39 突撃!『目白鮫』
時計の針は既に深夜2時を回っていた。
遅くまで飲み会してる親父も流石に家に帰ってベッドにダイブしている頃だろう。
そんな暗闇の中セトは自分のアジトまで帰ってくる。中はシンと静まり返っていた。時間帯とアジトのある林も相まって亡霊でも出てきそうだ。
だがセトは臆さない。今から裏社会の組織に喧嘩売りに行くんだ、亡霊なんかにビビってられるか。背中に愛用の武器を背負い、最低限の荷物を持ってはしごを使わずに飛び降りる。
「…………今夜は満月か」
真っ黄色のお月様が鬱陶しいほどに光輝いていた。お陰でこんな林の中でも月光がさして見える見える。奇襲にはうってつけの時だ。
「ニャーン」
「…………オ前らか」
後ろから一匹の猫が、いや一匹二匹ではない。ぞろぞろと後ろから保護していた動物達がセトの元へやってくる。
「おお、ちょつとオ前ら……!ははっ、やめろくすぐったいってば!」
セトを元気づけてくれているのか、はたまた餌でも要求しているのか彼らは毛並みを擦り付けてくる。
チクチクするしこそばゆいが、何だか心が焚き火のように暖まっていく。
「必ずオ前らを元の生活へ戻してやるからな。これが終わったら、肉でも魚でもどんと食べろ。オレの奢りだからさ」
「ニャーン!」
「じゃあな。行ってくる」
彼らに背を向けてその場を去って行く。リリリとタンバリンの鈴のような音を出す虫達のオーケストラが聞こえる。風でユサユサと揺れ葉っぱ同士が擦れ合う音がする。
とても静かだった。
頭の中が浄化されていくような気分だ。さっきまで情緒不安定だったから余計にそう感じる。
リラックスしたのか気が抜けると腹の虫が鳴る。戦前の腹ごしらえといこうか。
荷物の中からジャンクフードを取り出す。不良御用達セットだ。どこでも誰でも食べれるし美味しいし腹にたまる。セト達は尊敬の念を込めてジャンクさんと呼んでいる。
ジャンクフードを貪りながら歩いていると林を抜ける。そこには待ちくたびれた顔をしたカツジが壁に背中を預けていた。
「それ、儂にもくれない?美味そうじゃな」
「駄目だね。オレのジャンクさんは渡さねェ。草でも食ってろ」
「随分と辛辣じゃのう………で、一つツッコんでいいか?」
「アン?何だよ」
「お主が背負ってるそれ…………何?どっからどうみても……」
「おうオ前、殺戮振動剣チェーンバッソー。別名ピンクの悪魔を知ってるとはな。これはな、この紐を引っ張るとブブブブっていって回るんだよ。刃が」
「いや、それどう見ても業務用のチェーンソーじゃね?というか名前物騒過ぎじゃろ」
彼女が持っていたのはピンク色の色彩が入ったチェーンソーだった。セトは自慢げにカツジに見せつけてくる。
「チェーンソーなんてもんは知らねェが、お喋りはここまでだ。早く行くぞ」
「はぁ………」
カツジは唇を尖らせながらもメモ帳をポケットから出す。便利な動物翻訳機のお陰で場所はすぐにあぶり出せた。動物は人語を話せない分、かなり物知りなのだ。特にカラス、近所のおばさまネットワーク並の情報網が揃っている。
ユウキに翻訳させた時に要らない情報を引くレベルで言ってくるから面倒くさかった。
「場所は第7地区のサクライドーム、の地下だ。ここから第7地区までは近いから屋根とか飛んでけばすぐつ…………うっ!!!?」
『そうか、そこにあるんだな。なら選手交代だ』
「どうした?」
その時だった。内側から声がする。
一日近く経っても目覚めないから完全に忘れていた。奇襲を受けた鬼神は抵抗する暇も無く主導権をカツジに奪われる。
ビクン!と体が痙攣し、額の青白い角が消失する。
「はぁ、はぁ。疲れた………おはよう、セト」
「今は夜だぞ…………。説明しろ、何なんだ?」
カツジ説明中………………
「…………難儀な体してんな、オ前。自分の中にもう一人他人がいるなんてゾッとするぜ。で、なんでこのタイミングなんだ?」
『そうじゃ!せっかくいい所だったのに小僧ー!!もっと儂をg
無理矢理鬼神との通信を切った。どうせすぐ戻ってくると思うし今の内に話しておこう。
カツジは深くセトに頭を下げる。
「すまなかった」
「…………オイ、何のつもりだ」
「俺が不甲斐ないばっかりに、君を傷つけてしまった。………アイツが使った動物についても本当にごめん。実は結構前に意識だけなら戻ってたんだ。けど、アイツの暴走を止められなかった」
「オイオイ待て待て。何言ってやがる。そいつはオ前じゃなくてそのー、もう一人のオ前がやったことだろ?オ前が頭を下げる必要は無いはずだ」
いいや、と即答し首を横に振るカツジ。セトははっきり言って彼が何を言っているのかさっぱりだった。
カツジは依然として申し訳なさを感じさせながら話す。
「アイツの責任は……俺の責任だ。アイツとは分かり合えない、今回の件ではっきりと分かった。けど、文字通り運命共同体である以上こいつの管理は俺の仕事だ。俺がヘマをすれば、アイツが動き出して何をしでかすか分かったもんじゃない。まだ怒ってるのなら殴ってくれても構わない………。俺は君の力になると言ったのに、このザマだ」
