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45   驚異の再生と伸縮


 ふふん、と鼻を鳴らすカツジ(鬼神)。


 その顔には何処となく、すっきりした表情が浮かんでいた。アルクは二の腕からスパッと斬られた傷口を素手で押さえながら沈黙する。



「ん?どうした。痛すぎて声も出せぬか?」


「――――あ、ごめん。こんなに痛いのは久しぶりでさ。あ、俺生きてるんだなーって実感してちょっと感動しちゃってた」


「新種のマゾヒスト?苦痛なんて受けなくてなんぼじゃろ」


「いやいや、殺人とかしてるとそういう感性が死んでくんだよね。思い出すきっかけになったわ、ありがと」


「腕一本持ってった相手に感謝するとは………儂には到底理解できんな」


「それは君がちゃんとした感受性を持ってる"人間"ってことさ。誇れる物だ」


「そう………そうか」


「………なんでちょっと嬉しそうなん?」


「んいや、こっちの話じゃ。それじゃ戯れはここまでにして、コホン。覚悟はできとるか?」




 返事は無かった。アルクのニタリとした笑いを決戦の合図と解釈し、カツジは両脚を前へ踏み込む。1秒もかからずに文字通り目と鼻の先まで距離を詰める。



 ドッガン!!と。爆発でも起きたみたいな鈍い音が響く。不可解なことに、抵抗は無かった。むしろ殴られながらニヤニヤと笑っている。気持ち悪ぃ。



「一発、二発、三発、ラストォ!!」



 床と平行になり、ロケットが突っ込むように両脚でキックする。気付けば最初アルクと対峙していた保管庫まで戻ってきていた。



「くくく、きは」


「あ?」



 血反吐を吐出しつつも不気味な笑い声をあげるアルク。何だか嫌な予感がする。カツジはいつでも反撃ができるように身構える。



「作戦がこうも綺麗にいくと気持ち良いぃなぁ………とケタケタ笑いが止まらない」


「作戦だと………?――――まさか」


「てってけてー、『ハザードギブン089』~」



 背後にあった扉の無い引き出しに残った片手を突っこむ。砂利のように黒い粉が大量に入った袋を引きずり出すと、ビリッとその袋の口を破く。


 その薬に秘められた恐ろしさを知りながらも、大きな口を開けて黒い粉を大量に飲み干した!「ケケケケケケ!!」と聞いたこともない笑い声が保管庫中に木霊する。



「お主………どうなっても知らぬぞ」


「お気遣いどうも!あぁ、ヤバい、気持ち良い!快感というよりは性的快楽に近いなぁ。どんどんと内側が薬に侵されていくのを感じるよ。ブクブクと膨れ上がって、バキバキに壊れて、ボロボロと崩れ落ちて、あぁ、あぁ、あぁ!!」


『う、目も当てられない………』


「酷いな、これは」





 アルクの体は『ハザードギブン089』に浸食され、どんどんと人間を辞めていく。精神は既に怪人染みていたが、肉体まで変化すると本当に怪人だ。


 切断された腕の断面からは、黒と紫が合わさったような、少なくとも人間の皮膚ではない色をした巨腕きょわんが生える。全身の皮膚はボロボロと崩れ落ち、その代わりに筋肥大が激しく、服は破れ太くなった薄ピンクの筋肉が見え見えだ。



 髪の毛は一瞬で白髪のように変色し、瞳の中の光は完全に消えていた。



「きひ、きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!!!!!」



 口から蒸気機関車から出る蒸気みたいに白い息を吐く。もはやアルクとしての原型はなく、かろうじて人型を保ってるぐらいだった。カツジは腕組みをしながら、



「腕が生えるとか、キモ」

 

