3 ハード(物理)なリハビリ
我、復活なり。
長きに渡った入院生活が幕を閉じた。ベッドの上で思うように体を動かせずにストレスの溜まる日々とはおさらばなのだよ!!
まぁもっとも、本来ならばこんなもんじゃすまなかったと思うけどね。直前に鬼神が回復魔術をかけてくれたし、その後はあいつと混合したせいか回復力が上がった気がする。
医師からは退院後もできれば激しい運動はしないことと言われていたが、体がうずうずして止まらない。
シュッ、シュッとシャドーボクシングを思わず始めてしまう。へへへ、今の俺なら空を飛び岩を砕き水を斬ることだってできる。
謎の自信に満ちあふれながら、俺はとある場所に向かっていた。
街の防壁を越え、少し歩いたところにある小さい山。その中腹にある巨大な岩が露出した崖の下。ロッククライミングには最適そうだ。
近くには川もあって、喉が渇いたらすぐに水を飲みに行ける。草原も小さいながら広がっているため、走りやすそうだ。
巴にどこか良いトレーニング場所はないかと聞いたところ、ここをオススメされた。
「うし、準備体操にラジオ体操でもするかな」
「…………………ラジオ体操?」
「…………………さぁ?俺にも分かんないけど、準備体操に良いってことは分かる」
「……………そう。カツジもやるなら、私も、やる」
そう言って俺の真似をする巴。彼女もちょうどここに来る予定だったらしく、ついでに案内して貰った。
ちなみにラジオ体操という物は俺もよく分かんない。鬼神の記憶の中にあったものの一つだと言うことぐらいしか分からんが。
この入院生活の中、暇なので鬼神の記憶を探りまくった。ぼやっとしてて分からないものもあるが、ラジオ体操のように他人の記憶なのにまるで自分が体験したかのように分かる。
アイツの記憶の中に、少し気になるものがあった。今日の目的はリハビリもかねて、それの実験をしようかと。
もちろん、鬼神と混合した体でどのくらい動けるかも知りたいし。
「最後に吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」
「すぅ、はぁ」
「よし。じゃあ俺はとりあえず走ってくるから。じゃ」
「え……………うん。分かった」
俺は森へ向かって走り出した。
「お?おおう?おぉ!!」
まるで足にエンジンでも付いたみたいに速い。ちょっと速すぎて自分でも制御しにくいぐらいだ。以前の自分では、ここまでの速度は叩き出せなかったと思う。
今ならオリンピックで金メダルも夢じゃないね。
……………オリンピックってなんだ?度々この現象が起こる。知らない単語なのに、自然の出てしまう。これも鬼神の記憶の一部なんだろうなー程度にしか思ってないが。
あっという間に、崖から一キロほど離れた場所まで来てしまった。
足の速さは確認したし、次は跳躍でも試してみるかな。試しに縄跳びをする程度の力で跳ぶ。これでも以前より滞空時間が長い気がする。恐るべし鬼神の力………
今度は膝を曲げて、思いっきり飛んでみる。次の瞬間、視界が変わった。
先程までいた木々の囲いから一転、辺りを軽く一面できる位の高さまで跳び上がっていた。飛んでいる鳥と目が合う。実際には表情は何一つ変わってないし一言も発していないが、「は?」と言ってフリーズしている鳥が見えた。
そのまま落下、華麗に着地!
よし、こんなものかな。次はあえて木々の上を通って帰ってみるか。この身体能力なら忍者みたいに木から木へ飛び移ったりできるかも。
それできたら絶対カッコイイな!
よしじゃあ早速、よーいドン!!
木の枝を蹴って蹴って蹴って飛び回る。その姿はさながら、ジャングルをかける原住民か、もしくはただの猿か。
どちらにしても、自由に木の上を移動できてることに変わりはない。
だが、体がまだこの動きに慣れてないせいか服が枝に引っかかったり葉っぱを全身に浴びたりもしたが、なんとか戻って来れた。
これ、ひょっとすると真正面から巴に挑んでも勝てるんじゃないのか!?
