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46   終わりの夜明け



 と、いうわけでやってきました『目白鮫』本拠地第二階層大広間。晴れ晴れとした快晴は、地下なので見えませーん。観客席には誰一人座っていませーん!狭い廊下で迫り来るアルクから逃げる様は、さながらゾンビ映画にありがちなボス戦と言ったところかな。



『……急にテンションどうした』


「うん、そこまで気にしないで。さてと、おい」


「…………なぁに?」



 件の大広間には瞳を閉じぐっすりと眠っているセトの隣に座るクロウリーがいた。宿敵を見つけたかのように眉間をピクピクさせ、息を吐く。


 深夜にたたき起こされて、労働をさせられて、流石のクロウリーも頭にきてるようだ。そんなクロウリーを労うこともせずにカツジは、



「お主、空間魔術は使えるか?」


「突然どうしたの?どこまで人を働かせる気だ」


「いいから、空間魔術は使えるかと聞いてるんじゃ」


「………まぁ、使えなくはない。天才の僕にできないことはぁないからね。それがどうした?ていうかさっきから聞こえるドシドシって足音何なの?」


「あぁそれだが………と、もう来たか」


「へ?」



 ッッバン!!と銃声のような音が襖を破壊しながら入場する。クロウリーはセトを庇いながら、その衝撃波に飛ばされる。


 その巨大は優に2メートルを超え、頭は天井スレスレの高さ。太く硬いピンク色をした巨腕きょわんをブンブンと振り回し、白い息を吐く怪物アルクがそこにいた。



「ななな、何これ!?なんかブヨブヨしてる気持ち悪い人型未確認生物が!?」


「開口一番、言うセリフがそれとは………流石の僕もショックだわ。………と、肩を落としてしょんぼりしてみる」


「これが件の怪物じゃ。奴は伸縮性の強い、というか文字通り伸びる肉体に、どこまでも再生する生命力。それに加えあの巨大と攻撃力。手のつけようがないわい」


「………体の変化が、異獣と似てる。異薬を大量に摂取したな、あいつ。なるほど、こんな状況認めたくない自分がいるけど、分かった。で、さっきの空間魔術と何が関係してるの?まさか宇宙空間までテレポートさせろとか言わないよね?」


「そこまではいい。とにかくこの地下空間から地上に奴と儂を引っ張りだしてくれればいい。あとは儂がなんとかする」


「その言葉、信じていいのかな?」


「ふん。信じる信じないはお主の勝手じゃが、少なくともこの窮地を脱しなければ儂はともかく貴様とそこの小娘は死ぬ。命が惜しかったら儂に協力しろ」



 「ちっ」と怪訝な顔をして舌打ちをするクロウリー。眠るセトを背負い、無言で術式を組み始める。アイコンタクトだが、「さっさと時間を稼げ」て言われた気がした。



「ん?話は終わった?んじゃ殺すね」


「っは。その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 

 カツジは一気に距離を詰めてアルクの懐に潜り込む。折れて使い物にならなくなった腕に回復魔術をかけ、無理矢理にでも動かす。


 アルクの下顎を的確に狙う。体がブヨブヨしてるせいか、手応えはあまり感じない。身を捻り、追撃に空中で蹴りをブヨブヨした頬に放つ。



「いっ、たいなぁ!」


「ん、脚が……!?」


「こんな酷いことをする人にはー、こうだ!!」




 脚を掴んだアルクは、新しいおもちゃを手に入れた赤子のように地面に叩きつける。何度も何度も、幾度となく大広間内を叩きつけた。


 カツジは腰から引き抜いた木刀でその腕を切り落とす。晴れて自由の身になったカツジは跳躍し、鋭い踵落としを脳天に打ち付ける。



「何すんのじゃい!!」



 鈍い音が鳴ったが、やはり余りダメージはない様子。クロウリーはまだ術式を組めていない。いくら魔術の申し子であるクロウリーとて、組み立ての難しい空間魔術を発動させるには時間がかかるようだ。



