35 捜索
「頼もー、頼もー、おーい!」
今カツジが来ているのはとある住宅街、その中でも一際大きい豪邸。かなり凝った庭園、頑丈そうな壁、その中にも忘れない遊び心のある装飾の数々。
このサクライの街を牛耳る管理者、ブラウス家の豪邸だ。
もちろん、ただ遊びに来たわけじゃないしそうだとしてもアイツはカツジのことを入れてはくれないだろう。
結構大きな声で呼んでいるのにも関わらず、中々人が出てこない。意図的に無視されているという可能性も考慮せずにはいられないが……
「イイか、こういうのは呼んでも出てこねぇ。前に何やらかしたかは知らねェが、たいていの場合何かぶっ壊せば出てくるもんだ」
「……はぁ」
「よっこら、せっ!!」
ガシンッ!!と鋼鉄が砕ける音がカツジの鼓膜に響いた。ギィ、ギィと門の軸が変になって揺れ動く音がする。
またしてもクロウリーの家の門が壊れた……。
罪悪感が残りつつも敷地内に入る。
「なぁこれ不法侵入で捕まったりしない?犯罪を止める前に俺達がお縄行きになったりしない?」
「大丈夫だそん時はオレが何とかする。これ見せれば一発だ」
セトは右腕の袖をまくり白肌を見せる。そこには青白い紋様が渦巻いていた。
「…………何それ」
「それ以上は企業秘密だ。行くぞ」
一体何なのか気になりつつも脚を運ばせる。無駄に長い一直線の道を通り抜け、無駄にでかい玄関までやってきた。
セトはぶっ壊せと言うがそうすると本当にお縄につかれるのでとりあえずノックをする。
「反応無し………か。今日は引き返すか、また今度来よう」
「何?わざわざオ前がオレをここまで連れてきてそれはないだろ。オ前が、おせっかいなことに犯人を見つける手助けになるかもしれないって言うから来たんだ。殺されてェのか?それとも嘘ついたのか?」
「待て待て落ち着けって!実はな……まぁ知ってると思うけど、ここの家は俺の」
「君の友達になってつもりぃは無いんだぁけども……おい、お前ら」
「あ」
後ろを振り向くと、色々荷物抱えたクロウリーがブチ切れ寸前で眉間をピクピクさせながらそこにいた。
「とりあえず、話だけは前のことに免じて聞いてやろうじゃないか」
「いや、その、ほんとすまん。壊したの俺じゃないけど」
「同罪だよその場に居合わせた時点で!!……はぁ、まぁいい。で、この忙しい時期になんのぉようだい?」
カツジ達はとりあえず接客室に案内された。どうやら今の時期は色々忙しくらしく、次期当主であるクロウリーも仕事に出掛けていたらしい。
全く、貴族というのは大変なものだ。
「話ってのは、今街の平和を脅かす存在についてだ。とりあえずこの資料を見てくれ」
「………何これ。………ふむふむ、中々立派な資料じゃぁないか、君が作ったのかい?いや、無いか」
「失礼だな……事実だけど。作ったのはセトだよ、こいつ」
「ふーん、この野蛮そうなこの娘が……いて!?」
「人を見た目で判断すんじゃねェ殺すぞ。社会的にも肉体的にも殺されてェのか?あぁん?」
「落ち着けセト!そいつ結構なお偉いさんだから、待って!」
暴れ出すセトを何とか押さえ込み話を再開させる。
クロウリーもクロウリーだが、すぐに暴力に走るセトもどうにかして欲しいものだ。
クロウリーは前髪をかき上げながらゆっくりと資料を眺める。
「………なるほど、偽造にしては作り込められてるし嘘の情報を提供してなんのメリットもそちらにない。事実ではあるということは分かったよ」
「…だろ!なら―――」
「待て。僕はまだ重要なことを聞いていない。で、結局君たちは僕に何を、どうして欲しいのさ?」
「それは―――」
「それはオレから言わせて貰う。単刀直入に言うどうにかしろ」
「何を?どうやって?」
「動物が異獣になる前に、意図的に、人為的に投与された原因不明の異物の正体を掴む、及びその出所を調べてもらおう。あれは資料にも書いた通り、明らかに自然で発生したものではない。となると人間、もしくは人間以外の何かがいじくったと思われる。倫理的問題、そして人間に危害を加える害獣、何かの実験だったとしても責任放棄、まずそもそも生物をこんな風にする異物が街に含まれてる時点でアウト!」
「―――」
「ブラウス、オ前の家はこの街の管理を国から下されてるんだよな?もしオ前らの管理不届きで街が崩壊でもしてみろ、世界中がパニックになるぞ」
低い声で圧をかけるセト。
実はサクライ周辺はかなり恵まれた資源が多くある。木材や鉱物もそうだが、広大な海が近くに広がっているため魚などの水資源が豊富だ。
サンゴ礁や綺麗な海などの観光名所もある。
今回の事件、動物を異獣に変える物質。仮に『異薬』と名付けるとしよう。この異薬が人間にも適応されたら?木材などの植物、広がって海の生物などにもこの異薬が適応されたら?
