
「純粋にごめんね!じゃ駄目なの?」
「話は聞かせて貰ったんじゃ無かったの?そんなんで解決できたら苦労しないわよ」
「じゃあ、巴が千代女を超えてるってことを自覚させればいいんじゃない?手っ取り早く対決するとか」
「それもなんかねー。それって仲直りって言うのかしら。姉上の自己満足で終わっちゃいそう。互いに対等な立場でって感じのアレよ………」
「確かに………言いたいことは分からんでもない。じゃあどうすっか。二人温泉旅行でも行く?」
「ただただギクシャクするだけじゃない。余計嫌よ」
「二人で一緒に私に手料理を作る!」
「あんたが食いたいだけでしょ」
「でも、二人で協力するって案は良さそう………!」
「でしょでしょー」
「こう考えると仲直りって難しいな。ただの些細な喧嘩ならまだしも、積み上げられた物が違う」
「「「んーーーーーー」」」
その後一時間くらい話し合った。案を出しては、違うなー、違うなーとなり議論は激闘を繰り広げた。
「………………閃いた!!さっこうにいい案をよぉ!」
「それ聞くの11回目なんですけど」
「次は行ける。行けるって!!」
「じゃあ聞かせて貰おうじゃないの」
「聞いて驚け見て笑え。耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ………………」




