31 美少女は苦悩する
翌日。
朝、いつも通りマーマンと一緒に食堂に向かったカツジは朝食をむさぼっていた。何だか今日は野菜の気分。という訳でこの食堂人気ランキング5位にランクインする野菜定食を頼んだ。
甘い味付け、渋い味付け、ピリ辛な味付けと色んな種類の味付けを注文できるので人気が高い。ちなみに今カツジが食べているのはピリ辛。
そんなこんなでお箸を動かしていると、気分の優れない顔をしたエルザがいつも通りのセットメニューを持って隣に座った。
「おはよございます、カツジさんマーマンさん……」
「おはよう。どうした?そんな気難しい顔をして」
「いえ、何だか昨日の記憶があんまなくて。それに頭痛もしますし。カンナさんのお爺さんの店に行ってカツジさん達と偶然会ったとこまでは覚えてるんですけど……」
「あーそれ思い出さなくていい記憶だから安心しな。うん、思い出さなくていいから」
「一体私の身に何があったんですか!?ちょ、目をそらさないで下さい!」
肩を掴まれ揺らされるカツジ。その横でマーマンが「カンナのお爺さんの店」というワードに引っかかって、興味深そうに手を顎に当てながら、
「ほう、カンナ殿の祖父殿の店とな。拙者、噂でござるが聞いたことあるでござる。さすらいの旅商人だとか、変態タイツジジイだとか、怪しい仮面の胡散臭いガラクタ商人だとか、ろくでなし商人とか。それがこの街に来ていると耳にしたでござる」
「あの爺さん酷い言われようだな……」
「爺ちゃんがどうかしたアルか?」
「うわっふ!?」
突然死神のように姿を現したカンナに驚き椅子ごと転倒する。
こいついつも思うけどほんと神出鬼没だな。
「大丈夫アルか?ほら」
そう言って彼女は尻もちをつくカツジに手を差し伸べる。お言葉に甘えて手を掴み立ち上がった。
ご飯が落っこちてないかを確認した後、再び椅子に座る。
「さて、で何の話してたアルか?」
「いや、昨日の……」
「あーなるほど。爺ちゃんは家族に追い出されるほどのろくでなしだけど、悪い奴じゃないアル。あんま悪い噂は流さないでくれマーマン」
「いえいえ、噂だけで相手を評価するなど悪徳の極み。ぜひ拙者に紹介してほしいでござる」
「そうか、それはよかったアル」
「それでカンナ殿。せっかくなのでこの場お借りして申したいことがあるでござる」
箸をおき、絶対にミスれない商談のように真剣な顔で告げる。
あっヤバいなんだか嫌な予感がする。このままでは犠牲者がまた一人増える。
しかしカツジがそう思ったころには手遅れだった。マーマンは一息置いてから、
「カンナ殿の店に来店してもよろしいでごさるか?欲を言うならぜひ厨房などを見学させてもらっても……」
「全然大丈夫アルよ。むしろカモンカモンアル」
「ずこぉーーッッ!?」
全然違った展開に変なかけ声を上げながらテーブルに突っ伏す。突然の謎の行動に冷たい視線を送りながらカンナは、
「……………どうしたカツジ、そんな古臭い腐ったジャム位古いコケ方して」
「それは古いな……。いや、てっきり俺達みたいに素顔を見たいと言うかと思って……」
「確かに、それは気になるのはでござる」
「別に見せてもいいアルよ?ちょっと待つネ」
しまった!と顔を上げる。
自ら失態を侵してしまった、このままではマーマンもモブのように。下手したら彼女を見た関係ない人達が倒れる始末に……
かといって彼女に止めるよう言うのはそれはそれで彼女を傷つけてしまうかもしれない。
とりあえずエルザの目だけは塞いでおこう。そして、その時は来てしまった。
「どうアルか。実は私の髪の色は赤色なのでした!」
「め、目が、目がァァァァァ目がァァァァァ!!」
「ま、マーマン!!」
「パッチリ!」
「何でやねん!」
目を美少女力で焼き焦がされたと思ったら、よく見ると寝不足が改善された人のよう活き活きした目になっていた。
マーマンは健康を取り戻した老人のように体を伸ばしながら、
「いやー最近ちゃんと寝てるはずなのにどうも睡眠の質が悪いのか、なんども目を覚ましてしまってでござるな。だがカンナ殿のおかげで治ったでござる」
