10 姉妹
「さて、とりあえず話を聞こうか」
「「…………………」」
突然巴がくノ一の胸倉を掴み、彼女にしては珍しく己を忘れて暴挙に出始めたのでとりあえずイブキ先輩が制止。
なんとか巴が落ち着いたので、二人一緒に硬い地面の上に正座中である。
ちなみにカンナは意識を失ったアキレスを男子寮まで運んでったので今はいない。この場にいるのは彼女ら二人とイブキ先輩、あと俺だけだ。
「まず、そこの黒服?っぽい君から。自己紹介頼むぜ」
「黙秘するわ。忍からそう簡単に情報を抜き出せると思わないことね!」
「おぉっといいのかなーそんな態度とって。私の(自主規制)が(自主規制)して(自主規制)する必殺技をお見舞いしても構わないんだぜぇ?」
「喋りますからそれだけはやめてください」
屈するの早!?忍の誇りそこら辺に捨ててきちゃったんか?まぁけどあの脅しと言うには生温い拷問を宣言されたら、俺なら1秒で屈するね。
「…………私の名前は望月千代女。そこの姉上の双子の妹よ」
「ははーん、妹か。妹………」
「妹……………?」
まずツッコませてくれ。まだ巴に妹がいたことは100歩譲っていい。だがその体格差はなんだ。逆じゃね?
身長とか胸とか、全てにおいて千代女が勝っている。二人で並ぶと、大体頭一つ分くらいの差がある。まるで親子でも見てるようだ。姉妹なんだけども。
「痛っ!何で今靴投げたの!?」
「何だか凄い失礼なことを言われた気がしたから…………」
「まぁまぁ痴話喧嘩はその位にして。で、千代女ちゃん。何で君は美少女ちゃんもとい巴ちゃんをストーキングしてたのかな?」
「……………………………」
「おーっとこんなところに(自主規制)が」
「分かった分かった話すわよ!だからその腕のわきわきをやめなさい!」
千代女の話をまとめるとこうだ。
千代女は巴が無許可で国の外へ出たことをいち早く察知。
和国は今でこそ規制が緩くなったらしいが、国の外へ出ることは厳重な申請をくぐり抜けて初めて未知の世界へ踏み込める。
それを巴は破った。重罪であることは、火を見るより明らかだ。
両親と千代女は巴が心配になり、すぐさまに連れ戻しにくるという目的でサクライまで来たらしい。
「え、お前学生じゃなかったの?千代女は入学式のときいたよな?」
「かけっこ勝負と聞いたらいてもたってもいられなくて………」
「で、そっからは何してたんだい?」
「姉上を連れ戻そうとしたんだけど…………何だか、その、めちゃくちゃ気まずくて。だってだって!姉上のあんなに楽しそうな顔見たことなかったんだもんしょうがないじゃん!だからとりあえず様子を見ることにしたの」
「よくバレなかったな」
「そりゃあもう当たり前でしょ!私を誰だと思ってるわけぇ?和国史上最高で最強の天才、望月千代女様なのよ?他人の家に侵入するだなんて、赤子の手を捻るくらい楽勝なわけ。はーはっはっは!!」
自画自賛をしながら大きく高笑いする。でもまぁ事実、最近になるまで誰にも気づかれなかったほどの腕だ。
俺はよく分かんないけど、凄いってことはわかる。
「―――――帰る」
「ん?どうしたんだよ巴。どこか調子でも悪いのか?」
「そうよ姉上。話の途中で帰るなんて酷いじゃないもっとお話しましy」
「黙れッッ!!!」
それは、憎しみにも聞こえ、悲しみにも聞こえる声だった。
巴からこんな嫌悪感の籠もった声を聞いたのは初めてだった。あまりにも唐突すぎるのと、巴がこんなことを言うのなんて考えられなかったのもあって、理解が追い付かない。
巴は千代女を睨みつけ、そのまま怒鳴り散らかした。
「帰れ!私はもう二度と家に戻る気なんてない。何が心配になったからだ、幕府に私が無許可で外に出たことを知られたくなかったからでしょう?だって罰せられるのは私じゃなくて、家族のあなた達だからね!」
「ち、違うわ姉上。私は、私だけは本当に………」
「うるさいうるさいうるさい!私はお前の顔なんか見たくもないんだよ。一分一秒一時も会いたくなんてない!
