6 巴
私の名前は巴。本名は巴御前。
私の今までの人生を表すとしたら、それは孤立だ。孤独ではなく、孤立。何が違うのか、それは自分から一人になるか一人になってしまうかの違いだ。
私は昔から不名誉なことに不器用の天才だった。その中でも、人と話すのが特に苦手だった。話そうと思っても、言いたいことが思い浮かばない。やっとの思いで口を開いても、そこから話題が展開することもない。
話しかけられても、「あっ」としか言えなくて、答えられないし、ジェスチャーを送っても、相手からは首を傾げられるだけだった。
いつしか私は、話すのはやめようと思った。やめようっていうか、できないだけなんだけどね。
いつからか私は無口の子という印象を周りから受け、自然と話しかけられる回数も減っていった。ついには、両親と喋ることもなくなった。
不器用すぎて玉蹴りもできないし、花札とか、駒遊びとか、詩を読むことすら上手くできなかった。けど、剣だけは違った。
両親はとある武将に仕えるしがない下級武士だった。そのため、よく剣の鍛錬をすることが多く、私も黙ってそれを見ていた。
ふと興味が湧いて両親に剣を握らせてくれとせがんだ。両親は、お前が剣を持つには早すぎる、と言ったが、しつこく頼んだのが功を積んだのか、小さいやつだけど握らせてくれた。
初めて剣の柄を握った瞬間、「あ、これだ」と直感で思った。頭に落雷が落ちたような気分だった。そこからはもう悪霊にでも取り憑かれたんか?って思うくらい剣を振ってた。
雨の日も風の日も雪の日もひたすら剣を振るう。妹と近所の子供達が楽しそうに遊ぶ声を聞きながら、ひたすら剣を振るっていた。
ある日のことだ。妹が私に何故剣を振るのか、と尋ねてきた。
「これしかないから」
短く、一言。そう妹に言い放った。
次の日のことだった。いつも通り適当にそこら辺で素振りでもするかと剣を持って外に出て行った時、妹が何故か剣を握ってそこにいた。
妹が剣を振り出した瞬間、私は耐え難い悔しさに包まれた。
それはもう呼吸をするのを忘れ、惚れ惚れするほど美しく、強く、洗礼で、歴然の武士でも中々出せない動きを当たり前のようにポンポンと出していた。妹は才能の塊だったのだ。
悔しかった、どうしようもなく悔しかった。幼いながら、心を憤怒と嫉妬の炎に燃やした。私のこれまでの努力を嘲笑うように見せたそれが、私の頭の中から離れなかった。
妹の才能に気付いた両親は、私のことを見向きもしなくなった。
妹の教育が最優先で、私の気持ちなど理解しようとも思わなかった。その日から、両親とは本当に疎遠となった。
年齢が13に差し掛かったあたり。
鎖国の規制が年を重ねるごとに緩くなっていき、外の国からの物資が多く入ってくるようになった。
本当に気まぐれだった。たまたま手に取った外の国を紹介する本で、学園『アナスタス』について知った。
世界中から数多の少年少女達が集う学園。煌びやかな校舎、新たな出会い、未知の経験、全てに心が躍った。もしかしたら、今の私を大きく変えてくれるんじゃないかと期待した。
早速私は両親に、この国を出たいと申し出た。もちろん、結果は駄目だと言われた。
鎖国制度が緩くなってきたとは言え、この国を出るのは相当な時間、お金、手続きが必要だった。
私は決心した。この国を出ていく。そして生まれ変わる、成長して周りを、両親を、そして―――何より妹を見返してやる。絶対にだ。
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「――――え。―――もえ。――――巴。大丈夫か?」
「……………………」
目を開けた瞬間、身に覚えたのは全身に絶え間なく広がる疲労感だ。足は筋肉痛のような痛みに襲われ、腕は思ったように動かず、もうとにかく節々が痛かった。
ぼーっとした感覚のまま、起き上がる。カツジの顔を見て、初めて意識がはっきりとした。
「……………カツジ。カツジ!?大丈夫、どこか痛んでない?ごめんなさい、私があなたを守れなかったせいで………痛っ」