「い、一体どうゆう原理なんだ……恐るべし美少女パワー」
「?。なんだかよく分かんないけどマーマンの悩みが解決されてよかったアル」
「あの、カツジさん。早く手どけてくれません?今何がどうなってるんですか!?」
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「それでさー鼻毛が全部抜けたって話」
「何それ怖い」
お昼休み。
昼食を食べ終えたカツジとモブは持て余した時間を雑談に費やしていた。廊下を歩きながらカツジはモブに問う。
「そういえば、昨日はお前大丈夫だったか?お前の部屋まで運んだ後は知らないけど……」
「あーそれね。いやはや僕としたことが、名前を呼んでくれただけで屈してしまうとは。美少女って怖いね。ああゆうのは国宝として国が厳重に管理すべきだよ。あれは一種の兵器だ」
「んーあながち間違ってない。性格がカンナだったからよかったが、あれがおしとやかなお姉さん系の人だったら俺も吐血していた自信がある」
本人が聞いたら激怒しそうな言葉をペラペラと並べる二人。
すると、噂をすればなんとやら。カンナらしき赤い服の影が奥の方に見えた。
何やら誰かと会話しているようだ。カツジはさっきの話を聞かれてないか不安になりながらも声をかけた。
「おーいカンナー。何してるんだー?」
「あ、カツジ。ちょっと助けてくれアル」
「うわっふ!?ちょちょちょ近い近い!ていうかなんで包帯とってるんだよ!!」
「ねぇカツジ、あれ見て……」
モブが驚いた顔をして床を指をさす。そこには幸せそうな顔をしてぶっ倒れていたツンツン頭が特徴のユウキが倒れていた。
……なんとなく予想がついた。
カツジは顔を掌で覆ってため息をつきながら、
「何故犠牲者を増やした、カンナよ」
「犠牲者とはなんアルか。ただワタシはワタシの顔が一体何なのか知りたいだけアル。ワタシが顔を見せると、モブやエルザ、マーマンみたいにみんな変化が起こるネ。もしかしたらワタシの中に潜む吸血鬼の真の力……邪眼が目覚めたかもしれないアル!」
「……もしかして、自覚ないの?お前のその顔は一種の兵器だ、そう易々て他人に見せるものじゃありません!」
「はぁ?もういいアル。今度は違う人に聞くネ」
人の話を聞かず、ぶっ倒れたユウキを置いて去るカンナ。この場はモブに任せなんとか耐性のあるカツジがカンナを追う。
あいつは片っ端からあの顔で他人に声をかける気だ。下手したら死人が出かねない。できるだけ彼女を傷つけずに、そして自覚させる手を打たなければ。
廊下を小走りで走るカンナは遂に足を止めた。最初の被害者は……
「む。チャイナ娘よ、どうした。顔を帽子で隠したりして。我に何か要件か」
(ご、ゴウキ…!)
体長は2メートル近く。4つの豪腕を揃えた力士像のように屈強な少年。
その名はゴウキ。カツジが知る切手の堅物だ。
(よ、よし!ゴウキほどの堅物なら美少女の美貌にもさして興味はないはず)
「突然だが今から顔を見せるアル。どんな感じか教えてほしいアル。3、2、1、はい」
「――――」
(よし。なんとか無事だ………ん?)
確かにぶっ倒れたりはしなかった。かと言ってなんの反応も見せなかった。ピクリとも動かず、カンナが「おーい」とペしぺしと叩きながら声をかけても反応がない。
(まてこいつ……舌噛んでね!?)
「どうしたアルか。白目向いていつもより怖い顔アルよ。もしかしてワタシの顔変だったアルか…?」
「―――否、決してそんなのことは無い。だからそれ以上近づくでない。我は保健室行ってくるから……」
(こいつどんだけキャラを守りたかったんだよ!舌噛んでまで耐えるか普通!?)
キョトンと不思議そうに首を傾げていたカンナは、まぁいいかと他のターゲットを探し始めた。ゴウキの安否を心配しながらもカンナの後を追う。
次に声をかけたのは、
「よ、巴。ちょっといいアルか?」
「………?」
(な、なんてこった。よりによって巴がぁぁ!?いや、しかしまて、エルザは少々特殊だから変になってたけど普通の女子である巴はどうなんだ…?頼む耐性があってくれ!)
