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32   動物の悪意


暗い裏路地。完全に嫌な予感しかしないこの場所は不良達のたまり場だった。世界有数の巨大学園『アナスタス』でも不良というものは存在する。  


優等生がいるのならば、不良がいるのも必然。この世は全て裏表、対となってるものがあるからこそ成り立っている。


そしてそんな泣く子も黙る不良達をヒーヒー言わせながら追いかけ回してる男が一人。



「ひゃっはー!おらどうしたどうしたのじゃ?まさかあんなに挑発してきた癖に片手どころか指を一本に遇われてるのかえ?まだまだじゃなあガキども。これなら小僧の方が相手になれるぞ?」


「く、くそ!覚えてろよこのクソガキ!!」


「はーはっはっは!なんてベタな台詞、ぶふぉwwウケる」


『お・ま・え・は、何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



無理矢理体の主導権を奪い返したカツジはハァハァと荒い息をあげる。


自分のこめかみをぐりぐりといじりながら、



「テメェ、今何時だと思ってやがる……」


『さぁ?多分夜の12時とかじゃね?あと痛いからぐりぐりすんの止めろ』


「ふざっけんなよっ!!こちとらまだ宿題が残ってんだよ!!人が休憩程度の仮眠をしようとしたらこれだよ!寝てる隙に人の体の使い回しやがってよォォ!?」


『いいじゃん!最近儂、全然出番無かったんだよ!?この物語の主役は儂なの!!タイトルにも鬼神ってついてるでしょ?だから早くお主は儂に体を寄越すんじゃ……!』


「訳分かんねぇことほざいてんじゃねぇぞこの野郎!最近ろくに役に立ってねぇ癖に寄越す訳ねぇだろ。っは、闘いしか能の無いてめぇは平和なこの場所はではただのプー太郎、大人しく俺が寿命で死ぬまで我慢するんだな!ほら、5000年も耐えたんだからいけるだろ?」


『5000年も耐えたからじゃ……。少しぐらい老人を労れこの野郎!あと、プー太郎って言うなぶっ飛ばすぞ!!』


「やれるもんならやってみな。所詮てめぇは俺の意識がある時は何も出来ねぇ。やーいやーい」


『うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


深夜テンションなのか一段と口が悪いカツジ。


片や高笑いをし、片や他人には見えないが頭を掻きむしってる(らしい)。鬼神は『あ"あ"ー』とストレスが溜まりまくったブラック企業に勤める会社員のようなうめき声をあげ、



『こうなったら、どっちが上かはっきりさせとこうではないかこの際。儂は四大超越神が一人、鬼神ミオ!自称鬼の小僧に負けるほど落ちぶれてないわ!』


「な、誰が自称だ!角は無いけど俺は鬼の父ちゃんと母ちゃんから生まれた鬼なんですー。というか、何が神様だよこのパチモン野郎。神様なら人神や太陽龍みたいに伝承に残ることしろよ。聞いたことねぇぞお前の伝承。人間に貢献しろこの疫病神が、平和を混沌へとおとしめる脳筋神が!」


『言ったぁぁぁぁぁぁ!儂が必死に目をそらしていた真実を、包み隠さず言ったぁぁぁぁぁぁ!!儂神ぞ、儂神ぞ!?上等がこの野郎。パチモンはどっちか教えてやらぁ!』



次の瞬間、カツジの脳にとんでもない頭痛が猛威を振るった。じりじりじりじりギギギギギと脳内にノイズが走る。


あまりの衝撃に頭を抱えながら地面に転がり回る。



『はっはー馬鹿め。儂が脳内から攻撃を与えられることを忘れたか!』


「こんにゃろ……フンッ!!」



カツジは自分に通るダメージを顧みず、こめかみを指の関節でぐりぐりし始めた。原理は不明だが、カツジ自身にダメージを与えると鬼神も連動して痛みが多少来るらしい。


これも魂がなんちゃらかんちゃらなのか。



『痛、痛い!止めて、くそ、このぉ!!このわっぱがぁぁ!』


「止めて下さい、と言え!さすれば許してやらんこともない」


『んな!?ちょ、止めろ、ヘドバンするな!クラクラする……気持ち悪』




「『ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!』」



「あの、君ちょっといいかな」



二人でいがみ合っていると、突然横から声をかけられた。手を止め首を動かす。そこには白い制服を着た、剣を一本腰に携えた騎士だった。


カツジの額から嫌な冷や汗がにじみ出る。



「民間騎士の者だけど、一人で喋ってる不審者がいると通報が入ったんだけど」


「あ、その、違うんですよ騎士さん。これはこいつが……」  


「こいつって、誰のこと」


「…………………………………………………えっとですね。劇の、劇の練習してたんですよー。学校で出し物をすることになりまして……はは」


「…………………………………………………………」



騎士は疑いと冷徹な目を向ける。カツジは思わず目を逸らした。



「あの、まじ、勘弁してくれませんかね……?」


「署までご同行願えます」




#####




「―――ジさん。カツジさん。聞いてますか?」


「んあ?ごめん眠くて……」



そう言って大きくあくびをする。昨夜のことを思い出しながら目を覚ますために目を擦る。


あの後、職質と説教をされただけで済んだがあの場に不良やらがいたらもっとややこしいことになってたと思う。先生にも超がつくほど怒られることになってしまったが、嫌なことはもう忘れよう。



