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37   忍び寄る魔の手



電気もついてない暗い一室。あるのは休憩用の椅子と私物、それとビジネスの為に使う大量の麻薬。


男はとある機械を耳元に当て、一人で話し始めた。



「えーこちらアルクアルク。先日よく分かんないガキにバレました。が、始末したので大丈夫かと思われ。取引は順調に進んでいます。報告書はもうちょっと待ってください今異世界戦士イキリマンの最新巻を読んでるから……………すんません早くやるんで燃やさないで下さい。僕のコレクションが………!」



アルク、と名乗った青年はペラペラと本をめくりながら誰かと話す。


 ――――爆撃熊、それはこの国『ギルガス王国』を主な活動地とし爆薬の扱いに長けた正体不明の盗賊団。何十年も前から国中を荒らし、強盗殺人は当たり前。たった一つのお宝を手に入れる為にテロさえも起こす。



正真正銘のゲスの集まり。国の騎士組織が長年拠点を追っているが尻尾どころか足元も掴めない。



そして団員全員に共通しているのが、両腕に巻かれた剣と体の何処かに刻まれた熊の入れ墨。熊は強さの象徴であり、調和の意味も持っている(この世界では)。



それが何を言いたいのかは一般人には検討もつかない話だが、ある人は言う。『悪こそが調和であり、世界を平穏にするスパイスなのかもしれない』



そしてこの青年―――アルクは爆撃熊の中では古参の団員である。戦闘力でいえば、以前副頭を務めていたミャシャよりも高い。しかしちょっと幼げな思考とミャシャのように魔術に長けてる訳ではないことから立ち位置は普通の位に落ち着いている。


しかし先ほども言った通り戦闘力ならば爆撃熊随一。機転の利く柔軟な思考と強靱な肉体、単純な攻撃を極めたその戦い方はまさに鬼人。



「僕はあんまり頭を使う仕事は得意じゃないんですよー………と少し愚痴を垂れてみる。そういうランスの兄貴の仕事でしょ?あっでも行方不明なんだっけ。ミャシャ姉も死んじゃったしさ、人手不足なのは分かるけどなんで僕ぅ?…………待って、なんかパチパチ聞こえるんだけど。すんません無駄口は止めるんで燃やさないでください!!」




 ところで、彼が何をしに一人でこの街に来たかと言うと、単純に言ってしまえばビジネスである。麻薬取引だ。


 話は結構前に遡るが、爆撃熊に一人の女がやってきた。素性も知れずそもそもどうやってアジトを特定したかも分からない正体不明の女は我らがボス、頭にとある提案というかお願いを申し込んだ。


それがこの荷物に入っている麻薬、彼女が開発した『ハザードギブン089』と呼ばれる麻薬だ。彼女はどうやらマッドサイエンティスト(自称)らしく、この薬も色々いじってたら思わぬ偶然でできたらしい。


ちなみにアルクが耳元に当てて話しかけてる機械。これも彼女が作った物だ。これが二台あれば、遠く離れていても会話ができたりデータを送ったりできる優れもの。マッドサイエンティストは伊達じゃないようだ。


板状の絵が光るような画面は実に使いやすい。なんだったか…………確か、すまほ?だったか。



話は戻るが彼女が何を頼んだかと言うと、それはこのハザードギブン089の実験に協力して欲しいとのこと。彼女は住んでいるところでは善良な市民であるため、出来るだけ人を誘拐して人体実験はしたくないらしい。



どの口が言うのだろうか。軽く彼女の言動を聞いていたがアルクでも引くほど人でなしだ。



――でだ。そこで、バリバリの犯罪者で人殺しを厭わない我らに協力を申し込んだ。




これは麻薬売買にも使えるらしい。それも爆撃熊のような闇の人間達にだ。利益の6割を我々に渡すことと、この薬が完璧に開発できたらそれを無償でプレゼントするという内容だった。


そして重要なのは、その麻薬の効果だ。


それは―――――――




#######




「ぶべらっ!!?」


「早く二日酔いしたおっさんみたいに吐くことじゃな。おっとこの場合はゲロじゃなくて出所をじゃぞ?比喩じゃからな?」


「クソ、なんなんだこのガキは!テメェには関係ねぇだろ!」


「神様っていうのは人間の味方なんじゃ。これも正義の行いなんじゃよ。ほらさっさとその袋も寄こせ燃やしてやる」


「や、止めろぉ!これさえあれば、これさえあれば!!」



必死に抵抗するも呆気なくそれを奪われて、目の前で燃やされた。スーツを着たいかつい男はその場で崩れ落ちる。


ここはムーディーな大人感溢れる一つのバー。日夜大人達が集まり酒に酔い金に溺れる。見た目だけはただのバー、ただし集まる大人は普通の人間ではない。



どんな街にだって、どんな国にだって暗部は存在する。マフィアとかヤクザとかギャングとかの類いだ。



店内には他の客は来ておらず売る側と買う側の人間、そしてそれらを現在進行形でボコボコにしているのにも関わらず見慣れた光景を見るような目をして黙々とコップを拭く店主のみ。



「そもそも、何で俺を襲うんだ!!まだ買ってないし売りつけてるのはそっちだろ!」



間違えて売る側を気絶させてしまったのは内緒。

薬の燃えカスを見せつけながらペしぺしと木刀で頭を叩きながら、



「とりあえずー、なんでもいいんじゃよ。この黄白目向いてる色の派手な奴は何処の誰じゃ?そしてその薬は何の為に買おうとしたのじゃ?おーい、聞いてるか………って気絶しとるな。相当ショックだったのかな?」



