9 悪質ストーカーを確保せよ!
「では、具体的にそのストーカーについて聞かせて貰おうじゃないか!」
「え、えと………気付いたのは最近なんですけど、何というか、常に気配を感じるんです」
「え?常に?」
「うん。気を抜くと気付けないほど本当に微小な気配なんだけど、学校にいる時も帰ってる時も、寮部屋からも視線感じる時がある」
怖、何それ怖!?学校の中でも周りに気付かれないほどの隠密能力…………。できる変態ほど質の悪い物はない。
「いや………待てよ、学校にまで潜入してるんじゃなくて、元々学校にいる奴の可能性もあるくない?」
「なるほどー。じゃあ片っ端から美少女ちゃんのクラスのやつぶっ飛ばせばいいわけかよし任せろ」
「やめて下さい、そして指ポキポキ鳴らすな」
けど、その話を聞く限りだと疑いたくは無いが俺達のクラス、1年D組の誰か、もしくは他クラスの奴の可能性が高い。
しかもそのストーカーは今もなをこの会話を聞いてる可能性もあると来た…………。
「しかし一体誰が、何の目的で………」
「そりゃあ美少女ちゃんは美少女ちゃんだからね。きっと誰かを勘違いさせちゃったんじゃないの?恋の力って変な方向に行くと怖いからねー」
「確かに、巴は可愛いと思いますけど、彼女は友達がいないどころか同級生と話すこともあんましないんですよ。一体誰を勘違いさせるってんですか」
「嬉しいけど何だか複雑…………」
考えれば考えるほどストーカーの動機が不明だ。単純に好きになってしまった………っていう線は否定はしないが、確立は低いと思う。本人も心当たりがないと言わんばかりに首を横に振っているし。
何か恨みを買うことでもしたか………しかし、巴の性格上そんな酷いことするわけがない。本人も心当たりがないと言わんばかりに首を(以下省略)。
いずれにせよ、ストーカーが巴に何かしら特別な感情を抱いていることには変わりない。
「よし、じゃあとっ捕まえよう!難しい話は無しだ無し!」
「それができたら苦労しないって話ですよ。巴の脚の速さでも撒かれるって話じゃないすか。どうするんですか」
「だいじょぶだいじょぶー!そこは安心していいよ。相手がどれだけ強かろうが速かろうが変態だろうが、私にかかればちょちょいのちょいよ」
「………何だかよく分かんないすけど、まぁ分かりました。だけど、話によると隠密能力も高いっぽいですよ。どうすんすか。犬の獣人族の方でも雇います?」
「そんな金はねぇ!それを考えるのが君の仕事だろう後輩くん。私はね、頭を使う仕事が大っ嫌いなんだ」
「ぶっ飛ばしますよあんた。それでも年上なんですか」
「年上だからこそ、年下をこき使うんだよ。まるで後輩と書いてパシリと読むようにな!」
「言ってる意味が分かんねぇよ!」
あぁもう駄目だこの人のせいで考えつく物も考えつかねぇだろうが!
途中で掴み合いになり、それを見かねた巴が細々しい声と共に手を上げる。
「あの、提案なんですけど………こんなのは、どうですか?」
#####
現在時刻は6:00頃。
季節が春から夏へ変わり始めてるからか、日が出てる時間帯が長くなっている。お陰でまだこの時間帯でも空に闇夜は見えない。
これならストーカーを見失うことはなさそうだ。
「けど………いくらストーカーを捕まえる為とは言え、むしろこっちの方がストーカーっぽくないすか?」
「そう?私にとってはストーキングは日常茶飯事だから特に感じないけど」
「あんたやっぱ一回牢獄にぶち込まれてこいよ」
「はっはは。もう既に2回くらいあるよ!」
「前科持ちやった………!」
我々は今、学校から寮へ戻る巴の跡をつけている。ストーカーも何処からか彼女のことを見ているはずだ。
巴曰く、登下校が一番視線を感じる、だそうだ。
しかし俺とイブキ先輩が一緒にいたら、相手は警戒を強めるだろう。あえていつも通りの状況にさせておくことで警戒心を削ぐ作戦だ。
まぁ、作戦内容も聞かれてたらどうしようもないんですけどね。
だがそれだけじゃあ駄目だ。こちらが奴を確保するには、まず奴を誘き出さなきゃならない。そこで一芝居打つ。
俺達は下手に手を出さず、ここは奴が現れることを辛抱強く待つ。
”あいつらを信じて”。
「―――――」
巴が中指と人差し指を交わらせて合図を送る。どうやら奴がすぐそ傍にいるようだ。
準備は整った。よし、お前ら!行け!
「きゃー助けてー、泥棒アルー!誰かあいつを捕まえてー!」
「へへっ、馬鹿め。ここにはワイルドな俺と貴様しかいないのだよ!誰も来やしないって何ィィィィィィィ!?」
「そそ、そこまでだ!このひったくりめ、せいや!(ごめんアキレス!)」
包帯少女の鞄を盗んだ泥棒!誰もいない場所を選んだと思いきや、そこには正義の味方巴ちゃんが立ち塞がる!