とんでもないバイオハザードの始まりだ。
セトは右腕の裾をまくり、青白い紋様をクロウリーに見せつける。
カツジにはさっぱりだが、クロウリーはそれを見て息を呑む。
「それは……!?え?ちょ、君……いやあなたは!?」
「これを見れば分かるよな?要求はさっき言ったとおりだ。調査が終わり次第連絡しろ。恐らく人口的な薬物と思われるが、発見されてないウイルスの可能性もある。十分に注意しろ」
「…………分かりました」
敬語まで使い首を縦に振るクロウリー。何が何だか分からず頭がこんがらがる。
部屋から出て行こうとするセトを引き留め、カツジは質問を投げかける。
「待ってくれ!クロウリーが問題を飲み込んでくれたのは大いに助かるんだが。セト、その紋様何!?傲慢畜生のクロウリーに敬語を使わせるって相当だぞ!えと、確かアイトだっけ?から聞いたんだけどお前って貴族の娘らしいじゃん。何か関係があるのか?」
「ちょい待て!お前、彼女の名前聞いて何も思わなかったのかよ!?」
「何だっけ、たしかセト……セトなんとか」
セトは呆れたようなため息を吐き、改めてカツジに右腕の紋様を見せつける。そして、嫌そうな顔をしながらも改めて名乗り始った
「違う、セト・ルビロン・オケアノスだ。馬鹿なオ前にも分かりやすいように言ってやると、王様の次に偉いやつの家の家計の娘だよ」
脳の理解が追いつかなくなった瞬間であった。
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いや、まずツッコませてくれたまえ。そして整理しよう。
セトは国のナンバーツーの家の家計で、そして家を出てって今ではこの街で不良をしている。そして街の平和を脅かす謎の異薬の正体を追っている、と。
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「いや、そうはならんやろ」
「なっとるやろがい」
「一体何をどうしてどうすればそうなるんだよ!!それなら不良少女の方が全然理解できるんですけど!?まず、大丈夫なの家抜け出して!」
「オレは出来損ないだからな。傷だってあるし、第一そこらのお嬢様みたいなのは似合わない。兄が4人位いるから別にオレがいなくたって跡継ぎはいる。嫁入りなら妹がいるしな」
「…………ってことは、ルーメルン先生も何かしらの人?」
「あれはオケアノス家に仕えてる家計の人間だ。昔からオレの面倒を見てくれてな。アイツが教師になってからは知らんが、出てった時に拾ってもらった。オレの家の話はどうでもいいんだよ。ブラウスのやつとの話は終わった、今更かもしれんがオレずっとオ前に聞きたかったことがある」
「………なんだよ」
「―――何故オレに協力する。オレ達は子分姉御の関係でもねェ、友達でもねェ貸し借りがあるわけでもねェ。はっきり言って気持ち悪いぞ」
セトは一歩後ろに下がって告げた。
本当に今更の発言だった。カツジの中ではもう深く考えるのは止めたのだが、彼女から見たら不気味でしかないだろう。
カツジは顔を手の平で覆い息を吐き捨てる。
「貸し借りならあるよ。セトはあの時オレを助けてくれただろ?セトだって異獣になってしまったとはいえ、もとは動物。お前は辛かったはずだ。あんな顔をしながら蹴り殺すやつなんか見たことねぇ。大切な者に手をかけても俺を助けてくれた、それで十分だよ。それに―――」
「それに?」
「困ってる女の子を助けない男はいないんだよ。男はいつだって女の前では格好つけたい生き物だしな。あんま疑うなよ、ただのお人好しさ」
「………………」
誰だってそうだろう。あんなにも必死で、辛くて、苦しくても頑張ってる女の子を見たら、友達とか、子分だとか関係ない。手助けをしたくなってしまう物だ。
人の繋がりなんて、そんなもんだ。助けたいから助ける、支えたいから支える。
「じゃ、俺は一人で色々と情報収集してくるから。何か進展があったら連絡する。じゃあ―――」
「待て」
カツジがその場から立ち去ろうとした時だった。ガシっと肩を掴まれ引き留められる。セトは初めて高圧的ではなく、素の感じで顔を赤らめながら言った。
「……………ありがと」
「………おう。いつでも頼れよ」
親指を自分に向けて歯を見せて笑いそう言い放った。
「で、デレた!姉御がデレたぞ!!誰かカメラ持ってない、写真に収めなければ!!」
「任せろアイト!こんな時の為に常に携帯してあったカメラがここにある!写真を撮るだけが取り柄であるシオン、お前の出番だ!」
「失礼だなリュウトこの野郎。だが任せろ、姉御の顔が赤い今の内に………あれ?姉御は?」
庭園の陰でガサゴソする子分三人。しかし彼らが気付いた時にはセトの姿はなく……
「オイ、アイト、リュウト、シオン。そこで何してる」
「「「逃げろ!!」」」