「気にすんなって。俺なんかより自分の心配しろ。怪我が酷いんだ。ヤガーさんが急いで手当てしてくれたけど、傷が開くかもしれないから動かないで」
「……………………」
「―――――ごめんな」
「え?」
突然の謝罪に、ただでさえ困惑してる頭がさらに揺さぶられた。カツジはただただ、申し訳なさそうにうつむく。
「なん、で」
「俺が直前に変な話しちゃったからだよな。俺が弱くて惨めなところを見せたから、巴の庇護対象になっちまった。そのせいで、巴があんな無茶する羽目に…………」
「違う、違う!私は、ただあなたを…………」
守りたかっただけ、そう言おうとすると突然傷が開いた。はぁ、はぁ、と息を荒げ、地面に大の字になって広がる。
「巴!?大丈夫か!?」
「大丈夫………じゃないかも。早く帰りたい。そういえばヤガーさんは………?」
「ヤガーさんなら救助を呼びに行ったよ。一番動けるのがヤガーさんだったからさ。もう少しの辛抱だから耐えてくれ」
道理で、ヤガーさんの姿が見当たらなかったわけだ。救助がもうすぐに来る。なんだか何か忘れてるような気がするが、これで帰れる………。
中々に酷い一日だった。カツジと二人っきりになったと言うのに、話す話題も無くてヤガーさんと遭遇するまでは気まずさの極地だったし。
シニガミソウを見つけて、カツジといいムードになれたのに白猿の邪魔が入って、更にこんな傷まで負って。
はぁぁぁ、と心の中で盛大にため息をつく。私は、なんも変わってないな。和国を飛び出して『アナスタス』に通えば何か変わると思ってたけど、結局口下手だし、強くないし、不器用なまんまだ。
…………あぁ、でも、一つ変わったことがある。ずっと私には無縁だと思っていたもの、決して訪れることのないおとぎ話のようなものだと、そう思っていた。
「―――――決めた。俺、もっと強くなるよ。最近ちょっと調子が良かったからって高をくくっていた。こんなんじゃ鬼神の野郎に笑われちまう。里の皆に追いつける訳がない!
巴が心配しなくてもいいような、強い鬼になるぞ、俺はーー!!」
「――――――」
あぁ、何故彼を見ると胸が躍るのだろう。あぁ、何故彼と会話すると幸せになるのだろう。
何故彼と過ごす時間は、こんなにも楽しいのだろうか。何故彼の笑顔を見るとこんなにも心がときめくのか。
何故彼が困っている姿を見ると、何とかしてやりたいと思うのだろう。何故彼に触れると、電撃が走るように熱くなるのだろう。
私には無かったものを彼はくれた。絶対に忘れない、絶対になくさない、大切な、大切な物々。
この気持ち、この感情を、人はきっとこう呼ぶのだろう。
―――――恋、と。
「あ、流れ星だ。綺麗だなー」
「そうだね。…………せっかくだし、何かお願いごとしよっか」
「お願いごと?」
「そう。流れ星が流れてる間に、お願いごとを三回呟くの。そうれば、いつかその願いが叶うって言われてるんだ」
「へぇ…………じゃ、やろうぜ」
次の流れ星が来るのを見逃さないように、じっと見張る。さして、キラリン、と光る流星を瞳に捕らえると、私達は三回願い事を呟いた。
「強くなれますように強くなれますように強くなれますように!!…………これでいいのかな?」
「いいんじゃない。その願いがいつか叶うといいね」
「おう!巴もびっくりするような強い男になってやるぜ!!…………んで、巴は何をお願いしたんだ?」
「―――――ないしょ」
「えー教えてくれよー。気になるじゃんかー」
「ふふ、ないしょ。絶対教えない」
イタズラっぽく、言った。
私は再び空を見上げて、空に映る綺麗な目に焼き付けながら、誰にも聞こえないように呟いた。
「この恋がいつか叶いますように――――」
その後………
「カーカッカ。なんだかえらい目にあったようだな兄ちゃん達。でも無事で良かった」
「無事なのかこれ……?」
「まぁ生きてりゃ全部無事なのさ。んで、シニガミソウは手に入ったんだよな?報酬ははずむぜ?」
「あ」
「あ」
「え?」