泥棒の脚を引っかけ、思いっ切り転倒させる!ごめんと小声で言ってた割には容赦が無かったような…………。
「ぐはぁ!ちょっと台本と違くない痛、むぐ」
「ありがとうございますアル!この!私の鞄を盗みやがって!この!」
「むぐ、むがむご、むむむむむ!!(何どさくさに紛れて俺のこと蹴ってんだカンナぁ!?)」
「(リアリティ底上げの為アル我慢してストレス解消の為の犠牲となれアル)」
「むごむががむご、むむー!!(本音ただ漏れじゃねぇかー!)」
「そ、その辺にしとこう………お、お前もこんな馬鹿なことはするんじゃないぞ」
鞄を受け取り去って行く包帯少女。事件解決!………と思いきや、逆ギレした泥棒は懐からナイフを取り出した!
巴は背後から迫り来る泥棒に気付かない。このままでは刺されてしまう!
そう、これが今回の作戦。題して、『巴がピンチになれば現れるんじゃないか作戦!』(提案者 巴)
ストーカーの動機が好意によるストーキングであれ、憎悪によるストーキングあれ、巴が命の危機にあると知れば黙ってはいられないだろう。
好意なら、普通に好きな子が目の前で殺されるのは嫌に決まっている。憎悪であれば、復讐対象が自分以外の手によって殺されるのは嫌なはず。
ストーカーがマシな人間性を持つならば、指をくわえて見てるのではなく飛び出してくるはずだ。そこを叩く。
「うおおおお!!」
「来るか、来るか!?」
アキレスのバターナイフが巴の体に突き刺さるまで、のこり3センチというところで、それは来た。
「――――――!!!」
「ぐふっ」
突然アキレスがひとりでにぶっ倒れた。予想通りストーカーは巴を守った。
しかし、”見えなかった”。
だが魔術による遠距離攻撃ではない。アキレスの頬に赤く腫れていることがそれを証明している。つまり、直接叩いたのだ。
これがどういうことを意味するのか。つまり、犯人はアキレスも俺も、この場にいる全員に姿が見えないよう超高スピードでアキレスをぶったたいたのだ。
「イブキ先輩!!…………っていないんだけど!?」
「カツジ………あれ」
巴が指さした方を見る。そこには犯人と思わしき人物を拘束しているイブキ先輩の姿があった。
誰も目で捕らえることができない程のスピードを持つ相手に、この一瞬で対処ししかも難なく捕まえるとは。どうやらあの人は嘘はついていなかったようだ。
というか、マジで何者なんだあの人…………。
イブキ先輩が、はっはっはと高笑いする。
「さーて君が悪質なストーカーだなぁ?んっんーどうしてくれようかなー」
「ぐぶぶぶぶ、はな、離して………マフラーを、離しなさ、首絞まるぅぅ………!!」
「しょうがないなぁ、ほい」
「ぷぱ!はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った………あんた何者よ!私に追い付くとかどんな脚の速さしてるわけ!?」
「ふっふー褒めてもスルメしか出ないぞ?」
「なんでスルメ持ってんのよ!」
……………何だか見覚えのある格好だ。
というか、まず犯人が女の子だったことに驚き。歳は俺達より年上だろうか。紺色をベースにした忍者服。両腕には指が露出した手甲に、大きめの胸を支える為の胸当て。
長い髪は後ろで一本にまとめ、赤いリボンで縛っている。そして一番目立つのが、長年使っているのかボロボロになった赤い長ーいマフラーを首に巻いていた。
あ、これ俺知っているぞ。くノ一って言うんだよな、くノ一。意味はよく分かんないけど、多分鬼神の知識から引き出された物だろう。
マジでどうでもいい情報ばっか引き出てくんなぁ。
「えーと、担当直入に聞くけど、あんたがうちの友達をストーキングしてた犯人?」
「そんなことも分からないの?鈍臭いわね」
「なんであんたが偉そうなんだよ」
「少なくともあんたより身分は上よ三下。大人しく拘束を解きなさい」
「…………………………………?」
「何よ三下。私の顔をジロジロ見て」
「いや、なんか見たことある顔だなーと思って。えーと、確か………………」
記憶は遡ること一ヶ月以上前。
里を出て、鬼神に体を乗っ取られ、サクライに行き、入学式が始まって、レースが突然始まって、アキレスと競争したりクナイが降ってきたり鳥の獣人族のあいつのお尻にクナイが突き刺さったり………………
「あ!!お前はあの時の!!」
「んー?知り合い?」
こいつあれだ!クナイがお尻に刺さったあの鳥くんを運んで、しかも俺達を凄いスピードで抜かしてギリギリ4位になったやつだ!!
入学式のあの日を、もっと鮮烈に思い出す。文字通り神風のようなスピードで走り抜け、クナイを上空からばら撒き、数々のライバルを蹴散らしていったあの姿を!
なるほど、あれなら巴が追い掛けても撒かれるわけだ。
「で、なんであんたがこんなことしてんだ!巴になんか恨みでもあんのか?それとも女の子同士だけど好きになっちまった奴か?」
「違うわよ。まぁ、好きなことは否定しなくはないけど………」
「え、じゃあ何なの?」
「教えるわけないでしょ。馬鹿なのかしら。忍はそう簡単に口を割ったりしないわよ。第一、忍って言うのはね―――――」
彼女がそのまんまの勢いで何かを語り始めようとした、その時。巴が睨むようにして彼女に目線を送り、彼女の胸倉を掴んだ。
「――――何してるの」
「あやべ―――――あ、えと、人違いじゃあないですかね」
「顔を今更隠しても無駄。――――ねぇ、ここで何をしているの!千代女!!」
「これは、あの違うの『姉上』!事情があるといいますか何というか!」
「「「…………姉上?」」」
当事者二人とぶっ倒れたアキレスを除いて、その場にいた人間は見事にハモって首を傾げたのであった。