「(自主規制)ッッッ!!!!!」
あいつらはあいつらで、中々にお花畑な頭してるな。………あとで気になるから他の写真見せてもらお。
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その後、カツジは情報収集を開始した。
不確定な情報だろうと、ただの噂話であろうと、ちりも積もれば山となる。複雑に絡み合った線もいずれは一本の線にあるはずだ。
クロウリーが集めた情報と照らし合わせれば、馬鹿なカツジでも何が見えてくるはず。
異獣を生み出す仮称、異薬。これをばら撒いているのが誰で何の目的なのかは分からないが、必ずとっちめてやる。
「怪しい奴を見なかったって?別に?」
「怪しいやつなら見かけたよ。よく見たらただの酔っ払いだったけどな。ははは」
「夜に妙に筋肉質の男がうろついてたけど、多分大丈夫何でねぇかな?」
「確かに最近わんちゃんや猫ちゃんは見かけないわねぇ……」
「犬猫は知らんけど、でっけぇ蜘蛛なら見かけたぜ!あんな強そうだったのになんで死体だったんだろうな……」
「エ!?怪しい奴を見かけなかっただって!?コイツァ臭ぇ!事件の臭いがプンプンするぜぇ!我が妹よ、行くぞ!えっちゃんも誘お」
「待って姉さん私バイトがあるんだけど!?スミマセンスミマセン!私の姉が…………」
「うちの旦那が突然行方不明になっちゃったのよぉ。それで帰ってきたと思ったら様子が変で………。うがぁぁぁ、とか、もっと力をよこせぇとか痛い厨二病みたいな事を口走って……」
様々な人間に声をかけ………
「ア?いかにも犯罪してそうな奴を見かけなかったかだって?んー分かんないアル。力になれなくてすまんアル」
「え?見た目がヤバそうでコソコソしてそうな奴?コソコソはしてませんでしたけど、昨日変な踊りをしてる人は見かけました。酔っ払い……にしては理性が無かったというか。獣みたいでした。てか私のプレミアムカカオ・チョコはどうなったんですかカツジさn
「その手の噂は聞いたことがないでごさるな。しかし、最近行方不明者が多くなっているというのは聞いたでござるよ。あ、あとカツジ殿。今日の晩ご飯はいかがなさいますかな?」
「なぬ?我は特に聞き及んではおらぬな。何か力を求めているのなら手を貸そうか、我が盟友よ」
「あん?俺それ知ってるよ」
「まじ!?」
何人もの人に調査をし、辿り着いたのはまさかの意外な人物だった。ツンツン頭の黒髪が特徴の少年、ユウキだ。
ユウキはけん玉で無駄に凄い技に繰り出しながらのほほんと語る。
「俺は一応獣人族だからね、喋れるのは限られてるけど動物と会話できるんだ。前に野良猫と話してたらね、こんな話聞いたんだよ」
「それで、それで!?」
「近い近い……。えっとね、その野良猫の友達が急に変になっちまったんだって。そいつの話によるとその友達は人間が持ってた変な粉を口に入れちゃって、そっから徐々に変わっていったんだとさ。ご飯食べなくなってその粉ばっか欲しい欲しい言ってて、頭がおかしくなったみたいに暴れるようになったから怖かったんだとさ」
「その、粉があった場所とか分かるか!?」
「うん。知ってるよ、場所はねー確かに――――」
カツジがやってきたのはあの日鬼神が不良たちをしばき回していた場所だった。灯台下暗しってやつだろうか、物語の始めには何か隠れている展開は小説とかではお馴染みだが、まさか実際に起こるとは。
カツジは現場を捜査する騎士犬(警察犬のようなもの)のように辺りを細かく、細かく、細かーく探した。
そして発見した。
「なんだこの粉………黒い、砂利みたいなやつだな。これが異薬の正体か?」
カツジは手袋をはめた手で粉を拾う。ほんな僅か数個、普通なら気づかないレベルの少なさをよく見つけたなと心の中で自画自賛する。
明らかに麻薬だ。しかしただの幻覚作用を起こしたり快楽を得るようなものではない。このどす黒い色、そしてオーラから見るに麻薬なんかじゃあない激薬に違いない。
持ってきた袋にそいつを入れようとした瞬間……。
『おい小僧、横じゃ!!』
「ッッ!?」
死神のようにそれは来た。とんでもないスピードで横切るそれをカツジは護身用の木刀を抜いてなんとか反応する。
後方に転がり回ってなんとか受け流す。
首から血が垂れ落ちる。敵は確実にカツジの首を刎ねるつもりだったのだろう。鬼神があとコンマ一秒でも言うのが遅かったら死ぬところだった。
敵は真っ黒いローブに身を包んでいて、両手には剣の柄の部分を外した刃の部分だけのを両手に巻き付けていた。
何か何処かでみたことあるような感じだ。
カツジは木刀を構えながら敵を睨みつける。
「お前は、誰だ!!答えろ!!」
「――――」
敵は黙っていた。気のせいかもしれないが、何処かイカれた笑みを浮かべたような気がした。




