40 ごり押し潜入
「あべしッッ!!!」
敵の本拠地だと言うのに変な声を上げて着地(顔面から)するカツジ。その後2回くらいバウンドし土臭い地面に顔を突っ伏した。
「ぺっ、ぺっ!いてててて………鬼の俺じゃなかったら今ので即病院行き下手したら死んでたぞ。『目白鮫』め、なんて巧妙な罠を……」
上を見上げ縦に長い穴を見る。どうやらあそこから落ちてきたようだ。光が差し込まず周りが暗くてよく見えない。
「うるせェぞバレるだろうが。しかし、こんな場所に本当に本拠地があるとは思わなんだ」
無傷どころか服すら汚れていないセトが見下ろしながら仁王立ちする。キョロキョロと暗い周りを見回し、道を探す。
「な、なんでセトは無傷なわけ……?」
「途中ではしごあったからそこに掴まって降りてきただけだが」
「言ってよ!安全処置が見つかったのならばまず報告!お陰で戦ってもないのに全身ぼろぼろだよ!報連相ができない奴は社会でやってけないってベリアル先生が言ってたぞ!」
「うるせェって言ってんのが分かんねェのか?あ?」
「すみません」
1回睨まれただけで屈するカツジは地面の床から立ち上がり、セトについて行く。トンネル、もしくは廃坑と言った感じか。最低限の明かりが狭い通路を照らし道先を示す。
しばらく歩いていくと、この場には場違いな襖があった。中からは結構明るい明かりが見える。こんな夜遅くにでも明かりを灯してるということは、宴会でもやっているのだろうか。
そう思うとやたら歌声やら騒ぎ声やらが聞こえてきた気がした。
「チャンスだ。どうやら敵は宴会でもやってるようだ。警備は薄くなってるはず、今の内に潜入する。いいか、目的は3つ。薬を一粒残らず消すこと、アイトの特効薬を手に入れること、この『目白鮫』を壊滅させること。3つ目はできたらでいいが………オレのむしゃくしゃが収まんねェから潰す」
カツジは黙って頷く。
「ある程度まで進んだら二手に分かれる。オレが手当たり次第に暴れてくるからオ前は薬のほうへ行け。行くぞ!」
襖を開閉し速やかに壁に張り付く。周りを見渡して警備がいないか確かめる。どうやらここにはいないようだ。
中は木材を中心とした屋敷のようだった。なんだか雰囲気が鬼の里や巴が来ている和服のような、上のサクライドームとは打って変わって和の雰囲気を漂わせている。
確認を終えたセトは指を進行方向に向けて、くいくいっとジェスチャーを送る。無言で頷いたカツジは彼女の跡を追い、忍びのように差し足忍び足の体制で前へ進む。
少し進むと道が二手に分かれている。すると足跡が右側の通路から聞こえてきた。二人は咄嗟に身を潜め過ぎ去るのを待つ。
「へー、へー、まだ呑みたいんやワシはぁ~。ひっく」
「やめとけ。酒弱いくせに呑むんじゃあねぇよキッチはん。久しぶりの宴会やからって羽目外しすぎるもんじゃないさかい。ほら寝室いかな」
「えー!?やだやだー」
「酔っ払ってるからってその歳でそれはないわ」
「よし表出ろ殴らせろ酒飲ませろ」
「急に酔いが覚めた!?ちょちょ冗談やないか。……………ちょ、手ポキポキ鳴らんさんといてや!!」
二人がくだらない喧嘩をしている隙に右側の通路に進む。左側は寝室のようなので右側で正解の……はず。
というかなんだあの会話。完全に酔っ払っいの会話じゃないか。これが裏社会の人間なのか………?
