30 正体
「粗茶だ。これぐらいしかねぇが飲め」
「「「あ、どうも」」」
「で、お客さん達。名前は?ワシは客の名前は聞いておくタイプのじじいなんでね」
「「「カツジ(アキレス)(モーブレッド)です」」」
「うんとりあえず一人ずつ喋ろっか」
半ば強引に店に連れてこられた三人は室内の商談席に座っていた。ずずずと三人は同じタイミングで粗茶を飲む。
………若干ぬるい。三人とも心の中で同じ事を呟いた。
カツジは室内を見回す。
怪しい路地裏にある一つの扉。中に入ると、赤い壁紙とカーペットが室内を埋め尽くしていてテーブルと椅子がちょこんと置いてあり、そして一番気になるのは……
「あの、カララさん。でしたっけ。あれ、何なんです?ていうかここは何なんですか?」
「ここは何でも屋。ワシは世界各地を旅してこの仕事をしている。仕事というよりかは、趣味に近いがね。カッカッカッカ」
「何でも屋……つまり、万事屋ってことか?」
アキレスが興味深そうに呟く。
「いや違う違う。何でもする屋じゃなくて、何でも売ってる屋
じゃ。そこに転がってるやつがワシの商品」
テーブルの横には階段式の物置場。一つ一つの段に見慣れなた物から見慣れない見たことない、不気味、わくわく、様々な感情を脳内でよぎらせるような品々の数々。
カララはカッカッカと笑いながら、
「ま、見ていきな。若い者が好むような物は少ないけどね。あぁーそこそこ、カンナそこいいよ」
「爺ちゃん、一応こんなんでも客なんだから孫に肩もみされながら接待するのやめない?」
「………一応確認するよ。カララさんはカンナのおじいちゃん、ってことでいいのか?」
「そうアル。家族ほっぽりだし、勝手に突然旅をしては変なのを持って帰ってくる。そしてそれを売りに出すというろくでなしだけど一応ワタシのおじいちゃんアル」
「おぉなんと辛口!まぁ実際そうだからなんも言い返せんけどな!カッカッカッカ!!」
口元だけ開けた全身黒タイツは高らかに笑う。全身をタイツで覆っているのは大方予想がつく。吸血鬼であるカンナの祖父と言うのだから彼も吸血鬼なのだろう。
しかし、すごく面倒くさそう。話してて分かる、「愉快なんだけどいちいちうるさいしウザいジジイ」感がスゴイ。
「む、いまワシのことを愉快なんだけどいちいちうるさいしウザいジジイと思ったか?」
「心を読まないでください。……ってあれ、アキレス何してんの?」
「おい見ろよカツジ!お宝見つけたぜ。月刊雑誌『ワイ・ルド』の初号だぜ!これすっげえレアなんだよな。ほえー」
アキレスはお宝探しをする子供のように目を輝かせ、興味津々で品物を漁っている。そしてモブはかと言うと、
「カツジカツジ。これ見てよ、『異世界戦士イキリマン』の46巻、しかも初回限定盤だよ!僕これ買うの逃したんだよねー、どうしよう買おうかな………」
こっちもこっちで、楽しそうに品物を見ている。
というか、あの変な小説そんなに巻数があったのか。いつか図書館で借りてみるか。
カツジも興味を惹かれ、品物に手を伸ばしていく。
「じゃなくて!違う違う、何してんだよ二人とも!当初の目的を思い出せ!」
「当初の目的……あ、カンナちゃんの包帯のしt
「そうだよ違法取引だよ!なぁカララさん、あんた薬物とか売りさばいたりしてないよな!?」
「何故そんな事を聞く。ワシはろくでなしだけども法に手を出すほど肝が据わってないぞ」
「だって、白い粉が最高だとか、殺すだとか物騒なワード聞こえたぞ!」
「白い粉?……あー、あれか。カンナ、持ってきなさい」
「自分でやれジジイ」
「孫が冷たい!!よっこらせと」
お爺さんみたいに(実際お爺さんなのだが)椅子から立ち上がり、品物の中身に手を突っ込む。そして取り出したのは、
「はいこれ」
「…………小麦粉?」
透明な袋に入っていたのは、どこの家庭にもありそうなごく普通の小麦粉だった。
いや、確かに白い粉だけども……。
カツジは口を半開きにしながら固まる。
「ふっふっふ、これ自体はただの小麦粉だ。しかし、これを使えば!てってれ~、『キル・エアガン』~」