 ここは頭を使おう。



 カツジは全身の魔力を循環させ、無から物質を作り出す。凸凹になった畳の床から岩の柱が現れ、アルクの体を貫く。



『おま、炎以外にも使えたのか!?』


「ふふん。誰が魔術は炎しか使えと言った。魔術の腕は魔神や人神に遠く及ばぬが、儂は鬼神じゃぞ?舐めるでない」


『なら最初っからそれ使ってくれないかな』


「ふっ。ごめん」


「こんな岩、すぐにたたき割って」


「無駄じゃ。それは仮にも儂の魔力から作った岩。そう簡単に砕けてたまるか」


 というか、動けないような位置に岩を突き刺したからまともに指を動かすこてすら敵わんだろうな。

 倒すことはできなくても、足止めならこれで十分だ。思わず鼻歌がでてしまうね!



『おい、そんな余裕ぶってると………ファッ!?』


「何をそんな驚いて…………は?」



 溶けていた。いや、正しい表現の仕方が分からん。とにかくアルクの体はスライムみたいに溶け、床に水溜まりが溜まる。集まったピンク色のぐにゃぐにゃはどんどんと人型を形取り、アルクの姿へ戻っていった。



「脱出成功☆」


「もはやゴムとかそういう次元じゃねぇよ…………」


『うぷ、吐きそう』



 なんかもう色々とおかしい。『ハザードギブン089』の効力もそうだが、これを開発したやつの脳みそは狂ってると思う。



「キヒヒヒヒヒ。時間稼ぎのつもりだったみたいだけど、残念だったねー。この通り、我が万能の肉体に縛りなど無意味!………とガッツポーズをしてみる」


「だったら直接ぶん殴るだけじゃオラァァ!!」



 大砲のように飛びアルクの腹を蹴り飛ばす。痛くも痒くもないと言わんばかりに笑い踏みとどまる。拳と拳の語り合いの始まりだった。こんなやつと語り合うことなど一言もないが。



 殴り殴られ、蹴り蹴られ。痛覚はほぼ無いとはいえ、殴られてるという"感触"はあるのでちょっとキツい。


 そろそろ限界に達しようとした、その時だった。



「準備完了、すぐに地上へ飛ばすから気をつけろ!!」


「ナイスタイミングじゃ!!」


「ぐ、離せ!!」


「離せと言われて離す馬鹿がおるか?」


 

 カツジは太い体のアルクを決して逃がさない。


 すると足元に魔術陣が現れる。ちょうどカツジとアルクがいる範囲に収まり、魔術陣が淡い光を放つ。次の瞬間、パッと視界が白い光に包まれ、景色が移った。


 そこは地上どころかそこから遠く離れた上空であり、二人は真っ逆さまに落っこちる。だがこれでいい。地上で放てば建物ごと壊してしまうからな。空はどんどんと明るくなっていく。ちょうど夜明けのようだ。


 カツジは木刀を構えた。増幅する魔力に応じて空間にヒビが入り、紅い光が木刀を包み込む。



「さて、残す言葉はあるか?」


「…………はぁー、終わりか。流石にそれをこの至近距離で食らったら文字通り消し炭だよ。君の勝利だ」



 アルクは少し悲しそうな顔をした。親のことでも考えてるのだろうか、はたまた爆撃熊のことか。もしかしたらどうでもいいことを考えてるかもしれない。


 こんな悪人にだって家族はいるし、未練もあるだろう。だから、ここでアルクを裁く。これ以上アルクの魂を汚さない為にも、これ以上被害者をださない為にも。



「けど、黙ってやられるほど往生際は悪くないよ!!」



 最後の力を振り絞り、アルクは右腕を伸ばしてくる。だがそれはカツジに届くことはなかった。エネルギーの塊が、全身を灰も残さず消し飛ばす。



「『閻魔炎斬・地獄切り』ッッ!!!!」

 