セトの方を見ると、名案を思いついたように八重歯を光らせて、
「…………よし、拷問するか」
「ちょ」
セトはとっ掴みあう二人の背後にこっそりと回り、荷物から取り出した縄を構えて――――
「――――っは!?ここは………テメェこのやろ畜生!後ろから襲ってくるとは卑怯な!名乗れぇ!」
「―――――」
「おい黙ってねぇでなんかいいやがれ!!おいロックナット、お前も何か…………」
意識が目覚めた男、リッキは相棒であるロックナットに呼びかける。…………しかし彼の姿は見当たらずあるのは赤い液体で真っ赤に塗れた袋が吊り下げられているだけ。
妙に生臭く、独特な臭い。吊り下げている袋の先が伸びていることからそれなりに重いものが入ってると思われる。
「え、ちょ、待って。何があった。ロックナット!?」
「―――――」
仮面を被った謎の少女がコツコツと歩み寄る。彼女が被っている仮面はよく市販で売ってる安いものだが、暗い密室、縄で縛られてる状況、そして彼女が両手に持っている凶器。
殺戮振動剣チェーンバッソー。ギザギザした刃は銀色に輝き、エンジンを吹かせながら血を吸い上げるのを今か今かと待ちわびている。
こんなシチュエーションでは、安っぽい仮面でも相手を錯乱させることができる。リッキの脚はガクガクと震え、裏社会の人間とは思えない無様な姿を晒していた。
「おい、ロックナットはどうしたんだよ………?何が目的なんだよ!?」
「そいつならそこにいるだろ」
「そこってあの袋しか………………ッッッ!?!?!?ま、まさか」
「『ハザードギブン089』がある場所を教えろ。そうすればこれみたいにはならならい………かもな」
心臓の心拍が乱れる。魂が恐怖で木霊する。脳の警報が鳴り響く。目の前の現状を理解した、してしまったことによりことの重大さが身に染みる。
だが遅かった。ロックナットな殺されてしまった。今度は自分の番だ。ふかされるエンジン音が死へカウントダウンのように聞こえる。
(クソクソクソクソクソ!!今日は厄日だ!殺したくもねぇガキを撃っちまうし、上司には怒られるで散々だ。死ぬ、アァー!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?!?)
怒りと恐怖の感情が思考を乱す。涙で視界はぐちゃぐちゃになり、鼻水と過呼吸で肺苦しい。荒れに荒れ、正常な判断力が赤子以下まで落ちた時、彼が口にしたのは――――――
「うっし、どうやらもう一つ下の階層があるようだな。そこの東の保管庫と……カツジ?どうした」
「こっわ。ちびるかと思った…………」
「こんなの誰だってできる。暴力ではなく恐怖で心を掻き乱す。ただ肉屋で買ってきた肉を袋に詰めて下ろしてるだけの簡単なトリックにも気付きやしねェ。相棒はすぐ後ろで寝てるってのによ」
まるで何回もやったことがあるように話す。トリックが分かっていたとはいえ、これは見ていて怖い。夢に出てきそうだ。
「クソ、だいぶ時間食っちまったな。ルーメルンならもっと早くできただろうに………」
「え」
######
そのまま順調に地下一階層を攻略し下りの階段まで来た。
途中で中を観察して回った。確かに大体は酒飲んだり料理を楽しんだりしていたが、肝心のボスらしき人物は見かけなかった。
別にカツジは歴然の戦士ではないが、この一階層にいる奴らは見た感じカツジとセトよりも格下だ。
「となると、実力者たちはこっから下にいるってことになるよな。目的全達成の為には戦闘は避けられないんだけど………んー」
「今更何言ってやがる。不意打ちでもなんでもいいから潰すんだよ、ここを」
「…………分かってるよ」
二人は顔を見合わせ、無言で頷き階段を下る。一階層のドンチャン騒ぎはもう聞こえない。木で作られた螺旋状の階段を一段一段降りる度に、じわりと背中に汗の珠ができる。
濃密な『闇』の気配をかすかに感じる。ここからが本番、まさにそれを言いたげな雰囲気だった。
「これが二階層の襖か………。よし、早速」
「待て、よく見ろ」
「んあ?」
カツジが一歩踏み出すとセトが片手で止めてきた。彼女は指を襖、ではなくその回りをぐるりと見渡す。
何枚か等間隔にお札が貼られていた。セトはそれを触らないようにまじまじと見つめる。
「…………記号魔術による結界か。気をつけろカツジ。この先には結構な魔術の使い手がいるぞ」
「結界って………じゃあどうやって通るんだよ?」
「その点については大丈夫だ。これは強い魔力を有してる人間ほど弾かれる種類の結界だ。クロウリーの野郎とかだったら即アウトだが、魔術をろくに使えないオレなら多少ピリッとしても弾かれることはない。多分だが、相手も気付ねェ」
「そうか、なら良かった。俺と魔術なんかほとんど使えないから多分行けるか………な?」
「なんで疑問符なんだよ。…………チッ、ちょっと触るぞ」
「ファッ!?」
面倒くさそうに舌打ちをしたセトはカツジの体を医者のようにベタベタと触る。
ちょっとこれはマズイ。何をしているのか分からないというかその前に女の子に体をベタベタ触られるのはちょっと…………いや別に嫌な訳じゃないんだよ?セトは男勝りだから意識してなかったけど近くで見るとかなり美少女だからーそのー。
ぺちゃくちゃの聞いても無いことを頭の中で叫ぶ。
「…………大丈夫そうだな。オ前も魔力は雑魚い」
「何だか傷つくなぁ…………。い、一応聞くけどなな何をしていたのでしょうか……?」
「何って、オ前の魔力量を触って確かめてたんだよ。何か文句あんのか、アン?」
「すんませんでした」
「ったく。オ前も子分達と同じくらい世話が焼ける奴だな。行くぞ」
セトは眉一つ動かさず結界を通り抜けていく。どうやら本当に彼女は大丈夫なようだ。それに安堵したカツジはほっと胸をなで下ろし彼女の後に続いた。
パヂンッッッ!!!とガラスが割れたような音がして結界が壊れた。
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「「は?」」
本当に待ってくれ頼むから。え?え!?
