29 気になるあの子の素顔
クロウリーとの魔術対決の後日。
現在の時刻は12時半を過ぎ昼ご飯モード。
カツジはアキレスとモブと一緒に昼食をとっていた。
「お前ほんとおにぎり好きだよな」
「そういうアキレスもパンばっか食ってるじゃんか」
片手には朝マーマンが毎朝作ってくれる大きめのおにぎりが一つ。中の具は日に日に違って、今日はツナマヨだった。
どうやら魚人族の文化に米料理は少ないそうで、おにぎりについて教えたらすごい食いついてきた。どのくらいの量でどのくらいの圧力をかけて何回振ればいいのかなど、研究になると言って喜んで作ってくれる。
アキレスは食いかけの細長いパンを片手に、
「馬鹿野郎、パンは凄いんだぞ。何にでも相性がいい、という言葉があるが所詮はスタンダードなたかがしれてる物ばっかなんだよ。しかしパンは違う、焼きそばから明太子、クリームジャムカレー鹿肉カツオ節ケルビの角の粉末とか」
「おいまて最後変なの混ざってなかったか。なんだケルビの角の粉末って」
「知らないのカツジ?そのまんまケルビの角の粉末で、栄養豊富だしパン以外にもふりかけとかにも使えるよ」
「俺が田舎育ちだからなのかなぁ?外ではこれが主流なのかなぁ↑!?」
「そういうモブは何食べてるんだ?」
「え、食堂で買ったお弁当」
「………………なんか、普通だな」
「………………なんか、普通だね」
「普通で悪かったな!!」
いかにも、学生男子がしてそうな微笑ましい会話をしていると横から声がかかってきた。肩にポンポンと叩かれたカツジは米を急いで喉に流し込んで振り返る。
そこには一際目立つチャイナ服に全身を包帯で包んだ少女、カンナ・ブックロッジが紙を持って立っていた。
「カンナじゃん。何用?」
「マキマキ先生からこれカツジに渡してくれって。偶然そこにワタシがいたからってパシリされたアル」
「そいつはご苦労様というかお気の毒にというか……。まぁありがとう」
出された紙を両手で丁寧に受け取る。
ちなみにマキマキ先生というのは算術の先生で、本人自体はいい人だが算術が嫌いな人が多いという理由で嫌われているというちょっと可哀想な先生だ。
要件を済ませどこかに行こうとするカンナ。そこでモブがあることに気付く。
「カンナちゃん。ここの包帯剥がれてるよ?」
「あ?あ、ほんとアル。そろそろ変えないと駄目かなー粘着力弱まってきたわ」
「それ粘着式だったのかよ……」
「正確に言うと、普通の包帯を巻いてその上から粘着式の包帯を巻くって感じ。吸血鬼族って不便アルよな、日光に当たってるとアレルギー反応みたいに肌が痒くなったり傷ついたりするし。お前らが羨ましいアル」
若干愚痴をこぼし、「じゃあなアル」と言って去って行った。
……カツジは彼女に出会ってから思った事がある。そして最近彼女との関係も深まってきた事によって更に気になった。それは恐らく、彼女に出会った人間が誰でも思うことであろう。
カツジはゆっくりと二人に視線を合わせ、
「ねぇ、カンナの包帯の下って、見たことある?」
「ない」
「ない」
「超気にならない?」
「分かる」
「分かる」
「よし、なら調査開始だ☆」
ちらりと、カンナから貰った紙に「赤点取った人へ。追試テストのお知らせ」という文字が見えたが、見なかったことにして食べ物を口に運んだ。
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その日の放課後。
我々は早速尾行を開始した。一年生はまだ部活動?と呼ばれるみんなでわんやてんや(カツジ解釈)する活動はないので特に用事がない限りみんなフリーなのである。
今日一日の行動を探っていれば一回は包帯を剥がす瞬間はあるだろう。カンナは寮ではなく料理屋を営んでる実家から通ってるので女子寮に入られて追跡が不可になることはない。
「ねぇ二人とも、なんだか僕達ストーカーしてるみたいになってない?」
「な、なななな何言ってんだよ。これは調査だ調査。決して悪質なストーカー行為ではない」
「肩震えてんぞ……。む、どうやら動きがあったようだぜ」
コソコソと身を隠しながら観察する三人。カンナは真っ直ぐに家には帰らず、商店街に足を運んでいた。
しかし彼女は買い物袋などは持っておらず、店にも入ろうとしない。道にでも迷ったか、もしくは何かを探すように挙動不審にキョロキョロする。
「どう思う?」とカツジは二人に疑問を投げかけてみた。
「さぁ……分からん」
「お使いじゃないかな?ほら、彼女の実家って料理店でしょ?行ったことないけど」