聞き出すのは諦めてとりあえず二人の肌着を漁って見る。



「む……」



黄色の派手な格好の男の尻ぽけっとに手を突っ込んだ時、タバコや金とは違った感じの物が手に当たった。

とりあえず取り出したものを広げて見てみる。



「……………『ハザードギブン089』?異薬の正式名称か。にしてもネーミングセンスが皆無じゃのう。089とかぜってぇ適当につけたべ」



一通りメモの紙に目を通したカツジは気分転換にカウンターに座る。



「マスター、なんか酒くれ。日本酒がいい」


「申し訳ございませんがお客様、ニホンシュという酒は当店には置いてございません。それに未成年に酒を出すのは私のポリシーに反します。ですから、このフルーツカクテルでどうか」



そう言ってカラフルな色の層が重なったカクテルを差し出した。カツジは渋い顔をしつつもガラスのコップを唇につける。



「…………いや、まずツッコめよ。ここ未成年禁止じゃろ?しかもそこのチンピラ二人をボコしたガキに平然とカクテル出すかね普通」


「私は年齢がどうあれ店に入ってきたのなら誰であろうと平等に客として扱います。未成年立ち入り禁止ては言っても、来る輩はいるのです。若気の至り、背伸びのしたがりは見てて微笑ましいものです」


「ほーーん」



頬杖をつきながらズビズビとカクテルを飲む。

…………存分に甘いな。口の中に広がるクリーミーな味わい。甘いが、ただ甘いだけではなく舌の上にすっぽり収まるような計算された舌触り。


そして層になった複数の味がカツジを飽きさせない。



「マスター、この味は……」


「当店自慢のカクテルはお客様一人一人に合わせた味を提供します。お客様の場合、見た目だけは確かに14、5の少年に見えます。しかし、その目は幾千億の戦いを勝ち抜いてきたまさに鬼神のごとき凄みを感じます。チンピラ二人に臆すること無く、むしろ返り討ちにする。ですが中身は意外と子供っぽさが残り、人の前では強くあろうとするも、たまに見せるポンコツさ……その複数の面を被ったお客様をイメージして作らせて頂きました」


「百点満点じゃ。褒めて使わす」


「お褒めに頂き光栄です」




ちょっとどころじゃない。このマスター、できるッッ!!

この数分でカツジの本質を見抜くとは恐れ入った。きっと若い頃は幾つもの伝説を残した冒険者に違いない。ゲームとかでよくあるあれだ。



グイグイっと勢いよくカクテルを飲み干し、代金をカウンターに叩きつける。



「また来る。その時は色んなやつを飲ませてくれ」


「またのご来店をお待ちしております」


「……………あ、そうそう。お主、『目白鮫』って知らぬか。多分儂が探してるやつだと思うんじゃが………」


「『目白鮫』、ですか。ええ知っていますよ、何で暗部のたまり場になったのかは分かりませんが長年ここでマスターやっています故。『目白鮫』とはこの街に拠点を構える組合のことです。あまり表には出てきませんが、裏では麻薬取引や暗殺はお手の物。国の経済を裏で牛耳っているとかいないとか」


「何から何まですまぬな。助かった」



 カランカランと扉を開ける音がする。日が差す地上を目指しカツジは階段を上った―――





#####





セトは繁華街を意味も無く練り歩いていた。


繁華街とは言っても日は既に暮れ、夕日が見えるか見えないぐらいの時間帯。この街は夜になると冬のナマズのように静まり返り皆自分の家に戻る。不良のセトが堂々と歩いても誰も目線を向けないし文句も言わない。



「―――――」



ずっと、だ。


ずっと頭にあの少年が言った言葉がチラつく。そこら辺の壁に頭を打ち付けても声は消えないし、動物と戯れても言葉がじわりと脳内に浮き出る



『何故犠牲無しで物事が進むと思っておるのじゃ?倫理的の欠如?馬鹿かお主』



到底理解できない怪物の言葉だった。

………同時に理解しなくてはこの先やっていけないことを自覚する機会を与えてくれたとも言える。


アイツの言っていることは、間違ってはいない。

しかし正しいとも言えない。――――そう、言いたい。



あの砂利のような粉が異薬として、それが本物なのか確かめるためには相当の時間を費やす。成分を調べて、反応をしらべて、性質を調べて、それらが大体分かった末に本当にそれが起こるのかという――――。



セトは頭を左右にブンブンと振った。

考える考える考えるな考えるな考えるな考えるな。


オレは間違っていない。間違っているのはあの野郎の方だ。



そうやって自分を正当化する。本当は分かってるくせにあのやり方は間違っているとのたまう。


舌打ちをした。自分が自分で嫌になる。

その時だった。



「姉御!!姉御!!大変です、アイトがぁ!!?」


「ア?何だよ急に」


「姉御、アイトが。アイトが!!」


「落ち着けシオン。アイトに一体何があったんてんだ。深呼吸しろ深呼吸」



焦りと涙で顔がグチャグチャなったシオンを落ち着かせる。すーはーと深く息を吐いたシオンは少し落ち着くとまた汗を垂らしながら語り始めた。



「姉御、実はアイトがですね………」


「アイトがどうした。また女風呂を覗こうとして騎士のお世話になったか?それとも今度は盗撮か?」


「そんなこと、『まだ』してないっすよ!じゃなくて、アイトが重傷なんです!!」


「――――――何?」


「だから、アイトが重傷で発見されたっす!意識不明で、このままだと死ぬって!!」




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