今のカツジの思考能力は原因不明トラブル発生により赤子以下まで退化していた。だって、意味が分からない。セトが大丈夫だったのに、何故カツジは結界の判定を受けるのだろうか。
しかも不可解な点が一つある。それは結界の判定を受けたのにも関わらず肉体自体は結界の中へ入れたことだ。
だがパチン!となったのも事実。何が何だか分からずにカツジは目をぐるんぐるんさせる。
「どうしようセト、どうしよう!!?」
「落ち着け、落ち着け…………。とりあえず頭に刺激を加えて現実逃避するんだ………」
「お前が落ち着け!!何なんだよ、もうぉ!!なんかバタバタ足音聞こえるし!!一体なにが…………おい鬼神、何か………あ」
ふと、そこでカツジは思い出した。
この体には二つの『魂』が宿っているということを。そしてそのもう一つの『魂』は、あの四大超越神である鬼神ミオがいるのだ。
神であるのならば、結界に引っかかる魔力量通り越して破壊してしまうのは想像に難くない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「どうしたそんな大声出すんじゃねェ!」
「うちの馬鹿がまーたやらかしたんだよ!!こうなったらヤケクソだ!予定通り、俺が薬の件はなんとかするからセトは暴れ回ってきて!!」
「……………そういうことか。チッ、分かった。ちゃんと仕事しねェとお前からぶっ殺すからな」
「おうよ!!突撃!!」
二人は武器を構えて地獄の入り口をぶち破った。
「曲者だー、皆の者出会え出会えー!!」
「おいおいこんな日に何だってんだ!?正式に相手との取引が決定したこのめでたい日に」
「お前は親父の護衛に当たれ。こっちは侵入者の撃退に入る。クソ、ここに辿り着けれる証拠なんざ消してきてるはずなのに。誰かヘマしやがったな!?」
大勢の『目白鮫』メンバーの声が交差する。
予想だにもしてなかった不測の事態に相当パニクっているようだ。敵の動きがぎこちない。酔いが覚めてないってのもあると思うが。
「なぁ、東の保管庫って言ってたけど東ってどっち」
「多分この通路を右だと思うが。とりあえず警備が厳重そうなところ進んでりゃ辿り着くだろ」
「貴様ら、何者だ!!」
襖が何個もある畳部屋。
両方の襖が開きそこから現れた『目白鮫』の男が武器を構えて言う。
セトはブウウウンとエンジン音を吹かせ、カツジは木刀を構える。
「んじゃ、後で合流な」
「アァ、任せたぜ」
「奴らをとらe
「「邪魔だ!!」
######
ダッダッダッダッと木材の床を踏みしめる音が聞こえる。そして同時に大量の足音も後から聞こえてきた。
「迷った」
セトと別れたカツジはとりあえず東だと思う方向に突き進んで行ったが、案の定、敵に追い回されてる内に迷ってしまった。
長い長い通路を走りながら頭を抱える。
「どうしよう。どこだここは。あんなに格好つけて任せろって言ったのに五分後には迷ってんじゃねぇか」
『ぷぷ、だっせ』
「うるさい黙れぇ!!お前も協力しろやこのプー太郎が!」
『だからプー太郎じゃねぇ!!………そうじゃな、まずはこの追っ手を片づけろ。話はそれからじゃ』
「ちっ、おらかかってこいや!!」
急ブレーキを駆け片足を軸にして180度回り敵を迎え撃つ。
通路はそこまで広くない。横で4人並んで歩けるか歩けないほどだ。
目の前にいるのは大勢の『目白鮫』の男達。ゴトゴトと足音が聞こえてきたと思ったら後ろの通路からもやってきた。
「よぉ。どうやってここに入ってきたかは知らねぇが、ここがどこだか分かってんだろうな?」
「社会不適合者の集まりだろ?くだらない金儲けの為に散々人をいじめ倒してくれたな。父ちゃんが言ってたぜ、女の笑顔は120銭、女の涙はマイナス100億銭だってな」
「つまり、なんだ?」
「女の子を悲しませた罪は、きっちり払って貰うってことだよ!!」
両手を左右に広げ、手の平を見せつけるように『目白鮫』に向ける。
「『爆』!!」
轟!!と爆裂音がなる。
両サイドに爆発を起こり、木材でできた建築物は瞬く間に引火していく。