懐から取り出したのは、安い子供のおもちゃのような明るい色彩のある銃だった。見た目のポップさと名前のギャップがスゴイ。
カララは小麦粉の袋を開けると、ひとつまみの小麦粉を中から取り出した。その小麦粉を銃の弾丸を装填する場所に詰め込んでいく。
「さぁよってらっしゃい見てらっしゃい。小麦粉を弾丸を入れる容量で詰めていきます。これだけ!そしてこれを……ほい」
「危ねッ!?」
バァン!と発砲音が響き渡り、何かがカツジの真横を通り抜けていく。
「おいジジイ!客に撃つやつがあるか!」
「カッカッカッカ。まぁそう怒んなさんな。後ろの壁をよーく見てみ」
「これは……ハエ?」
後ろを振り返ると壁に衝突したハエの死骸があった。その死骸にはサラサラした白い粉がくっついている。
まさか……
「そうそのまさか。これは小麦粉を飛ばしてハエや小っちゃい動物を退治する代物さ。威力はちょうどハエを一撃で仕留める
くらい、お子様でも安全に使える。1200銭だが買うかね?」
「いや、確かにすごいけど買うほどじゃ………」
「買います!!」
「エルザ!?」
商談に乗り出したのは後ろでずっと空気だったエルザだった。
バン!と財布から小銭を取り出しテーブルに叩きつける。いつもにまして勢いのある叫びだった。
エルザは小悪魔みたいに不適に笑いながら、
「カツジさんが買わないなら私が買いますね。今から買うって言っても駄目ですよ!ふふふ、これであの忌々しい夜からはおさらばです!今すぐにでも駆逐してやるぞこらぁハエ共!!」
「落ち着けエルザ!何があったか知らんが口調が荒くなってるから!」
「はっ!す、すみませんつい高ぶってしまいました……。そういえば、カツジさん達はこの店の事を知らないようでしたけど、なんでここにいるんです?」
エルザは会計を済ませながら問う。「あっ」と当日に思い出すやってなかった宿題のように思い出す。
……そういえば忘れていた。俺達はカンナの包帯の下を見るために後をつけていたんだった。
それが、何故こんなことになってしまったのかはもうカツジ本人にも分からない。
混乱に頭を掻きながら、
「実は(以下略)で」
「なるほど。確かにそれは私も気になってました。………あの、カツジさん。一つよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「なんで単刀直入に聞かないんですか?むしろ尾行する方が駄目だと思うんですけど」
「――――その発想は無かった」
「馬鹿なんですか?」
エルザのじと目で言う素の発言に胸が痛む。モブにストーカーみたいだって言われた時に気付けば良かったと両手で顔を覆う。
ちょうど本人がそこにいることだし、この際お願いしてみるか。
そう思いアキレス達と一緒に品物を漁っているカンナへ近づく。
「なぁカンナ。ちょっといいか?」
「何アルか?今モブと『異世界戦士イキリマン』の初回限定盤を巡って争ってるから手短に頼むアル」
「君持ってるんだからいいだろ?僕に譲ってくれないかなこれマジで」
「ファンならば使用用、鑑賞用、保存用を揃えるのは運命だろうが。レディファーストで譲るアル」
「こういう時にだけ女性の気取らないでよ!レディファーストされるような女性は遅刻したからって校門ぶち抜いて入ってこないんだよ!」
「あっテメェ言いやがったな。上等だコラ表出ろアル」
「あの………いいかな」
掴み合いに発展しそうになる二人をなんとかなだめる。疲れた顔をしながら息を吐き、カンナに面と向かって告げた。
「スッゴい気になるからその、えーと、包帯の下見せてくれない?嫌ならいいけど」
「別に全然いいアルよ」
「意外とあっさり!?」
「別にここ屋内だから全然大丈夫アルよ。人に見られるのが恥ずかしいって訳じゃないしむしろ反応見るの楽しいアル」
あっさりと承諾し、とんがり帽子を脱いで包帯を取り始めるカンナ。エルザ含めた4人は一列に並び、手品の披露を眺めるようにドキドキしながら彼女を見つめた。