「どうしたんですか。昨日夜遅くまで起きてたんですか?駄目ですよ早寝早起きを心懸けないと…」


「起きてたというか起こされてたというか……。後、エルザって半分だけどサキュバスなのに早寝とかするの?なんかこう夜遅くまで起きてるイメージあるけど」


「逆を言えば半分は人間なので早寝早起きはしますよ。というより、私は姉さん達みたいに殿方と触れ合う仕事は出来なかったので、夜はすぐ寝てました。それよりカツジさん、これ持って下さい」


「………何これ」



手渡されたのは小さい紙袋に入った箱。おやつか何かだろうか。既に荷物で両手が塞がっているのに更に荷物を押しつけるとは。悪魔め。

 


「プレミアムココア・ナッツチョコです。限定品なので絶対落とさないで下さい」


「それなら荷物が少ないエルザが持ってた方がいいんじゃないの」


「それだと罰ゲームの意味がないじゃないですか。それに、前にカツジさんに服買ったり焼きそば買ったりしたじゃないですか」



そう、カツジは今罰ゲーム執行中の真っ最中。クラス全員でとあるゲームをしたのだが、カツジがぼろ負けエルザが全勝したので、敗者は敗者らしく罰を受けている。


内容はエルザの買い物に付き合うこと。


父ちゃんが昔言っていた。女の買い物に付き合うほど地獄なものはないと。


実にその通りだと思う。



「はぁ………早く帰って寝たいよぉ」


「ほ、本人の前でそんな大きなため息つきますか普通……。ん?」


「にゃあ」  



その時だった。チャリン、と鈴の音が鳴る。足元を見ると、白い毛並みをした猫がちょこんと目の前に座っていた。 


可愛らしい声でにゃあにゃあとあざとく鳴き、何かを訴えかけてるようだった。


エルザは声を高くして猫を抱きかかえる。



「かわぁいいですねー!どこから来たんですか?おーよしよし。んー!」


「首輪ついてるし野良ではなさそうだけど…。おい、なんだその目は。エルザはともかく俺にあざとくしても何もやらんぞ。こっち来るな」


近寄る猫から距離をとり目を細める。


「どうしたんですかカツジさん。もしかして猫アレルギー?」


「違うんだよ……。昔、小さい頃猫と喧嘩して泣かされた事があるんだよ。しかもお気に入りの帽子を盗まれた挙げ句、滅茶苦茶ボロボロにして返して来やがったんだよあいつ。わざとなの?ねぇわざとなの?くそ、今思えば初対面の俺にあんな様子で甘えてくる時点で疑えば良かったんだ……返せよぉ!俺のお気に入りの帽子返せよぉ!」


「お、落ち着いて下さい。大丈夫ですよ、ほら、こんな可愛いし落ち着きがある猫ちゃんです。ね?」


「むむむむ……」

 

「にゃあ」



エルザの腕からストンと落ちると、カツジの足元に寄り添ってきた。その小さな顔でスリスリと甘えてきた。


可愛い。確かに可愛いのだが。奴らの奥底に秘める腹黒い感情を疑わずにはいられない。


しかし……



「にゃあ」


「………………(無言で首元を撫でる)」


「ゴロゴロゴロゴロ」


「「可愛い」」



この手触り、撫でた後の表情、そしてこのつぶらな瞳。


負けてしまった、抗えない、動物を愛でる本能に!


しばらくカツジ達が猫に癒やされ油断しきってる、その時だった。シュバ!と何かが疾風のように駆けた音がした。


横を見ると、地面に置いてあったエルザのプレミアムココア・ナッツチョコが無くなっていた。冷や汗を流しながら後ろを振り返る。



「……にゃあ(笑)」


「――――あ」



鼻で笑われた気がした。チョコを盗んだのはもう一匹の茶色の毛をした猫だった。トラウマスイッチが一つ機動する。



「エルザ!チョコ盗られた!!こんのクソ猫がぁ!毛皮ひんむいてやる!」


「そんな大きな声出さないで下さい!猫ちゃんが逃げてしまい……あれ、猫ちゃんは?って、ああ!!」



エルザが茶色の猫を指さす。そこには人間を嘲笑うような顔をした白い猫が茶色の猫と共に逃走を開始していた。


トラウマスイッチがもう一つ機動する。他の荷物をその場に置き捨て、周りの人目も気にせず走り出した!