 サクライの街に訪れる夜明けと共に、長い戦いに終止符を打った。





#####





 ピ、ピ、ピ、ピ、と。

 命の鼓動を伝える機械の音のみが病室に響き渡る。一人の少女と、その後ろに佇む二人の少年。彼らはじっと、ベッドに横たわる少年を見守る。



 正体不明の薬に体を侵され、全身は赤く膨れ上がって、医師からはもう助からないと言われた。


 だが諦めなかった。彼の為に身を粉にして戦った少女も、彼女と彼の帰りを祈った二人の少年も。


 そっと、少女は彼の手を握る。


 膨れ上がった手は、完全にとまではいかないが元の形に戻っており、苦しそうな顔も今はなくなっていた。あとは、目を覚ましてくれるだけでいい。


 ただ瞼を見開きするだけで良い。指をちょこっと動かしてくれるだけで良い。一言何か喋ってくれるだけで良い。特効薬は施した。



 あとは、目覚めを待つだけ――――




「――――ぅ」


「……………アイト?」


「―――――ご」


「どうした?アイト!?」


「姉御の今の泣きそうな顔、バッチリこの目に焼き付けましたぜ………へへ」



 か細い声で、何を言っているんだこいつは。泣いてなんかねぇし。泣いて、ないし。シオン、リュウト、お前らも泣くな。


 またコケにさてちまうぞ。アイトが他の不良仲間に言って、イジられて、そのあと折檻する流れが――――



「―――――――」


「…………怒んないんですかい?姉御」


「…………うるせぇ。泣いてないし。――――おかえり」


「はい、ただいま死の淵から帰還しやしたぜ」











「はぁぁぁぁぁぁ、どっと疲れた。眠いよぉぉぉこの後の後始末面倒くさいよぉぉぉ!父上になんて説明すれば………全部あれもこれもあのアホ野郎のせいだ!人をこんなことに巻き込みやがって」


「失礼します。クロウリー様、ご報告が………」


「大体何もかもが唐突過ぎるんだよぉ。順序ってものぉ知らないのぉ?今まで捕まえるどころか拠点発見すらできなかった『目白鮫』を壊滅させるのに約3日くらいしか経ってないよぉ!?」


「その『目白鮫』についてなのですが………」


「帰ったら風呂入る!!久しぶりに超高級入浴剤使って何もかもぉ忘れてスッキリするのぉぉぉぉ」  


「あの!クロウリー様!!ご報告が!!」


「へ?」




 ストレスで周りが見えてなかったのか、部下が大声をあげてやっと気付いた。誰もいないと思って大声で愚痴ってたの聞こえてた?あーくそ。部下に情けない姿をみせてしまった。


 コホン、と咳払いをする。



「………で、何?」


「はっ。先程、『目白鮫』拠点の調査を開始しました。『目白鮫』のメンバーと思われる者が計68名。中には重傷を負っていた者もいましたが、命に別状はありません」


「分かった。他には?」


「……………非常に申し上げにくいのですが」


「気にしないで、ほら」


「はっ。拠点の隅々まで調査したのですが………その、『目白鮫』頭領の男、サイゴウの姿が見当たりません。それに加え、『目白鮫』が大量に保持していたであろう金銭、兵器、違法物など、全て見当たりません」


「…………………はい?」








「あー、腰痛ぇな。ちゃんと運べよ」

 

「ははは。ご老人には少々堪えますかな?」


「ちっ、老化ってのは嫌なもんだぜ。全く」



 カラフルな法衣を着た男が、一人の老人を背負って歩く。メンバー全員が知らない、秘密の抜け道。そこを通り抜けると深い森に出た。



「にしても、ひでぇ様だなこりゃ。いつかは切り捨てる予定だったが、まさかガキ二人に追い詰められるとは思わなんだ」


「えぇ。今回はコンディションが整っていませんでしたからね」


「急にどうした」


「セトなる少女……んん//素晴らしい!次に会うときにはそうですねぇ、彼女にはじりじりと精神を磨り減らすのが良いでしょう。まずは家族を殺し、友人を、ゆっくりと、一人一人削っていって、心の支えを目の前で破壊して、まだ終わりません。精神が折れたらそのまま生かすのです。瞳の光が消え失せ、生きがいがないのに生き続ける。そして最後には彼女自身で…………デュフフフフ」