同時に、肺を蝕む灰色の煙が『目白鮫』の男達を襲った。
「けほ、けほ、いきなりなん、ぐわぁ!?」
「ぐぇあ!?」
「あべしっ!?」
「あぁん//!!」
「クソ、目眩ましか!!防御を固めろ、通路は狭い。冷静に何処からくるのか判断しろ!!」
闇夜を自由に徘徊し命を鎌で刈り取っている死神のように、煙の中『目白鮫』の男達を薙ぎ倒していく。
一人の『目白鮫』が指示を出す。しかし、燃える床と煙に阻まれて思うように身動きができずに立ち止まっていた。
「づっ!?そこか!!」
「痛ェ!?兄貴、何を!?」
「こっちだよ、ばーか」
「うがっ!?」
カツジは視界が悪い煙の中、性格に男の首を両脚で挟む。端から見たらその光景は肩車して貰った息子のようだが、そんなのほほんとした空気ではない。
「兄貴ィ!!今助ける!!」
すると、山刀を構えた男が仲間の危機に瀕して後ろから遅いかかってくる。カツジは全体重を後ろに傾け落ちる。カツジの脚に引っ張られる形で男の顔も落ちてきて、向かってくる男の頭と頭がごっつんこした。
実際はゴッギン!!という嫌な音だったが。
『目白鮫』の身包みを剥がしその服で燃えた床を消化する。
「ふー、これで一群は片づいたかな。で、こっからどうすんだよ?」
『こういう、敵の占拠に潜り込んだ場合やることは決まってるんじゃよ。サスペンスドラマとか、スパイとかでよくある」
「さすぺ……なんだって?」
『あー気にするなこっちの話よ。簡単に言ってしまえば、変装じゃ☆』
######
一方で、だ。
殺戮振動剣チェーンバッソーを片手に駆け抜けているセトはというと、
「なんなんだこい、うぎゃぁぁぁ!?!?」
「がぁぁぁ!?!?」
「て、撤退!撤退だ!!」
「逃がさねェよ?」
絶叫があった。
広い居間は血潮がそこら中に巻き散らかされていた。
なんとも酷い有様だ。
ピンクの悪魔の名に恥じない活躍ぶり、チェーンバッソーは赤い血を欲している。セトは返り血を黒いジャケットで吹きながら、
「一人も残さねェ。大人しく降伏するんなら殺しはしねェが、それでも来るってんなら………分かるよな?正直イライラしてんだ。カツジがいねェからぶっちゃけて言うが、オレはテメェら全員ひき肉にしてもなんとも思わねェ」
「ひ、ひぃ!?」
「因果応報を食らう覚悟がねェ奴に、悪事をする資格はねェ。全員黙って、消えろッッ!!」
ピンクの悪魔がまるで血を求める殺人鬼のようにエンジン音を鳴らす。彼女は彼女で我慢の限界だった。家族同然の存在の尊厳を踏みにじり、あまつさえ大切な子分を傷つけた。
カツジは、できれば殺してはいけない、と言っていた。しかしそれで抑えられるほどセトの怒りは甘くない。
止まらない、止められない。
心優しい人間だからと言って、他人を傷つけることに抵抗がない、なんてことはない。その逆も然りだ。彼女はどちらにも当てはまる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
「オ前で、最後だッッ!!」
剣を振り下ろした、その瞬間。
パチン、と目に見えないバリアにでも弾かれたようにセトの体が後ろへくの字に曲がる。
「落ち着きなさい。私が来たからにはもう安心ですよ。爆撃熊殿にこの事態を速やかに伝えなさい」
「あ、あぁ……道満さん。ありがとぉ、この恩は一緒忘れねぇ。みんなの仇をとってくれ」
「分かってますよ。はやく行きなさい」
「――――テメェだな?あの結界を張ってたのは。今のも魔術か?」
虚空から現れた謎の男は随分と派手な格好をしていた。白、緑、黒。配色やら布生地やらで和国の服装、和服であることが分かる。
何重にも布生地を纏った法衣に、頭には黒く染まったシェフがつけてそうな細長い冠を被っていた。
か細い声で男は一礼をし、
「ふふふ、さてどうでしょう。よくぞここまで辿り着きました、お嬢さん。私は和国よりこの地に辿り着きました、阿修羅道満と申します。それでは、いざ尋常に」
「正々堂々と戦うってか?お断りだ」