高をくくって調子に乗るぐらい体が動く。勢いに乗って近くにあった岩に拳をぶつける。
ガグンッ!!と音が鳴り、岩が簡単に砕けた。
思わず気持ち悪い笑みがこぼれてしまった。
ふははは!強靭!無敵!最強!!某決闘者のようなセリフを吐いてしまう。
「ふふふーん!早速巴と手合わせでも………」
鼻歌を歌いながら巴がいた場所までスキップで行く。
「108……109………110」
その光景に思わず固まってしまった。
どっから持ってきたのか、彼女の2倍近くある巨大な岩を背負いながら素振りをしていた。
しかもいつものように上衣を脱がずに、汗一つ垂らさずにだ。
「あ、カツジ。おかえり…………どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないっす巴さん」
「?」
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よし、体も十分過ぎるくらい暖まってきたし、本番始めますか。
おさらいとして、記憶の中を探る。鬼神と『魂』が混ざり合った際に、能力の一部と記憶の一部を引き継いだ。
勿論、鬼神の過去の記憶も見た。
…………あまり思い出したくはない。これでも、あいつが生きてきたほんの数年間の出来事しか分からないが、それでも胸くそ悪くなるエピソードばかりだ。
それは、あいつが加害者の時もあれば、あいつが被害者の時もあった。誰も幸せにならない、誰もが傷つき、誰もが憤怒と憎悪に満ち溢れた記憶だった。
………やめだやめ。今回はそれが本題じゃあない。
あいつの記憶を探っていくうちに、とある技を見つけた。それは、あらゆる傷を癒し、あらゆる厄災から身を守り、あらゆる業を浄化し、『魂』さえも復活させる大魔術。
アキレウス・ヘパイストス
人間では到底この魔術を発動させることはできない。前提として、人間が理解して構築できるような魔術ではない神代の魔術。
魔術がからっきしのカツジが何故こんな魔術に目をつけたかと言うと、それはこの魔術の効果だ。
過去に、鬼神は戦いの中この魔術を発動させ、逆転勝利を収めた経歴がある。その最中、ボロボロだった鬼神の体はみるみる回復し、汚染された『魂』を浄化させた。
一体何があってこうなったのかは、分からない。結果としての記憶があるだけで、そこに至るまでの経歴は何一つ記憶にない。
まぁそこはそこまで気にすることじゃないんだ。問題なのは汚染された『魂』を浄化したって話。
今、俺の『魂』は『魂』に直接干渉して破壊する魂壊変と呼ばれる禁忌の技を受けて、崩れ落ちた。その崩れ落ちた部分を鬼神の魂で埋め合わせてなんとか生きながらえてる状態だ。
その為か、鬼神がこちらに干渉できなくなってしまった。
これは、俺の弱さのせいで引き起こったことだ。俺がもっと強くて、油断していなければ鬼神はこんな目に遭わなくて良かった。
あいつを解放するためには、外側からアクションを起こさないと駄目だ。
だからこそ、俺はこのアキレウス・ヘパイストスに目をつけた理由だ。これを利用して俺の『魂』を修復できねぇかなって魂胆。
「――――――っし。やるか」
深呼吸をし、集中力を高める。
魔力を動かし、循環させ、形取り、排出する。このワンセットがどうにも難しい。クロウリーのやつはそれこそ呼吸をするようにポポポンと撃っているが、それはあいつが天才ってだけで。
だが今のカツジには記憶というアドバンテージがある。これを利用すれば……………
「――――――はッッ!!!」
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「…………………………………」
今先程何が起こった?
い、今ありのまま起こったことを話すぜ。俺はアキレウス・ヘパイストスを発動させようと思って右手をかざした。だが次の瞬間俺は気絶していた。何を言っているのか分からねぇと思うが俺も何をしたのか分からなかった。
記憶が飛んだとか衝撃が走ったなんてちゃちなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ。
おふざけはこのくらいにして、マジで何があったんだ?本当に覚えてない。覚えているのは、なんか右手がまるで蒸発したかのようにボワッと…………
そこまでしか分からない。もしかして魔力が暴発したのか?それほどまでに高度の魔術………少し舐めてた。まぁ一発で成功するんなら神代の魔術の顔も面潰れだよな。
……というか、なんだか後頭部に違和感があるのは気のせいでしょうか。
「あ、カツジ。起きた」
目線を上に上げると、心配そうな顔をして俺を見つめる巴と目があった。
この角度この感触そしてこのシチュエーション。間違いない、これが父ちゃんが言っていた伝説の『膝枕』ではないでしょうか!?
けど、女の子の膝って少し硬いんだな………。
「残念!ワシでした!!」
「ぶわっふぅ!?」
「カーカカカカカカカカカ!!!!ねぇびっくりした!?ねぉびっくりした!?嬢ちゃんの膝枕だと思って期待した!?残念実はジジイの膝枕でしたぁ!!」
「あ、あんたはカララさん!!?」
大声で笑うのはカンナの祖父にして何でも(売っている)屋を営む全身タイツ吸血鬼ことカララ・ブックロッジだった。
「お、おえぇぇぇぇぇぇ……………」
「まぁまぁそう気を落とすなよ兄ちゃん。ほら、エチケッツ袋」
「それを言うならエチケット袋な!なんだエチケッツ袋って!!あと、てめぇが原因だろうがこのクソジジイ!!俺の初めてを奪いやがって……………」
「カーカカカ!見ない内に口が悪くなったのぉ!だが元気そうで何より。久しぶりだな兄ちゃん」
「うん、まぁ、お久しぶりです。………で何でカララさんがここに?」
「なーにちょうど売り物の調達にな。たまたまここを通りかかったところを、そこの嬢ちゃんがぶっ倒れている兄ちゃんを見てアワアワしてたからな。助け船を出したってところだ」
なるほど、それでか。
自信の右手を見ると、包帯でぐるぐる巻きにされていた。カララさんがやってくれたのだろう。
さっきの悪ふざけはともかく、それはありがたい。
「それな、なんかめっちゃ赤くなってブクブクいってたからとりあえず冷やして包帯巻いといた。火傷………にしちゃあ不気味だが、何があったんだ?」
「んー俺にもなんだかよく分からなくて。なんか右手がジュワッてなったとこまでは覚えてたんだけどなー」
カララさんは「そうか」と呟く。
当分、アキレウス・ヘパイストスの練習はやめとこう。今回は火傷(?)程度ですんだが、あのまま続けていたらとんでもないことになっていたかもしれない。もう少し記憶の奥深くまで探らないと駄目だ。
記憶によるアドバンテージはあっても、所詮は素人の理解。パーツは揃ってるのに組み立て方一切合切が分からないプラモデルのような感じだ。
俺は右手に氷を押し当てながらため息をついた。
「そうだ。助けてやった代わりと言ってはなんだが、ちと手伝ってくれねぇか?」
「手伝いって…………この右手じゃろくなことはできないぞ」
「いやいや、ただの薬草採取の手伝いだよ。なぁに、働きに応じて多少の報酬はやるよ。ついてきてくれねぇか?」