「あんのクソ猫共がぁ!グルだったか。やっぱ猫は信じちゃいけない生き物だった!エルザめ騙したな!」  


「なんでそこで私に飛び火するんですか!それより早く取り戻して下さい、あれ前からスッゴく楽しみにしてたんですから!それに高いし!」


「待てやゴラァァ!!」



動物愛護団体が見たら地面に埋められそうだが、構わず忌々しき猫を追いかけ回す。すると、二匹の猫は急に角度を変え、薄暗い路地裏に入った。


この場所はなんとなく見覚えがあるような……。


迷宮のように枝分かれがある道を、走って回って時には飛んで。そろそろカツジの体力もそこを尽きそうになっていた、その時だった。



「待て……はぁ、はぁ、毛皮ひんむいてやる!!………あ?」


「にゃあ、にゃあ」


「………アん?またオ前らか。オレに構うんじゃねぇよ」


「にゃあ」



そこには木の箱に横たわる無愛想な少女がいた。


黒いジャケットを一枚羽織り、ボタンを閉めずに空いたジャケットから白い長めのシャツが見える。ツンツンした頭に、太く長い三つ編みが特徴の金髪に碧眼の瞳。


しかしその少女の見た目からは感じられない異質さを放っていた。



「……はぁ、はぁ。あんたがこのクソ猫共の元締めか?」


「――――オい、オ前今なんて言った?」


「いや、だからその腹黒猫共の元締めはあんたかっt



そう言いかけたその時だった。


瞬きの一瞬、少女が視界から消えた。――否、消えたのではない。動かされたのだ、視界を。


「カハッ!?」


次の瞬間、頭を強く地面に打ち付ける。気付けば先程の少女は血相を変え、殺意向きだしの表情で馬乗りになっていた。

 

そして右腕を大きく上げてカツジの顔面目掛けて振り下ろす。

咄嗟に首を動かし回避する。


ドガッッ!!と、地面のコンクリートが砕ける音がした。視線を横にずらすと本当に砕けており、仰天を隠せない。あの細い腕で、一体どうやったら素手でコンクリートが砕けるのか。


しかしこれで分かった。こいつはただ者じゃない。


さっきより重い二撃目はなんとか両腕で防ぐことに成功した。

しかし、重力と体重が腕にバフをかける。



「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……重い…」


「オイ、発言を撤回しろクソムシさもないと殺す。撤回した後で更に殺す!」


「ちょっと何言ってるか分かんないですねっ!!」


「なら、死ね!!」


「させるか!」



腕を振り下ろそうとした瞬間、カツジは手刀を作って手荒だが少女の手首を『魔刃』により切る。


「っっヅ!?」


「おらっ!!」


その隙に上半身を勢いよく起こし頭突きを真正面から食らわせる。相手が少女だろうと誰であろうと、自分を攻撃するのならば容赦はしない性分である。


反撃を受けた少女は後ろに転がり周り木箱に激突する。



「あ、姉御!どしたんすか!?」


「って、ああ!!テメェは昨日の!!」  


「……………何?」   



突然後ろから現れたのは三人の不良。よく見ると昨夜鬼神の奴が喧嘩を吹っかけてた相手ではないか。

 

この少女を姉御と呼んでいたが、何か繋がりがあるのだろうか。


ブルブルと頭を震わせ、ホコリを落とす少女。



「よくもやってくれたなァ。ぶっ殺してやる!殺す殺そうそうしよう!」


「姉御がいつもより殺気立ってる……。まさかお前、動物に手をだしたのか!?なら生かしちゃおけねぇ、やるぞ二人とも!」

 

「昨夜の借りを返してやるぜ!」

  

「4対1だろうと関係ねぇ!」


「マズイな……この人数相手に一人は。武器も持ってないし」


『なんなら、儂が手を貸してやろうか?』



突然話しかけてき鬼神に、「結構だ」と断りを入れようとした、その時。


歌声が聞こえた。激しく、凛々しく、強い、聞く人にとってイメージが変わるだろう。この歌声、どこかで聞いたことがあるような。


すると、バタリと後ろの不良3人が倒れる。



「まさか……クソ、あのババ


「誰がババアですってー?なに複数人で一人をいじめてるですー。そんな悪い子は指導ですー」


「アバッ!?…………――――」



その人物が、少女の額にデコピンを一撃。バチン!といい音が鳴り響きその場に崩れ去る。



「…………あ、あなたは」


「はぁぁい、みんなのルーメルン先生ですよー。今日はオフですけどねー」


そこまで、だった。


頭を強く受けたからか、意識がつぎはぎになり、そこでカツジの意識も闇に落ちた。



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