6 鬼神と名乗る少年 その2
「ふんふんふんふふん、ふふんふんふふん〜」
カツジはドラゴンなボールの鼻歌を歌いながら荒野を歩く。歌は気分がよくなる、が後ろが先程からうるさい。
「カツジさん?ねぇ聞いてますか?どうしちゃったんですか、さっきの火柱といいその角といい。無事だったことは喜ばしいことですけど何があったか説明してください!!」
「うるさいのー小娘。さっきから言ってるじゃろう奴らは消した、文字通りな」
「説明になってません!1から10まで説明してください!!」
「あーあーうーるーさーいー、はぁ………小娘、儂が何に見える?」
カツジはため息を吐き、自分の額を指差しながらエルザに問う。エルザは少し考え、首をひねりながら、
「………カツジさん、人間じゃなかったんですか?その特徴的な角……まさか鬼族?でも鬼族って……」
「正確にはこの小僧は人間じゃぞ、けど儂は鬼神じゃ」
「……ん?まってください。この小僧……?なんの話をしているんですか?」
「儂はな、これじゃ。これんなかにずっと入ってた」
するとカツジはジャラジャラとなる首元の数珠を指差す。
「…….???」
「そうか、なら自己紹介してやろう。儂の名は鬼神ミオ。言わずとしれた鬼神じゃ。5000年近くこの中で眠ってたんじゃ」
「――――――またまたーカツジさん、冗談はその田舎思考だけにしといてくださいよー。カツジさんが鬼神?まさかあの火柱はカツジさんがやったって言うんですか?」
「………………なら証拠をみせてやろう、ちびるんじゃないぞ」
「え?」
カツジは空を見上げる。ちょうどいい獲物を見つけた。空を旋回するのは翼を持つ4足歩行の獣。獅子と猿、竜の3つの顔を持ち虎の四肢と胴体、蛇のようなしっぽ……ん?
「あれ、あんな生き物いたっけ?」
「あ、あれは大型魔獣のキネイエですよ!!3つの首を持ち空を飛ぶ、魔神アナスタシオスによって創られたと言われている合成魔獣ですよ!!ななななんでこのタイミングで!?し、死んだ……終わった……」
エルザが軽く失神仕掛けている。そんなにも強力な存在なのだろうか。というかなんだキネイエって、若干ちがくね?
キマイラなのか鵺なのかどっちだ。西洋のキメラと東洋のキメラの融合?キメラとキメラがキメラしているというなんともへんてこな魔獣だ。
「あの引き籠もり、儂が眠ってる間になんてもん創り出してんのじゃ。まぁええ、ちょうどいい、証拠を見せるのと準備体操にはもってこいじゃろう。小娘、下がっていろ」
「かかかカツジさん!?何する気ですか、気づかれない内に速く逃げましょう!?」
「下がってろと言ったんじゃ、黙って言うことをきけ」
ギロリと睨まれ、エルザは疑念を持ちながらも後ろへ下がる。カツジは軽く息を吸い、両手をクロスする。
体内に流れる力を、体内で構成させる回路に流す。体から紋様が浮き出始め、地面からは膨大なエネルギーが発生する。そのエネルギーに空間に何個か裂け目が発生し、パキパキと回りを歪める。
「え?え!?ななななんですかこれ!?揺れが、揺れがぁぁ!?」
「両耳を塞ぐことをおすすめする」
慌てながらもエルザは両耳を塞ぐ。
そのエネルギーに気づいたのか、キネイエが鳴き声をあげる。
「キシャァァァァァァァァ!!!」
「せいぜい逃げることじゃな」
キネイエが身の危険を感じたのか軌道をUターンし始める、がもう遅い。
その術式は確実にキネイエを捉えた。瞬間、常人なら耳がはちきれそうな轟音と火の球が荒野の空に轟いた。
「『閻魔炎星・炎魂』!!」
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しばらく荒野を歩いていると街が見えてきた。あのキネイエは文字通り灰も残らず消え去り自分が鬼神であると証明できたかと思ったが、エルザは爆発と爆音で白目を向いて気絶している。
彼女を担ぎながら街に入る。ここがサクライだろうか?
「そこの老人、つかぬことを聞くが。ここはサクライという街かえ?」
「ん?いや、ここはサクライから少し離れた街だよ。つってもほんとに少しだけどね。一時間ぐらい歩けばつくかな」
「そうか、すまないの。それでは」
「ちょっと待ってくれ若いの。さっきあっちの方角からきたよな?凄い音が2回も聞こえたんけど何か知らんかね?」
「あれか、儂がやった。以上じゃ」
そう言ってカツジはその場を立ち去る。老人はポカンと腑抜け顔をしていた。
爆発が起こる事がそこまで珍しいことなのだろうか、自分がいた名を轟かせていた時代はそこらじゅうで争いがあったというのに。
「最近の奴らは平和ボケしたもんじゃのー」
「…………んん。あれ?私いつの間に………」
「起きたか、なら速く自分で歩け。担ぐのも疲れるのじゃ」
「す、すみません。ありがとうございます、カツジさん」
エルザはカツジの背中からぐったりした様子で降りる。
ぎゅるるるる
するとカツジの腹がなる。そういえばお腹が空いていたんだった。
「その、助けてもらったお礼に何かごちそうしますよ。お金はそこまでありませんけど」
「ほう、気が利くではないか小娘。今より小娘から従者にランクアップじゃ、光栄に思えよ」
「あの、全然嬉しくないんですけど・・・・」
何が不満なのかエルザは少し嫌そうな顔をする。何かいい店はないかと辺りをキョロキョロと見回す。すると懐かしいものが目に入った。
「焼きそば、焼きそばではないか!麺類、いいな。おい従者、あれが食べたい」
「焼きそば………私の街ではなかった食べ物ですね」
「いらっしゃい。並盛と大盛りと特盛があるけど、どれにする?」
「それじゃあ並盛で」
「儂は大盛り」
「あいよ、2つ合わせて950銭ね」
数分後
「………(マズイ)」
「美味しいですね〜」
ズルズルと闇鍋みたいな焼きそばをすする。駄目だ、これ焼きそばに見えて焼きそばの味しねぇ。薄い!とにかく薄い!!しかも色がなんか黒いし、焦げてない!?
内に秘める思いを叫びつつも、仕方が無いので麺をすする。
「それにしても、カツジさんってとっても強かったんですね。最初は何言ってんのか分かんなかったですけど、あのキネイエを倒しちゃったんですから」
「だから行ったじゃろう、儂は鬼神だって」
「………その鬼神ってところと突然口調が変わったのは分かんないですけど」
あの威力の攻撃を見ても鬼神だと信じないか。
これ以上の説明を諦めたカツジはふと自分の体を見る。
………なんてボロボロの服なんだ。
ところどころに穴が空いているし、その修復も若干雑い。繊維の質もとてもじゃないが褒められたものではない。
焼きそばを食べ終わったカツジはベンチから立ち上がると、
「こうしちゃおられん。この鬼神たる儂がこんなボロ服着てられるか。ついてこい従者、もちろんお主の奢りだ」
「えぇ!?ちょちょ待ってくださいカツジさん!まだ焼きそば食べ終わってないんですけど!!」