『おいおい何だかヤバくないか!?見た目のヤバさが尋常じゃあないぞ!」


「たわけ。儂を誰だと心得る。四大超越神の一角にして、貴様の相棒じゃ。倒せないものなど、あんまり無い!」


『そこは無いって言い切ってくれよ!』


「さーてさてさてさてさて。準備万端やる気満々元気はつらつ意気揚々!死よりも恐ろしい地獄を見る準備はできなかなぁー!!?」


「ふん、地獄なら何度も見てきたわい。年期の違いって見せてやるぞ、小僧!!」



 先に動いたのはカツジの方だった。だが負けじとアルクもカツジの動きについてくる。強力な正拳突きと、乱暴な鉄拳がぶつかり合い、ボワッ!!と空気が揺れる。



 グギッ


 何だが嫌な音がした。



「……………これ、折れたな」


『なんか変な方向に曲がってない!?曲がっちゃいけない角度になってんですけどォォ!?』


「落ち着け。こんな物すぐに治せr


「させるわけないじゃあぁん!!」



 アルクの巨腕による薙ぎ払いがカツジの体を吹っ飛ばす。ノーバウンドで壁まで突っ込み、治さなければならない傷が余計に増える。


 鬼神自体は痛覚をほとんど遮断する術を使っているのでそこまで気にはならないが、今手足を動かしているのはカツジの体だ。自分のミスで出来るだけ傷つけたくはない。



 カツジの体のせいでだいぶ弱体化してるとはいえ、単純なパワーだけなら四大超越神の中で一番の鬼神が押し負けるとは。ちょっとイラッとする。


 だが今ので単純な力押しだけでは勝てない。何か武器があればいいのだが…………



「お、いいもんあるじゃないか」



 偶然、最初にカツジが投げ飛ばした木刀が突き刺さっていた壁の近くだった。スッと木刀を引き抜いて刃を撫でる。



「うむ、まだ全然使えそうじゃな。これなら行ける」


「よそ見しているとぉ、お陀仏☆だぜぇ!!?」


「ふん」



 軽く鼻で笑って見せた。

 

 大振りの右フックがカツジの顔面に迫る。だが、カツジが起こしたアクションと言えば、


 シュンと。


 まるで料理人が包丁で魚を捌くような洗礼された手際で木刀を振り下ろしただけだった。瞬間、アルクの巨腕が崩れ落ちる。



「儂の巧みに洗礼された『魔刃』を舐めるでないぞ?三枚に下ろされたくなかったらダイヤモンドでも全身に固めとくんじゃな!!」



 目にも留まらぬスピードで、1秒もかからずにアルクの体を切り刻んでいく。スパスパスパスパと。王国の騎士や、ともえのような修行を積んだ強者つわものでもこの剣技を超えるのは至難の業だろう。


 もはや悲鳴をあげる瞬間さえ許さなかった。



「………呆気なかったな。地獄で己の罪を認め、殺した人間へ懺悔するんじゃな」


『人間としてはクズだったが、戦士としては凄かったよ。今度は良い奴に生まれ変われよ』

  



 せめてもの慈悲だ。弔いでもしてやろうと、魔術を発動させようとした、その時だった。




「ッッ!?!?」



 突然背後から謎の腕がロケットパンチみたいに飛んでくる。間一髪で気づき、木刀で腕を真っ二つに切り裂く。


 ポトリと落ちた腕の片割れに、ウニョウニョとミミズみたいに動くアルクの肉片が集まっていく。それはどんどんと大きさを増し、人型を形取ってゆく。




「じゃあーん。ねぇねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?格好つけてそれっぽいこと言っちゃってさぁ、恥ずかし!!共感性羞恥ってこういうことなのねぇーきひひひひひひひひひ!!」


「…………………………………」


「ん?どうしたの黙っちゃってさ。僕の腕があの時再生した時点で再生能力があるって気付よ。まぁ僕もあの状態から元の形に戻れるほど強力だとは思わなかったけどねぇ」


「…………………気持っち悪いッッ!!」




 久しぶりにグロいというかキショいというか、身震いするようなおぞましい光景をみた気がする。思わず自分の身を抱きしめてしまうほどだ。



「儂、グロ耐性はあるけどああいう気持ち悪いのは無理なんじゃ。昔、友達と寄生エイリアンの映画見た時からトラウマで………」


『おい、前見ろ!!』


「あ、なんじゃブッッ!!!?」



 次の瞬間、顔に強烈な拳が刺さり空中できりもみ回転してしまう。受け身をとりダメージを最小限に控えたが、一体何が起こっている?