「だが、お使いだったとしても手ぶれなのは変だな。買った物を入れるバックは必須だというのに」
すると、彼女に次の動きがあった。「やっと見つけた」と言わんばかりに目を輝かせて(包帯で見えないが)、一つの細い路地裏に入っていく。
三人は不思議そうに後をつけた。野良猫がいそうな路地裏を少し歩くとポツンと不自然な色使いのドアを開けて入る。
「………………?」
「なぁモブ。お前この街の出身だろ、なにか知らないかこれ?」
「えー、いや、んー?」
何回も首を捻り記憶を探るモブだったが、結局何も出てこない模様。こんな路地裏にあるということ、地元のモブも分からない。
明らかに怪しい。そう思うと余計怪しい臭いがプンプンしてくる。かと行って迂闊には入れない。
すると、中の声が少し聞こえた。
カツジはそっと耳をドアにくっつけ盗み聞きする。
『…………じい………あそ……物……アル』
声はノイズの走った無線のように途切れ途切れだった。頑張って耳を押しつけ聞こうとする。
『………白い……こ、な…………
『………20………万……………………………ころす』
『………それ、最高………
「ぶほぉ!?」と思わず盛大に吹き出してしまった。嫌な汗がボドボドと出てくる。
「おいどうしたカツジ?何を聞いた?」
「なんか白い粉だとか殺すだとか超物騒のワードが聞こえたんですけど!?ヤバいヤバいもしかしたら凄い現場を取り押さえてしまったかもしれない!?」
「はぁ?何言ってんだそんな訳ないだろ…。どれ貸してみろ」
呆れ顔でカツジをはねのけドア近づくアキレス。耳を傾け、話し声を頑張ってキャッチする。
『………くすり…………金……………
「あヤバい逃げなきゃ」
「逃がさねぇよ?何勝手に一人で逃げ出そうとしてんだこの野郎」
「いや薬とか金とか聞こえたんですけど。ヤバいよきっと黒ずくめの怪しい取引を目撃しちまったよ。そしてあの探偵小説の主人公みたいに後ろから仲間に襲われ、そして毒薬を飲まされて爺さんになるんだ……ははは」
「あい諦めるな!モブも何か言ってやって―――」
「死ぬ……殺される。みんな、殺される……」
「一体何を聞いたんだお前は!?」
アキレスの次に耳を傾けていたモブが何やら絶望して顔で体育座りしている。
マジで何を聞いたんだ、おいしっかりしろモーブレッドよ!
戦意喪失するモブの肩を揺さぶる。
その時だった。
「皆さん、何をしてるんですか?」
「「「ギャァァァァァァでたぁぁぁ黒ずくめぇ!?!?」」」
「うるさいですよ近所迷惑です。あと、誰が黒ずくめですか」
「…………あ?え、エルザ?」
「そうですけど」
黒ずくめの怪しい男、とは対象的に白い髪と綺麗な小顔の顔立ちが特徴の少女、―――エルザがサキュバスの尻尾を不愉快そうにしならせてそこに立っていた。
「な、なんだよエルザか……。驚かすなよ」
カツジはホッと安堵に胸をなで下ろす。
「いや待て、なんでエルザがここに?まさか、お前も闇取引を…!?」
「エルザも暗部の世界に…!?」
「エルザちゃんも僕らを抹殺しに…!?」
「いや、なんでそうなるんですか飛躍し過ぎて頭天井にぶつかってますよ……あと、アキレスさんは今後一週間、話しかけないで下さい」
「なんで俺だけ!?」
相変わらず辛辣にされションボリするアキレス。
何か、ヤバい犯罪まがいな事をしに来たわけではない……としたら何故彼女はここに?
カツジは頭の上にハテナマークを浮かばせていると、エルザは「あーなるほど」と言って勝手に一人で納得する。
「別にここは犯罪が起こるような危険な場所ではないですよ。確かに勘違いはされやすいですけど。安心してください」
そう言って不安がらせ内容ニコっと笑う。
「じ、じゃあここは何なんだ?」
「それは……本人に聞いた方が早そうですね」
クイクイ、とカツジの奥を指さし珍しく不適に笑うエルザ。生唾を喉に流し込み恐る恐る後ろを振り向くと、
「ばぁーん!!」
「うわぁ!?」
突然、骸骨がゼロ距離で目の前に現れる。驚きのあまり尻もちをつき、そのカツジの反応にその骸骨はケタケタと笑う。
肌を黒いタイツで埋め尽くし、季節に似合わぬモコモコの緑ジャケット。そして一番目立つ骸骨の仮面を被ったその男は瞬きの間にまた顔をカツジの鼻先に近づけ、
「カッカッカッカ!!兄ちゃんいいリアクションするねぇ!写真撮っときゃ良かったよ。初めましてお客さん、兄ちゃんはここは初めてかな?ワシの名前はカララ・ブックロッジ。またの名を仮面の運び屋。よろしく」
下手くそなウインク(仮面で見えないが)をし、カララ・ブックロッジと名乗ったその男は握手を求め手を差し伸べた。