というか望月って何?あの名高い望月家にでも養子として引き取られたの?随分と立地になったのね。
私の居場所はここだ。やっと見つけた居場所から私を引き離そうとするんなら、あなたを…………殺す!」
「――――――」
彼女の瞳には、憤怒の炎と同時に、嫉妬の炎が燃えていた。血管がはち切れそうなほどに怒髪天を衝いている。顔が真っ赤っかだ。
やめてくれ。そんなことを言わないでくれ。巴からそんな言葉、聞きたくない。
そう頭の中で何回も何回も叫んだ。しかし、唇は全く動かない。実の姉妹なのに、何故こんなにも憎しみの感情を向けてるのか、全く理解できなかった。
俺にとって、里の皆は家族で、何物にも代えられない大切な存在だ。それは巴だって同じなはずだ。
「あなたのコネならあれこれ言い訳できるでしょう。私は両親がどうなっても構わないけど、あなたがなんとかしたいんなら勝手にすれば。帰れ、二度と私の前に姿を現すな」
「………………姉上」
「―――――――」
千代女は今にも泣きそうな顔だ。拳を握り締め、プルプルと震わせている。それでも、悲しみを乗り越えて言うことが彼女にはあった。
「どうして、泣いているの?」
「………………………………………」
#######
「はぁー………………………」
俺はベッドの上でやる気のなさそうに寝そべっていた。そしてひたすらため息を吐き続ける。右にごろり、左にごろり。起き上がっては寝そべっての繰り返し。
何にもやる気が起きない。まーじで。あんなの見せられたらこっちだって何していいか分からないって。
巴のあんな怒った顔見たことがない。和国で千代女と何があったかは知らないが、少なくとも千代女は巴のことを大事に思ってたっぽかった。
じゃなきゃあんな必死な顔しないでしょ。実の両親を罰から逃がすって目的を純粋に遂行するだけだったら、巴が千代女の気配に察知するほど成長する前に連れて行けたはず。
けど、しなかった。それは巴の幸せを願ったからだ。
しかし両親の身も案じてもいる。そのためには巴は帰らなきゃ行けない。きっと彼女は二つの間で揺れ動いてるはずだ。
こんな時、俺はあの姉妹に何をしてやれるか。そんなことをぼーっと考えてると、マーマンが夕食を運んできた。
いい香りが部屋中に充満する。この香りは、パスタか!!
「カツジ殿ー。夕食ができあがったでござるよ。今日は海の幸をふんだんに使ったシーフードパスタでござる!」
「お、おおお…………」
見てるだけで涎が口から垂れ落ち、お腹から空腹のインターフォンが鳴る。
つべこべ考えないで、今はとりあえず食べよう!!
「「いただきます」」
フォークを面に巻き付けて、一気に頬張る。
「うん、美味い!やっぱマーマンってすげぇな」
「お褒めにいただき光栄でござるよ」
「コショウの味がいい感じに利いてて美味!」
「私そこのエビ食べたいわ。ちょっと寄越しなさいな」
「「……………………………………………………」」
「何よ、私の美貌に見とれるのはいいけど何もそこまでガン見しろとは言ってないわよ」
「何してんの、千代女」
いつの間にかテーブルの下に千代女がいた。というか、パスタ食われた。エビ食われた。返せ俺のエビ!!
あ、また食べた。クソォ遠慮ってもんを知らぬか貴様!
「何って飯食いに来たのよ。私、金ないから姉上の部屋で寝泊まりしてたんだけど、めっちゃ怒ってたから多分あそこにいたら殺されるわ。だからあなたの家に転がり込こんだわけ。それにしてもこのパスタ美味いわね」
「ちょいちょいちょい。ここ、男子寮。千代女、女子。来ちゃ、駄目。おーけー?」
「っは。私が見つかるわけないじゃない。この天才忍、望月千代女様なのよ」
「人のパスタ頬張りながら言われても威厳もクソもないわ」
「あのーカツジ殿?この方は知り合いでござるか?てか何で男子寮にいるの」
「あーこいつは望月千代女。巴の妹…………らしい」
「逆では?」
「だよなーマーマンもそう思うよなー」
やはりマーマンの目から見てもそうだったか。
「……………ふーん」
千代女は俺のパスタを食べながらマーマンの方に興味深そうに見る。マーマンは若干困惑してるようだ。
「魚人族が料理なんかするのね。あなた達にとって熱は天敵でしょ?よく火をなんか使えるわね」
「拙者は魚人族である前に、一人の料理人を目指し者。火と友達にもなれないような料理人など、片腹痛いどころか両腹痛すぎて腹筋崩壊を起こすでござるよ」
「ふーん。そう。いい心構えね。あと、おかわりない?まだお腹膨れないんだけど」
「申し訳ないのでござるが、おかわりはないでござる」
待て、俺のパスタを全部食ったの?この短時間で?しかめおかわりないってことは、俺の分のパスタがぁぁぁ!!
がくり。
ショックのあまりテーブルに突っ伏す。あぁ、まだ一口しか食べてないのにー!!
「カツジ。そこでゴミみたいにぶっ倒れてないでちょっと外出るわよ」
「えー。何だよ飯食ったんなら帰れよ。しっし」
「締め上げるわよ三下。とりあえず来なさい、姉上のことについてよ」
「何?」