「―――と、言うわけアル。簡単な街角アンケートアルよ。では………」
「――――(コクリ)」
とりあえず無言で頷く巴。天に祈るような気持ちで巴の無事を心配するカツジだったが、結果はいかに……
「……どうアル?その、ワタシの顔は……どうしたー!?」
「―――――(カタカタカタカタカタ)」
懐から切腹用の小刀を取り出し、震え涙を流しながら首元に構えてしまった。
もう訳が分からないよ。
「この美しさを前にしたら……私なんか……死のう」
「どうしたのアルか!?死ぬなー!!」
自己肯定感が著しく低い彼女は、他の奴らとはまた違った反応を見せた。
今にも首を斬ろうとする彼女をわたわたしながらも止めてるそ の時だった。
「なぁんだいうるさいぃよ。僕の優雅ぁなティータイムを邪魔しないでくれたまえ」
「く、クロウリー。助けてくれアル巴が今にも自殺を!」
「その声はぁ……包帯ちゃんか。これは驚いた」
クルクル頭の手を握り涙目で助けを訴える。クロウリーは眉一つ動かさず「しょうがなぁいな」と片目をつむる。
………待てこいつ、あの近距離でしかも涙目で訴えられても自我が保てているのか!?
クロウリーは一端の貴族だ。美人のメイドさんとかを見慣れているから耐性があるのだろう。
「僕はありとあらゆる才を持つ。故にレディの扱いも天才なのぉさっ!」
「―――――?」
クロウリーはまるで乙女ゲーに出てくるイケメンのように、きらびやかな笑顔を放って巴の顎に優しく触れる。
「どうしたぁんだい、レディ。綺麗な顔が涙で台無しだぁ。僕が拭いてあげるよ、だからどうか笑顔をみせてk
「私に、触るなッッ!!」
その瞬間、巴が珍しく張った声を上げクロウリーの横っ面をぶん殴った。その華奢な腕からは考えられないパワーでクロウリーを壁に突き刺す。
「…………なんか、目が覚めた。……それじゃあ」
「え、ちょ、巴ー!ワタシの顔はー!?」
「カンナ。もう諦めろよ、多分誰に見せても同じだ」
「ワタシは、ワタシはただ知りたいだけアル……なのにみんな倒れたり自殺未遂したり吐血したり。ひょっとしてワタシの顔ってそんな酷いアルか?みんな、ワタシの顔を見るたび変になるネ……。みんなワタシのこと嫌いアルか?」
「それは……」
どう答えればいいのか、よく分からなかった。多分、とんでもない美人だからと言っても彼女は理解してくれないだろう。
彼女からしたら、自分の顔を見た瞬間突然変になったりするのは耐えられないだろう。それも、理由を自覚していないのなら尚更だ。
このままだと彼女は恐らく自分に自信を持てなくなる。胸を張って、これが自分だと言って素顔を晒すことが出来なくなりだろう。それは、駄目だ。どんな顔であろうと、傷物でも、イケメンでも、不細工でも、美少女でも、自身が生まれ持った顔は否定してはいけないし、させてもいけない。
だから目を逸らさず、面と向かって、
「そんなことは決して無いよ。みんなカンナのことは大好きだ。君の顔は何も悪くない。人が一番大事にしなきゃいけないのは中身だ。カンナの顔がどうであれ、みんな君を嫌いになんかならないし、俺がさせねぇ。そんな奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる!」
「……本当、アルか?みんな……ワタシのこと嫌いじゃないアルか?」
「あぁ、俺が保証するよ。思い出せよ、みんな嫌な顔はしてなかっただろ?マーマンに至っては目を良くしてやったじゃないか。お前の顔はみんなを幸せにする。あのいつも怖い顔してるベリアル先生だって笑顔にしてみせるさ。けど、あんまりポンポンと見せないようにな」
「そう……アルか。分かったアル。ごめん、みんなのことを疑うようなことして。ありがとう、カツジ!」
そう言ってとびっきりの笑顔を見せる。誰だって泣き顔なんか、似合わない。笑顔が一番だ。
「おーい誰だークロウリーの奴を壁に突き刺したのは。壁の修理が面倒だろうが」
「あ、ベリアル先生」
噂をすればなんとやら。廊下の角から出てきたのはクロウリーの心配より壁の心配をするベリアル先生だった。
カンナは何か思いついた顔をして先生に駆け寄る。
「先生。ワタシの顔、どうアルか?幸せになるアルか?にー」
「おう、生徒の笑顔は俺の生きる糧だ」
「……あれ、先生大丈夫なんですか?美少女力に負けないですか?」
その言葉に先生は特に反応を見せること無く、いつも通り真顔で、
「はぁ?生徒にそんな感情みせる奴は教育者失格だ。それに、俺に"性別と言える性別は無い"からな。女だろうが男だろうが特に。それよりもうすぐ授業始まるからさっさと自分の教室に戻れよ」
そう最後に言い残し去って行った。そして、聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「「え?」」
またベリアル先生の謎が増えた一日であった。