「相変わらず正気の沙汰じゃねぇな。外道である俺に言われるって相当だぞ?」


「そのセリフ、そのままそっくりお返ししますよ。我ら外道は太陽の光など浴びてはいけない。ましてや希望の光など。ジメジメとした影の、闇の世界でこそ輝ける。殺人強姦強盗してなんぼなのですから」

 

「それもそうだな。――――そろそろ頃合いだな」


「そうですね。そろそろ行きましょうか」



「「我らが故郷、和国へと」」










 カツジは霧がまだ晴れていない街の街道を歩いていた。あくびをしながら目から出た涙を拭う。


 眠い。


 このところぶっ通しで動いていたからほんとに眠い。というか明日学校じゃん。おいおいおい死んだわ俺。しかも明日テストやんけ。 

 


「ああああああああああああああ」



 まだ誰もいない街道で叫ぶ。ま、どうにもならんか。せめて赤点だけは回避しよう。



「………にしても、結構傷は深いと思ったんだがな」



 自身の体の隅々を撫でる。アルクとの戦いで全身がボロボロになった。一発受けただけでも致命傷。骨や筋肉、内臓もちょっとやられた気がする。


 …………だがカツジはここで平然と歩いている。別に強がってるわけじゃない。いや、少し強がってるが。痛みが引いている、というよりは傷の回復が異常と言ったところか。


 折れた腕は完全にとは言わないが、ほぼ繋がってる。



『あぁそれか。儂が治した』


「いつの間に………!?回復魔術って凄いな。なぁ、俺にも教えてくれよ」


『たーわーけ。いいか、回復魔術とは原則である10種の魔術からかけ離れた、独立した魔術じゃ。王国に一人使える人間がいるかいないか、それほど希少で難しい魔術なんじゃ』


「なーんーだーよー。ちぇ」


『別に使えないとは言っとらんじゃろ。儂が時間をかけて教えてやる。まずは、魔術10種類を完璧に覚えることじゃな』


「お、おう………なんかお前、距離感近くなってないか?」


『は?同一化してる儂らに距離も近い近くないはないじゃろ』


「いやそうじゃなくてだな…………まいっか」



 頭によぎった疑問を適当に流す。アルクと戦ってるときも、"相棒"とか言っていたが。


 まぁ言われて悪い気はしないし、これからこいつを真人間に戻す使命があるし相棒と言っても差し支えないか。



「あ、すみません」


「―――――――」



 考え事をしていたら人とぶつかってしまった。まだ朝方で人が少ないから油断してた。

 

 カツジは頭を軽く下げた。男はチラッとこちらを見て、すぐに立ち去っていった。



 あーにしても、マーマンにはどう説明しようかな。多分怒られるよなー、そりゃ就寝時間過ぎてるのに寮飛び出してこんな傷を負って帰ってくるんだもんなー。


 どう言い訳しy



「っかは」



 ベチャリと。液体が落下して地面に叩きつけられる音がした。だいぶ間近で聞こえた。どこだろう。周りを見渡してもそれらしきものは見当たらない。もしかして下かな?


 


 あれ、俺の手、血で―――――




「うぇっ!?ぼぇ、ぼぉぁ、かはぁ、あぁ!?!?なに、が、どぉじ、で、ぼぁがぼ!?!?」




 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。



 全身が得たいのしれない何かに浸食されて、ぐちゃぐちゃにかき回されて、沸騰させられて、泥遊びでもする幼子みたいに滅茶苦茶になっていく。


 ―――熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。


 ―――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 ―――苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。


 

 また何か吐いた。赤色?それとも黒色?もはや五感が機能しない。妙に重たい感触がした。まさか、臓器でも吐いたか?まさか――――




「うぅえ、ぼ、あぶ、ば、ぎぃあ、あぁあ!?びばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」




 あぁ、なんかもう、疲れた。眠いわ、寝よう。






 ―――――――助けて。










「これが、そうか。なるほど…………非常に興味深いな。鬼神ミオ、か」









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