 アルクとカツジの距離は、カツジの歩幅で20、30歩くらい離れていたはず。そんな距離で攻撃を仕掛けてくれば間違いなく気付くはずだ。



『あいつ……腕を伸ばしやがった!!本当に怪物になっちまっぞ!』


「ケケケケケケ。いい、いいよこれ。さながら怪物ゴム男と言ったところかな?ゴム男さんって呼んでくれてもいいよ?あ、駄目だわやっぱダサい」


「某ワンピな海賊みたいな攻撃してきやがって……」


「ん?ワンピ?まぁいっか。そろそろこっちのターンにさせてもらうよ!!」




 大きなモーションをとり、右腕をビュン!と伸ばす。カツジは咄嗟に右腕を切り刻むが、その間にもう片方の腕が飛んできた。


 紙一重で身を翻し躱す。カツジは伸びた腕を足場にして距離を詰める。無限に再生する体とて、生き物であるのなら首や脳天を狙えば一撃でお陀仏だ。



 カツジは木刀を構え、シュン!と剣激を放つ。――――が、



 なんとアルクは自身の伸びる体の特性を生かし、首をろくろ首みたいにグニャリと動かして回避して見せた。


 

「んなっ!?」


「ぐぐぐぐ、ロケット頭突き!!」



 ゴムみたいに元に戻ろうとする力が働き、その反動が攻撃に上乗せされ文字通りロケットみたいな破壊力と化す。カツジの顔よりも二回りほど大きい大砲の弾(アルクの顔)が直撃する。



 更にアルクは腕を伸ばし、カクンと伸びる角度を変えカツジの背後へ迫る。身を捻って木刀を振り回し、なんとか後方からの攻撃に対象する。


 無事に着地し、近くの物陰に身を潜めた。



「はぁ、はぁ。なんじゃあのでたらめな体は!アニメじゃないんじゃぞ!『ハザードギブン089』はゴ◯ゴ◯の実だったのか!?」


『おいどうするんだよ!こっちは木刀一本だけだぞ。体は伸びるし再生もする!こっちが圧倒的に不利だ!こうやって身を潜めてる間にアイツの腕は再生してる!せめてなんかデカイやつを一発…………そうだ、魔術。魔術だよ!ほらお前あれ使えるじゃん。閻魔えんなんちゃらかんちゃらって』


「あれは広範囲、高威力であるが故に広い場所でしか使えん。こんな地下空間で使ってみろ、全員漏れなく生き埋めコース決定じゃ」



 鬼神の切り札である閻魔シリーズは基本的にはデカイ物や敵、地形を破壊するのに特価した鬼神専用魔術だ。確かに、あの無限に再生する体を消滅させるには肉片一つも残さず消さなければいけない。



 だがどうする。ここは地下深くの隔離された空間。テレポート的な魔術でも使わない限りここから奴を引き剥がすことはできない。



 考える考える考える。ゴム男はすぐそこまで迫っている。何か、何かないか………!!



「……………………あ」


『何か思いついたか!?』


「おい小僧、一旦逃げるぞ」


『はい?』



 カツジは物陰から身を乗り出し、アルクの目の前に姿を現した。



「お、自分から来てくれるとはありがたいねぇ。死ぬ覚悟はできたのかな?」


「へいへいゴム男さんよぉ、フォローミー!!」



 バビュン!!とジェット機のような速度で走り出し、保管庫から抜け出した。

 


「…………?」   




第64部分を読んでくださり、誠にありがとうございます。


皆様もうお気づきかとは思いますが、鬼神ミオは地球の転生者です。転生者って何やねん……という読者はいないと思うので説明は省きます。鬼神ミオが鬼神になる前の、異世界転生した直後の話とかの過去編はいつか書きたいと思っています。お楽しみに



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