すると、横でチョコンと座っていたカララが小声で話しかけてくる。
「――お客さん達、注意した方がいい。特にその普通な兄ちゃんは特にな」
「普通って僕のことですか………?人の顔をみて何か言うような人間には育てられてません」
「いや、そうじゃなくてだな……まいっか」
その意味深な忠告に首を傾げるモブ。
そして、その白い包帯から解き放たれた素顔が明らかになった。
「はい、取ったアル。別に面白くもなんともないけどネ」
「「「「―――――――」」」」
一瞬、何が何だか分からなくなった。目の前の彼女は誰なのか、本当にあの女子力の欠片もないカンナなのか。視界がぐわんぐわんに揺れ、目に渦巻きが出来る。
ただ、一つ分かったのは―――
そこに、一人の女神がいたということだ。
唖然とする4人に対し不思議そうに首を傾げる美少女。
雪のように白く、しかし不健康さを感じさせない肌。深紅の瞳に、恐ろしく整った鼻、輪郭。真っ赤に燃える紅色の長い髪は神の祭壇に祀られている炎のように美しい。
座れば見とれ、喋ればドギマギ、歩く姿はまさに女神と言っても差し支えないほどの容姿。
それが、カンナ・ブックロッジという少女の正体だった。
「あ、あが、が」
「どうしたアルか?そんな歯ガタガタさせて。おーいアキレース?カツジー?モブー?エルザー?」
「ぐはぁ!!」
「ちょ、モブ!?どうしたぁぁぁ!!」
「大変だカツジ。モブがあまりのカンナの美少女力に耐えられずに吐血して倒れた!名前を呼んでくれたことの尊さに耐えらなかったようだぜ……」
「何お前は真面目に分析してんだ!」
後ろのカララが「だから言ったのに」と面白がりながら呟く。当の倒れた本人はというと気絶してるはずなのにどこか嬉しそうな笑みを浮かべている。
ちょっと気持ち悪い。
よく見るとアキレスも少し口から血が出ていた。
カツジはモブを担ぎ上げ、
「とりあえずモブを運ぶからエルザも手伝ってくれ!…………エルザ?」
「―――カンナさん、ヤバいです。カツジさんも聞いてください」
「ど、どうした?」
下をうつむき真剣味溢れる声で言うエルザ。荒れる息をすーっと深呼吸をし整える。しかしそれでも息を乱れる。
白いワイシャツごと胸を押さえつけて、
「ドキドキが止まりません!何でしょうこれは!?この感情は!!今すぐにでもカンナさん、あなたを、あなたを襲いたくて、愛したくて私の物にしたい!!」
「ヤバいエルザの中の血が目覚めた!?」
「それはね、お客さん。―――恋だよ」
「おい馬鹿、余計なこと言うなジジイ!」
瞳の奥をハートにしたエルザは発情した犬ように尻尾を振ってカンナに優しく抱きつく。そして耳元で小悪魔のように囁き、
「ど、どうしたアルかエルザ?なんか怖いアルよ……?」
「えへへ~♡もう離しませんよカンナさん♡私、幸せなら女の子同士でもいいと思うんです。そうこれは恋なんです!抗えない本能!私の愛であなたを埋め尽くしてもう私無しじゃ生きていけない体にしてあげます♡さあ!今すぐにでもベッドに、ピギィ!?…………………」
白目をむいてその場に崩れ落ちるエルザ。
「ナイス、アキレス」
「さて、これで負傷者が二人になってしまった。だがあのまま
エルザを野放しにしてたら大変なことになるとこだったぜ。色んな意味で」
口元の血をハンカチで拭きながら、疲れた表情で吐き捨てる。
カンナは終始意味が分からないと困惑を示し、カララはカララで腹を抱えて爆笑してた。
「さて、俺とカツジはこの二人連れて帰るわ。なんか疲れた。なんかごめんな」
「いやいや、こっちも楽しかったアルよ。特に何もしてないけど。あと、なんで二人はずっと目をそらしてるアルか?」
「いや、その、直視するとあれでな……察しろ!じゃ、また明日な!」
「また明日!」
「じゃあなー」
何かから逃げるように二人は出て行った。
何をどう察しろというんだ、とカンナは首を傾げる。
「カッカッカッカ。面白いお客さんだったのお。カンナ、良い友達が出来てよかったな」
「うん!」