そう言ってセトに近づき目をつむっていつでも彼女に殴られることを覚悟する。
鬼神は確かに悪人ではない。………だが、善人であるかと言ったらしいノーと断言しよう。悪は嫌っているが、だからといって善行を好む訳ではない。
まるで裏社会の殺し屋のように、悪人のみを裁く。その逆は鬼神の中にはない。エゴの押しつけ。神とは言っても根本的な所は人とそこまで変わらないのである。
鬼神の言う、犠牲無くして物事は進まないという考え方もカツジは認めない。犠牲を出す前に、犠牲を出さない方法を知恵を絞って考えて難しくても抗って諦めないで立ち向かえばいいだけの話だ。
鬼神は彼女を傷つけた。そしてそれは運命共同体であるカツジの責任でもある。
セトは深く息を吐き、彼の顔面に右腕を伸ばし―――
髪の毛を引っ張った。
「痛い痛い痛い、ハゲちゃう!ビリッとソリッと言って頭皮の道ができちゃううう!!」
「うるせぇほんとに殴るぞ…………。勘違いするなよ、別にオレはオ前には特になんとも思ってねェよ………。だからオ前を殴る権利はオレには無いし、オ前もアイツなんかの為に頭を下げる義理もねェ。その、鬼神?だったか。用があるのはそっちだ。おい聞こえるかこの野郎、いつかぜってぇ見返してやるからな!このピンクの悪魔に全身バラバラにされる日を首を洗って待ってな!」
「いや、それ俺がバラバラになっちゃうんですけど…………」
「…………そう言えば、オ前の名前聞いて無かったな。なんて言うんだ?」
「え?………俺の名前はカツジ。長ったらしい名前はないよ、ただのカツジだ」
「そうか………よし、行くぞカツジ」
とうとう開かれる決戦の火蓋。勝つのは熊を味方にする海の支配者か、それとも人間の信念が勝つか。
アイトのタイムリミットは残り2時間、セトは心強い協力者と共に闇夜を駆けた。
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サクライドーム。
神桜樹がそびえ立つサクライの街で一番でかい建物と言える。その名の通りドーム状の形をしており、基本的にはイベント会場だったり、スポーツ大会の会場になったりもする。
最近ではさすらいアイドル、『NN』と呼ばれるアイドルがライブを開くらしい。何だかモーブレッドが鼻息噴出して妙に興奮して語っていたが、なんだったのだろうか。
『目白鮫』の拠点は民家に紛れている、という噂だがそれは実は嘘である。民家に紛れている、見つけるのが困難、正体不明という実在はしているが情報量が足りないことを利用している。
情報量が少ないからこそ、少ない一つを鵜呑みにしがちであり嘘の情報を入れることで『こんな目立つ場所にはいるはずがない』と錯覚させる。
ユウキがいて本当に助かった。これは鬼神でも特定は難しかったはずだ。
闇夜に紛れ込みながら街を駆ける。15分もしないうちに件の場所へ辿り着いた。
「遠目では見たことあるけど、間近で見るとおっきいな。学校とはまた違ったデカさがある」
「感想はいい。早く乗り込むぞ。見たところ、この"ザル"警備なら"猿"が木を登るみてェに簡単に行ける。サルだけになにな…………………ぷぷ」
「おい、そこまで面白くないからな」
「うるせェ下水道に埋めるぞ」
「せめて木の下とかでお願いします…………」
居眠りする女性警備員をいいことにドームの入り口に潜入する。
……………待って、あの人管理人のお姉さんじゃね?なんでこんなところでバイトしてるんだあの人……。
無事に潜入に成功したカツジ達はドームの外側、席とかがズラリと並ぶ会場ではなく円形の道の上を歩く。
拗ねたような態度を見せる鬼神の案内を受けながら物音を立てないように歩いていくと………
「…………この何の変哲も無い壁が入り口だってのか?」
『カラスの情報を信じるのじゃ。奴らは情報の支配者、どこにいようと奴らのクリクリした黒い目からは逃れられん』
「お、おう。……………でどうすんだこれ。ドアノブなんか見当たらねぇしな。もしかしてこの装飾がドアノブの役割を果たしてるとか。ふんぬうううう!………駄目だこりゃ」
「……………難しいことは考えなくていいんだよ。蹴り飛ばせばなんとかなるもんだってルーメルンが言ってた」
(え、この暴力性って先生譲りなの………!?!?)
ガシガシ、ガンガンガンガン!!!とせっかく音を消して歩いてるのに台無しにするセト。
思ったりより硬くてイライラし始めたセトは、バレないか心配でキョロキョロするカツジにこう言い放つ。
「オ前も協力しろや。いっせーので行くぞ」
「え、でも大丈夫かな………」
「今更ビビってんじゃねェ。おらやるぞ。いっせーの、で!」
二人は何の変哲も無い壁を蹴り飛ばす。ドガシ!と音が鳴り、なんとなんと壁が回転した。
そして予想外の開き方に驚いた二人は、蹴り飛ばした勢いでそのまま回転式扉に入り込んでいき…………
落下した。
「うぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」




